女性指揮官と戦術人形達のかしましおぺれーしょん【完結】   作:笹の船

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スコーピオンが考えていたこととは。
スコーピオンの視点になります。


サソリの思い上がり

 スプリングフィールドに手を引かれ、私は営倉へとやってきた。

 営倉、と言っても元々使っていなかった宿舎を改造し、部屋を真ん中から二つに分ける様に鉄格子を設置しただけのお粗末なものだ。

 営倉にお粗末も何もないだろうけれど……

 

「それではスコーピオン。今晩はここで過ごしていただきますよ」

「……うん」

 

 スプリングフィールドの言葉に頷いて、私は鉄格子の向こう側へと足を踏み入れる。

 私が牢に入ったことを確認すると、スプリングフィールドは牢の扉を閉め、鍵をかける。鍵はアナログで武骨な錠前だ。ピッキングの心得があれば割とすぐに錠破り出来ると思う。

 けれどそれは見た目だけだ。以前話に聞いたけれど、ここの錠前は構造が簡単な分、指定の鍵以外のものをシリンダーに差し込むと警報が鳴るようになっているらしい。

 鉄格子を無理やりぶち壊しても同様だ。つまるところ、お許しが出るまでは脱出なんてできないということだ。

 

「それでは、また後で来ます」

「うん……うん? 後で?」

 

 問い返した時にはスプリングフィールドは部屋を出て行った後だった。どういうことだろう。

 思わず首をかしげたけれど、答えなんてわからないし、考える気力も湧かなかったので放置することにする。

 何気なく牢の中を見回すけれど、目ぼしいものは何もない。むき出しになったコンクリートの壁と床、それとベッド代わりであろう潰された段ボールが二つほど置いてあるだけだ。

 ひどく殺風景で、つまらない部屋だなというのが私の感想だ。こんな部屋で長いこと過ごしていたら退屈で死んでしまうに違いない。

 そうは言っても、私だって別に不当に営倉送りにされたとは思っていない。

 今回の作戦で、私は指揮官や部隊長であるスプリングフィールドの指示を無視して無茶な突撃を行ったのだ。当然の処遇だろう。

 別に死にたかったわけじゃない。死にたいと思ったことは無いし、今だって死んでしまいたいと思っているわけでもない。

 それにしても……

 

「なんでスプリングフィールド達までが懲罰対象なんだよ……」

 

 私が今一番納得がいかないのがコレだ。

 独断専行に対しての懲罰を、私が受けるのは想定していたことだ。今回の営倉送りだって正直予想していなかったわけじゃない。

 でも、なんでスプリングフィールドも怒られなきゃいけなかったのか。なんで部隊のメンバーが全員始末書なんて書かなきゃいけないのか。

 勝手な行動をしたのは私だけだ。他の皆はそれに合わせて動いてくれただけ。

 だから、皆まで怒られる必要はないはず。だというのに……!

 

「ちっくしょぉ! なんでなんだよ!」

 

 怒りを抑えきれず、思わず拳を壁に叩きつける。悪いのは私だけのはずだ!

 

「こらこら。営倉で暴れないでください」

 

 ギリ、と奥歯を歯ぎしりさせたとき、スプリングフィールドの声が聞こえた。

 声をした方を見れば、そこには湯気の立ち上るマグカップを二つ持ったスプリングフィールドが牢の前に立っている。

 

「スプリングフィールド!? アンタなんで……指揮官に呼ばれてたじゃん!」

 

 私に言葉に、けれど彼女はイタズラっぽくはにかんだ。

 

「ちょっとお腹が痛くなったんです。痛いのが収まるまでスコーピオンに話し相手になってもらおうかと思って」

 

 そう言って、スプリングフィールドが片方のマグカップを差しだしてきた。

 後で来いと指揮官に言われているのに、それを平然と無視している彼女にあっけをとられた私は、ぼんやりとそのカップを受け取る。

 カップを私に手渡したスプリングフィールドは、よいしょと可愛らしく呟きながら鉄格子を背もたれにして、床に座り込む。

 私も、そんな彼女と背中合わせになるように座り込んだ。彼女を視界に入れておくのは、なんだか気まずかったから。

 カップの中身はココアみたいだった。チョコレート色の液体から甘い香りが漂ってくる。

 カップに口をつけ、ココアを飲む。程よく温かくて、甘い味が口いっぱいに広がる。コクリと飲み下せば、その温かさが喉を伝ってお腹の方へと降りて行った。

 

