女性指揮官と戦術人形達のかしましおぺれーしょん【完結】 作:笹の船
スコピッピの話、幕間です。
指揮官視点。
第四部隊を下がらせた後、私は一人司令室で色々と調べ物をしていた。
勿論内容は最近のスコーピオンの動向に関するものだ。
訓練所の入退室履歴から、最近彼女が出撃した作戦の報告書などをプリントアウトして、それらに目を通していく。
ぶっちゃけ資源の無駄遣いだ。インクも紙も、印刷機を動かすバッテリーだってタダじゃない。
それでも私は、大事だと思ったことはアナログ媒体に出力してから確認するようにしている。
気になったことなんかはメモとして書き込めるし、矢印でつないだり丸で囲ったりもできて情報整理がしやすいのだ。
やりすぎると逆に訳が分からなくなるのが難点だけど。
とはいえ、おかげでスコーピオンが何をしていたのかが分かってきた。
作戦領域に残った敵部隊が最後の一つになったタイミングでの暴走は、ただ破れかぶれで突撃をしたというわけではないだろう。
間違いなく何らかの意図があった。そしてその意図が上手く働くようになるタイミングがあの最後の部隊との交戦だったわけだ。
そう言えば、スコーピオンの訓練所の入退室履歴を調べる過程で、彼女が過去の作戦の報告書を閲覧していることも分かったんだっけ。
そっちのもプリントアウトおいたから後で読まなきゃ……うわ、デスクの上がグチャグチャだ。整理しないと。
ええっと、これはここ最近のスコーピオンの入退室履歴表、こっちはスコーピオンが最近出撃した作戦の報告書。そこにあるのがスコーピオンが良く閲覧してた報告書、か。
……うーん、報告書の量が尋常じゃない。これをいつもまとめてくれているカリーナには本当に頭が下がる。
しかし、これ全部読むのは骨だなあ……さらにここから追加もあるわけだし……
まあ文句を言っても始まらない。一つずつ読んでいきますかね。
報告書を読んでわかったことがいくつかあった。
まずはスコーピオンは第一部隊の一〇〇式の戦術を真似たであろうことだ。彼女は『桜逆像』を使って被弾覚悟の突撃を敢行することが多い。スコーピオンの性格からして、この戦法が相性がいいと思ったんだろう。あの子に敵の攻撃を防ぐ機構はないのに。無謀すぎるぞ。
二つ目。夜中に訓練所を使い始めたのはここ最近の話だ。どうして突然こうなったかはまだ分からない。キッカケはあるはずだ。
とはいえ、スコーピオンが出撃した作戦の報告書を片っ端から漁っているがそれっぽい記載は見当たらない。一体何がキッカケだったんだろう。
何かこう、さっき第四部隊と話した時はそのキッカケがなんだったか、わかっていたような気がしたんだけど……えぇっと、なんだったかな。
……ダメだ分からん。一回休憩しよう。
プリントアウトした報告書を適当にクリップでまとめて、デスクに放り投げる。乱雑にデスクの上に置いておいた何かの書類が宙を舞ったけど、構うものか。後で拾えばいいや。
ああ、もう。頭がごちゃごちゃしてて思考がまとまらない。ちょっとソファーで横になろう。
ていうか、今何時だろう。あ、21時か。定時はとっくに過ぎてたのね。ちょっと根詰めすぎかなあ。でも、目ぼしい出撃任務は今日明日はもうないはず。大丈夫大丈夫。
部屋の端に置かれ他ソファーに腰を下ろす。それは私の体を優しく受け止めてくれた。
司令室のソファーは実はちょっといい奴だったりする。皆が座ったりするからちょっとへたってきてるけど、絶妙にフカフカしてて気持ちいいのだ。主に横になった時。
横になって、背もたれにかけてあったブランケットにくるまる。程よい温かさに、すぐに眠気がやってきた。
スコーピオンのこと殴っちゃったけど、やっぱりやりすぎだったかな。
あんなに威圧的にならないで、もっとちゃんとあの子の話を聞いてあげられるような空気を作るべきだったかな。
そもそも、普段からもっとちゃんとあの子のことを見てあげるべきだったな……そうしたらあんな危ないことをさせずに済んだかもしれない。
起きてしまったことは仕方がない。過ぎたことを後悔するだけなら誰にだって出来る。頭ではそう分かっていても、やっぱり後から次々に後悔の念が沸き上がる。
