女性指揮官と戦術人形達のかしましおぺれーしょん【完結】 作:笹の船
45と女性指揮官は結構攻守交代をする関係だと思っています。
「あら、UMP45さん、指揮官。いらっしゃいませ」
今日の仕事が終わって、シーラと二人でカフェを訪れるといつものようにスプリングフィールドが穏やかな笑みを浮かべて私達を出迎えてくれた。閉店までもう時間もあまりないせいか、私達以外の客はいないみたいだった。
「や、スプリングフィールド。コーヒー二つね」
カウンター席に並んで座りながら、シーラがスプリングフィールドにオーダーをしてくれる。
「あら、今日はコーヒーをお飲みになられるんですね? 苦いものは苦手だとおっしゃっていたのに」
からかうように微笑みながら、スプリングフィールドが私の方を見る。……何よ、私がいるせいだって言いたいのかしら。
「私のお姫様ったらわがままだから、一緒のものを飲まないとおへそを曲げるのよ」
シーラもシーラでそんなスプリングフィールドに乗るようにおどけてみせる。
「シーラ。別に嫌なら無理にコーヒーを飲まなくてもいいのよ。そのくらいでイチイチごねたりしないから、私」
口ではそうは言ったけれど、ホントは一緒にコーヒーを飲みたかった。でも無理強いしてまで一緒に飲みたいわけじゃない。
別に飲み物なんて好きなものを頼めばいいわけだし、苦手なものをあえて頼むなんてのはお偉い様との接待をする時くらいでいいと思う。
でもせっかくなら一緒にコーヒーを飲んで、コーヒーの良さとかなんかそういうものを語らいたいとか思う。……最近シーラがWA2000とココアを一緒に飲んで盛り上がってるって聞いたけど、それが羨ましいわけじゃない。違うったら。
「またまた。意地張っちゃって。ホントは一緒にコーヒー飲みたいんでしょ?」
ニヤニヤと笑うシーラのおでこに、無言でデコピンを食らわせる。これが戦術人形相手だったら拳を突き出しているところだ。
「いたっ!? ……もう、痛いなあ。まあいいや。スプリングフィールド、オーダーそのままね」
「ふふふ、相変わらず仲がよろしいですね。妬いちゃいそうです」
「45はあげないし、私も売約済みよ?」
分かっていますとも、とクスクスと笑いながらスプリングフィールドがコーヒーの準備を始める。
私はといえば、なんだかんだと私に付き合ってくれるシーラに嬉しさを覚えていた。
「あれ、よんごぉ。にやけてるよ?」
そんなことは言われなくたって分かってる。でも自分じゃ制御できないんだから仕方がない。
全く持って厄介なエラーを私に植え付けてくれたものだと思う。まさか私が人間を好きになる日が来るなんて思いもしなかった。
シーラと出会った頃の私に今の私の姿を見せたら、腑抜けすぎだと怒って殺しに来そうだ。
でも、嫌じゃない。むしろ、あの頃に比べて随分と毎日が充実するようになった気がする。
404小隊だけで行動していた日々に不満があったわけではないけれど、今と比べれば雲泥の差だ。
「はい、お待たせしました」
私達の目の前にコーヒーが置かれる。この香り、やっぱり落ち着くなぁ。落ち着きたいときはこの香りを楽しみながらコーヒーを味わうのに限る。
「スプリングフィールド、ミルクと砂糖貰えるかしら?」
ブラックで飲むのはシーラにはまだ早そうね。まあ、変に気取って無理にブラックを飲むよりはそっちの方が賢い楽しみ方だとは思う。
「45はミルクとかいる?」
ミルクポットを片手に、シーラが私の方を見る。無言でシーラの目を見つめ返すと、彼女は肩をすくめてポットを置いた。
「今ので分かるんですか?」
言葉も動きもなく、目を合わせるだけで私の意図を察したシーラに、スプリングフィールドが少しだけ驚いたように目を開く。
「私のお姫様よ、何でも分かるの」
得意げに笑って、シーラはカップに口をつけた。得意げな笑顔が、すぐにしかめっ面に変わる。ミルクが入ってもダメかな。弄ってやろう。
