女性指揮官と戦術人形達のかしましおぺれーしょん【完結】   作:笹の船

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奪って、出会った。そんな一日 ②

 AR小隊が野犬と戦闘をしてから数時間後、基地のヘリポートに彼女達を乗せたヘリコプターが間もなく到着する、との連絡を受けた。

 そろそろ彼女達が司令室に来る頃だろう。そう思っていると、司令室の扉が開いた。

 振り返れば、M4達がこちらに敬礼をしたところだった。

 

「AR小隊、ただいま帰投しました!」

「ご苦労様。報告を聞きましょうか」

 

 それから未踏破地区の調査結果について、小隊のメンバーからそれぞれ報告をしてもらった。

 やはり、目ぼしいものは何もなかったようだ。無駄足、といえば無駄足になったけれど、大規模な戦闘があったわけでも、AR小隊のメンバーに被害が出たわけでもない。

 残念な気持ちもあるけれど、今回は皆の無事で手打ちにしてくとしよう。

 

「ところで……SOPⅡ。その服の中に隠しているものは何?」

 

 私の言葉にSOPⅡがびくりと肩を震わせる。それに反応するように、ふっくらと膨らんだ彼女のお腹が、もぞもぞと動いた。

 

「あ……えと……」

 

 視線を泳がせるSOPⅡ。目線で一体何なのかをM4達に問うてみれば、返って来たのは気まずそうに視線を逸らすという行為。いかにもやましいことをしています、といった感じだ。

 

「……出しなさい」

 

 静かに、ほんの少しだけ威圧するように命じる。

 ぎゅっと、お腹の『戦利品』を守るように抱え、SOPⅡは上目遣いでこちらを見つめてくる。

 見逃してくれ、と言いたいらしい。でも、ダメだ。それは出来ない。

 目を細め、否定の意を示す。

 ショックを受けたように、SOPⅡは目を見開いた。そして、泣きそうな顔で唇をかみしめ、服の中から『戦利品』を目の前にデスクに出す。

 灰色の毛をした、小さな子犬だった。AR小隊が交戦した野犬達の子供だろう。

 

「これは、何かしら。M4、説明してもらえる?」

 

 プルプルと震える子犬を前に、それでも私は厳しめの態度は崩さない。

 私の問いに、M4は私から目をそらしてしまう。

 

「子犬……です」

 

 ようやく絞り出したM4の言葉はとてもか細いものだった。

 

「見ればわかるわ。私が聞きたいのは、どうして報告も無しに連れて来たってことよ」

「…………」

 

 どうして拾ってきたか、の理由なんて本当は聞かなくても十分に想像できる。大方、自分達がこの子犬の家族を奪ったことへの償いか。あるいは、この先野垂れ死にする子犬の未来をかわいそうに思ってしまったか。どっちかだとは思う。

 けれど、聞かなくても察してあげる、なんて甘い対応をしてあげるつもりはない。

 

「……指揮官、良いでしょうか」

 

 口を開いたのはAR-15だ。私を真っすぐ見てはいるけれど、やはり後ろめたさがあるせいか、いつもの彼女にしては覇気がない。

 

「発言を許可します」

「ありがとうございます。……その子犬ですが、この基地で世話をするというはどうでしょう。見た目は可愛らしいですし、人形達やスタッフ達のリフレッシュにも一役買ってくれるかと」

 

 なるほど。子犬に価値がある、ということを前面に押し出す作戦で来たか。

 AR-15を援護するように、続いて口を開いたのはM16だ。

 

「なぁ指揮官。確かに報告を忘れたのは悪かったよ。でもほら、アレだ。UMP9的に言えば『これからは皆家族だ』ってやつさ。家族が増えるのはいいことだろ?」

 

 確かに目の前の子犬は可愛い。正直私も立場がなければ今すぐ撫でたい。

 が、それではダメなんだよね。

 

「つまり、基地全体の士気上昇を見込めるために連れて来た、と。それが理由?」

 

 AR小隊一同が示し合わせたように頷いた。

 理屈は通る。可愛いものが嫌いな子なんて、少なくとも戦術人形の子達にはいないだろう。

 たまの非番の日に、可愛いペットと触れ合うことでストレスの緩和に繋がるのなら、それは歓迎すべきものだと思う。

 でも、彼女達は気づいていない。いや、あえて目をそらしているのかもしれないけれど。

 この論理は、一つの大前提が成り立ってこそのものなのだ。

 

「話は分かった。……残念だけど、認められません」

「っ!? 指揮官、どうして!?」

 

 悲鳴のような抗議の声を上げたのはM4だ。

 

「その子犬が絶対に私達に害を与えないという保証がないからよ」

 

 そう。この子犬が鉄血達の用意した罠ではない、という保証がないのだ。もし鉄血のスパイではなかったとしても、人間に有害な病原菌を持っていないとも限らない。

 私はこの基地の最高責任者でもある。一時の感情に流されて、基地全体を危険にさらすかもしれない不穏分子を見逃すわけにはいかないのだ。

 私の言葉を聞いて、AR小隊のメンバーは悔しそうに、あるいは申し訳なさそうに子犬を見つめる。

 そんな彼女達の様子に、心が痛んだ。本当に、優しい子達だね。兵器としては落第だけど、私の部下としては嬉しい限りだ。

 

「その子犬が危険ではないと確信を持てない以上、指揮官として子犬の保護を認めるわけにはいきません」

 

 私の追撃にM4は悲しそうに目を伏せ、M16はこぶしを握り締める。SOPⅡは今にも泣きそうな顔でスカートを握りしめ、AR-15は申し訳なさそうに子犬から目をそらした。

 そんな皆を、子犬は助けを求めるように見回す。

 ……さて、そろそろかな。こういう立ち回りは、長く続けると私も辛い。

 子犬が無害であるかどうかを証明する手はずは、既に整えてある。こんなこともあろうかと、ペルシカには話を通してあるのだ。

 後は私がペルシカに連絡をすれば、この子犬が鉄血のスパイでもなければ病原でもないことが分かるはず。

 万が一、があったら……その時は、私がやることをやるだけだ。

 最後の詰めをしようと、司令室のコンソールの方を振り向く。

 ペルシカを呼ぶのに、そう時間はかからないはず。彼女も既に待機はしてくれているはず。

 ふと、背後で何かが引き抜かれた音が聞こえた。例えばそう、ピンのような細いものが抜かれたような……

 何の音だろう、とAR小隊の方を振り向いた時、そこには子犬を抱きかかえて走り出すSOPⅡ達と、足元に転がってくるナニカが見えた。

 まさか、と思った瞬間。爆音と閃光が私を埋め尽くした。

 フラッシュバン!? しまった、もろに食らっちゃったよ!

 視覚、聴覚が完全にマヒさせられる。

 次に私が動けるようになった時、そこにAR小隊と子犬の姿はなかった。

 

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