女性指揮官と戦術人形達のかしましおぺれーしょん【完結】 作:笹の船
「…………」
隣からに視線が妙に痛い。
一通りの仕事を終えて、夕食も済ませた私は銃の保管室から自分のUMP45を取り出して、すぐ横の整備室で整備を行っていた。
銃の各部品を分解し、清潔で柔らかい素材の布で汚れを取っていく。
バラしたパーツを失くさない様に、どこのパーツをどこに置くかを決めておき、その通りに置いていく。
「…………」
隣からの視線が痛い。が、今は流石にかまっている場合でもない。気を散らしてパーツを失くしでもしたら大問題だから。
一通り各パーツの清掃を終わらせたら、今度はオイルを塗る必要があるパーツ達にオイルを塗っていく。
一つ一つ丁寧に。オイルを染み込ませた柔らかい布でゆっくり、優しくパーツにオイルを塗りこんでいく。
塗りすぎたりしていないことを確認して、バラしたパーツが欠けずに作業机の上にあることを確認する。
問題ないので、そのまま組み立てを始める。
順番を間違えない様に気を付けながら、一つ一つの部品を丁寧に、そして確実に元の形になるように組み立てていく。
いささか丁寧に組みすぎかもしれないけれど、いざって時に自分の命を預ける大切な相棒だ。これくらい丁寧なくらいがきっと丁度いいと思う。
「…………」
隣からの視線が痛い。そろそろ勘弁してくれないだろうか。
まあ、そろそろバラしたUMP45も組み立て終わる。締め忘れたネジや、組み込み忘れたパーツがないかを確認しつつ、残りのパーツを組み上げていく。
そうして、ようやく私のUMP45は元通りの姿に……いや、整備前よりも綺麗な状態になって元の姿に戻った。
「よし、整備終わり。……で、45?」
「何よ」
組みあがったUMP45にスリングを取り付けて、周りにぶつけない様に背負いながら先程からずっと私のことを睨みつけていた愛しいパートナーに声を掛ける。
私が銃の整備をしている間、ずうっと彼女は私の方を見つめて……いや、目力が強すぎてもはや睨みつけてきていたのだ。気が散って仕方がなかった。
「なんでずっと私の方を黙ってみてたの」
「別に。シーラがどんなふうにソレを整備するのかなって」
その割には随分と視線が私の方に向いていたようだけど……まあ、ツッコんだところではぐらかされるんだろう。
「そっか。何かわかったことはあった?」
なんて、そんなことを聞きながら整備室のドアへ歩けば返って来たのは服の袖を引っ張られる感触。
一体どうしたのかと振り返ってみれば、どこか不満そうに唇を尖らせる45の姿があった。
「優しく、とっても丁寧に整備してくれるんだなってことが分かった。あれだけ丁寧にやってあるのなら、いざって時の動作不良なんて起こることは無いでしょうね」
いつも通りの甘ったるさの中にドライアイスでも混ぜたみたいな声で、冷静な分析結果を出してくれた45だけど、その右手だけは私の袖を掴んで離さない。
45の顔を見ても、彼女はやや不機嫌そうに唇を尖らせているばかり。けれど、その頬だけはほんのりと赤く染まっている……気がした。
……いや、まさかね?
「よんごー」
「何よ」
「袖、いつまで掴んでるの?」
私の言葉に、45はほんのちょっぴり視線を泳がせた。離すか離さないかで迷ったな。
けれど、どうやらプライドが勝ったらしい。
45は何事もなかったかのように、私の袖から手を離してそっぽを向いた。
うーん。ちょっと揺さぶってみるかなあ。
「いやあ、45に整備の姿を見られて褒められるってことは、この子もきっと喜んでるってことよね。まあ今まで大きな不調もなかったし、この子も私のこと好きなのかなー」
なんて言いながらちらりと横目で45の方を見れば……お♪
「まあそうでしょうねぇ。システム越しにも絶好調ってのが分かるし」
おー、おー。無表情で冷たい目線になってるけど、拳だけは悔しそうに握りしめちゃってる。隠すのが下手だぞー、45。
「ねえよんごー」
「ほら、早くソレしまいなさいよ」
しっしと追い払うように手を払うよんごーが愛おしくて仕方ない。なんだなんだ、私を追い払おうとするなんて珍しいなあ?
ちょっと直接聞いてみようっと。なんて誤魔化すのかな。
「もしかして……嫉妬してるの?」
「……病院行く? そんなことするわけないじゃない」
口が悪い。本気で心配するような目をしないでよ。でも、その程度で勝ったと思わないことね。
「そうは言うけど、よんごーってば唇を噛んでるわよ。アナタ、嘘つく時とか本音を誤魔化す時っていつも軽く唇を噛む癖あるの知ってた?」
あ、思わず手で口を覆い隠した。……引っかかったな。
「嘘ッ!?」
「うん。嘘」
「なっ……!? シーラァ!」
あ、顔が真っ赤になった。うーん可愛い。
肩をプルプル震わせちゃって、いいなあ。とても良い。目の保養になる。
……いや、待てよ。
あー……よんごーの唇の端がどんどん吊り上がっていってる。いい笑顔だ。これはつまり。
「シーラ? どうしたの? 顔色悪いわよ?」
「あー。ちょっと古傷が痛んできてね……?」
「それは大変! じゃあ早く休まないと!」
ヤバイヤバイ。コレ絶対後でイジメられるやつだ。明日は確か大した仕事もなかったような気がするんだよなあ……。絶対ヤバい。
「ちょっと私銃をしまったら医務室に……」
「大丈夫よシーラ。私がいればそんな痛みなんてすぐに忘れられるから」
あ、あー! 手を引っ張らないで!
「よ、よんごー! ごめん、ごめんて!」
「なんのことかな? しきかぁん? 大丈夫よ。私、あんなふうに優しく整備されたことないなあなんて思ってないから」
「いっつも優しくしてるじゃない!」
私の抗議の声に、けれど45は手を引っ張る力を緩めない。ていうか銃をしまわせろ!
「嘘ばっかり! シーラっていっつも私に意地悪してるじゃない! あんな風に素直に優しくされたこと、ほとんどないわよ!」
ここで唐突な本音暴露は可愛くて私が死ぬからヤメて。そういうところが意地悪したくなる原因だって、この子分かってやってるんだろうか。
ではなくて。もうとっくに保管庫は通り過ぎちゃったよ。どうすんだろうコレ。
……なんかどうでもよくなってきた。だって前を歩くよんごー、ぷっくりとほっぺたを膨らませているんだもの。可愛いか。
「じゃあ、今日は優しくしてほしいの?」
「……意地悪無しよ。ま、せいぜい優しくしてね、しきか~ん?」
自信なくなった。素直なよんごー自体がレアすぎて、冷静でいられる自信がない。
まあ、どうにかなるでしょう。
次の朝、よんごーに柔らかい枕でしこたま殴られたとだけは言っておく。
くっそお、いくら柔らかいったって痛いんだぞぉ……ちょっとは手加減してよね。
「優しくしてって言ったでしょ!」
とってもかわいかったです。ごちそうさまでした。
嫉妬で不貞腐れて唇を尖らせる45姉は絶対可愛いと思うんです。
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