女性指揮官と戦術人形達のかしましおぺれーしょん【完結】 作:笹の船
ほのぼのしてます。
昼休み。食堂で45と談笑しながらお昼ご飯を食べている時に、それはやってきた。
突然、ぷあああああ、と間抜けな音が耳元で鳴った。
テーブルを挟んで反対側でご飯を食べていた45が、音の発生源を見てフフッと小さく噴き出したのが見えた。それと同時に、黄色いナニカが視界の端に映りこむ。
そちらの方へと視線を移せば、そこにあったのは皮をはがれたような黄色い肌のニワトリ人形、いわゆるラバーチキンだ。お腹を押すとへんちくりんな声を出す、かつてアメリカの軍で笑ってはいけない訓練に使われたアレ。大きく口を開けた様が実に間抜けな面に見える。
「ぷああ」
間抜けな泣き声に、一瞬肩がピクリと震えた。
これはあれだ。笑っちゃダメな奴だ。笑ったら負けな奴。
受けて立とうじゃない。唸れ、私のポーカーフェイス。
「ぷぁー……ぷっぷっぷあああ」
大丈夫。頬が引きつって来たけど、まだ私は大丈夫。ラバーチキンがゆっくりと私の正面へと回されて、その間抜けな面をした鳥と目が合う。
飛び出し気味の白目の中央にポツンと黒目が塗り込まれた、アホ面と目が合う。ひどい顔だ、いつ見ても。それでも視線は外さない。視線を逸らしたら負けな気がする。
周りからは既にこの光景でやられた人形達が、クスクスと笑っているのが聞こえた。
「ぷあっ! ぷぅぁあ……ぷっ、ぷっ、ぷ」
鳴き声を出す度に、ラバーチキンの首がぴくぴくと前後に動く。そんな間抜けな光景に、吹き出しそうになるのを抑えるのがだんだんと苦しくなる。
肩と表情筋にものすごい力が入っていくのを感じた。唇の端はとうに思いっきり吊り上がってしまっている。でもまだ私は負けてない!
私の向かいに座っている45は既に肩を震わせて、うつむいてしまっている。
ポーカーフェイスの得意な彼女がこうなるのは珍しいかも。
そして、そんな45にトドメを刺すべくラバーチキンを持った腕が45の目の前まで伸ばされる。この服の袖、M14か。
あれ、45の前でラバーチキンを鳴らすもんだと思ったけど、鳴らさないな。
それどころか、M14はラバーチキンを私と45の間に置いたんだけど。
一体どうしたんだろう、と不思議に思い首をかしげる。45も異変に気付いたのか、笑いをこらえていたせいでわずかに赤くなった顔を上げる。
直後、M14の両手が勢いよくラバーチキンのお腹を踏みつぶした。
跳ね上がるラバーチキンの首。直後、一気に吐き出された空気を吸い込もうとそのお腹が膨らむ。
そして響く大音量の鳴き声。この間1秒足らず。
「プあああああぁぁぁぁぁ……」
『ブッフゥ!?』
不意打ちともいえる核弾頭の爆発に、私や45だけでなく周りにいたスコーピオンやフュンフ、M4が噴き出す。
「はーい! 指揮官と副官アウトー! ついでにスコーピオンとMP5とM4もアウトー!」
後ろで元気な声が響く。ラバーチキンを持って、M14がイタズラを成功させた子供みたいにニコニコしていた。嬉しそうにラバーチキンのお腹を押すM14。吐き出した分の空気を吸い込んだラバーチキンが今度はか細い声で「ぷああ」と鳴いた。
ごめん、もう我慢できない
「あ、あははははははは! 無理! も、無理!」
「ぷくくくくく……」
「あーっはっはっはっは! いやダメだってあれはさあ!」
「あは、あははははっ! 思いっきり潰すとか、ズルいです!」
「笑ってません、笑ってませんよ……!」
私は左手をダン! とテーブルに叩きつけて笑い、その目の前で45はプルプルと小さく震えながら声を押し殺して笑う。
スコーピオンとフュンフはお腹を抱えて大爆笑。M4は顔を赤くしながらそっぽを向いて負けを認めまいと頑張っているけど、唇の端が吊り上がるのが我慢できてない。
「あー、可笑しい! で、M14。それどうしたの?」
「後方支援に大成功したので、クライアントの輸送会社の人からもらったんです! これで笑っちゃいけないゲームすると楽しいよって!」
確かに、コレ見てる側にいるだけでも結構楽しいのよね。笑うなって言われた側はたまったもんじゃないんだけど。
よし、決めた。ご飯もちょうど食べ終わったことだし、私も付き合おう。
「M14、私もそれやる。今度は鳴らす側で」
