女性指揮官と戦術人形達のかしましおぺれーしょん【完結】   作:笹の船

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Vectorがお風呂を満喫する話


ゆったり肩まで

 私達戦術人形は商品だ。人間様の代わりに戦う、現代の戦場を彩る戦乙女……なんて、ロマンチックなものでもない。

 いくら人に形が似ているとは言っても、人間のように扱うなんてナンセンスだ。

 が、私のいるR06地区の指揮官はそうは思っていないらしい。実にバカバカしい話だと笑っていたのは、UMP45だったか。笑っている割に、その薬指には銀色の指輪が輝いていたのはひょっとしてジョークのつもりだったのか。

 ともかく、ここの司令部は他とは少々勝手が違うのは確かだ。

 まさか、人形達も使える浴場を用意するほどだったとは思わなかったけれど。

 そう。浴場だ。お風呂と言ってもいい。作戦から帰投した人形や、単に綺麗好きな性格として設定されている人形が好んで使う、一種の娯楽室だ。

 温かいシャワーは勿論、心地よいお湯が張られた大きなお風呂まで用意されている。

 人数的にも10人程度までであれば十分入れてしまうのではないだろうか。

 全く持って度し難い。こんな贅沢は、指揮官一人で楽しめば良いだろうに。

 とはいえ、折角使えるのならありがたく使わせてもらおうと思わなくもない。私だって一応は人格が設定されているのだ。汚い自分よりも、綺麗な自分でいた方が気分がいい。

 そんなことを思いながらシャワーヘッドを手に取り、ハンドルをひねってお湯を出す。ちょっと熱いので、湯音調整のレバーをいじって心地よい温度になるように調整をした。

 

「お、Vector。お疲れ様」

 

 噂をすればなんとやら。件の指揮官様だ。シーラ=コリンズと名乗ったこの物好きな人間様を、けれど私は嫌いにはなれなかった。

 普段はバカらしいほどに人形に甘ったるいけれど、作戦時は指揮官らしく仕事をしてくれるからだ。個人の性格はともかくとして、指揮官としての彼女は信頼に値すると思っている。

 

「お疲れ様、指揮官。今日はもう仕事はおしまいなの?」

 

 問いかけながら、シャワーヘッドから出るお湯が心地良い温度になったことを確認した私は、髪の毛をすすぎ始める。人形だから目に水が入ったって大した問題じゃないんだけど、それなりに刺激はあるので目を閉じた。

 

「まーね。書類仕事も楽じゃないわ。肩も凝るし」

 

 真っ暗な視界の中、右隣から座椅子が置かれるコトン、という音が響いてきた。わざわざ私の隣なんかに座らなくてもいいのに。

 髪をすすぎ終わった私は手探りでハンドルをひねってお湯を止める。水に濡れて額に張り付いた前髪を指で払って、目の周りについたお湯を手でぬぐった。

 そうして目を開けて、シャワーハンガーや鏡が備え付けられた目の前の壁を視界に入れる。ちゃんとシャンプー、リンス、ボディーソープの三種類は用意されているあたり、女性型人形の私達にも配慮がされているといえるだろう。

 最も、指揮官からして女性なのだからこれくらいは当然なのかもしれないけれど。

 隣からシャワーのお湯が出る音が聞こえる。指揮官も頭を洗い始めたのかな。

 そう思ってシャンプーボトルへ手を伸ばしながら、ちらりと隣を見る。

 

「え……」

 

 思わず声が出た。黒髪が水に濡れて艶やかさを出しながら指揮官の胸元へと流れている。

 極東の国の人の血を引いているからか、その肌は私と比べてやや黄みがかっているけれど、十分綺麗と言えるくらいには白い肌だ。

 程よいサイズの胸は重力に逆らうように綺麗なお椀型をしていて、ウエストもバランスの良いくびれ方をしている。鍛えているのが分かる体つきだ。足も細くしなやかさを感じさせるけれど、ただ細いのではなく鍛えられて引き締まった肉体であることを感じさせる。

 パッと見れは同じ女性という視点からも十分に綺麗な体だと言えるだろう。けれど、私が目を奪われたのはそこじゃない。

 全身のあちこちに刻まれた、痛々しい傷跡の方だ。大きさも種類も様々だ。火傷の痕だったり、縫合痕であったり。玉にキズというレベルじゃ済まされない程だ。

 

「ん? どうしたのVector」

「……あ、いや。何でもない」

 

 シャワーを止めて、私の視線に気づいた指揮官がこっちを見る。なんだか急に見てはいけないものを見てしまったような、いたたまれない気持ちになったので視線を前に戻してシャンプーボトルからシャンプーを手に取った。

 そのまま髪の毛につけて、頭を洗う。あっという間に私の頭部が泡だらけになり、シャンプーの爽やかな香りが私の嗅覚センサーを刺激し始めた。

 

「そっか。Vectorは私の裸を見るの初めてだったっけ」

 

 クスクスと笑いながら、指揮官もシャンプーボトルに手を伸ばしているのが視界の端に映った。今度はそちらを向いたりはしない。

 

「びっくりした? 傷だらけの体でしょ」

 

 まるで隠し事がバレてしまった悪戯っ子の様な口調で、指揮官は笑った。そんな軽い口調で笑える指揮官のことが、よくわからない。

 私のデータでは、人間は傷を負ったりしたときの痕は隠したがるものだとある。男性の場合は名誉の負傷として、一種の誇りであるかのように扱うことがあるとは知っているけれど、女性は綺麗な肌である方が良いとされているはずだ。

 

「ねえ指揮官」

「んー?」

 

 聞いていいのだろうか。人形にしては出過ぎた質問かもしれない。けれど、今の技術をもってすればあの傷跡は全て綺麗に消すことができる。女性が憧れるとされる綺麗な肌になることができるのだ。それをやらないという手は無いと思う。

