女性指揮官と戦術人形達のかしましおぺれーしょん【完結】 作:笹の船
前回から引き続き焔薙様の『それいけポンコツ指揮官とM1895おばあちゃん!!』とのコラボ話になります
「まさか45とユノ指揮官が知り合いだったとはねー」
「前の大規模作戦の時、色々助けてもらったのよ」
あの後、私達はユノ指揮官の副官であるナガンリボルバーと合流し、これも何かの縁ということで一緒に街を散策していた。
今は通りの屋台で売っていたアイスクリームを買って、公園のベンチでその甘さに顔を綻ばせているところだ。主にユノ指揮官が。
ちなみにユノ指揮官とPPK、ナガンがベンチに座り、私と45がその前に立っているという形になっている。まあ立つのは馴れてるし、問題ない。
「ユノに代わり、改めてお礼を言わせていただきますわ。ありがとうございます」
「ん? まあ気にしないで。私が好きでやったことだしさ」
「わしからも礼を言わせてくれ。こやつは少々訳アリでな……あまり人と接するのが得意ではないんじゃ」
PPKとナガンからそれぞれ礼を言われる。やるべきことをやったまで、という意識ではあるのだけど、こうして面と向かって丁寧にお礼を言われるとなんだかこそばゆい。
そんなこそばゆさを誤魔化す様に、私は手に持ったアイスクリームを舐めることにした。
「ふふ、シーラったら照れちゃって」
「ちょ、言わないでよ……」
折角誤魔化そうと思ったのに。実力うんぬんはさておいて、今くらいは目の前の小さな指揮官の前でカッコくらいつけさせてほしい。
ほんのり頬が熱を持つのを感じながら、ちらりとアイスクリームを食べるユノ指揮官を盗み見る。……少し居心地が悪そうにしていた。やっぱり知らない余所の指揮官と一緒にいるのは嫌かな。
幸い、初めて本部で顔を合わせた時よりは感情の見える表情をしている。まあ、PPKとナガンがいるのが大きいのだろうけど……。
「……すまぬな。こやつ、少々眼が特殊での」
あちらさんのナガンは随分と目ざといな。そんなに顔に出していたつもりはないのだけれど。
「呵々、わしをナメるでない。それに、おぬし煙に巻くのは上手いようじゃが隠すのは下手じゃの。そうじゃろう? 元正規軍第10小隊のスイートキャンディ殿」
「ッ!?」
反射的に腰のホルスターに手が伸びた。手にしていたアイスクリームが地面に落ちる。
けれど、その手はホルスターに届く前に何者かによって握られ、阻止された。
「シーラ、落ち着いて。大丈夫、彼女達は敵じゃないわよ」
「45……ごめんなさい。ちょっと過剰反応しすぎた」
「いや、こちらこそ済まぬな。流石に少々戯れが過ぎた」
私の反応が予想外だったのか、ナガンが申し訳なさそうに頭を下げる。
こちらとしても少々過剰な反応だったので、お互い様だということで頭を上げてもらった。
「しかし驚いたわね。まだ会って数時間しか経ってないはずなんだけど、もうそこまで調べがついてるの?」
私達が出会ったのは完全に偶然だ。にもかかわらず、会ってから今に至るまでのわずかな時間でそこまで調べがつくものなのだろうか。
正規軍出身であることは入社時に明かしているが、どの部隊に所属していたのか、ついでに言えば『スイートキャンディ』のあだ名は明かしていない。
グリフィンのデータベースにはそれらの情報は乗っていないはずなのだけど。
「何、以前から気にはなっていたんじゃよ。人形を『家族』と呼び、そんな家族を助ける為に最前線の鉄血基地まで飛び出していってしまうモノ好きな指揮官のことはな」
「ああ……そうか、あの時の作戦の噂からか」
私が基地を飛び出して、正規軍時代の記憶を頼りに最前線のあの鉄血司令部へ地下から侵入したあの作戦。
私が死にかけながらも45にプロポーズして、私達が結ばれた作戦だ。
報告書は出さなければならないから、まあほとんどあるがままを報告した結果、グリフィン内で大バカ野郎として認知されたんだったか。
「あの……シーラ…さん」
「ん? どうしたのユノ指揮官」
驚いた。まさかここでユノ指揮官から声を掛けてもらえるとは。
声を掛けた彼女は、心細そうにPPKとナガンの方を見る。やっぱり怖いんだろうか。
そんなユノ指揮官に対して、PPKはそっと彼女の手を握って微笑みかけ、ナガンは背中を押すように頷いた。
そんな二人の励ましに、ユノ指揮官が意を決したように私を見た。
「シーラさんにとって……人形は、皆は『家族』なんですか?」
真っすぐな瞳だ。彼女から私がどう見えているかは分からないけれど、ここで誤魔化すのは彼女からの心証を悪くするだけだろう。誤魔化すものも何もないけれど。
「……戦術人形は代えの利く戦力よ。指揮官としての考えから言うなら、そんな彼女達を『家族』と呼ぶのはふさわしくないんでしょうね」
