女性指揮官と戦術人形達のかしましおぺれーしょん【完結】 作:笹の船
「それで、何か言うことはありますか?」
怖い。スプリングがめっちゃ怒ってる。笑顔なのが逆に怖い。目だけ笑ってないとかじゃなくて、目も一緒にニッコリしてるのが逆に怖い。声色もいつも通りといえばいつも通り。
でも、なんというかすさまじい気迫があふれ出しているような気がしてヤバイ。
「指揮官?」
「は、はい! 元気です!」
余りの気迫にトンチンカンな言葉が飛び出す。けれど、そんな私の失態を笑うものはここにはおらず。
「嘘は行けませんね? 無理して基地を飛び出した挙句、帰りのヘリで熱がぶり返してUMP9におんぶされて帰って来たこと、忘れたとは言わせませんよ?」
「いやその……スミマセン……」
「全く。心配かけないでよねー、しきかーん?」
おのれ45め。ヘリの中ではあんなに子供みたいにシクシク泣いてたくせに。
「45。アナタも人のこと言えないでしょう? 腹部の損傷がひどくて最後は416とG11に肩を貸してもらわないと歩けなくなったこと、まさか忘れたとは言わないですよね?」
「うぐっ……」
「言われてやんのー」
「シーラ、うっさい!」
「ふ・た・り・と・も?」
『ゴメンナサイ』
おかしいなあ。私はこの基地の指揮官だし、45はその私の副官だから立場的にはスプリングよりも上のはずなんだけど。なんだろう、この逆らったらダメという直感が働くのは。
45達を迎えに行き、無事に全員ヘリに乗り込んだ後のことだ。
緊張の糸が切れたせいか、私は一気に体調を崩した。というか、熱がぶり返して青息吐息の状態になった。
45は45で、被弾した腹部の傷の痛みが一気に悪化したらしく、こちらも青息吐息の状態になっていたらしい。
二人そろって顔を真っ青にしてヘリから降りることになり、周りからは心配と呆れの混じった顔を向けられることになった。
で、寝込んでいた私がようやく復調して司令室に戻ってこれたのはそれから一日後。
45の修復と調整もそれくらいかかっていたらしく、ちょうど司令室の前で出くわしたのがさっき。
司令室に入りながら、数日前の非礼について再び謝れば、帰って来たのは45からの熱烈なキスの雨だった。
おあずけをされ続けてしまった子犬のように、必死に私を求めてくる45の姿に病み上がりだというのに興奮してしまい、私も熱烈なキスでもって応えたのが数分前。
息が続かなくなるまで唇を重ね続け、終わった頃にはすっかり二人して出来上がっていた。
辛抱たまらないと言わんばかりにうるんだ目で私を見つめた45が、私をお姫様抱っこして司令室のソファーに向かって歩き出そうとしたのが1分前。
そこにスプリングフィールドが司令室に入ってきて、私達がその場に正座させられたのが今。
正直申し訳ない。仕事前に一発ヤろうって考えたのは流石にマズかった。
「度重なる無茶による体調不良からようやく復調したかと思えば、明るいうちから仕事場で致そうというのは感心いたしませんね? 暖かくなってきたとはいえ、裸になって体でも冷やしたらどうするおつもりですか?」
「い、いやスプリング? 流石の私も司令室で裸にはならないと思う……」
「あら? シーラはそういうの好きじゃなかったっけ?」
「それは45でしょ。この間なんか……」
「二人共、惚気話はカフェでお聞きいたしますので、ひとまずこちらをお願いしますね」
言わせないぞと言わんばかりに割り込んできたスプリングが、連れて来たダミーが抱えた書類の山を司令室のデスクの上にどさりと音を立てておいた。……えぇ、嘘でしょ。
「……スプリング」
「なんでしょう」
とってもいい笑顔を浮かべるスプリングが怖い。聞きたくないけど、聞かないと。
「これ、全部?」
「はい」
「……それぞれの案件の対応期限は?」
「全て明日の正午までとなっております」
「今の時間は……?」
「午前11時ですね。重要な案件も混ざっておりますから、早めの対応をお願いいたしますね。指揮官?」
「うへぇ……」
全部……って、椅子に座った時の私の頭の高さよりも高いんだけど。絶対書類の数三桁は行ってると思うんだよね。しかもそんな書類の山が三つもある。
どうしたらいいんだこれ。徹夜コース間違いなしじゃない。
「45」
「……頑張りましょう。私も手伝うから」
「ん、ありがと。よろしくね」
迷うこともなく手伝うことを宣言してくれた愛しい彼女の言葉に、頬が緩む。
ふと視線を45の方へと向けてみれば、彼女もまたどこか嬉しそうに頬を緩ませていた。きっと考えていることは同じなんだろう。
私と45、その距離15㎝。ちょっと腕を伸ばせば触れ合える距離だ。そんな距離に、大事な人がいる。それだけで、胸の内がポカポカと温かくなっていくのを感じる。
我慢できなくて、15㎝の距離を0にした。
一瞬驚いたように強張った45の手が、けれど次の瞬間にはギュッと私の手を握り返してくれた。握り返してくれた手が温かくて、体から余計な力が抜けていく。
あー、抱きしめたいなあ。細くてしなやかで、けれど柔らかい45の体を抱きしめたいし、抱きしめてほしい。
ねだる様な視線を45の方へと向けてみれば、若干顔を赤くしてこちらを見つめる彼女の浅黄色の瞳と目が合った。
