女性指揮官と戦術人形達のかしましおぺれーしょん【完結】 作:笹の船
すみません、さすがに最初のサブタイトルがさすがに雑すぎたので変更しました(3/25 11:00)
「ホラー映画をみんなで一緒に見ないかって?」
「そう! 最近404小隊の皆で映画を見たんだけど、次に何を見るかでちょっと揉めてね」
どんな映画を見るかで揉めたのか。まあ404の皆だったら、その辺で発生した不和を任務に持ち込むこともないだろうし大丈夫かな。それに、そういうので揉めるくらいには平和であることの証左でもある。
それはいいとして、そこからどうして私も一緒に見るって話に繋がったのか。
「で、9。どうして私も一緒に見るって話になったの?」
よくぞ聞いてくれました、とUMP9が胸を張る。……この子も割と『ある』方よねえ。お姉ちゃんの方はスレンダーなのに。ちなみにスレンダーなだけで別にないわけじゃない。揉めば柔らかさを感じるくらいにはちゃんと膨らみがあるのだ。
背後から飛んできた殺気に反応して、体と首を傾ける。ものすごい勢いで私の頭があったところをボールペンが通過していった。当たったらどうするつもりだったんだろう。
ちなみに私がかわしたことでボールペンは9に一直線に飛んでいったけど、彼女はそのボールペンを危なげなくキャッチして、静かにそれをデスクの上に置いた。
そして何事もなかったかのように続きを話し始めた。背後で舌打ちが聞こえた気がしたけど気にしない。
「いやね、皆で怖い映画見ようって話になったんだけど、416が嫌がったんだよね」
「そもそも416は『映画なんて所詮フィクションだし』とか言ってそうね」
「実際言ってたわねー。そのくせ自分が一番感情移入しちゃってたけど」
背後でUMP45がクスクスと笑い声を漏らす。あー、416はそういう子よね。きっと見終わった後はあの子のことだから、何か屁理屈こねて違う違うと騒いだんだろう。
閑話休題。
「で、ホラー映画を見ることを嫌がる416を45が煽って、それに対してムキになった416がビビってないことを証明するって言い出したとか?」
「そう! 大体そんな感じだよ。流石お義姉ちゃん、よくわかってる!」
話は分かったけど、なぜそこで私が出るのか。
「404小隊だけで見ると、煽り合いになるし公平なジャッジできないでしょって416が行ってきてねー。私はそんなことないって言ったんだけど」
そんなことをのたまった45の方へと振り返れば、とてもいい笑顔を彼女は浮かべていた。
どう見ても煽り合いに発展させる気満々の顔だった。大方煽られて顔を赤くする416を想像しているんだろう。私にもその光景はとてもハッキリと想像できる。
「で、お義姉ちゃんにその辺を手伝ってもらおうって話になったの!」
「ふぅん? まあ、いいけどね。たまには映画を見るのも悪くないでしょう」
そんなわけで仕事が終わった後、私達は食堂の横に併設された娯楽室に集まった。
映画を見るのは娯楽の中でも上等な部類のものだったりするので、404小隊や私以外の戦術人形達もいたりする。全部で10人くらいかな?
席は5席×3列の合計15席が用意してある。満席で椅子が足りなければ食堂から椅子を持ち込むのもありだ。正面の壁にはそこそこの大きさのスクリーンもある。
これくらいなら全然いいやと思って、ポケットマネーで用意した奴だ。
ちなみに404小隊と私は最後列だ。スクリーンを正面に見た時を基準に、左からG11、416、私、45、9の席順になっている。
今回見る映画はいわゆる『呪いビデオ』に翻弄される家族の物語だ。見てしまったものは一週間後に必ず死ぬ、というまあお決まりなアレ。
舞台は日本。こういう話は日本が作ると大体怖い。正直私もちょっとドキドキしている。
映画が始まる。
夜。一人で家にいる年若い女の子。物語の時期としては夏だろうか。半そでのシャツにショートパンツという涼しげな格好をしている。
それでも暑そうだ。そのせいか勉強がはかどらないらしい。彼女は立ち上がり、自室を出る。
キッチンへ来た彼女が、冷蔵庫からコーラを取り出す。何か気配を感じたらしい。動きが止まる。コップに注いだコーラの炭酸がはじける音に混じって、少女の背後から物音がする。テレビの砂嵐の音だろうか。戦術人形の子達には、ラジオのノイズといった方が伝わりやすいかもしれない。
コップの中の氷が解けて、カラン、と音を立てる。少女は振り向けない。背後に何かがいることだけが、彼女の表情と演出で分かる。
少女は動けず、けれども背後の気配は強くなっていくのを感じる。1秒、2秒……時間がゆっくりと過ぎていくような錯覚を覚える。いつ来るのか、いつ振り向くのか。怪異が先か、少女が先か?
