女性指揮官と戦術人形達のかしましおぺれーしょん【完結】 作:笹の船
おやつ時。仕事もいい感じに一区切りついたタイミングで、小腹の空いた私は食堂にでも行こうかと席を立った。
それを見た45が思い切り睨みつけてきたけど、流石に信用しなさすぎではなかろうか。
これでも私上官なんだけどなあ。
「指揮官は放っておくと、何をしでかすか分かりませんからねー」
「悪かったってば……そろそろ機嫌直してよ45ー」
この間、午後の仕事を抜け出してスプリング達と買い物に行ってからずっとこんな調子だ。
悪いことをした自覚はあるし、一人の大人として不適切なことであったとは思うけど、そろそろ機嫌を直してくれてもいいと思う。
「……ごめんって。ホントに」
「……まあ、休憩位ならしてもいいと思いますよー。変なこと考えない様に、今度は私もついて行きますケド」
まだツンツンしてるなあ……なんか、最初はずっとこんな感じだったはずなのに、いま改めて敬語で話されると堪えるものがある。
そんなモヤモヤとした気持ちのまま、私達は司令室を後にした。
食堂にやってくると、調理場の方がなんだか騒がしかった。
一体何だろうと覗いてみると、どうやら一〇〇式が何かを作っているらしい。
わいのわいのと盛り上がっているのはハンドガンタイプの人形達が中心みたいだ。
「あ、指揮官! 今ね、一〇〇式がサクラモチ? っていうのを作ってるんだって!」
私の姿を見て、待ちきれないと言わんばかりの声を上げたのはSAAだ。無類のコーラ好きである彼女が、和菓子に興味を持つとは珍しい。
……いや、桜餅がなんだか分かっていない可能性もあるかな。
それにしても桜餅か。この間の買い出しの時と言い、どうにも日本に縁があるような気がする。前はそんなこと全然なかったんだけどなあ。
「ねえ、45」
「なんですかー指揮官」
「……まあいいや。桜餅、折角だから貰おうよ」
「一個だけですよー。あんまり食べたら太っちゃうし」
人形って太るのか……? いやまあ、ツッコむのは野暮かな。
なんてことを考えたら、黒地に桜の花びらの刺繍がされた、可愛らしいエプロンを身に着けた一〇〇式が調理場の方からトレイに桜餅を載せてやってきた。
「あ、指揮官とUMP45も。桜餅作ったんです。良ければひとついかがですか?」
そう言って一〇〇式ははにかんで私達に桜餅を勧めてきた。
「じゃあ、一つ貰おうかな」
「……私も一つ」
トレイに乗った桜餅は、きれいに桜の葉に包まれていた。中には綺麗な桜色のお餅がちらりと顔をのぞかせている。
結構綺麗な色じゃない。よくこんなものを調達出来たなあ。
「一〇〇式、このお餅良く調達できたわね」
「スプリングフィールドさんの伝手を使って、色々融通してもらったんです。その時に街の方から、今度こっちでも作ってくれって頼まれましたけどね」
そう言って、一〇〇式は照れ臭そうに笑った。戦闘中は苛烈な面の目立つ彼女だが、普段はこうしてお菓子を作ったりと女の子らしい面が目立つ。
一〇〇式が非番の時、たまに街の方でお菓子作りをしているのは聞いているし、地域交流という意味でもいいかもしれない。
それはさておき、桜餅だ。
葉っぱは……あ、これ本物だ。すごいな、良く調達できたもんだ。
そこまで考えて、街に一本だけ生えている桜の木を思い出した。あそこから調達したんだろうか。
「指揮官……これ、葉っぱも食べるの?」
葉っぱの調達先について考えていると、少し気まずそうに45が私の肘をつついてきた。
実際どうなのか、視線を一〇〇式へ向ける。
「一応食べれますよ。まあ、お好みでって感じでしょうか」
「だって。食べてみたら?」
そう言いながら、私は手に取った桜餅を葉っぱごとまるっと口に含む。大きさは手のひらに余裕で乗るくらいの一口サイズだ。勿論葉っぱもそれに合わせてカットされている。
まずは塩漬けされた葉っぱの塩辛さが口の中に広がる。一拍遅れて、お餅のモチモチとした食感、更に一拍遅れてアンコの甘さがやってくる。
うん、しょっぱさと甘さが絶妙にマッチしていて、とても美味しい。塩漬けされた葉っぱから漂う、爽やかな香りもいい塩梅だ。