「お二人共、水を差すようで申し訳ありませんが、あまり時間の余裕はありませんよ?」
再び二人の世界に入りそうになったところで、スプリングの待ったがかかる。
見れば、呆れたように肩をすくめるスプリングの姿と顔を赤くしているわーちゃんの姿がそこにはあった。
「あれ、わーちゃんどうしたの」
「わーちゃん言うな! ……仕事が溜まってるってスプリングから聞いたから来たの。ひ、暇だったし!」
んん? なんだこれ、どういうことだ。
「指揮官さま! お仕事大変だって聞きましたので手伝いに来ました!」
「ちょっとMP5、なんでアタシまで……」
「フュンフ、スコーピオン?」
「しきかーん! お手伝いしたらお菓子くれるって聞いたよ!」
「同じく、手伝ったら酒をおごってくれると聞いたんだが」
「SPAS、M16……」
「お手伝いしたら指揮官が私と遊んでくれるってスプリングフィールドから聞いて!」
「SOP! 大声出さないの、指揮官は病み上がりなのよ! あ、でも私もお手伝いしたら一緒に前の作戦の振り返りしてもらえるって聞きました」
「SOPⅡ、AR15……」
待って待って。千客万来とかそういうレベルじゃないじゃん。
「指揮官! たくさんある書類仕事、このM14が一緒に片づけますよ! アナタに勝利の鐘の音を聞かせて差し上げますとも! なので、私ともっと喋ってくださいよー! 寂しいです!」
「また無茶されても困るし、手伝いに来た」
「M14、キャリコ!」
「あ、あの指揮官。まだ体調が優れないと聞いて……なにこれ」
「これは……スプリングに一杯食わされたわね」
あー、M4にROまで。司令室が一気にかしましくなってきた。これで基地に所属してる人形の半分に手が届かないっていうんだからすごい。
「指揮官。完璧な私が書類仕事を……何よこれ」
「わぁー指揮官人気者だねー。こんなに集まっちゃって」
「ねえ、眠いよー416。早くお手伝い終わらせて寝ようよー」
「アンタ達まで……」
404小隊の登場に、流石の45もこれには呆れたため息しか出ないみたいだ。
一体これはどういうことなのか、スプリングの方へと視線を向ける。
一方のスプリングフィールドは、先ほどまでの威圧感たっぷりないい笑顔ではなく、どこか愉快そうな柔らかい微笑みを浮かべていた。
「ふふふ。お二人には、この機会に練習をしていただこうと思いまして」
『練習?』
私と45の声が重なる。一体何の練習をすればいいというのだろうか。
「困った時、大変な時に周りに助けを求める練習です。アナタ達は、目を離すとすぐに一人で抱え込みますから」
「えー、そんなことはないわよね45」
「ええ。そんなことはないはずよ」
『はい、ダウト』
「「ええ……」」
その場にいた全員から嘘をつくなと真顔で言われた。ひどくない?
どう思う、と聞こうと隣を見れば不服そうに唇を尖らせる45の顔がすぐそこにあった。
みずみずしい唇が、室内灯の灯りに照らされてとても色っぽく見える。キスしたい。
……いや、流石に我慢しよう。この人数を前にいちゃつくのはちょっと恥ずかしい。
しかしそうか、スプリングなりのおせっかいってことか。だったら、ありがたく頂戴しておこう。
「じゃあ皆、悪いけど手伝ってくれる? ……そうだなあ、一番頑張ったと私が思った子には、ご褒美に何でもしてあげる」
私の言葉に、一気にその場が盛り上がる。ご褒美って言葉には弱いわよね、やっぱり。
「ねえシーラ」
「なぁに、よんごー」
声がした方を見れば、顔をほんのりと赤く染め、両手の指先をせわしなく重ねたり、絡めたりする45の姿があった。可愛い、天使か。
「そのご褒美、私も対象に入る?」
「……勿論!」
「……よし」
あ、45の目つきが一気に変わった。待って、その目つき戦闘する時と同じのやつじゃ……。
「ちょっと本気出す」
うわぁ、入れちゃいけないスイッチ入ったかな……。
「指揮官」
今度はスプリングの声だ。嫌な予感が。
「そちらの『ご褒美』チャレンジですが、私も参加してもよろしいでしょうか?」
「え……そりゃあ勿論いいけど」
……うわぁ、うわぁあ。すっごい笑顔! 私スプリングのあんな欲望むき出しの笑顔始めてみた気がする。
ほら見てよ! 周りの子達がびっくりしてるじゃない! 特にフュンフとスコーピオンが若干青ざめて……え、待って。何、訓練してる時に見せるような顔ってことこれ? 怖い。
「ありがとうございます。それでは、私も少々頑張らせていただきますね?」
「うん……お願い」
スプリングが戦闘態勢に入った。それに合わせるように45も書類の方へと近づいていく。
一拍遅れて、他の皆が飛びつくように書類の山へと駆け寄った。
……ご褒美、そんなに欲しいのかな。じゃなくて。
「ちょっと! 手伝ってくれるのは良いけど、私の分も残しておいてよ!?」
結果。私はハンコを押すだけの機械になりました。ぐすん。
ていうか、定時までに全部処理しきるとかみんな本気出し過ぎでしょ……。
これにてシリアス話第三弾、おしまいとなります。
長かった……次回からは再びのんびりとしたお話に戻りますよ。
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