ユノ指揮官達の表情が険しくなる。特にユノ指揮官からはわずかに敵意すら感じ取れる。敵意をぶつける相手程度には存在を認識されているのは、喜ぶべきことなんだろうな。
最も、私が言いたいことはまだある。
「最初は私も人形は代えの利く都合のいい戦力だと思ってた。……いや、思いたかった」
指揮官になりたてだった頃の自分を思い出して、少し懐かしくなる。あの時は余裕も何もなかったから、四六時中トゲトゲしていたっけな。人形なんて人を真似た泥人形くらいに思おうと必死だった。
「でも無理だった。だってそうでしょ? 人形達だって笑いもすれば泣きもする。怒ることもあれば喜ぶことだってある。そんな彼女達を見ていて、どうしてもただの代えの利く戦力だなんて思えなくなっちゃってね。だから、私は彼女達を『家族』として扱おうと決めたの。正規軍の部隊にいた時、私がそうしてもらったようにね。……なんて言ったら、当時の45にはバカバカしいって鼻で笑われてたけど」
「今でも思ってるわよ。バカだなあって」
「そのバカに惚れちゃった大バカ者は誰かしらね」
私の返しに「バカが移ったのかしらね」と、45はおかしそうに左手で口元を隠しながらクスクスと笑う。その左手薬指にはめられた誓約の指輪が日の光を反射した。
……お互い、あの頃からは随分変わった。でも、悪くない変化だと思う。
「あ……45のその薬指にあるのって……」
「そう。誓約の証。相手が誰だか知りたい?」
ちょっぴり意地の悪い笑みを浮かべた45に対して、ユノ指揮官は私の方を――正確には私の左手薬指を見た。
「もしかして、シーラさんが? ……あ、『見えた』」
「おお、もう『見えた』のか」
待て待て、どういう流れコレ。見えたって何の話よ。
突然のことに目を白黒させていると、ユノ指揮官が私の目をしっかりと『見て』口を開いた。
「私、実は人と人形が逆に見えるんです。人がマネキンに、人形が人間に……みたいな感じで」
「じゃから基本的に初対面の人間に話しかけられても、のっぺらぼうのマネキンが喋っているようにしか見えんのじゃ。ペルシカやヘリアン、その他交流があってこやつが信頼している相手であれば、人間でもちゃんと認識できるんじゃがな。どうやらおぬしもその『例外』として認識できたようじゃ」
なるほど。だから初めて会った時、私が見えていないかのような虚ろな目だったのか。今見えたってことは、さっきまで彼女からすればずっとマネキンと一緒にいたわけね。そりゃ居心地悪くもなる。
ところで、随分と熱心に私のことを見てくるわね、ユノ指揮官……。なんだか恥ずかしくなってきたぞ。
「シーラさんの黒い髪、すごく綺麗……ヘアケアとかやってるんですか?」
「え……? いや、まあその……」
え、なにこれ。どういうこと。突然のガールズトークのスタートにおねーさん動揺を隠せない。
「私がやらせてるの。放っておくとシーラすぐサボるもの。綺麗な髪なのに勿体ないわよねー」
「ちょ、45! 変なこと言わないでよ!」
「へぇー……胸もけっこう大きいんですね」
あー、私以外の全員からの視線が一気に刺々しくなったぞ。知らないやい。私が悪いんじゃないぞこれは。
「羨ましいですわね」
「けしからんな」
「これで『自分はそんなでもない』とか言い出すから殺したくなるのよね」
45……なんで火種にガソリンを注ぐのかな。クソッ、こういう役回りはヘリアンとかスプリングの出番でしょうに!
その後、胸のことやらなにやらで色々と弄り回された。火種を投下してくる45に、それに便乗するナガンとPPK。それはいい。一番キツかったのはそれらに対してイチイチ純粋無垢な瞳で私を見てくるユノ指揮官だ。アレは中々キツイ。
「ユノ指揮官が純粋すぎておねーさん心痛い」
「アナタが汚いだけよ。彼女は悪くないわシーラ」
「呵々、心配させられることも多いが、よくこうして真っすぐ育ってくれたもんじゃ。そこは素直に嬉しいの」
「ええ。ユノのそういうところが、私達が頑張ろうと思える理由の一つですもの」
「う……なんだか照れ臭いな……」
恥ずかしそうに顔を俯かせてるユノ指揮官を、愛おしそうに見つめるPPKと、我が子の成長を喜ぶ親のように優しく見つめるナガン。
きっとここまで来るのに色んなことがあったのだろう。それでも、私達がそうだったように彼女達もまた『家族』と共に乗り越えて来たに違いない。
「……頑張らないとなあ」
「シーラさん?」
「いや、ユノ指揮官を見てたら、私も頑張らないとなって」
「お仕事をサボって街に出るような指揮官なんてお手本にもならないものねー」
「アナタまだ根に持ってるの45……」
冗談よ、と45が笑う。アナタの冗談は冗談に聞こえないのよ!
「あの、シーラさん」
「ん? どうしたの」
私を呼んだかと思ったら、ユノ指揮官がなんだかもじもじし始めた。お手洗いにでも行きたくなったのかな?
