女性指揮官と戦術人形達のかしましおぺれーしょん【完結】 作:笹の船
「はい。ホットココアですよ指揮官」
「ん。ありがと、スプリング」
仕事が終わった後、私は45とカフェに来ていた。
桜餅の一件以降、45はあんまり私と口をきいてくれないままだ。
そろそろ機嫌を直してほしいと思うのだけれど、どうにもうまくいかない。
彼女の性格上、下手な餌付けはかえって逆効果だし、かといって発端が仕事をさぼって街へ出かけたことなので、変に外にプレゼントを買いに行くってこともできない。
コインを使ってドローン輸送? バレるから駄目。というかランダム性が強すぎて当てにできない。
どうしたものかな、と考えながらやってきたココアのコップに口をつける。
「あっち! あちち……」
思ったよりも熱くて、びくりと体が震えてしまった。あぶな、ココアこぼすかと思った。
ともかく、このままじゃ熱くて飲めない。……そういえば、最近45とカフェに来るときはおしゃべりしながら飲んでたから、自然と冷めるまで待っていたんだっけ。
ちらりと隣に座る45を盗み見る。
45は黙って社内広報誌を読んでる。最新号じゃなさそうだ。あれはちょっと前の奴かな。
読むのに夢中なのか、はたまた私の視線に気づいていながら意図的に無視をしているのか。どちらにせよ、45は私の方を向こうとはしてくれない。
なんとなく気まずい雰囲気が辺りに流れる。スプリングも、いつもよりは居心地が悪そうだ。
このままってわけにはいかないんだけど、どうしたものかな……
45は本音を隠すのが上手いから、たまに本音か建前か分からない時がある。
今回についても、妙に怒ってる期間が長すぎるというか……。仕事をサボったことに対して怒るにしては長すぎる気がする。
桜餅の件も、あれはピリピリしてたところへ私がちょっと恥ずかしいことをしてしまったから再炎上したって感じだろうし。
ぼおっとしながらそんなことを考えていると、いつの間にかコップの中のココアが無くなっていることに気が付いた。
追加のココアを頼もうとして、そこで私ははたと気が付く。
……戦術人形って、確か酔ったよなあ。
「スプリング、カルーアミルク頂戴。45は何がいい? 奢るわよ」
私の言葉に、45は胡散臭げな視線をぶつけてきた。随分と信用が無くなっちゃったなあ。
「……じゃあ、赤ワインで」
でも頼んでくれるのね。社交辞令であってもちょっと嬉しい。
やがてそれぞれにオーダーしたアルコールが出された。
どちらともなくそれに口をつけ、特に話すわけでもなく黙々とスプリングが出してくれた美味しいお酒に舌鼓をうつ。……いや、45は舌鼓をうってるかは知らないけど。
黙ってお酒を飲み続ける私達。カウンターテーブルの上のグラスが空になっては新しいアルコールを注文して……ということを何度も繰り返す。
そうはいっても、いつまでもこうしてるわけにもいかない。あんまり長引けば私のお財布に良くないし、下手をすると私が酔いつぶれる。
「で、45。折角お酒も飲んでることだし、今日は無礼講と行こうじゃないの」
「随分気前がいいと思ったら、そういうことだったんですね。『指揮官』」
今日の仕事はとうに終わっている。にもかかわらず、この『指揮官』呼びだ。この分じゃあ、本音を語らせたら何を言われるか分からないなあ……
「言いたいことは色々ありますけど、悪いことと良いこと、どっちから聞きたいですか?」
「……じゃあ、悪いことから」
嫌なことは先の終わらせておくが吉だ。もしかしたら良いことで全てチャラになるかも。
そんな淡い期待を抱きながら、私は45の言葉を待った。
「まず、指揮官としてどうかと思う性格ですよね。人形を家族だとか言ってしまうなんて、正直言って自分の立場を分かってない。そりゃあ部隊の仲間は家族だみたいなことを言う人間達がいるのは知っているけれど、それとこれとは話が別じゃないんですか。ぶっちゃけ向いてないと思いますよ。まあ、経緯としては指揮官になったというよりはさせられた、って感じですし、そこは同情しますけど」
いきなりどぎついのが来た……もうつらい。
「それから公私混同が過ぎると思います。人には仕事中に『指揮官と呼べ』って言ってるくせに、自分は私のことずっと『よんごー』って呼ぶし。公私混同がダメというなら、私のことも仕事中は『UMP45』と呼ぶべきじゃないんですか? 後、いちいちイタズラめいたことをするのもどうかと思います。直近だと一〇〇式がサクラモチを作った時なんかそうですよね。ていうか、なんなのあれ! 人前で私の指ごと桜餅を食べた挙句、人の指まで舐めるなんてアナタに羞恥心ってものはないわけ!?」
おいバカ止めろ。ノリでやったとは言え私だって思い返して恥ずかしくなってるんだから。っていうか声が大きい!