「ふぅ……」

 

 思わず気の抜けたと息が漏れる。温かくて甘いココアは、気持ちを落ち着かせるのにちょうどいいのかもしれない。

 そんなことを考えていた私に、スプリングフィールドが声をかけてきた。

 

「さて、それじゃあ聞かせてもらえますか? 何であんな無茶をしたのか」

「……うん」

 

 スプリングフィールドの問いかけに、私はゆっくりと頷いてそれまでの理由を話し始めた。

 部隊の仲間達の力量と敵の残存兵力を考えれば私が突撃することで素早く殲滅できると確信していたから、無茶な突撃を敢行したこと。

 私自身が皆の役に立つチャンスだと思っていたことも。

 あの時作戦領域に残っていた敵は、アサルトライフルとSMG、そしてスナイパーライフルを持った鉄血人形がそれぞれ2,3人ずつくらいの部隊が一つだけ。

 それを聞いた私は、自分が前衛を何人か叩き潰して、撃ち漏らした敵と後衛はスプリングフィールド達が始末するという戦法がとれると思った。

 そうすれば、私は多少損害を受けても十分に敵を殲滅できる。そう確信していた。

 失敗するとは思っていなかった。だって何度も作戦報告書を読み返して、似たようなシチュエーションで敵がどう動くかはシミュレーションしていたし、実際に訓練所でどう動くべきかも体に馴染ませてきた。

 そして実行し、大体確信した通りの結果になった。スナイパーに狙撃されるのだって織り込み済みだ。突撃の際にダミーを先行させて囮にすることで、狙撃されても一発で再起不能になるという最悪の事態への対策もしておいた。

 実際それでダミーは使い物にならなくなったけど、ダミーが被弾したところをスプリングフィールドは見ていただろうし、見ていたのならカウンタースナイプだって出来ると踏んでいた。

 実際すぐにカウンタースナイプしてくれたし、私はその間にマガジンの中の弾丸を全部吐き出して敵兵を潰した。ダメ押しに焼夷手榴弾を投げようとした時、残っていたスナイパーに肩を撃ち抜かれた時は焦ったけど、そのタイミングでイングラムのスモークグレネードが私を隠してくれた。

 これ幸いと最後に敵兵がいた方向へと焼夷手榴弾を無理やり投げ込んで、後はイングラムに引っ張られるように下がったわけだ。

 その後はもう消化試合だ。残ったスナイパーもスプリングフィールドがすぐに撃破したし、それ以外はFALの榴弾とG36の射撃でスクラップになった。

 上場の戦果だと思った。散々練習してきたとおりに事を運べて、私は大満足だった。

 そりゃあちょっと皆には心配をかけたし、指示を無視しての独断専行だから何らかの懲罰が下されるのは承知の上だったけど。

 それでも、迷惑をかけたとしてもちょっとは役に立てたはず。指揮官には怒られるだろうけど、概ね私の作戦通りの結果だったんだし、役に立ったことくらいは認めてくれるだろう。

 だって最小の犠牲で最大の成果が得られたんだもの。完全勝利であることは疑いようもなかった。

 そんな風に思っていた。

 

「怒られたっていいし、処分を受けたっていい。それでも『役に立った』って言ってほしかった。そりゃあやり方は強引だったかもしれないけど、ただ指示を待ってその通りに動くしか能のないひよっこじゃないって、認めてほしかった」

 

 けれど、私を待っていたのは指揮官のビンタだった。訳が分からなかったし、怖かった。あんなに怒った指揮官は初めて見たから。

 役に立ったでしょ、そんな言葉を口にするどころか、怖くて顔を上げて指揮官の目を見ることすらできなかった。

 ここまではいい。予想よりもはるかに怖かったけれど、私が怒られるのだって想定の範囲内だったから。

 

「でも……なんでスプリングフィールド達まで懲罰対象にならなきゃいけないのか、私は納得がいかないよ」

 

 勝手な行動をとったのは私だけだ。スプリングフィールドや他の皆は、私のフォローをしてくれただけ。

 そうフォローしてくれただけ。私の作戦は誰にも伝えてないから、誰も私の独断専行の片棒を担いだことにはならない。責任を追及されるとしても、それは私だけで済む。

 それに、もしもあそこで私が死んでも、それは私の想定が甘かったってだけの話だ。バカが一人死ぬだけ。それも今回の作戦の情報は皆が持ち帰るだろうから、次に着任する私はもっと上手くやるに違いない。リスクは限りなくゼロに近いと言える。

 

「なるほど。ひよっこらしい思いあがった考え方ですね」

「なんッ……あっつ!」

 

 ひよっこと呼ばれて反射的に勢いよく振り返ろうとして、カップの中のココアをこぼしてしまった。あーあ、服にかかっちゃった。シミになるぞこれ。

 けれどそんなことはどうでもいい。なんでスプリングフィールドまでそんなことを……!

