女性指揮官と戦術人形達のかしましおぺれーしょん【完結】 作:笹の船
後二話くらいは続くんじゃないかな
風邪を引いた。熱も高熱だ。思考がまとまらない。手足の指先はずっと痺れているし、体の節々が痛くてたまらない。
「指揮官、汗を拭くよ」
「ん……」
司令室でぶっ倒れた後、気が付いたら自分の部屋で横になっていた。
私が目が覚めたことに気づいた、メイド服のキャリコにお水を飲ませてもらって、今は着替えを手伝ってもらっている。
正直に言って申し訳なさを感じると同時に、とても助かっていた。
部屋のベッドで一人横になっているのは、たまらなく辛かったから。
「副官と喧嘩したんだってね」
「うん……」
「辛かったら話くらいは聞くけど」
丁寧に私の体を拭きながら、ぶっきらぼうに優しい言葉をかけてくれたキャリコに、私はどう思ったのだろう。
けれど、気が付いた時には事の顛末を話し始めていた。
もしかしたら誓約してから初めてかもしれない、本気の喧嘩を45としたの。
昨日から私は調子が悪かった。でも、仕事ができない程じゃあなかったんだ。それに、昨日のうちに対応しないとマズい案件だってあった。
だから、ちょっと無理をした。本来はダメなことだ。これが普通の企業であったなら、私も休んでいたと思う。
でも、残念ながらG&Kは民間軍事会社だ。普通ではない。一時間対応が遅れただけで、隣の街が滅びました、なんてことが普通に起こる案件が回ってくるような会社だもの。そういう『ふつう』は通用しない。
だからせめて私が見なけきゃいけないものだけは、と仕事をしたのがマズかったのかな。やらなきゃいけないことが次から次へと思い浮かんできてちゃったんだ。
「えぇ……指揮官じゃないといけない書類なんて、そんなに多くなかったでしょ。スプリングフィールドがそう言ってたよ」
勿論、その日のうちに対応しなければいけない案件の数は多くはなかった。それでも、後回しにするのは好ましくない案件がチラホラ出てきてちゃってね。
誰かに代理を頼めるような内容だったけれど、熱で冷静じゃなかったんだと思う。全部自分でやってしまおうと、最低限以上の仕事をこなし続けちゃってた。
結果、後方支援任務から帰って来た45が私を見て烈火のごとく怒りだしたんだ。なんで休まなかったのか、って。
「そりゃあそうだよ。UMP45じゃなくたって怒る」
それに対して、いつもだったら上手く誤魔化してなだめられたはずだった。でも、頭とか体の節々が痛い中、それでもどうにか仕事をしていた私は、ストレスが溜まっていたんじゃないかな。
思わず、声を荒げて自分の正当性を主張しちゃったんだ。まあ、逆ギレってやつ。
後はもう売り言葉に買い言葉の大ゲンカ。……その時、私は45に酷いことを言ったの。
たしかこんなやりとりだったっけ。
『どうして無茶するの!? シーラがそんなになってる時、代わりに働くのも私達の役目なのよ!?』
『それで全部上手く回るなら私だってとっくにベッドの上で丸くなってる! そうじゃないから多少の無茶をしてでもこうして仕事をしてるんでしょ!』
『そこまで無茶をしなきゃいけない程じゃないはずよ! スプリングフィールド辺りに頼めば、どうしても今日シーラがこなさなきゃいけない書類だけまとめて、ちゃんと伝えてくれたんじゃないの!? ねえ、私達そんなに頼りない!?』
『アナタ達は戦術人形でしょ! 戦って勝利をもたらすことが一番の役割なの! 書類仕事なんかは私の仕事よ! ただでさえ私はもう戦力にならないっていうのに、これ以上私の仕事を奪わないでよ! それに、自分の面倒くらい自分で見れる! 私はお手伝いロボを雇ったわけじゃないの! 私の為を思うんだったら、私のお世話よりも任務を成功させてきてよ!』
……我ながら酷いワガママを叫んでいたと思う。最後の言葉を言った時、45が凄くショックを受けた顔をしていたのが今でもはっきり思い出せちゃう。
いつもなら必ずどこかに余裕を持たせた表情をした45が、珍しく本気で茫然としていた。
そして、何も言わずに司令室を出てった。その後のことは、よく覚えてない。
気が付いた時には、自分の部屋のベッドの上だった。ぼんやりとした頭の中に浮かんだのは、自分が最後に45に向けて言った言葉だったな。
すぐに、なんて酷いことを言ってしまったんだろうと後悔した。私を心配してくれた45を、否定し突き放す様な言葉だったから。
私は、大切な人に傍にいてもらうよりも、仕事をこなすことを望んでいるかのようなことを言っちゃったんだ。軍人としてはそれが正しいのかもしれない。けれど、個人の対応として見た時、あの対応は最低中の最低だ。あんなこと、私が45に言われたらショックでぶっ倒れる自信がある。
