女性指揮官と戦術人形達のかしましおぺれーしょん【完結】   作:笹の船

31 / 118
指揮官と45姉がドライブデートをする話


二人きりのお出かけ

「そういえば、シーラってどんな趣味を持ってるの」

「どうしたの、藪から棒に」

 

 今日も今日とて司令室で書類仕事をこなしながら、ふと気になった疑問をシーラに投げつけてみた。

 別になんてことはない。シーラが何か一つのことを好んでやっているということを見たことがなかったから、気になっただけ。

 誓約して、もっと言うなら知り合ってからそれなりの期間が経つはずなのに、未だにこんなことを知らないなんてどうなんだろう。やっぱりマズいのかな。

 キッカケは9だ。あの子は、最近映画を見ることにハマっているらしく、非番の日は食堂横の娯楽室に入り浸っている。そろそろ手に入った映画が全部見終わってしまう、とぼやいていたのは記憶に新しい。

 人間に置き換えるなら、これが趣味というものなのだろう。私は今までそういうものを持ってこなかったし、またその必要もなかった。

 戦術人形に趣味はいらないと思っていたし、何より私は404小隊の隊長だ。そんな娯楽にうつつを抜かしている暇はなかった。

 けれど、シーラの元に来て色々事情が変わったのも事実。その結果が9の映画鑑賞趣味なわけで。

 趣味を持った妹を見て、自分も何か持っていた方がいいのかな、と柄でもない不安を覚えたりもした。

 だから、一番近くて最もそういうことが利けそうな人に聞いてみたわけだ。

 

「趣味、かあ。無いわけじゃないけど、やらなくなって久しいわね」

「へえ? どんな趣味を持ってるの?」

 

 書類から目を離すことなく、話を続ける。このくらいなら別に仕事しながらでも出来る会話だ。……断じて改まって聞くのが恥ずかしいというわけじゃない。断じて。

 

「そうだなあ。正規軍にいた時なんかは非番の日は車に乗ってドライブとかしてた」

「へえ。夜の市街地でストリートレースとか?」

「するわけないでしょ。ていうか、どこで知ったのよそんな知識」

「9が見てた映画にそういう奴があった」

 

 ああ、と納得したように声を漏らすシーラ。私はと言えば、彼女の趣味がなんだかわかったことに対して興味がそそられるとか、そんなわけでもなかった。

 いや、興味をそそられないというのは正しくない。興味はあるし、車を楽しそうに乗り回すシーラを見てみたいとは思った。

 けれど、シーラの『やらなくなって久しい』という言葉が、どうしてか私の電脳の中で何度もリフレインされて不安をあおっているのだ。

 もしかしたら、シーラが趣味をやらなくなったのは私のせいなのかもしれない。そんな不安が鎌首をもたげる。

 私と一緒の時間を作るために、シーラは自分の趣味をやらなくなってしまったのではないか。私の為に時間を作ってくれるのはもちろん嬉しいけれど、それは私の望むところじゃない。

 

「ねえ45」

「なぁにシーラ」

「ドライブ行こっか」

 

 思わず顔を上げてしまった。どうして私が考えてたことを見透かしたようなことを、クリティカルなタイミングで口にできるのだろう。

 

「あら、それってデートのお誘い?」

 

 けれどそんなことは顔には出さない。思いとは裏腹に、私は唇の端を吊り上げて笑みを浮かべる。相手から見れば誘っているように見える顔になっていることだろう。

 

「そう。デートのお誘い。これでもドライブデートのツボは知ってるつもりだし」

 

 まるで私以外の誰かとドライブデートをしたことがあるかのような口ぶりに、思わず眉間にシワを寄せてしまった。

 しまった、と思った時には既に手遅れ。意地の悪そうなニヤケ面を顔に張り付けて、シーラが私の方を見ていた。

 

「よんごー?」

「これ、最近の作戦の実績承認用の書類よ。ちゃんと目を通しておいてね、指揮官」

「んふふ。了解です、副官殿」

 

