女性指揮官と戦術人形達のかしましおぺれーしょん【完結】   作:笹の船

26 / 118
スプリングフィールドが買い物に行く話です。
視点もスプリング。


アナタについていきます

 今日は第四部隊が非番の日だ。

 なので私ことスプリングフィールドは街に出て、カフェで出す料理の材料などの買い出しに来ている。

 お供としてMP5と指揮官が一緒だ。指揮官はどうやら書類仕事が面倒になったらしく、昼休みに仮眠をとるフリをして抜け出してきたらしい。

 後でUMP45から怒られるんでしょうけど、まあ来てしまったなら折角だし手伝ってもらおうと思う。

 

「それにしても暖かくなったわねー」

 

 普段のデスクワークで固まった体をほぐす様に、指揮官が体を伸ばす。

 ちなみにグリフィンの制服である赤いジャケットはここまで来るのに使った車の中だ。

 なので、彼女は今白いブラウスに黒のネクタイ、赤いミリタリースカート、こげ茶のロングブーツといった出で立ちだ。

 丈の短いスカートとロングブーツの間から覗く、程よく引き締まってスラっとした生足が、春の日差しに少し眩しい。ついでにググっと伸びをしているせいで、形の良い胸のふくらみが強調されてしまっている。目に毒だ。

 春先になって暖かくなってきたとはいえ、それでもまだ夜は冷え込む。別に夜まで街にいるつもりはないけれど、突然冷え込むことだってあるのだから指揮官にはジャケットも着てほしいところだ。せめて手元に持っておいてほしい。

 

「そういえば指揮官の制服は、ヘリアントス上級代行官みたいなミリタリーワンピースタイプではないんですね」

「ああ、あれ? だってアレにしたらそこらへんで制服脱げないじゃない」

「指揮官さま、制服はその辺で脱ぐものでは……」

 

 MP5の苦笑に指揮官はバツが悪そうに頬をかいた。

 グリフィンの女性用制服は、上級代行官のようなワンピースタイプが主流だ。しかし、指揮官のようなジャケットとスカートの別れているセパレートタイプも存在する。

 ちなみにスカートとパンツとで選ぶこともできるが、基本的にはグリフィンの女性職員はスカートだ。その方が外からの受けがいいという理由に、人の業というか、欲の深さを感じる。

 閑話休題。

 今日の私達の目的は、カフェで使う食材などの買い出しだ。

 作戦行動に必要な物資については、後方支援での報酬や本部からの補給で済ますことができるけれど、カフェやその他各自の趣味に関する物資はこうして自前で調達する必要がある。

 たまーにカリーナさんが用意してショップに売り出すこともあるけれど。

 まあ、ともかく趣味寄りの雑貨を調達するために、私達は良く非番になったらこうして街に買い出しに来ているわけだ。

 そんなわけなので、特に食材や雑貨を買いに来ることの多い私は顔見知りになった住人の方も多い。

 

「お、スプリングフィールドちゃん! 今日は買い物かい? 安くするよー」

「あら、ホントですか? ふふ、じゃあちょっと甘えちゃおうかな」

「こら、アンタ! スプリングちゃんに色目使わないの!」

 

 今はカフェで使うコーヒーの材料が売っているお店だ。このご時世、コーヒー豆も貴重な嗜好品なのだけれど、ここのご夫婦は例えコーヒー風味の合成粉末であっても質のいい物を仕入れてくれる。

 運が良ければ本物のコーヒー豆も手に入るけれど……うーん、残念。今日は無いみたい。

 それでも良質な粉末は手に入った。高くつくけど、私の給料は大体カフェの経営に全て回しているから特に問題はない。

 

「スプリングちゃん、いつもありがとうね」

「おば様、そんな……こちらこそいつも良いモノをありがとうございます。おかげでカフェでも好評ですよ」

「そういって貰えると嬉しいねえ。そうだ、アンタんとこの指揮官にも言っておいておくれよ。いつも守ってくれてありがとうって」

「おばさーん、おじさーん。スプリング、いるー?」

 

 ちょうど、お店の扉を開けて指揮官が入ってきた。

 

「ああ、シーラちゃん。ちょうどアンタの話をしてたんだよ」

「え!? スプリング、変なこと話してないでしょうね?」

「アンタ、基地で変なことしてんのかい?」

「あ……いや別にそんなことは……」

 

 誤魔化すように笑いながら、指揮官が手に持った買い物袋を掲げる。

 どうやら私が頼んだ食材の買い物は済んだようだ。

 あれ、でもMP5の姿が見えない。

 

「指揮官さま、MP5は?」

「フュンフはお店の外にいる。ここの看板猫と遊んでるわよ」

「相変わらずウチの猫は人形ちゃん達には懐くねえ」

「私はフーッ! って唸られたわ」

 

 少し残念といった風に、指揮官が肩をすくめた。

 そんな指揮官の前に、店主ご夫婦が歩み寄る。

 

「シーラちゃん、いつもありがとうね」

「お前さん達が鉄血から守ってくれるから、俺達もこうして親父の店を続けられてる。感謝してるよ」

 

 突然のことに指揮官は一瞬面食らったようで、目をぱちくりとさせていた。

 けれど、すぐにそれは柔らかい微笑みへと変わる。

 

「おばさん、おじさん。前に言ったっけ? 私さ、戦う理由をちゃんと見つけたんだ。仇討ちでも、惰性でもないちゃんとした理由」

 