 

「その傷、治さないの? 今の技術なら十分治せると思うけど」

 

 私の問いに、指揮官は小さくため息を吐いた。やっぱりマズかっただろうか。いや、マズいに決まっている。私は何をバカなことを聞いているんだろう。

 

「やっぱり、治した方がいいと思う?」

「さあ。私は、女性は綺麗な肌であることを望む人が多いというデータしか持ってないから。指揮官はそうじゃないの?」

 

 頭を洗いながら、自分でもそうと分かるほどにそっけない返事を返す。本当はもっと色々感情に富んだリアクションをした方がいいのかもしれない。が、残念ながら私にそんな器用な真似は出来ないし、どうすればいいのかも分からない。

 ハンドルをひねって、再びシャワーからお湯を出す。そして髪の毛についたシャンプーを丁寧に洗い流していく。

 私の髪の毛は短いけれど、UMP45あたりなんかは長いから手入れが大変そうだ。この時ばかりは自分の髪型がショートカットに設計されたことを嬉しく思う。楽でいいからね。

 

「綺麗な肌……か。ありがとね、Vector」

「突然どうしたの。私、何もお礼を言われるようなことはしてないけれど」

 

 ボディタオルにボディソープをつけていると、唐突にお礼を言われた。良く分からない。

 

「だって気にしてくれたでしょ? 私の肌が傷だらけのこと。それに綺麗にした方がいいんじゃないかとも思ってくれたじゃない」

「別に。さっきも言ったでしょ。女性の多くは肌が綺麗であることを望むってデータを持っていたから、アナタはそうしないのか気になっただけ。治す気が無いならそのままにしていればいいんじゃない」

 

 むやみやたらに見せるようなこともないだろうし。それに周りから見えないのなら無いのと一緒だ。

 泡を立たせたボディタオルで全身をくまなく洗っていく。修復の時みたいに機械的に洗浄されるのよりは手間がかかるけれど、この手間は結構気に入っていたりする。

 再びシャワーからお湯を出し、全身の泡をすすいで落とす。落とし忘れがないことを確認して、私は立ち上がって湯船の方へと向かった。

 ゆっくりと足先を湯船に入れて、そのまま静かに体をお湯へと沈める。

 お風呂場に湯船からお湯が漏れ出した水の音と、指揮官が体を洗う音だけが響き渡る。静かな空間で、ゆったりと湯船に浸かれるこの時間は、作戦行動をしていない時間の中では一番好きかもしれない。

 温かいお湯に体を沈めていると、全身がポカポカ温まってくる。

 

「ふぅ……」

 

 思わず吐息が漏れた。どうしてお湯に浸かるとこんなにも心地よい吐息が漏れてしまうのだろう。まあ、心地よいことはいいことだからどうでもいいんだけど。

 そんなことを考えていると、指揮官も体を洗い終わったのか湯船に入ってきた。

 

「ふぅ~……温かぁい……」

 

 指揮官も気の抜けた声を漏らしていた。まあ、気持ちはよくわかる。

 それからしばらく、お互いに何もしゃべらずにゆっくりと湯船に浸かっているだけの時間が過ぎる。

 天井にできた水滴が湯船や床に落ちる水音だけが、時折風呂場に響き渡っていた。

 

「……うーん」

 

 そんな静寂を打ち破ったのは、指揮官の唸り声だ。

 一体どうしたのかとそちらを見てみれば、指揮官はある一点をじっと見つめていた。

 視線の先を追っていくと、その先はどうやら私の胸のようだ。

 なんだか急に気恥ずかしくなって、腕で胸を覆い隠す。

 

「ちょ、指揮官。何見てるの」

「いや、Vectorも結構大きいよなあって」

「そんな下らないことを考えていたの!?」

 

 えー、下らなくないでしょう。と指揮官は抗議の声を上げるけれど、それは無視した。

 全く、折角気持ちよくお湯に浸かっていたのに落ち着かなくなってきてしまった。

 

「大体、指揮官だって十分な大きさはあるんじゃないの?」

 

 腕で胸を覆い隠したまま、私は指揮官を睨みつける。

 一方の指揮官は、自分の胸を両手で持ち上げながら首をかしげていた。

 

「うーん。まあ、揉むには困らない程度の大きさではあるよね。……揉んでみる?」

 

 イタズラっ子の様な意地の悪い笑みを浮かべながら、指揮官が私の方を見てきた。

 

「冗談はよしてよ。私、そんな趣味ないもの」

「そう? 残念」

 

 そう言ってクスクスと笑う指揮官を、私は顔をしかめながら睨みつけてやった。

 何が残念だ。変なことをしたらUMP45に言いつけてやる。そんなことを言ったら、途端に指揮官が慌て始めた。あ、ちょっと楽しいかも。

 

 結局その後、そのネタで指揮官を弄んでいたら仕返しだと胸を揉みしだかれるハメになった。

 その最中にUMP45が風呂場に入ってきて、風呂桶を指揮官に投げつけたことで私は解放された。助かった……。

 途中からだんだん変な気分になって、体から力が抜けてしまっていたからあのまま続いていたらどうなっていたか分からない。

 遊びが過ぎたのか、お湯に浸かりすぎてオーバーヒート気味になったので、私は先に脱衣所へ戻ってきていた。

 風呂場から聞こえるUMP45の静かな怒りの声と、慌てふためく指揮官の声をBGMに、私はコーヒー牛乳を飲みながら、指揮官をいじるのはほどほどにしようと決意をするのだった。

 




Vectorはそっけないふりして意外と指揮官のことを機にかけてくれそうな気がする。しない?

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