女性指揮官と戦術人形達のかしましおぺれーしょん【完結】 作:笹の船
シャワーを浴びて、ペイント弾で汚れた服も着替えた私とフュンフは、食堂で一緒にお昼ご飯を食べていた。
グリフィンの配給食はお世辞にもおいしいとは言えないけれど、まあ無い物ねだりをしたところで仕方がない。
ただ、運のいいことに今日の配給はレトルトカレーだった。カレーは良いわね。お手軽に作れるのに誰が作っても大体おいしい。おいしくなくてもマズいってことがない。これは大きな利点といえる。
フュンフもカレーが好きみたいで、心なしかスプーンの運びが早い気がする。しかし不思議なモノよね。中身は金属骨格やら配線がいっぱいの戦術人形が、私達人間と同じ食べ物を食べて、しかもそれを楽しめるなんて。
「指揮官さま、どうかいたしましたか?」
「ん? おいしそうに食べるなあと思って」
テーブルを挟んだ私の正面で、おいしそうにカレーを頬張るフュンフを見てると、本当に見た目通りの小さな女の子って感じがする。
あー、しかも食べるのに夢中で頬にルーがついてることに気が付いてない。
「フュンフ、ちょっと」
「はい? わぷ」
紙ナプキンでフュンフの頬を優しく拭ってあげる。うん、ルーはとれたね。
あー、本当に妹が出来たような感じで癒されるなあ。戦闘に入れば泣く子も黙る戦術人形なんだけど、普段はこういう愛嬌のあることをしてくれるあたりI.O.P分かってるなと無駄な感謝を捧げたくなる。
正規軍時代は可愛げのある奴どころか、アイツら隙さえあれば体張ったコントだったり、乱痴気騒ぎを起こそうとしてたから疲れたのよね。
セクハラしてくるやつもいたっけ。胸もけっこう揉まれたなあ。揉んできたのは同じ女性隊員だったけど、野郎どもの視線がやばかった記憶がある。
まあ、あれはあれで楽しかった。任務中は一人の例外もなくプロとして動いてたけど、その分普段はバカばっかりやっていたっけ。
もう、私以外は生き残っちゃいないだろうけど。せめて、安らかに眠っていてほしい。
……少しだけ、左肩にジクジクとした鈍い痛みが走った。あの最後の任務で受けた銃創がある部分だ。思わず、右手でその部分に触れる。
「指揮官さま? 大丈夫ですか」
私はアイツらを見捨ててしまった。きっと死ぬまで、この左肩の痛みには付き合うことになるんだろう。せめてアイツらの亡骸を埋めて、弔いの一つでもしてやれれば良かったんだけど、残念ながらそれすら出来ずじまいだ。
「指揮官さま? あの……」
恨まれてはいない……と、思う。私の家族でもあったアイツらは、最期の瞬間まで私だけでも生かそうと戦った。見捨てろと言ったのもアイツらの方だ。
死ぬと分かっていたくせに、最期までいつもと変わらないバカをやるときの口調で『助けを待ってる』なんてぬかしやがった。
なんなら無事に生きて帰れたら結婚してくれ、なんて馬鹿言う奴がいたくらいだ。あの状況で、そういう発言がどういう意味を持つか、分かっていたくせに。
「指揮官さま!」
「……え? あ、ああ。ごめん、何か言った?」
ふと、フュンフに呼ばれていることに気が付いた。心配そうな表情で私の顔を覗き込んでいる。
しまった。もう戻ることもできない、あの頃のことなんか思い出すから硬い表情をしていたかもしれない。心配させちゃっただろうか。
「指揮官さま、その……悲しそうな顔してました」
「ああ……ごめんね。ちょっと昔のことを思い出しちゃって」
なおも心配そうに私を見つめるフュンフを安心させるために、ちょっと乱暴に撫でまわした。
髪の毛がぐしゃぐしゃになる、とちょっと恨みがましい目で睨まれたけれど、これで気は逸れただろうか。
「さて、フュンフ。さっきの模擬戦で気が付いたことを教えてもらおうかな」
ちょっと強引だけど、話題を変えることにする。余り話したくないってのもあるけど、こうでもしないと私もズルズル引きずってしまう。
聞かれたフュンフは、スプーンを置いて私の目を真っすぐと見つめてきた。スイッチの切り替えはなんだかんだ上手ね、やっぱり。
「はい。先程の模擬戦で、指揮官さまは無防備な私を眺めていた、と言っていました。意地悪だとは思いましたが、これってつまり私に狙いを定める時間がたくさんあったってことですよね?」
「その通りよ。私はいつでもアナタを撃てたってことになるわ」
「そこから考えていくと、指揮官さまが言いたいことがなんとなくわかりました。狙う時間ができないのなら、作れってことですよね。そして、その手段は奇襲であったり、カートリッジを使った陽動であったりと、時間を作る方法はたくさん方法があるってことです」
「合格よ。あの短い時間でそこまで気づけるなら、十分ね」