あーあ、ほらー。スプリングはいつも通りのニコニコ顔だけど、近くにいるわーちゃんとかなんかちょっと顔赤くしてこっち見てるし! やめて、恥ずかしいからこっち見ないで!
「まだあるわよ! 大体何!? 鉄血の前線司令部の最深部で、それもクソッタレハイエンドを潰したせいで暴走し始めたムシケラ共相手に撤退戦してる中でプロポーズなんて! そもそも何で指揮官のアナタが最前線のあの場所に出て来てるの!? バカなの死ぬの!?」
「ああでもしないとあのクソッタレの物理障壁の電力供給が断てなかったんだから仕方なかったでしょ!」
「それはそうだけど! プロポーズっていうのはもっとこう……ロマンティックな場所とかムードでやるもんでしょ! いや、プロポーズは嬉しかったけどさ!」
「何言ってんの、十分ムードあったでしょ! 血と硝煙の香りが香水の私達にとって、弾丸飛び交う戦場で敵をバッタバッタとぶち殺しながら誓いのキスとか一回してみたかったんだって! そもそも45だってすっごいノリノリだったじゃん!」
「アレはプロポーズされたし、誓約の指輪渡されて一気にハイになってたからであって、断じて私の心からの希望じゃないわよ!」
嘘だ。絶対嘘だ! あんなノリノリになって二人でぶっ放しまくった挙句、二人そろって直撃弾貰ってぶっ倒れながら笑ってたのに。後で基地の皆にしこたま怒られたけど。
「あんなノリノリになって二人で『立ったまま死ね!』ってシャウトしたのに!?」
「恥ずかしいからその時のこと言うな!」
「いいじゃん! 野戦服こそ私達のウェディングドレスよ!? ついでに相手の返り血でメイクすればばっちりじゃない!」
「戦闘狂みたいに思われるからそういう発言やめてよシーラ! 私、別にそこまで鉄血兵をぶちのめすのが好きなわけじゃないったら! SOPMODⅡでもあるまいし!」
「ちょっと! それどういう意味!?」
「抑えろSOPⅡ! 酔っ払いの戯言だから、な?」
『誰が酔っ払いだ! まだ素面よ!』
M16の失礼な物言いに私と45の声がハモった。まだ意識ははっきりしているし、思考も十分動いてる。まだまだ素面だっつの。
まだまだイケるので、私も45も一緒になって新しいお酒を注文する。若干引きつったような笑みを浮かべているスプリングが見えたけど、今はそんなことはどうでもいい。
やってきたアルコールを口に含んで、味を楽しんでから飲み下す。45も同じように赤ワインを一口飲んで、再び口を開いた。
「そもそも、シーラは誰もかれもにべたべたしすぎじゃない!? 最近MP5とかスコーピオンとか新入りにばっかり構ってるような気がするし、この間なんかG11と一緒に気持ちよさそうにお昼寝までしてたでしょ!」
「それが指揮官って役職に就いた人間の仕事だもの! 大体、そうは言うけど45とはちゃんと夜一緒にいるでしょ! 今日だってこうして一緒にカフェに来てるじゃない!」
「夜だけでしょ! 休日だって最近あんまり一緒に居られてないじゃない!」
「しょーがないでしょ! 予定が合わないんだから」
「そこをどうにか合わせるのが甲斐性ってもんでしょう!?」
「それが出来たら苦労しないわよ! ああ、もう! その辺の文句はヘリアントスかクルーガーのクソジジイに…………ちょっと待って。45、今なんて言った?」
ふと、45の言ったことが気になった。休日の予定をどうにか合わせるのが甲斐性だって?
「だから! 私達誓約してるんだし、私は休日もシーラと一緒に過ごし…た……い……」
あ、ヤバい。尊い。最近不機嫌だった理由って、それ? マジで?
死ぬ。可愛すぎる。コレだから私のお姫様は最高なんだよなあ!
自分が何を言ったか正常に理解したらしく、45の顔はもう真っ赤だ。トマトみたい。
「45」
「何よ」
恥ずかしいのに顔を隠さず、何でもないようにふるまうあたり流石のメンタルだな。耳の先っぽまで真っ赤にしてるから非常に残念な子みたいになってるけど。
それはともかくとして。
「次の休みいつ?」
「……明後日」
「OK。ちょっとクルーガー叩き起こして直談判してくる。あのヒゲゴリラのクソジジイになんて負けないわよアタシ」
お酒の代金をカウンターの上において席を立つ。細かい計算はしてないけど、まあ多めに置いたし多分足りるだろう。
「ちょっと、シーラ!? 本気!? 明後日本部で会議があるとか言ってなかった!?」
「知るかそんなもん。アタシのお姫様のが優先よそんなの。私がいないと回らない程度の会社なら潰れちまえ」
待ってろクルーガー。テメーの髭むしってでもアタシは休むからな。
SEKIROやってて日刊更新できませんでした(懺悔)
いつの間にかUAが5000を超えていて、嬉しい限りです。
これからもよろしくお願いします。