 

「作戦は大成功? 万が一怒られるとしても自分だけ? 死んでも次の自分がもっと上手くやる? 思い上がりすぎです。もう少し立場をわきまえなさい」

 

 スプリングフィールドはこちらに目もくれず、言葉を続ける。

 

「確かに今回はスコーピオン、アナタの思惑通りに事が運んだんでしょう。アナタの突撃が敵の注意を引き、アナタとアナタのダミーが犠牲になったおかげで迅速に敵を撃破出来ました」

「じゃあ……」

「ですが、もしアナタの作戦が失敗してアナタが死んで、しかもあの敵部隊が最後の部隊ではなかったらどうするつもりでしたか? あの後さらに複数の敵に襲撃されたら? その時、私達後衛が十全の力を発揮するために、誰が前衛を務めればいいんですか?」

 

 スプリングフィールドの言葉に、目の前が真っ暗になったような錯覚を覚えた。

 私の作戦が失敗して、しかもあれがもし最後の部隊ではなかったら……? そうしたらどうすればいいんだろう。

 

「イングラムに一人でやらせますか? それともG36やFALでしょうか」

「そ、それは……」

 

 私が死んだせいで、皆が死ぬ。そんな瞬間を想像して、恐怖で体が震えだした。

 

「運よくそれで勝てたとしても、私達も無事では済みませんね。ましてや鉄血のハイエンドモデルなんかが襲ってきたら間違いなく全滅です」

 

 もしそうなったら私は部隊を全滅させたただの愚か者じゃないか。

 だから指揮官はあんなに怒ったんだ。指示を聞かなかったばかりでなく、部隊を危険にさらすような真似をしたから。比重としては後者の方が重いだろう。

 体がどんどん重たくなって、私は地面にへたり込む。カップの中にはこぼれなかったココアがほんの少し残っているのが見えたけど、飲む気にはならない。

 

「あの時、確かに司令部からの情報と私達のそれまでの戦闘した数から考えて、あの作戦領域にいた敵部隊はあれが最後だと予測されていました。私も、それについてはほぼ間違いないと確信はしていましたよ」

 

 私に背を向けたまま語るスプリングフィールドの声色は固い。いつもは優しい彼女も、怒っているんだと思う。

 

「でも、戦場に『絶対』はありません。もしかしたら最後と思わせることこそが罠だったかもしれないんですよ。勿論、その可能性が限りなく低いと見ていたからこそ、指揮官は新米のアナタを編成に加えたんですけどね」

 

 それでも、可能性は頭に入れておくべきです。と締めて、スプリングフィールドはカップの中の飲み物を飲んだみたいだった。

 コクリと可愛らしく喉を鳴らした後、美味しいとひとりごちている。

 でも、それならなおさら納得がいかない。

 私の思い上がりで部隊を危険にさらしたのなら、なおのこと私だけが責められるべきじゃないんだろうか。どうしてスプリングフィールドや皆までが……

 

「新米のアナタのそういう思い上がりに気づかず、また気づくために必要だったはずのコミュニケーションを怠った私にも非があるんですよ。アナタがそれまで私達の指示に従ってくれていたから、勝手なことはしないだろう。そういう思い込みの元、私はアナタのことを蔑ろにしていました。……まだまだですね、私も」

「そんな……違うよ! だって私、最初からああいうことをするつもりでずっと大人しく指示に従うフリをしてたんだよ!?」

 

 スプリングフィールドの反省の言葉に、思わず声を荒げてしまった。そして、しまったと思った。従うフリをしていたなんて言ったのだから、流石に怒られる。

 けれど、返って来たのは予想外の言葉だった。

 

「ああ、やはりそういうことでしたか。通りでアナタにしては大人しかったわけです」

「え……お、怒らないの?」

 

 私の問いかけに、スプリングフィールドは穏やかな声で答える。

 