恐怖と好奇心がない交ぜになり、私も思わず握りこぶしを作ってしまう。
やがて、意を決して少女が振り向いた。
瞬間、少女は目を見開いた。何を見たのか。信じられないものを見たことだけは、その表情から明らかになった。画面が暗転する。
目を見開いた少女はどうなったのか。それは分からない。けれど、何かがあったのは確かだ。
場面が変わり、物語の主人公が登場する。都市伝説を調べている女性記者らしい。この時代の映画にはよくある設定だ。
調査の過程で、冒頭の少女が怪死したことが分かった。原因不明の心臓発作だそうだ。お決まりだ。それでもあの怖そうに見える演出だ。第三次世界大戦前のものは、結構出来がいい。
場面が変わり、少し余裕のあるシーンになったので、ちらりと左を見た。416の座る席だ。
ビビってた。額からは脂汗を流して、小さく震えているようにも見える。指先なんかは力を込めて拳を作っているせいで、真っ白だ。
まあ耐性のない子はそうなる。ていうか、この映画チョイスしたの誰よ。大戦前のジャパニーズホラーの金字塔って言われてる作品よ、これ。怖いに決まってるでしょ!
私はおばあちゃんがそういうの好きだったから、小さい頃よく話してくれたのを覚えていたし、何とか耐えられてるけど。
やがて主人公が調査の過程で訪れた貸し別荘で、おかしなビデオを見るシーンになった。
意味の分からない郷土風景を映した映像が流れては砂嵐映り、また別の風景が……そんなことを何度か繰り返す。
やがて、森の中にポツンと一つ、古井戸がある映像が映された。それだけだった。すぐに砂嵐に変わり、ビデオは終わる。
戦術人形達は首をかしげた。一体何なのかといった感じだ。主人公も同じような反応して、テレビの電源を切った。
画面が暗くなり、主人公の顔と彼女がいる部屋が暗くなったテレビに映りこむ。
そして主人公は見た。自分の顔、その後ろに映った部屋の奥。そこで彼女の方を向いて立っている、白いワンピースを着た髪の長い女性の姿を。驚きに主人公が息を呑む。一緒になって息を呑む戦術人形、少数。
慌てて振り返る。誰もいない。安堵のため息を吐く主人公と戦術人形達。
けたたましい音。貸し別荘に備え付けられた内線の着信音だ。
驚く主人公。同じように肩をびくりと震わせる戦術人形、多数。勿論416もその一人だ。
そのタイミングで、私の服の袖が何かに引っ張られる感触を感じた。右手首のあたりだ。
見ると、45が私の服の袖をキュッと掴んでいた。顔は真顔だ。汗もかいてないし、震えてもいない。見事なポーカーフェイス。
けれどすぐに45の手の力は緩み、まるで最初から私の袖なんて掴まなかったかのように、リラックスした体勢に戻った。
それでも、私は心の内に嗜虐心が沸き上がるのを抑えられなかった。
45も、実は結構ビビってる。
最初のビデオを主人公が見てから、散発的に怪現象が起きるようになってきた。そのたびに肩を震わせる416。そして右手首の服の袖が引っ張られる感触。もう映画を楽しむどころじゃない。左右の二人のリアクションの方が楽しみになっていた。
調査の結果、あのビデオを見ると一週間で死に至ることが発覚した。迫る期限、進まない調査。追い詰められていく主人公達。
焦燥と恐怖にじわじわと侵されていく中、彼女達を追い詰めていく白いワンピースの女性の影。
やがて物語も終盤に差し掛かる。
怨霊と化した白いワンピースの女性を救うべく、そして自分達が助かるべく主人公たちは最後の賭けに出る。
そしてあのビデオに映った古井戸を見つけた。井戸に降り、白いワンピースの女性の亡骸を探す主人公。タイムリミットまであとわずか。
井戸の底から現れる変わり果てた姿の怨霊。絶体絶命の主人公。
左からはカチカチと歯を打ち鳴らす音。右手首からは今にも袖が引きちぎられそうな……っていうか服に引っ張られて手首もめっちゃ痛い。45、痛いってば。
けれどそれは主人公の恐怖が見せる幻覚だったのかもしれない。怨霊はもうおらず、主人公の女性の手の中には、あの怨霊の元であろう女性の頭蓋骨があった。
タイムリミットを迎えた。主人公の女性記者は生きている。呪いは解かれたのだ。
左右と、そこかしこから安堵のため息が聞こえた。そう。左右からだ。
後日、主人公と協力していた彼女の元夫が自宅でくつろぐ姿が映される。
突然点灯するテレビ。困惑する男性。