 ニヤニヤしたまま、私が手渡した書類に目を通していくシーラをひと睨みして、私も残った書類を片付けようと視線をデスクの上に落とした。

 そして、今シーラに渡したものが最後であったことに気づく。手持無沙汰になってしまった。

 しかしドライブデートか……案外良いかもしれない。街に出てデートとかもいいけれど、そうすると周りの視線がどうしても気になる。

 けれどドライブデートであれば、そこまでは気にならない気がする。車の中にいる間は、少なくとも私達は二人きりだ。

 この間本部に行ったときに車には乗ったけれど、あの時は運転手に自律人形を使っていたから厳密には二人きりじゃなかった。

 いくら自律人形で噂なんかをするような相手じゃないと分かっていても、やっぱり二人きりじゃないと色々とやりにくいことはある。

 

「今日、お仕事終わったら行こうか。ドライブ」

「……なんでまたそんな突然に」

 

 いや、ホントに。どうして急にそんな趣味に積極的になり始めたんだろう。

 ……あー、ニヤニヤしてるってことは顔に出てたのかな。我ながらポーカーフェイスが下手くそになったのかもしれない。

 

「顔には出てなかったわよ」

「え……」

「お、そういうリアクションが返ってくるってことは、やっぱり『二人きりになりたいな』とか考えてたんでしょ」

 

 書類にペンを走らせながら、シーラがニヤニヤしながらそう言った。しまった、鎌をかけられたのか。

 どうにも最近手玉に取られっぱなしな気がする。何とかやり返したいところかな。

 

「よし、今日の分終わり。明日の分は……まあ後でいいや」

「えぇ、今やっちゃいましょうよ。明日後悔するわよ」

「固いこと言わない。ていうか、恥ずかしがらないの。ほら行きましょ」

 

 恥ずかしがってないってば。なんていう前に、シーラは私の手をつかんで司令室を出てしまった。振りほどくのもなんだか躊躇われて、されるがままに引っ張られる。

 あっという間にガレージまで連れてこられて、更に促されるまま私はそこにあるジープに乗り込んだ。

 それにしたってジープって。いや、これしかないから仕方がないんだけど。

 

「ムードのかけらもない車ね」

「贅沢言わないの。これしかないのよ。私だって不満だわ」

 

 そんな風に軽口を叩きながら、シーラがイグニッションキーを回してエンジンをかける。

 鋼鉄の心臓が鼓動を始め、目覚めの咆哮をガレージいっぱいに響き渡らせた。

 シーラが滑らかな操作でシフトレバーを一速に入れ、ゆっくりと車を発進させる。

 私達を乗せたジープは、スルスルとガレージを出て、基地の敷地をゆっくりと進んでいく。

 日が暮れて辺りは既に暗い。街灯もロクにない基地周辺の道を照らすのは、ジープのヘッドライトの灯りだけだ。

 

「それじゃあ出発するわよ」

「よろしくね、ドライバーさん。快適な旅を期待するわ」

 

 シーラがちらりと私の方を見る。いつものどこか勝気な笑顔を浮かべた後、真っすぐと前を向いてアクセルを踏んだ。

 みるみる基地の灯りが遠ざかっていき、あたりは闇に包まれる。舗装された道路とはいえ、ここをジープのヘッドライトの灯りだけで走るのは少々心細く感じた。

 

「で、どこへ向かってるのシーラ」

「んー? とりあえず街へ向かう山道かなー」

「今から街へ行くの? 着く頃にはお店閉まってると思うけど……」

 

 現在時刻は19時を回ったところだ。街までは車を使って片道2、3時間ほどかかる距離はあるはず。開いている店なんてほとんどないし、開いていても大体はロクなものじゃない。

 やっぱり休日の方が良かったんじゃないか、と思っているとシーラはクスクスと笑い出した。

 

「大丈夫。街まではいかないわよ。そんな時間もないしね」

「じゃあどこへ?」

 

 私の問いかけに、シーラはちらりと私の方を見てウィンクした。

 

「ドライブってのはどこに行くか、を楽しむものじゃないのよ45。あいにく外は真っ暗で何も見えないけど、私の顔くらいは見えるでしょ?」

「よくもまあそんな恥ずかしいセリフを言えるものね」

「二人っきりだからね」

 

 シーラの言葉に、思わず胸が跳ねた気がした。

 そうだ、私達は今二人きりなんだ。そう思ったら急に気恥ずかしくなってきた。別に二人きりになることなんて今までいくらでもあったのに。

 でも、今だったらいつも言えないこととかも言えるかもしれない。

 

「ねえ、シーラ」

「んー?」

「好き」

「うん。私も」

 

