女性指揮官と戦術人形達のかしましおぺれーしょん【完結】 作:笹の船
「ひゃぁっ!?」
基地の廊下で、そんな可愛らしい悲鳴を聞いた。
一体誰のものだろう、と悲鳴がした方へと足を運んでみれば、そこには我が基地のマスコットになった犬のキャンディにじゃれつかれているダネルの姿があった。そばにはキャンディのリードを手放したSOPⅡの姿もある。
「あ! 指揮官!」
「ちょ、SOPⅡ待っ……ぐっふっ……!」
アナタの方が犬っぽいのはどういうことなの……! お願いだから全力疾走からのダイブはやめてよ、受け止めるの大変なんだって……!
SOPⅡの全体重を乗せたタックルを、たたらを踏みながらとはいえどうにか受け止める。
全体重が乗っているとはいえ、絶妙に手加減されているおかげでお腹のあたりの古傷には影響がないのがまたなんというかすごい。その器用さ、別のところに活かしなさいよ。
「ちょ……キャンディ……! やめろ……!」
「ハフハフ!」
あー、ダネルはキャンディに顔中を舐めまわされている。迷惑そうに顔を歪めてはいるけれど、それでいてどこかまんざらでもなさそうなのは気のせいではないだろう。キャンディ可愛いからね。
まあそうは言っても顔中嘗め回されてべたべたになるのはあんまり気持ちのいい話ではない。SOPⅡはもう面白いから眺めていようの精神みたいで止める気なさそうだ。
仕方がないので、私に抱き着いたSOPⅡには離れてもらってキャンディを止めることにする。
「キャンディ、NO!」
わずかばかり鋭さを含めた私の声に、キャンディの動きがぴたりと止まる。お、AR小隊の皆はしつけもきっちりやってるみたいね。感心感心。
そしてキャンディは尻尾を振って私の足元へやってきた。拾って来たころと比べると、もう比べ物にならないくらい大きくなった。調べてみたら、犬種はジャーマンシェパードみたいだ。
賢い犬種だということだけど、あの時AR小隊を襲ったキャンディの家族を見れば納得も行く。実際、M16が不意を打たれたとはいえ押し倒され、さらに彼女達の背後をとる形で他の犬が回りこんでいたのだ。狩りには馴れていたと思われる。
ま、それはともかくとして。賢いので育て方を間違えると大変らしいんだけど、そのあたりは流石AR小隊。世話をしている自分達よりも、私の方が集団のボスだということをキッチリと教え込んでいたらしい。
試しに右手をキャンディの前に差し出してみた。
「キャンディ、お手」
お、お手してくれた。可愛い。じゃ今度は左手で……。
「おかわり」
おお、こっちもちゃんとやってくれた。
「伏せ」
おおお、ちゃんと伏せた。いいじゃない。可愛いぞー。
「いい子ね! よしよしよし」
私が褒めてキャンディの頭を撫でると、キャンディは嬉しそうに尻尾を振りながら気持ちよさそうに目を細めた。あー、可愛い。癒されるぅ……。
ふと、視線を感じた。そちらの方へと目を向けてみると、ほんのちょっぴり羨ましそうにこちらを見るダネルがいた。
対物ライフルなんてゴツイものを扱う彼女は、ややストイックな性格も相まってとっつきにくさを感じさせるところがある。けれど、その内面は可愛いモノ好きにして、お祭り好きの女の子だ。ついでに言えば甘いモノも好き。たまにカフェで一緒になってパンケーキとか食べる。
「し、指揮官。その……私も触っても、いいか?」
「ん。いいわよ。ほら、キャンディ」
私が声を掛けると、キャンディはダネルの方を向く。そしてダネルを視認すると、即座に飛び掛かって再びじゃれつき始めた。
「ひゃぁあ!? ちょ、キャンディ! やめ、やめろ!」
あらぁ、なんだろう。これ、もしかしてダネルキャンディにナメられてるのかな。いや、物理的に舐められてるんだけど、そうじゃなくて。ヒエラルキー的に下に見られてる、みたいな感じで。
「キャンディ! NO!」
私が止めろと声を上げれば、キャンディはちょっと残念そうにしながらもダネルから離れる。
仕方がない、私がキャンディを押さえておこう。
抱きすくめる様な形で、キャンディの後ろから腕を回して顎のしたとかを触る。んー、気持ちよさそうにしてくれるのホント可愛い。モフモフしてるし……触ってるこっちも気持ちいいなあ。
「ダネル、今のうちにどうぞ」
「あ、ああ。ありがとう指揮官」
流石に二度も飛び掛かられたことで、恐る恐ると言った感じに手を伸ばすダネル。すかさずキャンディが飛び掛かろうと体に力を籠めるけど、抱きすくめる力を強くしてそれをおさえる。