「あらシーラ。ミルクも入れたのにお口に合わないのかしら?」
「なんの。ちょっと熱かっただけよ」
嘘だ。その証拠に、手がスティックシュガーへと伸びている。
「私のお姫様はお子様舌みたいね。シーラ、残しちゃだめよ?」
「45……アナタね」
忌々しそうなものを見るように私を睨むシーラを見て、思わず笑ってしまう。彼女だって私をあんな顔にするんだもの。私だってやり返すときはやり返すわよ。
「銃を撃っていいのは、撃たれる覚悟のある奴だけだ。だったかしら? それよ」
そう言って私はカップに口をつける。コーヒーの香ばしい香りと、程よい苦みが口いっぱいに広がる。やっぱりこれよね。
そんな私達の前で、スプリングフィールドがポンと手を打った。
「お返しといえば、お二人とも今日は何の日かご存知ですか?」
唐突な問いに、私は思わず考えこむ。今日は確か3月14日だ。何か特別なことでも……あったわね。
「ホワイトデー、だったわよね。バレンタインは45からチョコ貰ってるし、今日は私がお返しをしなきゃいけない日ってことでしょ?」
「別に無理に用意しろって言いたいわけじゃないわよ」
「ホントは欲しいくせに」
ああもう、イチイチ茶化すんだから! お返しを期待してないわけじゃないんだけどさ。
「安心して。ちゃんと用意してあるから。……気に入るかどうかは分からないけど」
「そこでヘタレないでよ」
ホント、普段は無駄に堂々としてるくせに変なところでヘタレが入るんだから。
うるさいわね、と唇を尖らせながらシーラは懐から長方形の箱を取り出す。水色のリボンでラッピングされた黒い箱は、形から察するにアクセサリーの類かな。
「はい、お返し」
差しだされた箱を受け取ろうと手を伸ばす。けれど、手が箱に触れる直前で引っ込められてしまった。
「えっ……?」
思わず出てしまった声は、きっと情けないものだったに違いない。
何故そんなことが分かったかといえば、目の前のシーラがとても意地の悪いにやけ面をしているからだった。
「欲しい?」
このっ……! この期に及んでまだそんな意地悪をする気かこの人は!
結局いいようにシーラの手のひらで踊らされているような感じがして、悔しさのあまりに顔が歪むのが分かった。
でも欲しい。シーラが折角用意してくれたものを、欲しくないと思うわけがない。
「どうしよっかなー?」
なおもニヤニヤしながら、シーラは私の前でプレゼントをぶらつかせる。
もしかして、ホントはプレゼントなんか無くて、私に意地悪をしたいから期待させるように箱だけを用意したとか、そういうのだったりするんじゃないだろうか。
そこまでシーラも意地悪じゃないだろうけど、やりかねないような気もする。
ええい。悩んだって仕方ない。ここは素直におねだりをしよう。案外コロッと落とせるかもしれないし。
「ねえシーラ……あんまり意地悪しないでよ」
上目づかいで、ちらりと私の素敵なお姫様の方を見る。
お、シーラの動きが固まった。ぽかんと口まで開けちゃって、これは行けそうかも。
「プレゼント……頂戴? ねぇ、しきかぁん?」
「うっ……や、やるじゃないの45……」
ちょっと悔しそうに唇を一文字にした後、シーラは大きくため息を付いて両手を上げた。ホールドアップの態勢だ。
「オーケーお姫様。私の負けよ。バレンタイン、ありがとね45」
そう言ってプレゼントを私に差し出す。
差しだされたソレに手を伸ばして、そして箱を受け取った。今度は普通に渡してくれたわね。ここで意地悪されたらどうしようかと。
「もうしないわよ。……さて、じゃ私ちょっとお手洗い行ってくるね」
私にプレゼントを差しだすや否や、シーラが席を立った。
「ああ、先に中身見てていいわよ」
むしろ見て感想聞かせて、と続けてシーラはそのままカフェを出て行ってしまった。
「ふふ、指揮官ったら照れちゃって」
そう穏やかに笑うのはカウンターの向こうにいるスプリングフィールドだ。
「相変わらず変なところでヘタレるわね、シーラったら」