私の満足いく答えを出したフュンフを褒める意味もあって、再び彼女の頭を撫でる。今度は優しくだ。でもあれだ、フュンフの髪ってサラサラしてて気持ちいいなあ。少し羨ましい。
「指揮官さま、くすぐったいです」
「んー? フュンフの髪、サラサラしてて気持ちいいからねー」
「指揮官さまだってサラサラしてるじゃないですか」
んー、そうだったっけか。あんまり自分の髪にはこだわらないから、その辺はよくわからない。そういえばそのことについて一回45に苦言を呈されたっけ。ちゃんとヘアケアしろって。
正直前線で戦った身としては髪が痛むのとか、今更過ぎて特に気にすることでもない。
「指揮官さま、あまりヘアケアとかスキンケアはしないタイプですね?」
「あ、バレた?」
「ダメですよ。折角髪も顔も綺麗なのに……」
お世辞でも悪い気はしない。妹分に綺麗といわれるのは中々嬉しいものね。
「でもフュンフ、シャワールームで私の体見たでしょ? 今更傷の一つや二つ……」
「ダメです! むしろあれだけ一杯の傷が服の下にあるんですから、せめて見えるところくらいはちゃんとしないと! 大体、指揮官さまの体は傷だらけって言ったって綺麗じゃないですか! 胸だってちゃんとあるし!」
んん? もしかしてこれ、私怒られてる? ていうか胸の大きさはそんなでもない気が。スプリングフィールドとかカリーナとか見てみなさい。あの子達のは神をも恐れぬ大きさよ。
アレに比べたら私のなんて。
「シーラ、喧嘩売ってるのかしら?」
ふと背後から殺気を感じたので、少しだけ体を左に倒す。
するとさっきまで私の頭があった部分を誰かの拳が通過した。誰かのっていうか45のだけど。
振り返ってみれば、とってもいい笑顔をした45がそこに立っていた。笑ってはいるけれど、笑顔というより笑顔の形をした仮面を張り付けたみたいな感じだ。
どうやら私のお姫様は随分とおかんむりらしい。
「45、不意打ちは止めなさいよ」
「かわしておいてよく言うじゃない。ていうか、アナタその大きさで自分の胸が大きくないって、私に喧嘩売ってるの?」
「そうです! 私だって毎日牛乳飲んでるのに、ちっとも大きくならないんですよ!」
そんなことを言われたってなあ。ていうか、人形が頑張って牛乳を飲んでも発育も何もないって突っ込むのは無粋だろうか。
「ていうか45はお昼食べに来たの?」
「露骨に話題を変えようとしないの。……ええ、仕事の方も一段落したし」
「そっか。まあ、私が必要になったら呼んでね」
「はいはーい。……で、シーラ?」
おっと、45の目つきが変わったぞ。うん、そのワキワキした手は何かな?
「んー? ちょっと今柔らかいものをフニフニして癒されたい気分なの。私」
「フュンフのほっぺたがフニフニできると思うわよ」
「いえ、私より指揮官さまの体の方がフニフニできると思います」
あ、フュンフったら裏切ってきたんだけど! ていうか待って。アナタも手をワキワキさせないで。
「MP5。シーラ捕まえて」
「了解です!」
よし、逃げよう。これは色々とアブナイことになりそうな気がする。
そう思うとほぼ同時に、出来る限りの速さでトレーを片付けて食堂から飛び出した。
後ろから私を追いかけてくるフュンフと45の声が聞こえて来たけれど、振り返らずに基地の中を駆け抜けた。
私だって、白昼堂々基地のど真ん中で喘ぎ声を出す趣味はないのだ。
逃げ足だったら自信があるぞ。捕まえられるものなら捕まえてみなさいってね。
結論から述べよう。基地全体を舞台にした鬼ごっこは、スタミナ切れで私が負けた。
よくよく考えなくてもそうだよね! チクショウ。ていうか、最後のフュンフの待ち伏せがホントにパーフェクトで久しぶりに心底ビビった。
スタミナ切れを起こしてなくて、集中力万全でもあれは分からない。なんで隠れようと思ったトイレの個室の中でニコニコしながら座ってたのよ。先読みしてたにしたってドンピシャすぎて怖いわ。
私を待ち伏せしてた時のフュンフの笑顔が忘れられない。超いい笑顔過ぎて、ちょっと怖かった。
あの子を怒らせるのは、やめた方がいいかもしれない。
そんなことを考えながら、フュンフにぷにぷにと胸をいじられる私はきっと遠い目をしていたと思う。
ていうか、早く終わらないかな。45は後で絶対ナカせてやる。
人形って牛乳を飲んだところで発育しないと思うんだけど、ボイス聞いてると発育を期待して牛乳飲んでますって子がチラホラいますよね。
MP5ちゃん、編成拡大時にボディも……って言ってるから実際発育なんてしないと思うんだけど、ナガンリボルバーなんかは本気で身長伸びるとか思ってる節があるし……
実際どうなんだろう。