キャンディの動きに、ダネルがびくりと肩を震わせた。あー、これは当分キャンディには舐められそうだなあ。
「キャンディ?」
「くぅ~ん……」
咎めるような声を出せば、キャンディは残念だと言わんばかりに鼻を鳴らした。可愛いけど、ちょっとは我慢しようね。
そしてようやくダネルの手がキャンディの頭に触れる。恐る恐る、と言った手つきで優しくキャンディの頭を撫でるダネル。
「おぉ……指揮官、いいなこれ」
あー、声と頬が緩みまくってる。キャンディも可愛いけど、小さな花が咲いたみたいなダネルの柔らかい笑顔もこれはこれでいい。
今のところはキャンディも大人しくしているし、撫でてもらっているのも嫌ではないみたいだ。尻尾を振っているからむしろ歓迎しているみたい。
もう大丈夫かな、とキャンディを抱きすくめるのをやめる。……大丈夫そうみたい。
ダネルはキャンディを撫でるのに夢中で、私が手を離したことに気づいていない。まあ、もう飛び掛かられなさそうだし大丈夫だろう。
なんてことを考えて、ふと気配を感じた。後ろからだ。
誰が、と考えてすぐにSOPⅡだということを思い出した。そういえばこの子のことをほったらかしにしてしまった。……嫌な予感が。
振り返ってみれば、私は不満ですと言わんばかりに頬を膨らませ、唇を尖らせたSOPⅡがいた。拳を胸の前に引き寄せて何かを我慢するように背中をちょっと丸めている。ヤバイ、これは――
「指揮官! 私にもちゃんと構ってよー!」
あー! またタックルはやめなさい! 古傷、古傷が開くから!
飛び掛かってきたSOPⅡの勢いを殺そうと、受け流そうとして失敗した。あ、と思った時にはすでに遅く、私はSOPⅡに押し倒される。
「指揮官!?」
「キャンディ! いいよ!」
「わふっ!」
「え、ひゃぁあ! キャンディ、止め……やめろってば! 顔は舐めないで!」
あー、SOPⅡがゴーサインを出したせいでまたダネルが……って、私もそれどころじゃない。
「SOPⅡ……? ちょっと、降りてくれない?」
「やーだ。最近指揮官ちっとも構ってくれないんだもん。私寂しかったんだよ?」
「ご、ごめん……」
「だからぁ……指揮官に、いっぱいイタズラしちゃうね?」
「は? きゃ……ちょっとSOP! どこ触って……あっ!? そこ!」
待て待て待て待て、こんなところで白昼堂々変なところまさぐられるのは嫌だってば!
あー! ダメダメ! そ、そこは……!
「ふあっ……! あははははははははははは! SOP! 脇腹、そこダメ!」
「ほーらここかな? ここがいいのかな? ここをくすぐられるのが好きなのかな?」
「あははははははははははは! ごめん、ごめんってば! 今度ちゃんと埋め合わせするから! あっ、靴脱がせ……あはははははは! 足の裏もダメ!」
結局、そのあとこの騒ぎを聞きつけたAR15が血相を変えて飛んできて、SOPにげんこつを振り下ろすまでくすぐりの刑は続いた。
いや、死ぬかと思った。終わったころには私は青息吐息だ。ダネルも、その間ずっとキャンディにじゃれつかれていたようで、顔と前髪はヨダレでベトベト、本人も疲れた表情をしていた。でもちょっとまんざらでもなさそうな表情をしていたから、まあ良しとしよう。
しかし、ちょっとこれはまずいかもなあ。45にもあんまり構えて……いや、あの子はこの間夜にいっぱい構ったから大丈夫か。足りなくなったらまた一緒に寝ればいいんだし。
それはともかく、他の子達の方がなあ……新しい戦術人形も着任してきていて、コミュニケーションをとる時間をちゃんと確保できてない。
AR小隊の面々もそうだけど、この基地に所属してる子達で絡めていない子もいないわけじゃない。挨拶とか、他愛のない世間話はするんだけどね。
ともかく、このあたりどうにかしないとなあ。その辺、ちょっと45にも相談してみるか。
そんなことを考えながら、私はAR15に後を任せて司令室への道を歩き出した。
ちなみにその後、SOPⅡにくすぐりまわされた時の格好のまま行ったもんだから、着衣が乱れに乱れているのを完全に失念していて、至らぬことされたのではと勘違いした45が、血相変えて詰め寄ってきたのはまた別の話。
いやあ、なだめるの大変だった……。
ダネルちゃん、着任済みですがメイドスキンが来ません。
コインの為に課金するのも懐的にちょっと辛くてなあ……
話は変わりますが、焔薙さん作『それいけポンコツ指揮官とM1895おばあちゃん!!』にシーラさんを登場させていただきました!
ロリっ子指揮官と戦術人形達のほのぼのした日常のお話で、面白いのでぜひ! 読め!