それを、私は45にしてしまった。
謝らないと、と思った。
起きてすぐ、通信端末に手を伸ばして45の番号に電話をかけた。繋がらなかった。
端末のデジタル時計を見て、日付が変わって、日もとっくに昇った時間だった。あの子は任務で基地を離れた後だった。
それからしばらくは部屋で大人しくしてたの。お昼になってスプリングがおかゆを持ってきて、熱も測ってくれた。ほとんど39度なんて、こんなにひどい熱が出たのは久しぶり。
だから絶対安静にしてろって、スプリングにはきつく言われた。
でも、一人は辛くて……辛くて……。
何とか気を紛らわせたかったけど、部屋にあるものは全部45と一緒に何かをするのに使ったものばっかりで。
傍にあの子がいないのが、こんなにも辛いと思ったことは無くて。
……事の顛末を語り終わる頃には、私の目からは涙がポロポロと溢れていた。
「だから、あんなになってまで司令室に来ちゃったんだ」
キャリコの言葉に、ゆっくりと頷く。もうとっくに服は着替えさせられて、掛布団もかけてもらっていた。
お布団は温かくて、体も冷えてはいないはずなのに、なんだか無性に寒さを感じられて仕方がなかった。
「ねえキャリコ」
「ん? どうしたの」
「45、帰ってこなかったらどうしよう」
「何バカなこと言ってんの」
バカなこと。確かにそうだ。正式にはこの基地の所属ではないとは言っても、今の彼女はこの基地が帰るべき場所のはずだ。
けれど、404小隊は傭兵部隊。多額の報酬と引き換えに、仕事をこなす渡り鳥。お金は勿論払っている。そういう契約だから。
でも、金だけで動くような子達ではない。ひとえに今までこの基地にいてくれたのは、小隊長の45が留まる意思を持っていたからだ。
もしかしたら、今回のことで45は私に愛想をつかしてしまうかもしれない。任務で訪れた現地で、もっと割のいい仕事を見つけてしまうかもしれない。
そう思ったらたまらなく不安で、怖くて。
寒気のせいか、不安のせいか分からないけれど、体がカタカタと震え始めた。
涙も止まらない。鼻水もズルズル出てきっぱなしだ。
「ねえ、指揮官。私、結構頭に来てる」
「キャリコ?」
突然の言葉に、思わずキャリコの方を見た。
メイド服を身にまとい、緑の髪をポニーテールにした彼女が唇をへの字に歪めている。
「UMP45が帰ってこなかったら? 例えそうだとして、指揮官はそれで諦めるの?」
「それは……」
「戦うことができない? 書類仕事しかできない? 違うでしょ。アンタは私達の指揮官なのよ。前線で戦う私達を勝利に導く……いや、導いてきてくれたのはアンタでしょ」
キャリコは真っすぐと私の目を見据え、なおも続ける。
「確かにアンタは前線には出てこない。それでも、誰よりも先頭に立って戦いに臨んできたのはアンタなのよ。アンタがいるから、私達は戦えるの。どんな時でも諦めないで、あがき続けてくれたから私達は今ここにいる。そんなアンタが、たった一回の失敗で諦めるの? UMP45と誓約したんでしょ? ただの指揮官と戦術人形って枠を超えようって約束したんでしょ? だったら」
キャリコが私の涙をハンカチで拭ってくれる。ぼやけた視界が、クリアになった。キャリコの綺麗な顔が良く見える。
そっと私の頬にキャリコの手が添えられる。柔らかくて、温かかった。
「諦めないで。UMP45と話がしたいのなら、私達が何とかする。それに、もしも404が帰ってこなかったら私達に命令してよ。あいつ等を連れて帰って来いって。皆、喜んでその任務を請け負うわ」
勿論私もね、と最後に付け加えてキャリコが笑顔を見せた。
「アナタを支えるのは確かにUMP45かもしれない。でも、忘れないで指揮官。アナタを支えたいと、支えようと思っているのは私達だって同じなんだよ」
ああ、私はなんて愚かなんだろう。
何にも分かっていなかった。45のこと……いや、自分のことしか考えていなかったなんて。
私のそばには、こんなにも私を想ってくれる人達がいるというのに。
そう思ったら、また涙が止まらなくなってきた。
「グズッ……キャリコ……ごめん……」
「ほらほら泣かないの。水分取らなきゃダメになるでしょ。……いや、風邪の時は一杯水分出した方がいいんだっけ?」
ちょっと抜けたことを言いながら、それでもキャリコは私の頭を撫で続けてくれた。
やがて、私の意識は再び闇へと落ちていった。けれど、今度のそれは緩やかで、そして優しかった気がした。
可愛いメイドキャリコを書こうと思ったのに、おっぱいの付いたイケメンのキャリコになっていた。意味が分からない。
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