女性指揮官と戦術人形達のかしましおぺれーしょん【完結】 作:笹の船
何話か続きます。
指揮官が風邪を引いた。その上、どうやら副官のUMP45とも喧嘩したらしい。
司令室には指揮官の姿はなく、副官の姿もない。
「ああ、キャリコ。そっちの書類の処理お願いできますか?」
「了解、スプリングフィールド」
指揮官は風邪による高熱でダウン。副官のUMP45は任務で基地を離れている。
だから、手の空いている私達が代理で雑務を行っている。勿論、指揮官のサインや承認がないと処理できない案件だけはどうしようもないけれど。
スプリングフィールドは手慣れたもので、テキパキと自分達が処理できる書類と、指揮官でなければいけないものとを仕分けている。
それだけでなく、基地内でも中堅上位くらいの実力の私が処理できる書類をこちらに、そうでないものは自分のところへと分けてくれている。
流石に最初期から基地に所属しているだけあって、仕事が早い。私の倍くらいの速さで書類をさばいてるんじゃないだろうか。
ちなみに、副官はUMP45だけどいつも彼女が副官業務をやっているわけじゃない。今日みたいに彼女が任務で基地を離れることもあるから、そういう時はローテーションだったり、立候補して副官を務めることになる。
その辺の連絡は各自に支給された通信端末で行っている。任務では使用できないけれど、オフの日に外出したりする時なんかは便利だ。電話やメール、ラジオ、チャット機能が使えるのだ。情報漏えいのリスクを考えて、インターネットには繋げないのが難点だけど。
話がそれた。ともかく、今日はたまたま私が非番だったってこともあってこうして手伝っている。指揮官に言ったら謝られそうだけど、別に特にやることがあったわけでもない。
それに、指揮官の力になれるのなら別に一日くらい休みがつぶれたって構わない。そんなことを言ったら、本人は私が気にする、と頬を膨らませそうだけれども。
実は、そんな風に頬を膨らませる指揮官が好きだったりする。指揮をしている時はあんなに凛々しいのに、普段の彼女ときたらどこか子供っぽいのだ。そのギャップがたまらない、という人形が、私を含めそれなりの数存在する。
「キャリコ、頬が緩んでますよ」
「え……ご、ごめん」
しまった、頬を膨らませる指揮官を想像して気が緩んでしまった。これは良くないな。
「ふふ、休日を返上して働いていることに、指揮官がむくれるのを想像したんですか?」
「う……その通り」
何でもお見通しだとでもいうかのように、微笑しながらスプリングフィールドが書類仕事を進めていく。たまに、この人がこの基地のトップなんじゃないかと勘違いしそうになるんだけど、どうなんだろう。
「キャリコ、手が止まってますよ。折角の休日なんですから、早く終わらせてしまいましょう」
「ご、ごめん。……でも、私別に気にしないよ」
「指揮官が気にするんですよ。彼女の困った顔が可愛いのは知っていますが、今は風邪を引いてるんです。あんまり心配させないであげてください」
う、そういわれると辛い。確かに、今の指揮官は大分弱ってる。あんまり変に心配かけて、風邪が悪化されても困るし、それは私達が望むところじゃない。
なんてことを考えていたら司令室の扉が開いた。一体誰だろうと、そちらに目をやれば……。
「指揮官!? どうして来たんですか!」
「ごほっ……私じゃないと処理できない奴とか……ごほっ、ごほっ! あるでしょ?」
スプリングフィールドの咎めるような声に、けれど指揮官は笑みを浮かべる。けれど、指揮官の格好は普段のグリフィン制服ではなく、厚めのパジャマに厚手の上着、そしてマスクだ。
髪も普段のポニーテールではなく、おろしたままだった。
とどめにおでこに張られた解熱用のシート。完全に病人の出で立ちって感じだ。
それに、心なしか目の焦点が定まっていない様に思える。本当に大丈夫なんだろうか。
「ダメです! お昼に体温を測った時、何度あったと思ってるですか!」
「あー……7度8分?」
「8度7分です! 39度も熱あるんですよ!」
スプリングフィールドが本気で怒ってるのに、熱で判断力が鈍っているのか指揮官の反応はいまひとつだ。加えて、先ほどから苦しそうに咳を何度もしている。
「お願いスプリング……仕事させて」
「ダメです! 余計熱が上がりますよ!」
けれど、指揮官はなかなか私室に戻ろうとはしなかった。そこで気づく。指揮官が珍しく泣きそうな表情をしていた。
「ごめん……一人で部屋にいると、滅入っちゃうの。だから……げほっげほっ! うぁ……」
言いかけて、苦しそうに咳をし始めたと思ったら指揮官はその場に倒れこんでしまった。
「指揮官!? キャリコ、指揮官を部屋に送ってください!」
「わ、分かった!」
慌てて指揮官に駆け寄り、あまり頭を揺らさない様にゆっくりと背負う。
やっぱり相当の高熱みたいで、背負うだけで指揮官の体がとても熱いことが分かった。苦しそうな吐息と咳が、早く休ませなきゃ、という焦りを生んだ。
「ご……めん……キャリコ……」
耳元で弱々しい指揮官の声が聞こえた。
「別にいいよ。ていうか、あんま無茶しないでよね。じゃあスプリングフィールド、私指揮官を連れていくね」
「お願いします。……キャリコ、今日はそのまま指揮官のお世話をお願いできますか」
「ん。分かった」
「ちょ……ゴホゴホ! キャリコ……アナタ、今日は非番……」
「文句を言うなら部屋で大人しくしててよ」
弱々しい抗議を封殺して、私は司令室を後にする。余り指揮官を揺らさない様に、ゆっくりと基地の中を歩いて、やがて彼女の私室へとたどり着いた。
指揮官にカードキーを出してもらって、私室のロックを解除する。
部屋の中はそれなりに綺麗だったけれど、ベッドのそばにあるクローゼットの周りには制服だったり下着だったりが散乱していた。どうやらもうろうとする意識の中、上着を羽織るために荒らしたみたいだ。
そんなクローゼットの横を通り過ぎて、指揮官をベッドに座らせる。顔は真っ赤で、息も荒い。流石に辛いのか、目もほとんど開いていなかった。
「指揮官、ほら横になって」
「う……ごめ……」
ビデオをスロー再生でもしているかのように、もっさりとした動作でベッドに横になった指揮官に掛布団をかける。
ひとまずはこれでどうにかなるかな。さて、これから忙しくなりそうだ。
まずは着替えとか、汗を拭く用のタオルとか……まさかメイドスキンを着せられてカフェでお手伝いさせられた時の経験を応用する日が来るなんて……。
ともかく、今日は監視の意味も込めて指揮官のお世話をしなきゃな。
そんなことを考えながら、私は腕まくりをして散らかり放題の指揮官の洋服を片付けることから始めた。
風邪とはあまり縁のない人生を送っているので風邪描写ちょっと難しい。(なお仮病とはお友達)
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