「もう十分怒りましたよ。アナタだって自分がいかに思いあがっていたか、よく理解しているんでしょう?」

「そ、それは……」

「スコーピオン。部隊長っていうのは、アナタのようなひよっこがバカをやったときに責任を取るのも仕事のうちなんですよ。他の部隊員にしたって同じです。部隊の仲間の失敗を止められなかったのは、部隊全員の責任なんです。それが、部隊で行動するっていうことなんですよ」

 

 優しく諭すような口調のスプリングフィールドに対して、私は唇を噛みしめることしかできなかった。

 一体私はなんてことをやってしまったんだろう。

 私は、自分が役に立つということを証明したいばっかりに、部隊の仲間をまるでチェスのコマみたいな扱いをしていたんだ。

 作戦はゲームじゃない。思い通りに運ぶことが当たり前なんじゃない。こんなはずじゃなかったって言ったって、やり直しはきかないんだ。

 敵も、味方も、そしてその場その時の状況だってあらかじめ決められてなんかいない。コマンドを打ち込めば特定のパターンで状況が動く保証なんてどこにもない。

 模擬作戦で散々練習したからと言って、いつでもその通りに出来るわけがない。

 だからこそ、部隊で動くためには皆が協力しなきゃいけない。誰か一人が勝手な行動をしたばっかりに『こんなはずじゃない』結末を迎えてしまうことだってあるんだから。

 そうなるのを防ぐために、皆で協力しなくちゃいけないのに。

 

「あ……ぁあ……私、バカだ……」

 

 自分のバカさ加減に涙が出てくる。手に持っていたマグカップが歪んで見えた。

 私の頬を涙が伝っていく。それは次から次へとあふれ出て、止まることはなかった。

 

「スプリングフィールド……ごめんなさい……! 私……バカだった……」

 

 謝ったって仕方がないとは思う。それでも、謝らずにはいられなかった。

 私がしたことはとんでもないことだ、ということが今更になって実感できた。

 私の頭を何かが優しく撫でた。スプリングフィールドの手だってことはすぐに分かった。

 

「分かったのなら十分です。確かに今回、アナタはとても危険なことをしました。でも、誰も死んでません。アナタだって、こうして元気です。ならば、次に活かせます」

「うん……」

 

 スプリングフィールドはなおも優しく私の頭を撫で続けてくれる。

 

「最後に一つだけ。もう、こんな無茶なことはしないでください。確かに私達は替えの利く存在です。でも、それは戦術人形としてです。今ここにいる『私達』に、替えの存在なんていないんですよ」

「え……それってどういう……」

 

 スプリングフィールドの言っていることが良く分からない。私達戦術人形は替えが利くけど、私達自身は替えが利かない……?

 顔を上げてスプリングフィールドの方を見れば、突然ハンカチで目元を拭われた。

 

「わぷ!」

「今言ったことの答えは、後で指揮官に聞いてみてください。ココア、まだ飲みますか?」

 

 手元のカップに目線を落とす。カップの底に少しだけ溜まったココアが見えた。きっと苦味が強いだろう。

 それでも、なんだか残すのはもったいないと思った。折角スプリングフィールドが持ってきてくれた奴だったから。

 カップを煽って、一気に飲み干す。

 ミルク甘さより、カカオの苦みの方が強かった。まるで、バカなことをしたと再確認させられているみたいだった。

 

「ごちそうさま」

「お粗末様でした」

 

 マグカップを返すと、スプリングフィールドは再び私の頭を優しく撫でてくれた。

 そして、また明日と笑顔で営倉から出ていった。

 後に残ったのは静寂と、私が鼻をすする音。

 それにしても、私達は替えが利かない? さっぱり意味が分からない。

 スプリングフィールドは指揮官に聞けと言っていた。でも、指揮官にどんな顔をして聞けばいいんだろう。

 最後の最後で、彼女はとんでもない宿題を残していってしまった。

 笑顔で難しいことを要求するなあ、と思いながら私は再び座り込む。

 座り込んですぐ、システムがスリープモードへと移行し始めた。

 営倉で眠るなんて、と思ったけれど我慢できず瞼を閉じる。

 そのまま、私の意識は闇へと落ちていった。

 




次回で多分シリアス風味第二弾は終わりです。
スコピッピがあんな無茶をしてまで『役に立った』と言われたかった理由とは。
次回『サソリの焦り、その理由』
乞うご期待!(※諸事情によりサブタイトルは変更の可能性があります)

難産でした。流石にこういう話は脊髄反射だけで書くわけにはいかないので、結構読み直して書き直してをやってます。
スコピッピやスプリングフィールドが魅力的に見えたら幸いです。
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