 静寂。車内が車のエンジン音でいっぱいになる。

 車窓から見える景色は変わらず真っ暗だ。それが余計に、私達が二人きりでいることを意識させて来る。

 

「ねえ、よんごー」

「なぁに?」

「なんか、久しぶりだね。こうして二人っきりになるの」

 

 言われてみればそうかもしれない。いや、時たま夜一緒に寝たりするから、厳密には久しぶりではないのだけれど。

 でも、こうして二人っきりでどこかに出かけるとか、一緒の空間でゆっくりするのは久しぶりなような気がした。

 

「最近、なんだか騒がしかったものね」

「映画見たり、じゃじゃ馬娘に手を焼いたり、可愛い指揮官に会ったり……色々あったなあ」

 

 車はいつの間にか坂道を上っていた。山道に入ったのだろう。

 再び静寂。道路が少し荒れた舗装路に変わり、荒れた部分をタイヤが踏みつけるたびに車体がガタゴトと揺れるようになった。

 

「かんとりーろーど♪ ていくみーほーむ♪」

 

 唐突に、シーラがカントリーロードを口ずさみ始めた。音痴ではないけれど、下手くそだ。

 そういえば、私はこの歌が嫌いだったっけ。だって、私達に帰るべき場所なんてなかったもの。

 でも、今はそうでもない。だから、私も一緒に口ずさむことにした。

 

「To the place♪ I belong♪」

「うぇすとばーじにあ♪ まうんてんまーま♪」

「Take me home♪ country roads♪」

 

 でも、少なくとも今は私の帰りを待つ人がいる。帰るべきが場所も出来た。

 だから、今ならこの歌を歌ってもいいかなとは思う。

 私に故郷は無いけれど、この道がこれからも私を家に連れて帰ってくれたらいいなと思う。

 そんなことを思いながら、私達がカントリーロードを歌い終わったころ、視界が開けた。どうやら山頂付近までやって来たらしい。

 この山頂には少し広めの駐車場がある。かつては観光客などで賑わっていたのだろう。小さめのダイナーらしき建物が、ボロボロになった姿で放置されている。

 その駐車場へ、シーラはジープを停めた。

 

「さて、到着っと。よんごー、降りよう」

「え、ここで?」

「うん。大丈夫、降りれば分かるよ」

 

 思わず視線が朽ちたダイナーへと向かってしまう。入口の扉はすでになく、窓ガラスもすべて割れている。

 駐車場にはぽつりぽつりと点灯している街灯があって、その灯りに照らされたダイナーはいかにもな雰囲気を醸し出していた。

 この間皆で見たジャパニーズホラーの映画を思い出して、一瞬身震いする。大丈夫、あれはフィクションなんだから……。

 そう自分に言い聞かせながら、私はシートベルトを外して車外へ出る。

 寒々しい風の音が私達を出迎えた。

 春になったとはいえ、山の頂上の風は少し肌寒い。私ですらちょっと肌寒いと感じるくらいなのだから、シーラはきっともっと寒いはず。

 そう思って車から降りた彼女を見れば、案の定寒そうに両腕をこすっていた。

 

「思ったより冷えるわね……」

「シーラ、大丈夫?」

「うん。それよりもこっちこっち」

 

 少し寒そうな素振りをしながらも、シーラは私の手を引っ張って駐車場の端へと向かう。そっちは崖だったと思うけれど……。

 そう思いつつ手を引かれるまま歩いていくと、私の視界にあるものが飛び込んできた。

 

「おお、間に合った……かな」

「これは……」

 

 私の目に飛び込んできたのは、基地から一番近くにある街の灯りだった。

 真っ暗な世界の中で夜空に輝く星のように、大小様々な光が大地を彩っている。

 色も様々で、どこか暖かさも感じられるような気がした。

 

「……綺麗。よくこんなところ知ってたわね?」

「知ってた、というか。ここならこんな景色が見られるんじゃないかなって通る度に思ってたんだ。いつかよんごーと二人で来ようと思ってた」

 

 そう答えて、シーラは笑顔を浮かべた。とっておきのものを見せた子供のような、屈託のない笑顔だ。それに釣られて、私の頬も緩む。

 

「そっか。嬉しいな」

「気に入ってくれて良かった。……でも、次はもっと暖かくなってから来ようね。やっぱ寒い」

 