そう言いながらも、私は自分の頬がどんどん緩んでいるのを自覚する。
心なしか体温も熱くなっている気がするし、電脳に至っては早くプレゼントの中身を確かめるべきだと必死に指先へと指令を出していた。
はやる指先を必死に抑えて、丁寧にプレゼントを開けていく。
中にはピンク色の花のネックレスが入っていた。
「わぁ……可愛いじゃない。なんて花なのかしら」
「モモの花ですね。かつて中国から日本へと渡って、観賞用の花として愛でられていたそうですよ」
「スプリングフィールド、アナタってお花に詳しいのね?」
意外か、と言われればそうでもないかもしれない。スプリングフィールドはそういうことにも興味を持ちそうな気はする。
「ええ。カフェに飾ると彩りも出ますしね」
なるほど、カフェのマスターをしているスプリングフィールドらしいといえばらしい。
「でも、その花を選んだことには意味があると思いますよ」
「……? どういうこと」
ホワイトデーのお返しとして、モモの花を模したネックレスを選ぶ理由。そんなものが可愛いとか、似合いそうとか言う理由以外にあるのだろうか。
「45さんは、『花言葉』ってご存知ですか?」
花言葉……確かその花に象徴的な意味を持たせるために与えられる言葉だったかな。
「モモの花言葉、結構素敵なものですよ。ねえ、指揮官?」
スプリングフィールドの言葉に振り返れば、照れくさそうに頬を書くシーラがカフェの入口に立っていた。
「スプリング……ネタ晴らしし過ぎよ」
「肝心なところは教えていませんよ」
むしろ余計性質が悪い、と顔をしかめながらシーラが私の隣へと座る。
「で、モモの花言葉ってなんなの、シーラ」
「……アナタならデータベースにアクセスして調べられるでしょ」
珍しくそっけない態度をとるシーラに、思わず唇の端が吊り上がっていくのを感じる。これは間違いなく照れているリアクションだ。
「私はアナタの口から聞きたいな?」
私の言葉を聞いて、シーラは自分のカップに残ったコーヒーを飲み干して顔をしかめた。
……コーヒーが苦かったから顔をしかめたとか言い訳をするつもりなのかな。
「……こ、よ」
ぼそりとシーラが何かを呟いた。
「え、なに? もう一回言って?」
聞き返せば、シーラの頬がどんどん赤くなっていくのが見えた。これはこれでレアなものを見ているかもしれない。
「だから、その……」
よっぽど恥ずかしいのか、シーラは口をもごもごと動かして言いよどんでいる。
やがて観念したのか、彼女は小さくため息を付いた。
「いい? 一回しか言わないからね!」
「分かったわよ」
笑顔で頷くと、シーラは恥ずかしそうに目を伏せながら口を開いた。
「……『あなたのとりこ』よ」
明かされた花言葉の内容に、胸の内が暖かくなるのを感じた。
わたしへのお返しという意味でいえば、これ以上はないかもしれない。
「えへへ……ありがと」
そう言って、私はモモのネックレスを身に着ける。しばらくはずっと身に着けることになりそうだ。
「気に入ってくれたみたいで良かった」
まだほんのり顔を赤らめているシーラに、ちょっとしたイタズラ心が沸き上がる。
「シーラ」
自分の名前を呼ばれ、シーラが反射的に私の方へ顔を向ける。
そのタイミングで、私は自分の唇を彼女の唇に重ねた。
甘くとろけそうなキスの味に、思わずウットリとする。
長いような短いようなキスを終え、私は目の前でぽかんと間抜けな顔をしている愛しい彼女に微笑んだ。
「ふふ。これからもよろしくね、シーラ」
これからも、どうか末永くわたしのとりこでいてくれますように。
書いている途中にツイッターのTLにちょうどいい花言葉が流れてきたので採用したのがモモの花言葉でした。
「あなたのとりこ」ってメッセージが込められたプレゼントを愛する人から渡されて嬉しくない人なんていないと思います。
そんなプレゼントを渡してくれる恋人がほしい人生だった(現実は非情である)