そうして気分が落ち込むのに合わせて、私の瞼もどんどんと重たくなっていった。
少しだけ……ほんの15分でいいから寝よう……
次に目が覚めた時、まず感じたのは美味しそうな料理の匂いだ。
この匂いは……スープ? コショウっぽい匂いだ。カタカタと食器を置くような音も聞こえる。
「ん……んぁ……?」
「あ、お目覚めですか?」
「全く、随分気持ちよさそうに眠ってたわね」
ぼんやりとした頭のまま、ゆったりと体を起こして声のした方へと視線を向ける。
そこにはニコニコしながらデスクに料理を並べるスプリングフィールドと、呆れたようにため息を付きながら書類をまとめる45の姿があった。
「……私、どのくらい寝てた?」
「少なくとも、私が来てから1時間は寝てたわよ。ちなみに今は23時を過ぎたところ」
書類から目を離さずにそう答えた45の言葉に、思わず天を仰いだ。寝過ぎた。
「指揮官。スコーピオンに色々話を聞いておきましたよ」
「ああ……ありがとうスプリング。助かるわ」
「シーラ、話は聞いたわよ。……全く、相変わらずアナタは不器用というかなんというか。作戦報告書なんてデジタルで読めるんだから、調べ物するならデジタルでやれっていつも言ってるでしょう。アナタが寝てる間、これ片づけるの大変だったのよ」
「面目無い……」
45の文句に、返す言葉がない。とはいえ、紙媒体の方が頭に入るんだからそこは理解してもらえると嬉しいんだけどな。
「横着してとりあえず全部プリントアウトするのは止めなさいよね。大事だと思った部分だけプリントアウトすればいいでしょ」
「うぐ……」
何か45が今日は冷たい。機嫌悪いのかな。私を見る目もちょっと鋭い。ああ、機嫌悪いぞ。
「まあまあUMP45、その辺にしてあげてください。指揮官、どうせお夕食はまだでしょう? オムライスとスープを作ってきましたよ」
「あー……ありがとう。ごめんスプリング。後で来いなんて言っておいて寝てたなんて……」
「いえ、私もスコーピオンから話を聞いた後、すぐにここに来たわけではありませんから」
そっかー。うん……?
「いや、すぐ来なさいよ。何してんの」
「ちょっとカフェでコーヒーブレイクを。それとこの料理を作っていましたね」
「えぇ……」
スプリングフィールド、たまにこういう茶目っ気のあることというか、私の指示を無視するようなことを平気でしてくるのよね。
いや、本当に緊急のことだったり、大事なことはしっかりやってくれるんだけど。
「あのねシーラ。スプリングフィールドがこうでもしないと、アナタ食事もとらずに調べ物やるつもりだったでしょ」
「そんなことは……」
無いといえない。言えないので口をつぐむと、45から思いっきり睨まれた。ちょっと、私が何したっていうのよ。
「食事も休息も蔑ろにして部下の失敗の原因究明、そしてそのケアまで考える。それも夜遅くまで。ええ、ええ。指揮官としては実に理想的でしょうとも。アナタ自身が無茶をしてるって一点だけを除いてね」
咎めるような45の視線と言葉に、なにを言いたいのかがようやく分かった。
気まずくなって思わず視線を逸らす。
「部下に無茶をさせたくないなら、まず自分が無茶をするのをやめなさいよ」
「ごめん……心配かけた」
「分かればよろしい。ほら、早く食べちゃいなさい。じゃないと――」
私が食べるわよ、と意地の悪い笑みを浮かべた45を見て、私の中で張り詰めていた何かがプツリと音を立てて切れた気がした。
視界が歪む。頬を温かいものが伝っていくのが分かった。
「うあぁああ……ホントにスコーピオンが無事でよかった……」
「やっぱり心配だったんですね」
スプリングの声だ。彼女の声に頷きながら、私はノロノロと腰を上げる。
「心配するでしょ。それに死んだらどうしようって不安だったわよ。だって別に犠牲を出さなきゃ勝てない作戦じゃなかったもの」
ゾンビのようにおぼつかない足取りで、彼女が用意してくれた食事の前にある椅子へと座る。
お、タンポポオムライスか。おいしいし、見た目も好きだ。ナイフで卵に切れ目を入れてっと……おお、半熟卵が綺麗にライスを覆い隠していった。これを見るのも醍醐味ね。
