女性指揮官と戦術人形達のかしましおぺれーしょん【完結】 作:笹の船
キャラ崩壊注意!
「今回もありがとうな、えーっと、ゆーえむ……」
「UMP45ですよ。そろそろ覚えてよねー、おじさん」
「はは、悪い悪い」
私達戦術人形の役割は戦うことだ。
今ならば、人類を滅ぼさんとその牙をむく鉄血人形達と戦うことだろう。
そうは言ってもそれだけしかできない、させてもらえないというわけじゃない。
例えばそう、今私達がやっている物資輸送の護衛とかがいい例だ。
「可愛い女の子に守ってもらうっていうのは、男として何とも言えない気持ちになるがよ。こうして重い荷物運ぶ手伝いまでしてもらえるのは、素直に助かってるよ」
「おじさーん、私達女の子の形をしたロボットだよー? おじさん達と同じくらいの力はあるんだから」
戦闘用にチューンされている私達は、例え見てくれが年頃の少女だったとしても、最低限成人男性以上の身体能力を持っている。そうでなければ、実用に耐えないからだ。
「45姉! こっち終わったよ! 報酬の物資も契約通りの数だった!」
「はーい! じゃあおじさん、アレ頂戴?」
「嬢ちゃん言い方! ……全く、あんまり大人をからかうもんじゃないぞ。……ほら、サインしたぜ」
そう言って手渡されたタブレット端末に、契約相手の名前が書かれていることを確認する。
任務前に確認した名前と同じものであることを確認し、私は端末を懐にしまった。
「確かに。毎度どうも、おじさん」
「こちらこそあんがとさん。そういえば、嬢ちゃんは知ってるか?」
「世間話ならまた今度にしてよ、おじさん?」
「まあそう言うなって」
そう言って引き留める護衛対象の話を半分聞き流しながら、帰路につく準備を始める。
今回の任務は私、9、FAL、M9、モシン・ナガンの五人だ。少なくとも新米はいない。油断しなければ無事に帰れるだろう。
それにしても桜の枝が売っている、だなんて護衛対象の男もおかしなことを言うものだ。このあたりは基地の最寄街くらいしか桜の木はなかったはずだもの。
あの桜は街の人々にとっても大事な存在だ。枝を手折ってホイホイ売りに出すような真似は、やらないと思うのだけど。
「いやあ、今の技術ってのはすげえよなあ。本物そっくりに再現できるんだもんなあ」
なるほど、要はレプリカって訳か。本物そっくりっていうのは、見た目とかだけの話じゃないんだろう。一週間経ったら花が落ちるのかな。そんな生もの、誰が買うんだろう。
「結構人気みたいだよ、45姉」
「えぇ……ていうか、9は知ってたの?」
「まーね。暇なときに見てたニュースでやってた。レプリカだから世界中どこでもなんちゃって花見が楽しめるっていうのが人気の秘訣だって、番組では言ってたかな」
「ふぅん……花に現を抜かせる状況でもないだろうに。大体、そんな花見ができるサイズのものなんか買っても邪魔でしょう」
花見っていうのはそれなりのサイズの桜の木を見る物じゃないのか。少なくともシーラから聞いた話ではそうだったけれど。
「なんか、手のひらサイズ……というかまあ小さな枝に一つか二つ花がつくだけの奴もあるんだってさ。お金ない人でも、そういうのだったら買えるくらいには安いんだって」
「そこまでして花見をしたがる人間の心理が理解できないわ……」
実に意味不明だ。だったら普通に桜の画像でも見ていればいいじゃないか。
「あ、アクセサリーとしてのプレゼントにもって言ってた。どうせ花は散るのに、変だよね。普通のアクセサリーの方が私は嬉しいなあ」
「同感よ9。本当に、人間の感性っていうのは謎に思えて仕方ないわね」
でも、そうか。アクセサリーか。私には理解できないけれど、シーラは桜が好きだと言っていた。レプリカであっても、プレゼントしたら喜んでくれるんだろうか。
「45姉、今お義姉ちゃんにプレゼントしようとか考えた?」
「別に。そんなお金もないし、大体指揮官だってもっと残るものの方がいいと思うけど」
うん。嘘じゃない。一週間かそこらでただの棒きれになるようなものより、もっと綺麗なものをあげた方が喜んでくれるに決まってる。
9、ニヤニヤしながらこっちみんな。笑うな。
「ただいま指揮官。余裕よ」
「お疲れ様、皆。特に大事なかった?」
「ええ。これ、今回の報告書と相手方のサインね」
そう言って、45姉はカバンから書類とタブレット端末を取り出した。報告書は車の中でまとめていたものだったかな。まあ、他にまとめる時間があったわけじゃないし、移動時間だって半日くらいかかった。
戦闘なんてなかったし、他に大したこともなかったんだから報告書をまとめるには十分すぎるくらいに時間はあったから、45姉にとっては朝飯前だったと思う。
「ん。確かに。ありがとね45」
「仕事だからねー。じゃあ、私ちょっとお風呂行ってくる。なんだか汗かいちゃって」
ふふ。可愛いなあ45姉。その汗、どういう理由でかいたんだろうね? 激しい運動なんてしてないし、帰りの車内が熱かったわけでもないんだけどなあ。
「……なんだか楽しそうね、9?」
「あ、お義姉ちゃんにはそう見える?」
「またなんかたくらんで……あれ、タブレットの裏に何か張り付けてある」
おお、気づいたねー? さて、どんな反応するかなー?
