女性指揮官と戦術人形達のかしましおぺれーしょん【完結】   作:笹の船

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かなり長くなりそうな予感


私達だっているんだから ④

 ゆっくりとシステムが復帰し始め、意識がおぼろげながら戻ってくる。

 一時的に機能を停止していた視覚センサーと聴覚センサーが復旧し、私はゆっくりと目を開けた。

 頭に鈍い痛みが走る。一体何が起こった――?

 

「う……」

「45姉! 起きた!? 大丈夫!?」

 

 聞き馴れた妹の声が、復旧直後の頭に響く。それ以上に頭を痛ませるのは、さっきから私の体を前後に揺らす振動だ。

 薄目を開ければ、私を心配そうにのぞき込む9の顔があった。ついでに9のタミーと私のダミーもいる。

 というか、ダミーがいるということは、ここは輸送車両の護衛につけていたハンヴィーの車内ってことか。座席に座ってる状態だ。

 

「私どのくらい……あぐっ……!」

「45姉! 動いちゃダメ!」

 

 体を起こそうとして、腹部に激痛が走る。痛むお腹を押さえる様にうずくまった。

 痛みが引いてきてから、ゆっくりと体を起こして痛む部分に目をやれば、下半分だけボタンがあけられたブラウスの隙間から、包帯が巻かれたお腹が見えた。その右わき腹は、人工血液で赤く染まっている。

 

「うぁ……情けないわね。こんな簡単な任務で被弾するなんて。シーラになんて言われるやら」

 

 一瞬でも余計なことを考えて、集中するために周囲への警戒を怠った自分への怒りと情けなさでため息が出た。

 

「45姉……お義姉ちゃんと喧嘩したの、やっぱり……」

「…………」

 

 9の心配するような視線に耐え切れず、私は9から顔をそらす。

 

「ごめんなさい。小隊長失格ね」

 

 本当に情けない。これじゃあシーラに愛想をつかされたって文句は言えないじゃないか。

 404全員で、それもダミーを連れて行っての輸送任務で、オリジナルの私が一番ダメージを受けるなんて。

 そう言えば、輸送車両はどうなったんだろう。

 

「9、護衛対象は……」

「無事だよ。被弾したのは私達だけ。416もG11も、輸送車両も皆無事。鉄血の支配地域の近くからも、もうとっくに抜け出した」

「そっか」

 

 良かった。どうしようもない役立たずになることだけは避けられたみたいだ。

 それでもあまり安心はできない。帰ったらしこたま怒られるだろう。いや、怒られるくらいならいい。私が被弾したことを知ったシーラに、大声で泣かれでもしたらそれこそ情けなくて死んでしまいそうだ。

 ああ、でも。こんな私をシーラは愛してくれるだろうか。戦術人形としての役目もまともに果たせない、こんなスクラップを彼女は愛してくれるんだろうか。

 自分の役目も果たせない今の私は、お手伝いの自律人形以下の存在だ。

 

「ごめん、45姉……」

「……どうしたの、9」

「45姉がバイクから投げ出された後、すぐにダミーに指示を出してハンヴィーを回したんだけど……気絶した45姉を守り切れなかった」

 

 そう言って9は申し訳なさそうにうつむいた。そして気づいた。9の太ももにも私のお腹のように包帯が巻かれ、そこから人工血液がにじんでいることに。

 

「9……謝るのは私の方よ。私が気を抜いていなければ、もっとうまく対処できたはずだもの……」

 

 

 後に湧くのは後悔と罪悪感、そして捨てられたらどうしようという怯え。

 私が余計なことを考えず、もっと周辺警戒を厳に行っていたなら、もっとマシな結果に終わっていたかもしれない。

 私の被弾もなく、9も被弾せず済んだかもしれない。

 任務はほぼ達成した。一番危険な領域は抜けることができた。護衛対象は健在だ。役目そのものは果たしている。

 けれど、このザマはなんだ。ハイエンドモデルがいるわけでも、大群に襲われたわけでもない。

 私達の練度であれば何の問題もなく処理できるはずの敵にしか遭遇していないのに、オリジナル二人が被弾とは。

 それも防げたかもしれない被弾だなんて、グリフィンの暗部、404小隊が聞いて呆れる。

 いつから私はこんなに弱くなってしまったんだろう。このままだと、私は『彼女』との約束すら果たせなくなるほどに、弱くなってしまうんじゃないだろうか。

 車窓の外を流れる景色に目をやる。舗装路の外側は深い森だ。護衛対象の目的地まで、もうそう遠くはないだろう。

 

 もしかしたら、潮時なのかもしれない。

 存在しないことこそ、私達が存在し続けられる唯一の方法だった。行動を共にした人形達から私達の記憶を消し、滞在した基地のデータベースから私達の記録を消し、場合によっては指揮をした人間を殺して存在を抹消してきた。それが404Not-Fourdだ。