涙は流しっぱなしだし、ズビズビと鼻をすするのはちょっとはしたないけど、こんなおいしそうなものを前にしたら食欲がわいてくる。
オムライスをスプーンに入れる。ふわりと卵が揺れる。雲のような柔らかさを感じさせるそれをスプーンですくって、口へ運んだ。
「ん……おいしい。……ちょっとしょっぱいけど」
「あら、失礼しました。次はもっと甘く作りますね」
クスクスと笑って、なんでしょっぱいかに触れないスプリングの優しさに感謝だ。45は……あー、なんか呆れた顔してる。
「泣くか食べるか、どっちかにしなさいよ」
「アナタが私の緊張の糸をぶった切ってくれたから、お腹すいたのよ」
「私が悪いっていうわけ? ふーん?」
納得がいかないといわんばかりに唇を尖らせる45。可愛い。
あー、なんか調子戻ってきた。
「やっぱり家族が死に急ぐように見えることして、心配にならないわけないわよね。スコーピオンにはそこんとこきっちり教えないと」
「相変わらず甘ったれたことを……スコーピオンがキョトンとするのが目に見えるわ」
やれやれと肩をすくめる45を、けれど私はニヤニヤと見つめる。
そんな甘ちゃんに首元まで埋まるくらいズブズブに惚れたのはどこの誰だったかな。
「何よ。言いたいことがあるならハッキリ言いなさいって」
「べっつにー? スプリング、食事しながら聞くのはちょっと申し訳ないけど、スコーピオンから聞いた話を聞かせてくれる?」
「了解いたしました」
45の抗議の声は無視した。後でいっぱい構ってあげるから、今は我慢してねー。
それからスプリングにはスコーピオンから聞いた話を話してもらった。オムライスは完食した。すっごくおいしかった。
「代金はツケておきますね」
あ、ちっくしょう。マジでちゃっかりしてるわね、スプリングめ。
それはともかく、要約するとスコーピオンは私に自分が役に立つことを認めてほしかったがためにあんな無茶な行動をしたということだった。
突撃に関しては私の読み通り一〇〇式の戦術を真似したようだ。その辺はちょっと後で補足を入れておこう。
で、そんな認められたいって欲求がどこから湧いて出てきたかだけど……ひと眠りしてご飯も食べたことで思い出した。
そうだ、元々非番の時も訓練所を積極的に使う類似ケースとして
「45、スコーピオンが訓練所に入り浸るようになった日の前後で、フュンフが出撃した時の作戦報告書を出して」
「ん、了解」
45がカタカタとコンソールを操作すると、すぐに司令室のモニターに該当する報告書がピックアップされた。
「へえ、あのおチビちゃんって最近急に成長してきたのね」
「おっと、それ詳しく」
私の要求に45が該当する項目を読み上げてくれる。
ははーん、そういうことか。
ようやくすべてが一本の線に繋がった気がする。なるほどね。
スコーピオンが暴走したのはそういう理由があったからかな。ちゃんとした答えは、本人の口からきくとしよう。
「じゃ、私営倉行ってくる」
「は? 今から?」
「だってこのままほっといたら眠れないもの。人形は睡眠時間いらないでしょ? 問題ないって」
あ、また45が呆れたようにため息を吐いてる。スコーピオンが心配? あ、私の方が心配なのね。
って、スプリングまで心配そうな表情をしてるんだけど。信用ないなあ。無茶はしないってば。
ま、いいや。さっさと行っちゃおう。スコーピオンが寝てたら叩き起こそうか。無茶をした罰ってことで。
そうと決まれば善は急げだ。あ、でもその前に。
「スプリング、45。……ありがとね」
私の言葉に、二人が優しく微笑んでくれたのを見て、私は司令室を後にした。
さあ、二者面談としゃれこもうじゃない。
ちょっとしたフレーバーとして司令室でのやり取りを入れた後、スコピッピと指揮官で二者面談のシーンを書こうと思ってたのに、司令室でのやり取りだけで一話分になっちゃいました……
今度こそ次のお話で〆ます……
そういえばドルフロSSで他の作者様が割と自作品のキャラをフリー素材化してるのを見て、流石にそれはなあと思ってたんですが、
なんか別にフリ素でもいいんじゃねってなったんでウチの指揮官もフリ素にします。
使いたい方、どうぞ使ってください。でも出来れば一言くれると作者が喜びます。