これは緑茶が欲しくなるなあ。流石に無い物ねだりは出来ないけれど。
ちらりと横を見れば、口を開けて恐る恐る桜餅を葉っぱごと食べようとしている45がいた。
45はパクリと桜餅の3分の1くらいを口に入れて、ゆっくりとそれを咀嚼する。
「どう、45? 美味しい?」
私の問いに、45はしばらく口をモグモグさせて、ゴクリと桜餅を飲み込んだ。
「ん……なんか不思議な味。しょっぱかったり、甘かったり……」
「桜の葉っぱは塩漬けしましたからね。でも、その分中のアンコの甘さを引き立ててると思いませんか?」
一〇〇式の言葉に、45は納得したように小さく頷いた。そんな45の反応に一〇〇式が嬉しそうに笑顔を浮かべる。
「おお、意外とコーラに合うかも!」
「SAA! それは流石にどうかと思います!」
相も変わらずコーラをがぶ飲みしながら、一緒に桜餅を食べるSAAに一〇〇式が納得いかないと言わんばかりに頬を膨らませる。
そんな様子を横目で見ながら、私は45の手に残っていた桜餅をパクリと食べた。
勿論、彼女の指ごとだ。
「ひゃぁ!? ちょ、シーラ!」
45の指を噛まない様に、舌を使って桜餅をすくい取る。
持ちを口の中に含んだ後、せっかくなので桜の葉っぱを持っていた彼女の指先もぺろりと舐めた。しょっぱい。
少しはしたないけど、45の指から口を離す時、わざと音を立てた。
「わぁ~お。指揮官、中々激しいことするね」
SAAのちょっと驚いたような声だ。ちらりと45の方を見てみる。
……おおっと、これは強烈。思い切り頬を膨らませて赤面してらっしゃる。
「シーラ……やり過ぎよ」
「やぁっと名前呼んでくれたわね」
「ッ……まさかそのためだけに?」
信じられないと言わんばかりに、45は私のことを睨みつける。顔が赤いので威圧感も何もない。可愛い。
「まあ、ね。こうでもしないと、この先一生名前呼んでくれなさそうだったから」
「……謝らないわよ。元はと言えばシーラが悪いんだからね」
「おっほん! 指揮官、UMP45。流石に時と場所をわきまえてください」
一〇〇式のワザとらしい咳払いに、そちらを向いてみれば彼女もほんのりと頬を桜色に染めていた。あれ、この子こういう話に耐性ないんだっけ。
まあとにかく、ちょっとTPOをわきまえない行動をしたのは確かだし、ここは謝っておきますか。
「ごめんごめん。ね、一〇〇式。桜餅、もう一個貰える?」
「今度は変なことしないでくださいよ」
「分かってるって」
流石に二度は出来ない。不意打ちだからできたけど、やろうにも45はちょっと警戒しているし、周りの子達の目線もある。
そんな中、あんなことをもう一回やる度胸は流石の私にだってないのだ。
でも、これくらいならいいよね?
「45、あーん」
手に取った桜餅を、45の口元へ近づける。口を開けてくれない。
私も引き下がらず、そのままニコニコして桜餅を45の顔の前でホールドした。
やがて折れたのか、45が大きくため息を吐く。彼女の吐いた息が指にかかって、少し生暖かい。
そして、45は私が差しだしている桜餅を食べようと口を開けた。
45の口がゆっくりと私の指先へと近づいてくる。
そして、彼女の口の中に桜餅が入るかどうか、というところで私はお餅を引っ込めて自分の口の中に放り込んだ。
「ああっ!? ちょっと、シーラ! そんなのアリ!?」
むふふ。桜餅美味しい。
怒ったような表情の45が見れて二度美味しい。
「ふーん。へー。そっか。『指揮官』、そういうことするんですねー」
あ、やっば。流石にイタズラが過ぎたかもしれない。
「そういうことなら、私にも考えがありますからねー」
そう言って、45はつかつかと食堂を出て行ってしまった。
どうしよう、と一〇〇式の方を見れば諦めたように首を振るばかり。自業自得だと言いたいらしい。
それからしばらく、45は私とまともに口をきいてくれなかった。とほほ……
桜餅、美味しいですよね。
桜餅に限りませんが、和菓子はたまーに食べたくなります。
温かい緑茶があるとなお良い。