女性指揮官と戦術人形達のかしましおぺれーしょん【完結】   作:笹の船

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Kar98ちゃんと指揮官が飲む話


何事も程々が一番

 書類仕事が一区切りつき、コーヒーブレイクの為にスプリングのカフェを訪れた私が見たのは、世にも奇妙な光景だった。

 

「どうしてですの!? 私ともあろう者がソレを飲んではいけないだなんて!」

 

 そこにいたのは、カウンターに両手をついてスプリングに詰め寄るKar98――愛称カラビナだった。

 

「どうもこうも……アナタにはまだ早いと思いますよ……?」

「いいえ! このカラビーナー・アハトウントノインツィヒ・クルツがアルコールを飲めないなどと、どうして分かりますの!?」

「カラビナ。どうしたの」

 

 鬼気迫る表情でスプリングへ詰め寄るカラビナに声を掛ければ、彼女は一瞬驚いたような表情を後、わずかに頬を桃色に染めながら咳払いをしつつ優雅なお辞儀を見せてくれた。

 

「これは指揮官さん、御機嫌よう。少々はしたないところを見せてしまい、申し訳ございません。」

「これはお嬢さん、ご丁寧にどうも。それで、差し支えなければ何があったのかを聞いても?」

 

 優雅な振る舞いをしてきたカラビーナに対して、こちらもちょっと気取って優雅な対応でもって何があったのかを問うてみる。

 すると返って来たのは、カラビーナの整った顔立ちが奏でる優雅な微笑みとおしとやかな声ではなかった。

 そこにあったのは、おもちゃを買ってもらえなかった子供のように頬を膨らませて、いかにも怒っていますといった風に唇を尖らせたカラビーナの顔だ。

 

「スプリングフィールドったら、さっきから私に意地悪をしてきますのよ! お酒が飲みたい、と申しておりますのに、ダメだの一点張りですの!」

「カラビーナ。アナタ以前そう言ってお酒を飲んだ後、倒れたのをお忘れですか?」

 

 ため息とともに吐き出されたスプリングの呆れ声に、カラビーナがぐぬぬと奥歯を噛み締めるような顔をする。

 そうか、この子アルコールにはめっぽう弱いのかな。……なんで人形に下戸設定なんかつけるんだろうか、I.O.Pは。

 

「倒れたならやめた方が良いとは思うけど……何を飲んだの?」

「ワインをボトル一気飲みです」

「ちょ、スプリングフィールド!」

 

 えぇ……? それは倒れるでしょう。カラビーナ、お酒の楽しみ方を間違って覚えたんじゃないだろうか。

 

「アレは不覚を取っただけですわ! 次こそは倒れずにいられますとも!」

「その前に、カラビーナはお酒の飲み方を何だと思ってるのよ?」

 

 拳を胸の前に引き寄せて意気込むカラビーナに、そんな問いかけをしてみれば返って来たのは一体いまさら何を聞いているんだろうとでも言いたげな表情だ。

 

「ボトルに口をつけて、一気に飲むものだとM16から伺っておりますが……?」

「M16ゥゥゥ! 何教えてくれてんのよアイツはァァ!」

 

 酒に酔って悪ふざけのつもりで教えたんだろうけど、結果として鵜呑みにして疑おうともしていないのだからギルティである。

 カフェで飲んだくれているのがいつものことになってる彼女が、このことを知らないはずもない。

 にもかかわらず、間違いを訂正しないのは控えめに見ても有罪間違いなしなので、ちょっとこれは後でお説教確定ね。

 

「ところでスプリング?」

「今回は私は無実ですよ、指揮官……カラビーナったら、私の言葉には耳も貸そうとしなかったんですから」

「私が悪いというつもりですの!?」

「少なくとも、アナタがもう少し私の話を聞いていたら私だって素直にお酒を出していますけどね」

 

 スプリングのため息に、思わず同意の頷きを返したくなる。彼女はそういうところで意地悪をするような娘ではないのだ。

 いかにも不服ですと言った感じに顔をしかめるカラビーナだけど、こればっかりはスプリングに同意せざるを得ない。

 というか、そもそもこの子はアルコールを何だと思っているんだろうか。

 

「私の血統が優れている者であること示す手段の中で、最も安全、かつ手軽なものですわ!」

「んなバカな……」

 

 一体どこでどんな情報を聞いたらそんな意味の分からない結論に至ってしまったのだろうか。

 ともかく、このままではカラビーナに修復不能なほどの勘違いを植え付けたままになってしまう。どうにかしなければ。

 

「とりあえず、カラビーナ。今日は私と一緒に飲まない? 私がアナタにぴったりのお酒の飲み方を教えてあげるから」

「あら、素敵なお誘いですね。そう言われて断る私ではありませんことよ。喜んでご一緒させていただこうかしら」

 

 優雅な口ぶりではあるが、顔はとても嬉しそうにほころんでいる。うーん、可愛いのは間違いないんだけど、この状況だと油断できないから素直に癒されることができない。

 

「指揮官……あの、変なこと教え込まないでくださいね?」

 

 最近、スプリングからの信頼が薄い気がする。ひどくない?