映し出された映像は、あの森の中の古井戸だ。娯楽室の空気が一気に緊張で張り詰めるのが分かった。
左からはプルプルとした振動が伝わってくる。416が今にも死にそうな顔をしていた。
同時に、私の右手が握られた。もはや袖では我慢できなくなったらしい。
ちらりと右を見る。ポーカーフェイスの45がいた。でもちょっと涙目だ。しかも416程じゃないけどプルプル震えてる。可愛い。
スクリーンの中では映像に変化があった。古井戸から誰かが這い上がってくる。
あの白いワンピースの女性だ。ヒタリ、ヒタリと音の聞こえてきそうなおぼつかない足取りで、女性はカメラがあるであろう方向へ……つまりこちらへ向かって歩いてきた。
416はもうこらえきれなくなったのか、耳と目を塞いだ。45も私の手を恋人繋ぎに握り変えてきた。手汗凄いな45。めっちゃビビってるじゃん。
一歩、また一歩。ゆっくり、しかし確実にソレはこちらへやってくる。45の手の力が強くなる。
やがてソレはテレビのふちに手をかけて、現実世界へと這い出してきた。416と同じように耳を塞いでうずくまるような体勢をとる人形達、複数。右隣からは小さく「ひっ……」と息を呑む音が聞こえた。可愛い。
そして男は死んだ。呪いは解けていなかったのだ。
やがて、呪いを解く真の方法が何なのか分かった女性記者は、呪いにかかっていた息子を救うべく車を走らせる。
そこで映画は終わった。
「あー! 面白かったねー! 怖いってペルシカから聞いてたんだけど、噂通りだったよ!」
上映が終わり、部屋の灯りをともした娯楽室に満足そうな9の声が響き渡る。
アナタだけよ、そんな満足そうに笑ってるの。
45は映画を見る前と変わらぬポーカーフェイスを貫いて大丈夫そうには見える。416は顔面蒼白だ。G11は……こいつ寝てたな。眠そうに目をこすってるじゃん。そして他の子達は映画が終わったことに安堵して放心していた。
大丈夫そうに見えるのはUMP姉妹とG11だけ。
「で、どうなのよ416。怖くなかったでしょう?」
おーおー、アナタだってビビってた割に煽るじゃないの45。
で、煽られた416はと言えば。
「もう絶対ジャパニーズホラーは見ないから……」
プルプルと子犬のように震えながら弱々しく45を睨みつけていた。
あー、そこまでかー。煽りにキレ返す余力すらないらしい。
「そんなに怖かった? いや、怖かったけど面白かったじゃん!」
9がちょっと不満そうに唇を尖らせる。キミはあれだね、好きなんだねこういうの。でも止めてあげて。416死んじゃうから。
「まー、無理に見せて楽しめないってのも良くないし。仕方ないかー。45姉、今度また一緒にああいうの見ようよ! もう一個怖いのあるんだって!」
「え、ええ。勿論良いわよ。またシーラも一緒に見ましょうよ。結構楽しかったわ」
おいバカ止めなさい。私の右手が死んじゃうでしょ。
抗議の意味も込めて、目を細めながら45を生暖かい視線で見やる。
「何よ、シーラ。言いたいことでもあるの?」
「いや、次は伸びてもいい服着てきた方がいいかなって」
正直グリフィン制服とかだと伸びたり破れたりしたら困る。それくらい45は力強く袖を握ったり引っ張ったりしていた。
ちなみにそんな私の言葉を聞いて、45の頬に赤みがさした。寧ろバレてないと思ってたのか。
「じゃあ、今度また見ようね! 指揮官、45姉!」
満面の笑みを浮かべる9に、45が助けを求めるような視線を私に送る。
ダメだ、我慢できない。
私もまた、満面の笑みを浮かべて9にサムズアップを送り返した。
45が恨みがましい目線を送ってくる。でも知らない。いいネタ掴んじゃったもんねー。こんな機会そうそう無いもの。逃すわけにはいかない。
これで当分は可愛い45を堪能できる。
覚悟してなさいよー。
「でも45姉、結構怖がってたけど楽しめてたみたいで良かった! ずっと指揮官の手とか服の袖掴んでたもんねー」
あっ、このバカ9! 言っちゃダメでしょ!
その日、45を除くすべての戦術人形が娯楽室で映画を見た後の記憶がないという事態が発生した。
徹底し過ぎでしょ45……味方の子の電脳ハックしてまで記憶処理するのはさ。
ホラー描写書くのめっちゃ楽しかったです(小並感)
リングは原作も読みましたが、怖かったですね。いい作品です。
映画とは細かいところが違いますが、面白いので興味があればぜひ。