女性指揮官と戦術人形達のかしましおぺれーしょん【完結】   作:笹の船

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ほのぼのしません。
なんか書いていたらシリアスになった。
AR小隊が子犬と出会った話です。


奪って、出会った。そんな一日 ①

 司令室のスクリーンに戦場の様子が投影される。映されている映像は、出撃しているAR小隊に随伴させたドローンのカメラからのものだ。

 

「こちらM4。HQ、聞こえますか」

「こちらHQ。どうぞ」

「未踏破地区の調査は完了しました。鉄血が放置するだけあって、何もありませんでしたね」

「了解。詳しい報告は帰投後、報告書にまとめておいて」

 

 今回の作戦は、私のいる基地が管轄している区域の未踏破地区の調査だ。

 鉄血人形どもの支配下にすら置かれなかったこの地区は、長らくグリフィン側からも放置されていた。

 なにせグリフィン以上に効率的な行動をとる鉄血が無視をするくらいなのだ。地理的にも戦術的価値のないこの区域を、積極的に調査する理由はこちらにもなかった。

 つまるところ、最近は平和でやることがないのでとりあえず様子を見にいってもらったというところだ。何か物資でもあれば、と思ったが空振りだったらしい。

 

「退屈な任務だったな。早く帰って一杯やりたいぜ」

「M16! まだ作戦中よ!」

 

 無線からM16の我慢ならないといった声と、それを咎めるAR-15の声が響く。どちらの気持ちもわかるけど、ここはAR-15の方に賛同かな。

 

「基地に帰投するまでが作戦だからね。間違っても気を抜いて帰りがけにスクラップにならないでよ」

「おいおい、縁起でもないこと言わないでくれ指揮官」

 

 そうM16がおどけているところに、SOPⅡが声を上げた。

 

「黙って。皆、10時の方向から物音だよ」

 

 SOPⅡの言葉で無線越しでもAR小隊全員が戦闘態勢へ移行したのが分かる。レーダーには鉄血の反応は出ていないようだが、ハイエンドモデルであればグリフィンのレーダーをごまかすことくらいできても不思議じゃない。

 1秒、2秒……無線通信によるかすかなノイズだけが私の鼓膜を叩く。

 レーダーに感はない。だが、ドローンが送ってくる映像に、動きがあった。

 SOPⅡのが言った通り、10時の方向にある建物の影で何かの影が動き、そして引っ込んだ。

 M4がハンドサインで陣形を整える。これでいつでも反撃は可能な状態だ。

 

「私が先行する」

 

 M16がゆっくりと物音を立てないように先頭を歩きだす。

 一歩、二歩……ジリジリと影が消えていった建物へと近づいていく。

 やがてM16が建物の角に差し掛かった。物音はしない。

 ドローンのカメラ映像が、自分の銃を握りなおすM16の姿を映した。

 アイコンタクトで突入の意を示すM16。他のメンバーが無言でうなずくのを確認して、彼女は勢いよく建物の影から飛び出し銃を構える。

 次の瞬間、M16が後方に跳ね飛ばされた。そのはずみに彼女の銃も放り出される。

 

「M16姉さん!」

 

 叫び、即座にホロサイトを覗き込むM4。AR-15、SOPⅡも同じタイミングでM16に襲い掛かった敵性分子へと銃を向けていた。

 

「このっ! まさか鉄血じゃなくて野良犬に襲われるとはな!」

 

 そこには、汚らしくヨダレをたらし、牙をむいて今にもM16の喉元にかみつこうとしている大型犬の姿があった。

 何がそうさせるのか、野犬はその痩せこけた体躯には見合わない程の力があるようで、M16は中々振りほどけずにいる。

 

「ちょっと、後ろにもいるわよ!」

 

 AR-15が奥歯を噛み締めたような表情で背後へ銃を向ける。

 ドローンを操作して、AR-15が銃を向けた方向へカメラを向ける。そこにはM16に襲い掛かっていたのとよく似た野犬が二匹、こちらを向いて唸っていた。

 これは一刻も早く態勢を立て直さなければ不味い。野犬とはいえこれ以上の数に襲われれば、いくら彼女達とは言え大なり小なりの損傷は免れないだろう。

 問題は、野犬によって損傷を受けた後に鉄血に襲われることだ。そうなったら目も当てられない。

 故に、迅速にこの場を収める必要があった。

 

「AR-15、SOPⅡ! 背後の二匹に牽制射撃! それでも襲い掛かってくるなら射殺しなさい! M4、M16の援護を!」

『了解!』

 

