女性指揮官と戦術人形達のかしましおぺれーしょん【完結】 作:笹の船
出撃任務を終えて、基地に帰ってきた私達404小隊を迎えたのは大小さまざまな銃口だった。
即座に9と416が反応して銃を構えようとするのを手で制する。私達は四人。相手はM4を中心に十人の戦術人形だ。切り抜けられないこともないだろうけど、無事に切り抜けるのは流石の私達でも難しい。
それに、AR小隊に加えて第一部隊のM14やスプリングフィールドがまざっている。なまなかなことでは奴らを出し抜くことは出来ないだろう。
「素敵なサプライズね? ……指揮官は知っているのかしら?」
「指揮官は関係ありませんよ。本部直々の極秘命令ですから」
「あら、いつの間にかこの基地の人形も随分と飼い主に気に入られたみたいね」
「全くです。人形冥利に尽きますね」
普段の明るい笑顔が嘘であったかのように、無表情のM14に皮肉を言ってみたけれど、流石にこの程度では動じないか。銃口もブレない。
裏切られるのは別に初めてじゃない。私達だって、今まで何度も味方を裏切ってきたりもした。
このご時世だ。裏切りなんて珍しい話じゃない。けれど、それでもほんの少し心が曇るのが分かった。
命を賭して、同じ一人の人間の為に戦った。そんなビジネスパートナー……いや、誤魔化すのはよそう。仲間達が、何のためらいもなく私達へ銃口を向けている。
グリフィン本部も粋なことをするものだ。このツケは高くつくわよ。
最も、この状況を無事に切り抜けられればだが。
どうしたものかと考えていると、何人かが銃を下ろして近寄ってきた。が、その手には手錠と目隠しが握られている。
「素敵なアクセサリーね? サーカスにでも連れていかれちゃうのかしら」
私に手錠をかけたのはFALだ。クソ、相変わらず無駄にデカいものをぶら下げやがって。早く目隠しもしなさいよね。イライラしてくる。
「ちょ、離しなさい! 何でよりによってアンタに手錠なんか……!」
「うるさいぞ。大人しく捕まるんだな」
416はM16に手錠を掛けられたらしい。まあ、それはそれでご褒美の様なものな気もするけど、本人は抗議の声をためらいなく張り上げていた。
G11と9は特に何も口にしなかった。大丈夫かな。声に出して感情を表現する416はまだいいけれど、あの二人は意外と黙ってコトを起こす。
状況が分からない程バカじゃないから、変なことはしないだろうけど。
そんなことを考えているうちに目隠しもされた。視界が真っ暗になる。そしてすぐに背中に銃口を押し当てられるのが分かった。
「それでは、これから私達と共に来てもらいます」
この声はM4か。AR小隊はグリフィンのお気に入りでもある。それに、404小隊との関係は決して良い物とは言えない。真面目そうなあの面の裏側で、どんな顔をしているのかな。
それにしても、一体どこへ連れていかれるのだろう。歩きなれた基地だから、歩いている方向からなんとなく察することは出来るけれど、この方向は司令室も営倉も何もないはず。
やがて歩みを止められた。そしてやや乱暴に目隠しを顔からはぎ取られる。
と、同時に私達のすぐそばで火薬が爆ぜる音がした。
一瞬撃たれたと思った。即座に負傷個所をチェックする。異常なし。
では何が、と辺りを見渡せばそこはスプリングのカフェだった。
頭に何かが降ってきた。降ってきたソレが私の前髪に引っかかる。これは……紙キレ?