 けれど、そんな生き方に疲れていたのかもしれない。裏切り、裏切られ、誰にも褒められることなく、命を懸けた汚れ仕事に対してちょっと色のついた報酬をもらうだけ。

 そこに達成感などは無く、私達は人形らしくただ仕事を淡々とこなす機械として生きていた。それでいいと思っていた。私は私の目的が果たせればそれでいいと思っていたから。

 けれど、そこでシーラに出会った。

 最初は何も感じなかった。ビジネスライクな接し方だったし、指揮もまあ上手い方だったから。

 でも、途中から彼女が嫌いになった。人形を家族だなんて言い始めて、やっぱりコイツも現実を見ない、理想で物を語る愚か者なんだと思った。

 彼女の方からはどう思われていたかは分からない。多分、嫌われていたような気がする。

 でも、私のことを嫌っている割には、任務から帰って来た私達に『おかえりなさい』と言ってきた。

 9や416はすぐに堕ちた。9は帰る場所を与えてもらえて。416は自分のことをちゃんと認めてくれる人間に出会えて。G11は……まあ416をご機嫌に出来るからシーラに懐いたって感じな気もする。

 私も、浅はかなことにそんな何気ない一言を嬉しく思っていた。

 副官業務をしている時も『お疲れ様』とか『いつもありがとう』って何度も言ってくれた。

 仕事だから、と誤魔化していたけど気持ちはどんどん揺れ動いていって……。

 

「……ねえ、9」

「45姉?」

 

 今から言うことに、9はどんな反応をするだろう。怒るだろうか、それとも賛成してくれるだろうか。

 でも、小隊長としての考えは隊員には伝えなければいけない。416達にも聞こえる様に、無線を繋げておく。

 

「R06地区から、離れようと思う」

「えっ……」

 

 9の気の抜けた声と、豆鉄砲を食らった鳩の様な顔が見えた。

 

『どういうことかしら、UMP45』

 

 416の声だ。……怒っているのだろうか。声が堅い。

 まあ、そりゃ怒るか。相談も無しに決めたもんね。

 

「潮時よ。というか、長居しすぎたと思わない? 私達は――」

『ふざけないで』

 

 私の声は416のソレにさえぎられた。予想はしてたけど。

 

「416、私達は――」

『404Not Foundでしょ。それがどうしたのよ』

「どうしたの……って、機密の塊の私達が一か所にとどまり続けるのはリスクが……」

『リスク……? ハッ、何をいまさら』

 

 鼻で笑われた。思わずムッとして奥歯を噛み締める。

 

『リスクが何? アナタが大嫌いだった人間に惚れて、あまつさえ誓約までしておいて今更リスクがあるから離れる? たった一回の喧嘩くらいで何不貞腐れてんのよ』

「……ッ! アンタに……」

『45、私も416と同意見。流石に今回のその判断には従えない』

「G11! アナタまで……」

 

 コイツら、ここにきて反抗期のつもりか。いい度胸してるじゃないの。

 

「45姉。今回ばっかりは、悪いけど私も従えないよ。それに、そんな判断を急に下すなんて45姉らしくない」

「9まで……! アンタ達、小隊長の言うことが聞けないっての!?」

 

 一体何なのよ。今までは文句言いながらでも従ってきたくせに、今更になって手のひら返しのつもりってわけ?

 ふざけるな。この小隊の隊長は私だぞ!

 

『どうしても、というのなら』

 

 氷を首筋にあてられているかのような、底冷えする416の声が無線から響く。

 

『どうしても私達を従わせたいのなら、その薬指の誓約の指輪を外しなさい』

「え……?」

 

 何を言われたのか分からなかった。指輪を……外す?

 体温が一気に下がったような錯覚を覚える。左手薬指が指輪に締め付けられた気がした。

 

『私達は存在しない部隊なんでしょ。だったら、R06にいたという痕跡は消さなきゃいけない。そうよね、小隊長サマ?』

「……ええ。そうよ」

 

 ほんの少し声が震えているの自分でも分かった。

 指輪を捨てなければならない。その条件に、腰が引けてしまう。

 

『痕跡には当然、アナタがあの基地の指揮官と結ばれていたことを証明するその指輪だって含まれるはずでしょ。……何か間違ったことを言っているかしら』

「……いえ、確かにそうね」

『じゃあ、あそこから離れるというのなら指輪を捨てなさい。……いや、捨てたら拾われるかもしれないから、ちゃんと破壊して』

「……ッ」

 

 壊す? シーラとの誓いの証を、私は壊せるだろうか。

 いいや。壊せる。だって、どうせここで壊さなくても、基地に帰ればきっと外すことになるんだろうから。

 こんな情けない姿の私を見て、シーラはきっと幻滅する。そして、あの基地の第一部隊には、シーラと仲が良くて私と同じくらいの戦力を持った人形だっているのだ。

 私の代わりは、きっといくらでも用意できる。

 左手薬指にはめられた指輪を、右手でそっとつまむ。

 思えば、とても幸せな時間だった。私には勿体なさすぎるくらいの時間だった。

 けれど、それもここまでだ。

 シーラは強い人だ。私がいなくなったら、落ち込むかもしれない。でも、彼女を支える人形達も周りにいるし、何よりあの人はそのくらいでへこたれるタマじゃない。

 そして私は404Not Foundだ。存在しないことこそ、私達の存在理由。

 闇から闇へと渡り歩く。それが私達。そんな私を一時でも温かな陽だまりの中に引っ張り出してくれたことには感謝しかない。

 でも、きっとこれまでなのだ。出会いがあれば、別れもある。それがこの時なんだ。

 

 そうして私は、指輪をつまんだ指に力を込めて――

 

 薬指から、指輪を外した。




ほのぼの……ほのぼの……どこ?

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