 私の指示に素早く反応しそれぞれが行動を起こす。断続的な銃声。AR-15とSOPⅡの牽制射撃だ。ドローンカメラは再度反転しM16の方を映す。

 まだ彼女は無事だった。何度か隙を見て野犬を殴っているようだが、効いていないのか、有効打にならないのか、野犬を振りほどけずにいる。

 

「こんのぉ!」

 

 それでもM16は冷静だった。もがきながらも懐からフラッシュバンを取り出すと、目の前の獲物にかみつこうと大口を開けた野犬の口の中にソレを突っ込む。

 

「ゴガッ!?」

 

 自身のアゴの力でかみ砕けない固いものを口に突っ込まれ、一瞬野犬の動きが鈍る。

 

「やれっ!」

 

 M16の声と、M4が引き金を引くのはほぼ同時だった。

 M4カービンの銃口から飛び出した5.56ミリのフルメタルジャケット弾。それは野犬の頭蓋を砕き、その中の脳髄をかき回して、反対側から突き抜けていった。

 悲鳴を上げることもなく、痩せこけた野犬は力なく地面に倒れる。野犬の頭蓋からどくどくと流れる赤い血が、薄汚れたアスファルトを彩っていった。

 その背後で再び響く断続的な銃声。そして野犬のか弱い悲鳴。ドローンを反転させれば、同じように野犬が二匹、血を流して倒れていた。

 

「姉さん、大丈夫ですか?」

 

 M16に駆け寄ったM4が手を差し伸べる。勿論、周囲の警戒は続けたままだ。

 

「すまない。油断した」

 

 M4の手を取り、立ち上がるM16。もう唸り声も物音もドローン越しには聞こえないが、また襲われるとも分からない。

 それはM16も分かっているようで、腰のホルスターからM1911を抜いて臨戦態勢を整える。そのまま警戒を続け、跳ね飛ばされた自分の銃を拾い上げた。

 

「……今ので打ち止め、か? SOPⅡ、どう思う?」

「大丈夫そうだよ。でも、早めに動いた方がいいかも。戦闘音は間違いなくこの辺一帯に響いただろうし、違う奴らが寄ってきてもおかしくない」

 

 SOPⅡの言葉に、他のメンバーも頷く。いつも明るく無邪気な彼女も、締めるところはきっちり締める。こういうところは流石といったところかな。

 

「……待って。まだ何か聞こえない?」

 

 足を止めたのはM4だった。ドローン越しでは何も聞こえない。

 

「他の野犬かしら……?」

 

 AR-15が銃を胸元に寄せ、いつでも構えられる態勢をとる。

 

「気をつけろ、奴ら意外と頭が回る。鉄血以上に不意打ちが上手かった」

 

 M16の言葉に、場の緊張感が高まる。

 ――くぅ~ん

 今度はドローンのマイクも音を拾った。子犬らしき鳴き声だった。

 AR小隊にも聞こえたのだろう。それぞれが聞こえたことを示す様にうなずき合う。

 

「私が見ます」

 

 M4が声のした路地へと向かう。

 やがて、危険がないことを確認したM4が銃を下ろしたのが見えた。

 

「大丈夫です。子犬が一匹、震えているだけでした」

 

 M4の言葉に、小隊のメンバーも皆銃を下ろした。

 

「ねえ、M4」

 

 SOPⅡが口をもごもごと動かす。何やら言葉を選んでいるような素振りだった。

 

「どうしたの、SOPⅡ。口ごもるなんてアナタらしくもない」

 

 AR-15が首をかしげる。それに対し、SOPⅡは俯いてしまった。

 

「今、私達が撃ったのって……あの子犬の……」

 

 その先の言葉までは言えなったようで、SOPⅡは再び口をつぐんだ。

 その場を何とも言えない沈黙が支配する。SOPⅡの言いたいことは誰もが理解していた。

 AR小隊が射殺した野犬は、十中八九あの子犬を守ろうとした家族だろう。

 けれど、そのことについて語るのは少なくとも今じゃない。

「AR小隊。帰投しなさい。作戦目標は既に達成済みでしょう」

 

「……了解。AR小隊、帰投します」

 

 M4の応答を聞き、ドローンを自立モードへ移行させる。

 

「ねえ、指揮官」

 

 SOPⅡだ。いつもの彼女らしい明るい声ではない。

 

「SOPⅡ、話はデブリーフィングで聞きます。今は帰って来なさい。くれぐれも油断して奇襲されたりしないように」

 

 それだけ言って、私は無線を切った。さて、彼女達が帰ってくる前に救護室にでも行っておこうかな。バッテリーに余裕はあったと思うから、色々やっておかないとね。

 

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