そこで、皆が持っているのが銃ではなくパーティークラッカーに変わっていることに気づいた。状況が呑み込めない。
「んふふ、皆驚いてるわね」
聞きなれた声だ。イタズラに成功した悪ガキみたいにちょっと上ずった声で笑う彼女は、けれどその目だけが我が子の帰りを迎える母親の様な慈愛に溢れていた。
「……状況の説明をお願いできるかしら? 指揮官」
「説明? そうだなあ。ちょっと騒ごうかなって」
説明になっていない。別に作戦の成功を祝うというわけでもなさそうだし。それならこんな手を込んだことをする必要は無いのだから。
一体何を企んでいるのだろうか。少なくとも、命のやり取りをするようなことではなさそうだ。M14やスプリングフィールドの表情が柔らかくなっているのが一番の証拠だろう。
「まあなんだ、指揮官がお祝いしたいんだとよ」
困ったような笑みを浮かべるM16の言葉に、私達はそろって首をかしげた。
「404の日、なんですって!」
M14がいつもの明るい笑顔で教えてくれた。でも、404の日? 一体どういうことだろう。
「今日は4月4日でしょ? デジタル時計なんかだとほら、こうやって書くじゃない」
そう言ってシーラが携帯端末のメモ画面を見せてきた。表示されている文字は04/04だ。
「0が一個多いわね?」
「そこはご愛嬌ってことで」
バツが悪そうに頬をかきながら、シーラが目をそらした。締まらないなぁ。
でも、素直には喜べなかった。
「ねえ、シーラ。気持ちは嬉しいけど、私達は……」
続く言葉は、シーラの人差し指が私の唇に押し当てられたことでさえぎられた。
「
「じゃあ……!」
私達はいるはずのない存在だ。今こうして、確かにこの基地に私達がいるという扱いを受けているだけでも破格の扱いだというのに。
人を愛する、なんて本来であれば許されないはずの幸せまで手にしているというのに。
これ以上の幸せなんかを手にしていいのだろうか。
そう思ったら、よくわからないけれど怖くなった。
「何をそんなに怯えているのよ」
「416……?」
そんな言葉が聞こえた方を見れば、呆れてものも言えないと言わんばかりにかぶりを振る416がそこにはいた。
「大丈夫だよ、45姉。少なくとも、私達はここにいる間は甘えちゃっていいんだよ」
「9……」
後ろから覆いかぶさるように抱き着いてきた9が、耳元でいつもの明るい声を聞かせてくれた。
「私も、それでいいと思う。ここに帰ってこれる間は、任務頑張るし」
「G11……」
いつの間にか、私は隊の皆に囲まれていた。皆、それぞれ違った表情をしていたけれど、誰もがどこか優しい表情を浮かべていたように思う。
「それに、公的に存在しないものなら、私がどう扱おうと私の勝手よね? おっと、存在しないものは扱いようがないから、勝手も何もなかったかな」
クスクスと悪だくみをしている子供のようにシーラが笑った。
「さあ、時間は有限。明日も仕事はあるんだし、さっさとお祝い始めちゃいましょう」
そう言ってシーラがカウンターに置いてあったグラスを手に取る。
すぐにスプリングフィールドや、メイドスキンに着替えた戦術人形達が私達を含めた全員にグラスを行き渡らせた。
「私達の404小隊に!」
『乾杯!』
私以外の皆がグラスを天に向けて掲げた。なんだか現実味がない。
「なあ指揮官。今度は私達AR小隊のもやってくれよ」
「あー! そこは私達第一部隊が先ですよー!」
「こらこらM14にM16、そういうのは終わった後に言いなさいってば。ちゃんとやるから」
「わーい! ありがとうございます指揮官!」
「よし! これで……」
「酒が飲める口実が出来た、なんて言わせないわよM16」
「RO……固いこと言うなって」
「ねえ9! これ見て! 掘り出し物!」
「おお、結構綺麗に獲れたんだ!」
「ちょっとSOP! こんなところで鉄血のパーツなんて出さないの!」
「えへへへぇ……G11ィ、もっと飲みましょうよー」
「おえー……しきかーん! 416にお酒飲ませちゃダメだよー!」
「スプリングフィールドさん! 軽食の準備しますか?」
「ええ、そうしましょう。手伝ってくれますかMP5?」
「あ、アタシも手伝う―!」
「あら、ありがとうスコーピオン。アナタには飲み物の追加の準備をお願いしていいですか?」
色んな戦術人形達が、笑顔を浮かべていた。バカ騒ぎしていたり、静かに談笑していたり、楽しそうにお酒を煽っていたり。
私は、こういうところからは一番遠い場所にいたはずだった。こういうのは嫌いじゃない。どちらかといえば好きな方だ。賑やかなのは、好きなんだ。