 ともかく、カラビーナにはカラビーナらしい優雅なお酒の飲み方っていうのを覚えてもらうのが最優先だ。そうすれば、変に事態がこじれることはないだろう。

 

 

 

「だからぁ! どーしてわたしがぶたいちょうにならないんですかあ!」

「うーん……なんでって言われても……」

 

 この基地の人形、飲食が絡むとコントロールが難しい子が多い気がしてきた。……いや、単にSPASの一件がインパクト強かっただけなのかな。

 それはともかくとして、今回はゆっくりとしたペースで彼女が好んでいるらしい赤ワインを飲んでいたわけなのだけど、結果はまあ……御覧の通りだ。

 この酔い方、自称完璧な戦術人形の酔い方そこはかとなく似ている気がする。

 

「だいたいですねえ! わらしはあの傑作ライフルGew98をかいりょうした、ゆいしょただしいらいふるなんれすよ! であるからには、わらしがぶたいをひきいるのがすじというものれす!」

「うん……まあ、言いたいことは分からないでもない……かなあ」

「それなのにしきかんさんは、どうしてすぷりんぐふぃーるどとかWA2000ばかりをたいちょうにすえて、わらしをたいちょうにしないんですか!?」

「カラビーナ。そろそろ飲むのやめない? アナタ大分酔ってるじゃない」

 

 カラビーナの顔はアルコールでもう真っ赤だ。元々透明感を感じさせる白い肌だったのが、今ではトマトケチャップでもぶっかけたみたいに真っ赤である。

 そんな私の言葉に、けれどカラビーナは首を横に振った。

 

「いいえ! きょうというきょうは、しきかんさんがわらしをぶたいちょうにするというまではにがしませんわ! いいですこと! わらしはからびーなー・あはとうんとのいんつぃひ・くるつ! このきちでいちばんのらいふるなんですのよ!」

 

 もはやまともにろれつが回っていない状態で、それでも堂々と胸を張ってそんなうわ言を叫ぶカラビーナに、スプリングを始めとしたカフェにいる人形達は苦笑いを浮かべる。

 まあ、実際彼女の実力というのはこの基地でも上から数えた方が早いだろう。それでも、スプリングやわーちゃんを始めとしたメンツに比べるとどうしても見劣りしてしまうというのが実際のところだ。

 まあライフル勢の中ではカラビーナの着任時期自体が後の方であったわけだし、仕方のないことでもある。それでも上位につけそうな位置にまで実力をつけたのは彼女自身の努力のたまものだろう。

 が、そんなことはいまはどうでもいい。

 

「カラビーナ。もう今日はお酒はやめなさい」

「いやですわ!」

「ダメよ。アナタ、ちょっと酔い過ぎだもの」

「酔っておりましぇん!」

 

 ダメだこりゃ。聞く耳を持たない。どうしたものかな。

 眉間にしわが寄っていくのを感じながら、現状の打開策を考えていると、隣から重たいものをカウンターに落としたような音がした。

 一体何事かとそちらを見やる。

 

「すぅー……すぅー……」

「やれやれ……騒ぐだけ騒いで寝落ちとはね」

 

 私の視界に入ってきたのは、寝息を立てているカラビーナの姿だった。寝息を立てながら、それでもワインのビンから手を離さないあたりにある種の執念を感じる。

 

「わらしは……がんばっておりますの……よ」

 

 寝言だろうか。先程までとは打って変わって弱々しい声に、思わず不安になった。

 私は、この子の実力を正しく把握して、それに見合う評価を下せているのだろうか。

 

「スプリング。聞きたいことがあるんだけど」

「なんでしょうか」

「カラビーナ、実際のところは部隊長を務められそうなの?」

 

 私の問いに、スプリングはほんのり優しく微笑んだ。けれど、その目は笑っていない。

 

「指揮官。アナタは私達の出す報告書や、ドローンからの映像をご覧になっているはずです。それを元に評価を下しているのでしょう? その結果、彼女が部隊長を務めていないのなら、それがアナタから見た彼女の実力ですよ」

 

 安易に安心を求めた私に対して、スプリングは随分と厳しい回答を寄こしてくれた。いや、部下としては非常に正しい回答だろうけども。

 私も酔っているのかもしれない。お酒は嫌いじゃないけれど、酔うとこうして思考がネガティブに行きがちになる。こういうところだけは好きにはなれそうもない。

 

「スプリング。お勘定お願い。私、カラビーナを宿舎に運んでくる」

「すみません、指揮官。お手数をおかけします」

 

 申し訳なさそうなスプリングに、気にしてないと伝えながら財布からお金を……うそ。

 

「……ごめん、スプリング。ツケといて」

「……指揮官、カラビーナの分は彼女に払わせますよ?」

「あー……うん。そうして」

 

 マズい。給料日前だから財布の中身がスッカスカになってきてるの忘れてた。

 お金が入るまであと数日あるんだけど……大丈夫かな。流石に45のヒモになるのは格好がつかないからやだなあ……。

 とにかく、カラビーナを宿舎まで運んでいってしまわないと。そう思いなおして、カラビーナをおぶってカフェを出ようとした時。

 

「し、指揮官!? アンタ一体何やってんのよ!?」

「わーちゃん、大声出さないで。カラビーナが起きる」

 

 背後から飛んできたのはテーブル席にいたわーちゃんだ。……顔が赤いのはナニを考えていたから……じゃないわね。テーブルにあるのは日本酒の徳利だ。……この子も酔ってんの!?

 

「いーい!? わらしの目が黒いうちは、そんなはれんちなことさせないんだからぁ!」

 

 あーあ。どうしろっていうのよこの状況……。

 

「よう、指揮官! 一杯やらないか?」

 

 M16、カラビーナ背負ってるって分かって私の肩を掴まないの! 席へと連れていこうとしないの!

 ああ、スプリングがとってもいい笑顔に! あの子キッチリ稼げるだけ稼ぐつもりだ!

 よんごー、助けて!

 

 

 なお、翌朝目が覚めた時に目の前に45のとってもいい笑顔があったとだけ報告しておきます。

 ……私は悪くない。

 




カラビーナちゃんは絡み酒だと思う。
普段気取ってるというか、肩ひじ張ってそうな気がするので酔っぱらったら多分本音駄々洩れにして絡んできそう。

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