女性指揮官と戦術人形達のかしましおぺれーしょん【完結】 作:笹の船
「指揮官、一杯やらないか?」
夜、カフェ兼バーでもあるスプリングフィールドの店でいつも通りココアを飲んでいると、M16がニコニコしながら隣に座ってきた。
はて、彼女は確か少し前にM4から禁酒令を出されていたような気が。
「M16。禁酒中じゃなかったの?」
「それは昨日までの話さ。ようやくM4のお許しが出てな」
どうやら今日からまたのん兵衛の日常に戻るらしい。M4の胃にまた負担がかかるようになってしまうんだろうか。
あーでも、M4はなんだかんだ諦めている節があるからなあ。胃を痛めるとしたらどこまでも真面目気質なROの方か。
「マスター。ジャックダニエル」
「かしこまりました。M16さん、今日からお酒解禁とはいえ、羽目は外し過ぎないでくださいね」
「分かってる。流石に怒ったM4を見るのはしばらくごめんだよ」
マスターであるスプリングフィールドの言葉に、そう言って苦笑いをしながらM16はやや疲れたようにため息を付いた。相当M4に絞られたらしい。あの子も随分隊長らしくなってきたじゃないの。
「で、指揮官は何を飲むんだ?」
「M16、まずはこのココアを飲ませてくれない? これ飲んだ後はちゃんとお酒頼むから」
せっかちさんめ。ココアは私の命の水なんだぞ!
そんな気持ちを言外に伝えようと、M16にココアの入ったカップをトントンと指先でつつきながらジト目を送る。
果たしてそれは伝わったようで、M16は仕方が無いといったように肩をすくめた。
「はい、ジャックダニエルですよ」
「お、来た来た! ……くぅ! やっぱこれだよな!」
出されたジャックダニエルを一口、口に含んで味わい、飲み下す。そんな一連の動作を行った後、M16はとても満足そうな笑顔を浮かべた。
お酒を出す側からすれば、とても喜ばしいリアクションだろう。スプリングフィールドも心なしか嬉しそうな表情をしている。
そんな光景を眺めながら、私もカップに口をつけた。大分ぬるくなってしまった残りのココアを、一気に飲み干す。
「お、いい飲みっぷりだねえ指揮官」
「飲みっぷりって……M16、ココアはお酒じゃないわよ。あ、スプリング。カルーアミルク頂戴」
「かしこまりました」
私のオーダーにスプリングがカルーアミルクの準備を始める。
そう言えばここでお酒を飲むのは意外と少ないような気がする。
大体私がお酒を飲むのは、45と部屋に二人きりの時くらいだ。飲むのもカリーナのところで買った安い缶チューハイ。こうしてちゃんとしたお酒を飲むっていうのは案外久しぶりかも。
「なあ指揮官、ずっと聞きたいと思ってたんだが」
唐突な問いかけに、M16の方へと視線が移る。そこには、やや愉悦に表情が歪んだ彼女の顔があった。いやな予感というか、碌なことにならない気がしてきた。
「何? 聞きたいことって」
とはいえ質問されたからには答えねばなるまい。あんまりいい予感はしないけど。
「UMP45の恥ずかしいエピソードとかないのか? それか可愛らしいアイツのエピソードでもいい」
「えぇ……知ってどうするの」
「そりゃ酒の肴にするのさ」
「聞いたら明日の酒の肴にアナタが出ることになるわよ。勿論物理的な意味でね」
よりにもよって45の恥ずかしエピソードを話せと来た。恐れ知らずにも程がある。
45は意外と自分に対する悪評とかに対して耐性があるから、ちょっとやそっと知られて煽られたくらいじゃあ動じないだろうけれど、その分笑顔で知った相手に代償を払わせに来る。
しかもその手の話を見聞きした相手に、あの子は容赦がない。この間なんて、私と45がキスしたところ不幸にも見てしまったSOPⅡが吊るしあげられていた。
「確かに恥ずかしい話とかを知られた時のアイツは怖いよな。だが指揮官、そういわれて『はい、そうですか』と引き下がれると思うかい? あのUMP45がそこまでするってことは、恥ずかしがってることの裏返しでもあるわけだろ? だったら知っておきたいじゃないか」
「理屈も気持ちもわかるけど、うちのお姫様が嫌がるようなことをわざわざ私がするとでも?」
恥ずかしがっている45もそれはそれでレアだし、可愛いから好きだけど、別に彼女の嫌がることをしてまで見たいとは思わない。
周囲にはほとんど知られていないけど、45はああ見えて意外と繊細だ。
あんまり下手なことをすると、知らないところで落ち込んでしまう。ちょっぴり落ち込んだところにサプライズをかけて、驚かせたり喜ばせたりするのは好きだけど、ガチ凹みさせる趣味は私にはないのだ。