 そう言ってシーラが鼻をすすった。うーん、ちょっと残念だけどシーラが風邪を引くのも良くないし、今日はこのくらいにしておこうかな。

 

「シーラ、車に戻ろう。風邪ひいちゃう」

「だね。まあ、デートの翌日によんごーの看病が受けられるのも悪くはないかも」

「バカ言わないの。ほら、戻るわよ」

 

 今度は私がシーラの手を引いて、元来た道を戻る。

 エンジンをかけっぱなしだったジープが、眩しいヘッドライトの灯りとエンジンのアイドル音と共に帰りを待っていてくれた。

 シーラは再び運転席に、私は助手席に乗り込んでドアを閉める。音響センサーを騒がせていた風の音がぴたりとやんだ。

 

「じゃあ、帰ろっかシーラ」

「うん。いい時間だしね」

 

 時刻は20時を過ぎたところだ。帰る頃には21時を過ぎて、すぐに消灯時間になるだろう。

 明日も早い。特に、明日処理すべき書類の整理は投げだしてきてしまった。余り遅くなるわけにもいかないかな。

 そんなことを考えていたら、肩をちょんちょんと叩かれた。

 

「ん? シーラ、どうした……んぅっ!?」

 

 何かと思い、シーラの方を向いたと同時に唇が柔らかな何かで覆いつくされた。

 

「んっ……んん……」

 

 シーラの唇だ。彼女の唇が、私の唇をついばむ様にキスをしてくる。

 驚いて、一瞬顔を引いてしまう。

 

「ちょ、シーラ……こんなところで? んっ……!」

 

 私の言葉を封じ込める様に、今度はぴったりと唇を押し付けられた。私の唇に、シーラの唇の温かさが伝わってくる。

 それだけで、私の電脳の大部分で処理落ちが発生し始めた。思考がとろけ始めて、体から力が抜けていくのが分かる。

 シーラのキスは終わらない。私の唇に押し付けられていた彼女の唇が少し開き、私の下唇を挟み込む。そのまま挟まれた下唇を、シーラの舌が優しく撫でた。

 

「んん……ん」

 

 やられっぱなしではいられないと、私も負けじとシーラの上唇を自分の舌で優しく撫でる。

 しばらくそんなやり取りをした後、私達はどちらともなくお互いの舌を絡め合い始めた。

 お互いの艶めかしい吐息と、唇を重ね合う水音が車内に響く。

 体全体がどんどん熱を持ち始め、それに合わせて私の吐息も荒くなっていく。

 

「ん……ちゅ……ぷはっ……はぁ……はぁ……」

 

 ようやくお互いの唇が離され、二人の唇の間に銀色の橋が架かって、そして重力に従いその橋が途切れる。ジープのシートに、水滴が一滴落ちる音がした。

 

「ねぇ……シーラ……もう一回……しよ?」

 

 もう明日のことなんて頭からすっ飛んでいた。ただただ、もう一度シーラと唇を重ね合わせたいという欲望だけが私の身を焦がすのを感じるばかりだ。まるで体の内側からじわじわと火であぶられているような錯覚すら感じる。

 

「んふふ……明日の仕事はいいの?」

 

 焦らす様なシーラの発言に、私はもう我慢が出来なくなって彼女の唇を奪った。

 

「んんっ!? もう、せっかちなんだから」

 

 困ったような、それでいて嬉しそうにはにかんだシーラを見て、何かがプッツンと途切れた音が聞こえた。

 

 

 

「おはようございます。指揮官」

「んー……おはよう……スプリング」

「あら……お疲れですか?」

「あー……まあ、昨日ちょっとね」

「……あらあら」

 

 翌朝。司令室で眠そうにあくびをかみ殺すシーラを見たスプリングが、全てを察したようにニコニコとし始めた。こっちを見るな。

 

「昨晩はお楽しみでしたね?」

 

 スプリングの言葉に、思わず苦い薬でも飲まされたような顔の歪み方をするのが自分でも分かった。

 私としたことが……! まさかあんな……歯止めが利かなくなるなんて!

 もう二度と! あんな暴走はするものですか!

 

「ふふふ、そうだといいですね」

 

 スプリングうるさい!

 




イチャイチャシーン……難しい(´・ω・`)

感想、評価、お気に入りとかしてくれると喜びます!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。