けれど、私がその中に混じることは無いと思っていた。
「信じられない?」
ふと、隣から鈴のような澄んだ声が聞こえた。M4A1だ。
「私は、グリフィンの暗部よ。誰の記憶にも残らず、グリフィンの闇を飲み込んで生きる。それが私達404Not Foundなの」
けれど、今私がいる場所は闇の底なんかじゃなくて、暖かい陽だまりの中だ。
そんな陽だまりは、未だ闇色の炎を胸の内に秘めた私には余りにも眩しすぎる。
「確かに私達はグリフィンの中でも特別な扱いを受けているわ。ここでもそれは変わらない」
「…………」
「でも、グリフィンからの『特別』と指揮官がくれる『特別』は違うモノでしょ。それは、分かってると思うけど」
「そう……ね」
バカみたいに甘い理想論を語る人間。それがシーラ=コリンズという人だ。けれど、そんなバカに私は確かに救われている。
私だけじゃない。きっと9も416もG11も、AR小隊の連中だってそうだろう。
手に持ったグラスに入ったお酒を一気に飲み干す。喉元がカッと熱くなるような感触と共に、それはお腹の方へと降りていった。
頭がフワフワして、思考がまとまらなくなってくる。人形なのに、お酒に酔うなんておかしいと思う。なんでこんな作りにしたのやら。
「いい呑みっぷりね。溜まってるの? あんなに指揮官に愛されてるのに」
「うるさい。愛されてるからこそよ」
M4なんかに分かるものか。余りある幸せに押しつぶされそうになる怖さなんて、分かるわけがない。
贅沢な悩みなのは分かってる。それでもあまりにも恵まれすぎた今が、それが失われてしまうその時が恐ろしくてたまらない。
「……怖いわよね。この素敵な時間が、居心地のいい場所がなくなるのが」
「アンタに何が分かんの」
「分かるわけないでしょ。きっと私の思う『怖い』とアンタの『怖い』は別よ。それでも、少なくともお互い『怖い』とは思ってるんじゃないの」
空になったグラスを弄びながら、M4はそんな言葉を吐き出した。そういえばコイツは事あるごとにうじうじするような奴だったっけ。
そんな奴よりもうじうじしてたのか、私は。なんだか無性に悔しくなった。
というか、どうしてシーラは私のところに来ないの!? 私達のお祝いの日でしょ!
そう思ったら体が勝手に動いていた。ずかずかと足を踏み鳴らしながら、他の戦術人形達と談笑しているシーラの元へと近寄っていく。
私が近寄ると、一体何事かと周りの人形がギョッとした表情で私の方を振り向いた。
シーラだけがニコニコしながら私を迎え入れる様に両手を広げてくれた。
その両手の中に飛び込む。両手を彼女の背中に回して抱きしめながら、シーラの柔らかな胸に顔をうずめた。
「甘えんぼさんめ」
「うっさい。シーラは私のことをほったらかしにし過ぎなの」
私の背中にシーラの腕が回される。私を逃がさない様に、けれど苦しくない程度の力加減で私のことを抱きしめてくれる。その心地よさに安心した。
「ねえ、よんごー」
「……なに?」
「約束するよ」
「何を」
「アナタの帰る場所を、必ず守るって」
ただの口約束だ、と思った。そんな約束を守り通せるほど、世界は甘くない。
けれど、そんな嘘になるかもしれない約束を聞いて、それでも私は嬉しくなった。
だから、シーラを抱きしめる腕の力をちょっと強くした。約束守ってよ、と言外に伝えたくて。言葉にするのは、少し恥ずかしい。
そんな私の行動に、シーラは優しく私の頭を撫でてくれた。任せておいて、と答えてくれているみたいだった。
周りでヒューヒューと口笛を吹くような音が聞こえる。
でも、そんなことはどうでもいい。この温もりの中にいられるなら、今はもうなんだっていい。
ああ、なんだか眠たくなってきちゃったな。
今だけ……今だけ、甘えん坊な私でいさせてほしいな。
瞼が重くなる。システムが次々にスリープモードに入っていく。もうダメだ。
「おやすみ、よんごー」
シーラの優しい声を聞いて、私の意識はそこで途絶えた。
翌朝、私はシーラを全力疾走して追いかけていた。
「シィィィラァァァア!」
「いいじゃん別に! あんな無防備な寝顔を晒すよんごーは珍しいんだから!」
「貸しなさいその端末! 今すぐ全部のデータ消してやる!」
「そういうのは私を捕まえてから言ってみなさい!」
「上等ォ!」
人の寝顔をとるなんて、絶対許さないから!
4/5は45姉の日、ってネタは入れられなかった……
45姉は過ぎた幸せを受け止めるキャパは無いと思ってます。怖くて幸せから逃げ出そうとしてそう。可愛い。
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