しかし、M16は中々引き下がらない。
「なあ、頼むよ。ガチで恥になるような奴じゃなくていいんだ。ほら、ちょっとした奴でいいからさ。例えばゴキブリに驚いてたとか、そんなのでいいから」
「M16……食事する場でそいつの名前は出さないで。食事が不味くなる」
スプリングに渡されたカルーアミルクを一口飲みながら睨みつければ、そいつは悪かった、と彼女は頭をガシガシとかいた。申し訳なさそうにしているあたり、言葉のチョイスを間違えたことには罪悪感を感じたらしい。
それはそれとして、随分と粘るなあ。さては45に弱みでも握られたのか。
「M16……アナタもしかして、45に弱みでも握られた?」
私の問いかけに、M16はう、と声を詰まらせた。図星らしい。
なるほどそういうことか。
「どうせ、お酒を飲ませてくれとM4あたりに懇願してるみっともない姿を見られたんでしょ? ついでに言うなら416あたりに言いふらすもセットかな?」
「なんで全部分かるんだアンタ……」
「私を誰だと思ってるの。アナタ達の指揮官よ」
指揮するだけが能の女じゃないわよ。アナタ達の性格だってある程度は把握してるの。
でもまあ、そうか。そういうことだったか。
「まあそういう事情があるなら、一つだけ。それも大したことない奴で良ければ教えるわよ」
「ホントか!? 流石指揮官、話が分かるな!」
M16が我が意を得たり、といわんばかりにガッツポーズをする。
恨まないでね45。『撃っていいのは撃たれる覚悟のある奴だけだ』よ。うん、カルーアミルクはやっぱり甘くておいしい。
さてさて、どんなエピソードを話そうかな。あんまりあの子が傷つかない恥ずかしエピソード、何かあったかな。
あ、あれとか良いかもしれない。
「ねえ、M16。キャンディいるじゃない?」
「ああ、キャンディか。最近は私と良く散歩してるな。出会った時は小っちゃかったが、最近はどんどん大きくなってきた。腕白坊主でM4達もたまに手を焼いているよ」
少し前、未踏破地区の調査の帰りにAR小隊が勝手に連れて帰ってきてしまった子犬……キャンディは今では基地のマスコットだ。大型の犬種だったようで、すくすくと成長し、今ではそれなりの大きさになっている。最近は抱きかかえるのが難しくなってきた。初めて来た時はSOPⅡの服の中に入るくらいだったのに。
そんなキャンディは、連れて来たAR小隊には率先して世話をするように約束しているが、可愛いキャンディに癒されたい人形達の為にも、普段は救護室にいてもらっている。
もともと人懐っこいキャンディは、すぐに戦術人形達にも気を許し始めた。救護室に会いに行けば、いつだってキャンディは尻尾を振って出迎えてくれるのだ。
今ではキャンディのお世話が趣味になった人形もいると聞く。可愛いから仕方ない。
「キャンディ、人懐っこいんだけど、どういうわけだか45にだけは懐かなくてね。あの子、この間救護室に様子を見に行ったらしいんだけど、ずーっと唸られて警戒されて触らせてもらえなかったって落ち込んでたわよ」
「それ、ホントか? あのキャンディが懐かない? 事件だろそれ」
「私もそう思う」
「珍しいですよね。私も救護室に行ったことはありますが、キャンディは尻尾振って私にもじゃれてきてくれましたよ」
キャンディが懐かないという事態に、M16、私、スプリングがそれぞれ思ったことを口にする。実際、あの子犬が懐かないと聞いたことはないのだ。
「へー。しかしいいことを聞いた。今度散歩中にUMP45の奴に出くわしたら、キャンディをけしかけてみるかな。面白いものが見れるかも」
「ほどほどにしてね。怪我でもされちゃたまらないもの」
分かってる、と笑いながらM16はグラスに残ったジャックダニエルをあおった。
その後、結局私もM16も酔いつぶれるまで飲み明かしてしまい、翌日私だけが二日酔いに苦しむことになった。
こういう時二日酔いに苦しまない人形が羨ましい……
「指揮官、あなたも禁酒いたしますか?」
「良いと思うわ。余計なことも口走らないだろうしね」
スプリング、そんな殺生なこと言わないで……
45、ごめんなさいってば。
自分はお酒はそんなに好きではないです。
お酒が好き、というよりは皆でワイワイやりながら飲むお酒が好きといったところでしょうか。
一人で飲むならソフトドリンクがぶ飲みする派なんです。
まあ、飲むとしてもカルーアミルクとかチューハイとか軽めの奴が多いですけどね。
ワンコ、もふりたい……
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