お義姉ちゃんがタブレットの裏に張り付けられたソレをとって確認する。
45姉が護衛対象と別れた町で買った桜のレプリカだ。枝の長さは大体15cmくらい。
枝の先に2輪、桜の花のレプリカが咲いている。
「これ、桜?」
「の、レプリカだってさ」
へえー、とお義姉ちゃんは珍しそうにそれを眺める。そして、自分でも分かるくらいニコニコしている私の方を見た。
「ねえ9、これってもしかして」
「うん。45姉がこっそり買ってた」
やっぱりね、とお義姉ちゃんが苦笑いをする。
「これ、随分本物っぽいけど花も散るの?」
「うん。一週間くらいで散るって」
「そっか。まあ、レプリカでもこうして間近で見られるのは嬉しいな」
「お義姉ちゃん、それは45姉に言ってあげて。きっと喜ぶ」
「もっと喜ぶ方法あるわよ」
お義姉ちゃんの言葉に、一体どうするんだろうと首をかしげた。
すると、お義姉ちゃんは司令室のデスクの引き出しからナイフを取り出す。
「え!? ちょっとお義姉ちゃん!?」
「大丈夫大丈夫」
慌てる私を手で制して、お義姉ちゃんは器用に桜の枝の皮をはいでいく。
やがて枝の大部分がナイフで削られて、ほとんど皮の下側がむき出しの状態になった。ちょっと太めの串みたいになっている。
「うんうん。これならいけるかな」
満足そうに頷いて、お義姉ちゃんはポニーテールにしていた髪を下ろした。ゴムを手首にはめて、串みたいになった桜の枝を持ったのとは反対の手で髪をまとめる。
そのまま器用に髪をねじる。
そして、桜の枝を髪に差し込んだ。
ここにきてようやく、お義姉ちゃんが何をしたかったのかを理解した。
お義姉ちゃんは髪に差し込んだ桜の枝を折らない様に、そして花を散らさない様に慎重に力を入れて、180°枝をねじる。
そして枝を中心に髪がねじられたところで、枝をちょっと引き抜きつつひっくり返す様に向きを変えて上から下に向かうように枝を差し込みなおした。
「どう? 即席の桜のかんざし」
得意げにポーズをとるお義姉ちゃんに、私はただ無言でサムズアップを返した。言葉は不要だ。桜の花のかんざしなんて強烈な武器を身に着けたお義姉ちゃんを見て、45姉がびっくりしないはずがない!
「ねえしきかーん。9い……る?」
いいタイミングで帰ってきたね、45姉!
「あ、45。コレ、ありがとね」
わぁーお。私が見てもほれぼれするくらい爽やかな笑顔だね、お義姉ちゃん。外野なのに見てるこっちがなんだかドキドキしてくるかも。
「あ……うん。気に入ってくれて、良かった……かな」
ウワァー! クリティカルヒットォ! 45姉がストレートに照れてる! 可愛い!
視線が泳いで、良かった、って言った時の言葉も尻すぼみになってていつもの堂々とした45姉が嘘みたいでいい!
顔も桜色になっててすごくいいよ45姉! あ、ヤバい興奮しすぎて鼻血出てきた。
「ちょっと9!? 血! 鼻血!」
あー、ダメ。45姉今来ないで。そのちょっと照れて赤く染まった顔のままこっちに来ないでぇー! あー! いけません! お義姉ちゃんまでこっちにきちゃいけません! あー!
「こ……」
「こ? 9、どうしたの!?」
心配そうな表情をする45姉と、ティッシュを持ってきたお義姉ちゃんを見て、私は息を吸い込んだ。
今こそ、胸の内からあふれ出るこの想いを口にする時だ。
「ここが天国なのか……?」
「シーラ、捨てましょう。このポンコツ。もうダメだと思うの」
「照れない照れない。ほら、ちゃんと宿舎に連れて帰ってあげて」
あー! 今45姉におんぶしてもらったら私……!
「9、ちょっとアンタ気持ち悪いから寝てなさい」
次の瞬間、私の顔面に目にも止まらぬ速さで拳がめり込んだ。
ごちそうさまでした……!
その一言を心の内で唱えながら、私は意識を手放した。
桜、綺麗でした。出かけた日がちょうど満開のタイミングだったので、いいタイミングだったと思います。
今日は雨だったので、多分もう散ってるんだろうなあ。そういう意味でもいいタイミングでした。
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