「お、指揮官もやりますー? 今度は誰にしましょうか!」
M14の元気な声に、食堂を見渡してみる。そして見つけた。極上のターゲットを。
私に背を向けるようにして座る、青みがかった銀色のロングヘア。紺色のベレー帽を身に着け、黙々とご飯を食べているであろうその後ろ姿。
416だ。コレを使ったらすごく面白いものが見れる気がする。
黙って彼女のことを指さすと、M14は満面の笑みでサムズアップを返してくれた。そして、ラバーチキンを私に手渡してくれる。
ラバーチキンを持って、足音を忍ばせながら416の背後へと近寄る。周りの皆には黙っていてもらうように視線と、口元に人差し指を持って行って合図をした。
416の背後に立つ。彼女が私に気づいた様子はない。
ラバーチキンを彼女の顔の真横へとゆっくり持って行く。
ちょうど、視界の端に入るかどうか位の位置まで持って行ったところで、ラバーチキンのお腹を優しく押し、そして離す。
「ぷあぁあ……」
ピクリ、と416の肩が震えた。首がちょびっとラバーチキンの方を向く。
「416~、笑っちゃダメよー」
ニヤニヤしているの自覚しながら、416の背後でそう告げる。
「あら、指揮官。面白いことをしてるのね。私がこの程度で笑うとでも?」
振り返らずに、416がそんな余裕そうな返事をしてきた。声ちょっと震えてるけど。
それに対する返答として、今度は416の耳元でチキンを鳴らす。
「ぷぁ……ぷぁあ」
416の肩がピクリと震えた。まだまだ行くぞー。
「ぷあっ。ぷあああっ。ぷあっ」
今度は彼女の目の前にラバーチキンの顔を持って行き、そこで激しく鳴かせる。
私がラバーチキンのお腹を押しつぶしては戻して鳴かせる度、ラバーチキンの首が前後にビクンビクンと痙攣する。
416の肩がプルプルと震え始めた。もう一押し。
私はいったんラバーチキンを引っ込めた。416の肩から力が抜ける。
そんな416の真横に、今度は私自身がそーっと近寄る。ちょうど、彼女の視界ぎりぎりに私の顔が映りこむように。
ゆっくり、ゆっくりと彼女の顔を横からのぞき込む。ニヤケ面をやめて、真顔でだ。
416の斜め向かいに座っているわーちゃんは、声こそ上げないけれど既にお腹を抱えて爆笑している。その隣に座っているスプリングフィールドも顔を背けて肩を震わせていた。
416の顔がちょっと赤い。笑うまいと必死なのか、唇もきつく一文字に結ばれている。
そして416と目が合った。ポーカーフェイスは続行だ。
「フフッ……! くふふふふ……!」
「はい416アウトー!」
私の後ろからM14の元気な声が響く。
「指揮官……! 最後のは卑怯よ……!」
「ダメよー416。どんな時でも笑わないようにしないとー」
ニコニコしながら45が416の肩に腕を回しながら絡む。
「無理に決まってんでしょ! 何よあの真顔!」
そう言って416が私の方を見てきたので、再び真顔になって416のことを真っすぐと見つめた。
「フフフッ……!」
416、二度目の撃沈。あ、わーちゃんが釣られるように声を上げて爆笑し始めた。
結局、そのあと昼休みが終わるまで、私達はあっちこっちに行って様々な人形達を笑わせまくった。必死にこらえる子もいれば、速攻で笑ってしまう子もいて、十人十色といった感じだ。
最後は遊び過ぎだとROやAR-15にお小言をもらったが、彼女達もラバーチキンの犠牲になってもらった。悔しそうに顔を歪めながら、それでも笑っている彼女達は中々に見ものだったと思う。
ちなみに、SOPⅡだけは唯一笑わなかった。終始ニコニコはしていたけれど、笑いだすってことはなかったな。ちょっと悔しい。
目指せ、基地内全員爆笑エンド!
「シーラ、仕事して。ラバーチキン鳴らしてたら仕事にならないでしょう」
あ、ごめんなさい。……45の顔がちょっとにやけてるのは黙っておこう。
米軍とかで笑っちゃいけない訓練をするときに使われるラバーチキンで遊んだ話でした。
「笑うな」と言われてアレを出されたら作者は秒で笑う自信があります。
訓練風景の動画見てるだけでも噴き出してるのに。
加えてラバーチキンの顔じゃなくて真顔の上官の顔とか出てきたら絶対笑います。
ちなみにああいう訓練(?)って真面目な子ほど弱いと思います。