「その……せっかくこうしてお話もできるようになったし、私もシーラさんのことが見えるようになったので……その……」
何か言いたいことがあるようだが、恥ずかしいのかユノ指揮官は口をもごもごしてなかなか言い出せずにいる。うーん、なんだろう。気になるなあ。
「ふふ、シーラさん。ユノはアナタに『ユノ指揮官』なんて堅苦しい呼び方しないで、もっと親しみやすい呼び方に変えてほしいんですわ。そうでしょう、ユノ?」
「あぅぅ……うん」
恥ずかしさが極まったのか、隣に座るPPKの服の裾をキュッと握りしめるユノちゃん。何だこの生き物。可愛いじゃないの。すごく母性本能をくすぐられる。
それはともかくとして。
「それくらいお安い御用よ。ユノちゃん」
呼び方を変えて名前を呼べば、ぱあっと笑顔になるユノちゃん。まるで雲に隠れた太陽が顔を出したみたいな変わり方ね。可愛い。
「呵々、良かったの指揮官。……さて、そろそろわしらは帰るとしようか。これ以上のんびりしていては基地の皆が心配する」
「あ……そっか。もうそんな時間なんだね」
ユノちゃんが寂しそうな表情をする。そんな彼女を慰めるようにPPKがそっとユノちゃんの手に自分の手を重ねる。
「そんな顔をしないでくださいまし。今日が今生の別れというわけではありませんもの。また会えますわ」
「それもそうね。ユノちゃん、うちの基地の連絡先教えとくよ」
「あ、ありがとうございます!」
「何かあったら連絡して。戦力的にはそっちの方が上みたいだし、私が助けに行くようなことはそんなにないだろうけど……まあ、女の子の悩み事みたいな話くらいなら聞いてあげられるから」
「あら意外。シーラにそんなこと出来たのね」
「私の傍にはいつでも素直になれない乙女さんがいるからね」
「ッ!……誰のことかしらね」
誤魔化しきれてないぞ45。いつまでも私がやられっぱなしだと思わないことね。
そんなバカなやり取りをしながら、私達は連絡先を交換する。他の基地とのパイプって、そういえば今まで作ってこなかったなあ。グリフィンって、そういうのあまりしないところだし。
まあ、いい機会だ。ユノちゃんの基地には高い練度の人形達が結構いそうだし、今度合同演習とか組んでみるのもいいかもしれない。ウチの子達にもいい刺激にはなるだろう。
その後、お互い挨拶も程々にお互いの基地へ帰るために別れた。帰り道を行くユノちゃんたちの後ろ姿が、まるで本当の家族のようだったのが印象的だった。
「……ねえ45」
「どうしたの、シーラ」
「手、繋いで帰ろっか」
45の顔は見ない。正直言ってて恥ずかしいし、多分彼女すごく意地の悪そうな笑みを浮かべているに違いないから。
「素直になれない乙女さんは、ここにももう一人いたわね?」
「ほら、私達も早く帰るわよ。あんまり遅いと416あたりが小言言い始めるもの」
そう言って、45の方へ手のひらを向ける。その手がそっと握られた。45の細くすべすべとした指が、私の指に絡みつく。俗に言う、恋人繋ぎという奴だ。
手のひらから伝わる温かさに、嬉しさと安心感を覚えながら、私達は基地へ帰るための送迎車両が待つ場所へと向かう。
いい出会いに恵まれたと思う。色々と、刺激になることもあった。
ユノちゃんの過去に何があったのか、何があれば人と人形が逆に見えるのか……気にはなるけど、正直些細なことだ。
ユノちゃんはユノちゃん、それでいいと思う。このご時世、スネにキズの一つや二つ抱えてるのが当たり前だ。キズの大きさは人それぞれだろうけど、それにイチイチ干渉することもない。知りたければ、彼女達の方から語るのを待てばいい。
さて、上には上がいるってことも分かったし、明日からは気合を入れて仕事をしようかな。人形達の練度もそうだけど、私自身の指揮官としての練度もあげなきゃね。
帰りの車内で、窓の外を流れる景色を見ながら、ひとりそんな決意をした。
戦いに身を置く女の一人として、あの小さな指揮官には負けられないものね。
「期待してるわよ、指揮官」
「任せなさい、相棒」
愛する人と拳を突き合わせる心地よい感触が腕を伝わり、いつまでも胸の中に響いていた。
ということで今回のコラボ回はこれでおしまいになります。
もっといろいろやりたかったんですが、あんまり欲張ると風呂敷を畳めなくなるので、ひとまずユノちゃんとシーラさんの出会いのみを描くことにしました。
機会があればまた次色々やればいいしね!
キャラを快く貸してくださった焔薙さん、本当にありがとうございます。
お礼と言っては何ですがウチのシーラさんも自由に使ってもらって構いませんぞ。
他の方も良ければぜひ。
焔薙さんの『それいけポンコツ指揮官とM1895おばあちゃん!!』は現在連載中です!
指揮官と戦術人形の穏やかな日常を描くお話で、和むこと必至なのでぜひ!