 指揮官は微笑みを店主達に向けたまま続ける。まるで、子供が親に自分の夢を語る時のような顔で。

 

「私はね――――」

 

 理由を聞いた店主達もまた、我が子の成長を喜ぶかのように顔を綻ばせた。

 

 

 買い物も済ませ、近くにあったスイーツショップで小腹を満たした私達は、基地への家路を歩き始めていた。

 ふと、私の視界に小さな何かが横切るのが見えた。花びらのようだ。

 足を止めて、花びらが飛んできた方を見やる。指揮官たちも、花びらが飛んできたことに気づいたようで、同じように足を止めていた。

 

「そっか。道理で暖かいわけよね」

 

 指揮官がそんなことをひとりごちた。

 私達の視線の先には、枝いっぱいに花を咲かせた桜の木が一本立っていた。

 本来は極東の、日本というかつての島国特有の品種だったらしい。

 それをこの街に越してきた日本人の末裔が、ここでも咲けるように一族で研究を重ねた結果、こうして春になると花を咲かせるようになったと聞いた。

 春の暖かさを、そよ風が私達に運んでくる。それに合わせて、桜の花びらがパラパラと私達の方へと飛んできた。

 

「綺麗ですね……」

「うん。おばあちゃんにも見せたかった……あの人、日本人だったから」

 

 MP5の言葉に、少しだけ寂しそうな表情を見せながら指揮官がそう呟く。

 

「カメラを持ってくればよかったですね」

「ホントね。サボりじゃなくてちゃんとした休みでくれば持ってきたかもしれないのに」

「指揮官さま……UMP45さん怒ってますよ、絶対」

「言わないで……罰は受けるつもりよ、ちゃんと」

 

 指揮官が酸っぱいものを口に放り込まれたような表情をする。そんな私達を微笑ましく思うかのように、そよ風が再び吹いた。桜の花吹雪が私達を包み込む。

 

「でも、少しもの悲しさというか、そんな感じもします」

「どうしたの、フュンフ」

「だって花って一週間とかそれくらいで散っちゃうじゃないですか。すぐに散ってしまうのに、どうしてあんなに綺麗な花を咲かせるのかなって」

 

 MP5の言葉に、けれど指揮官は優しく微笑みながら、彼女の頭を撫でた。

 

「すぐに散るから、皆綺麗な花を咲かせるのよ。私達だって同じ。生きていられる時間は限られているもの。どうせなら綺麗に咲いていたいじゃない?」

「私が着任したばかりの頃の指揮官に聞かせたい言葉ですね」

「スプリング、茶化さないでよ」

「あはは、ごめんなさい。でも、そうですね。どうせだったら綺麗に、いい言葉です」

「だからみんな女の子はオシャレ好きなんですね!」

「アナタ達ねぇ……」

 

 ちょっと茶化し過ぎたかな? 指揮官がちょっと面白くなさそうに唇を尖らせる。

 でも、案外まんざらでもなさそうな表情にも見えた。

 

「ほら、帰るわよ。意地悪な部下を持つと苦労しちゃうわ、全く」

 

 そう言って指揮官が歩き出す。子供みたいな拗ね方をする彼女の背に、MP5と顔を見合わせてクスクスと笑った。

 

「ほーら! 早く帰るわよー」

『はーい!』

 

 西に傾き始めた太陽に照らされた街に、私達の元気な返事が響いた。

 

「指揮官」

「どうしたの、スプリング」

「私は、最期の時までアナタにお供いたします」

「……ホントにどうしたのよ、突然」

 

 ちょっぴり困ったように笑う指揮官に、けれど私は真っすぐと彼女を見据えた。

 

「『何でもない日常を過ごせる人が、一人でも多くなるように』。それが指揮官の新しい戦う理由なんですよね」

「……変かな」

「まさか。素敵だと思いますよ。それが指揮官の願いなら、私は喜んで戦場へ参りますとも」

 

 そんな私の言葉に、ほんの少しだけ指揮官の目つきが鋭くなる。

 

「スプリング。私の言う『一人でも多く』には……」

「私達も入っているんでしょう? 勿論分かっております。必ず帰りますよ」

「分かってるなら、いい」

 

 安心したように小さくため息を吐く指揮官が、車に荷物を積み込んだ。

 いつか、この優しすぎる指揮官が戦わずに済む世界になりますように――

 運転席に乗り込むと、車のフロントガラスに桜の花びらが一枚、ぽつんと張り付いているのが見えた。

 もしかしたら、私の身勝手な祈りは誰かに届いたのかもしれない。

 そんなことを思いながら、私は指揮官たちが乗り込んだことを確認して、基地へ向かって車を発進させた。

 

 

 

「で、『指揮官』? 何か言い訳は?」

「美味しいケーキ買ってきた」

「おっけー。……明日の副官は休むわね、私」

「そんなあ! そりゃないよ45! ちょっと、おーい!」

 

 ……お後がよろしいようで。

 




花見もどきな話が書きたかったのに、ちょっと湿っぽくなった。
現実世界ではあちこちで桜がいい感じに咲いているそうです。
そのうちちょっと見に行こうかとは思います。

人が多くなければな!

そういえば、今日でちょうどかしましおぺれーしょんの投稿を始めて一か月たちました。
もう一か月、なのかやっと一か月なのかよくわかんないんですが、これからも頑張って投稿は続けていくつもりです。
これからもどうぞよろしくお願いしますmm
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。