女性指揮官と戦術人形達のかしましおぺれーしょん【完結】   作:笹の船

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今回はM4の視点で話が進みます。


奪って、出会った。そんな一日 ③

「M4! これからどうしよう!?」

 

 司令室を飛び出してすぐ、子犬を抱えたSOPⅡが私に問いかけてくる。

 

「ひとまず、人のいないところへ……! AR-15、心当たりある!?」

「なんで私に聞くの!? 私達の宿舎くらいしか思いつかないわよ!」

「宿舎はまずいよなあ。すぐにバレそうだ」

「M16、分かり切ったこというなんて喧嘩売ってるの!?」

 

 それぞれが喚きながらひたすらに司令室から遠くを目指して走る。

 すると、正面から見覚えのある戦術人形が歩いてきた。

 

「……アナタ達!? 基地の中は走らないでよ、危ないじゃない!」

 

 黒い髪、白いメッシュ、赤と黄色のオッドアイ。ペルシカの定期メンテで小隊を離れていたRO635だ。

 

「RO! いいところに!」

 

 SOPⅡが彼女の前で立ち止まる。

 飛びつかれるのかと構えるROだったけれど、SOPⅡの腕の中には子犬がいた。

 流石にSOPⅡもその状態で飛びつくということは出来なかったみたいだ。

 

「RO! 基地で人がいなくて、隠れられそうな場所知らない!?」

 

 SOPⅡの勢いに気おされたのか、上半身をのけぞらせるRO。

 何が起きているのかまだ理解が追い付いていないようで、私達の方へ助けを求めるような視線を投げかけてきた。

 

「M4、これは、その……どういう状況?」

「RO、話すと長いの。思い当たる場所があるならすぐに教えてほしい」

「え、えぇ……?」

 

 私の言葉に、余計目を白黒させるRO。そんな彼女に、M16姉さんが詰め寄る。

 

「頼む、RO。時間がないんだ」

 

 悪いとは思ったけれど、事態は一刻を争う。何か情報があるなら、教えてほしかった。

 ROは、私達の態度からただならぬものを感じ取ったみたいだった。

 小さくため息を付くと、静かに目を閉じる。データの検索でもしているのだろうか。

 

「宿舎から東に30メートル。そこの倉庫は今スクラップ置き場になってるはずよ」

 

 聞くが早いか、SOPⅡが走り出した。私達も後を追うように駆け出した。

 

「RO、ありがとう! 今度ご馳走するね!」

「ちょっとM4!? 事情を説明して!」

 

 声を上げるROを無視……しようとして思いとどまる。隠れ場所の候補を教えてもらった以上、彼女にはこちら側についてもらった方が都合がいい気がしてきた。

 ふと隣を走るM16姉さんへ視線を送る。

 私の視線を見て、M16姉さんは察してくれたようだった。頷いてくれる。

 事情を知りたかったんだろう。後ろを見ると、私達を追って走るROの姿が見えた。これは都合がいい。

 

「RO、教えるからこのままついてきて!」

 

 私の言葉に、ROは頷いた。

 

 

 私達は基地を駆け抜ける。

 やがて宿舎の近くまでやってきた。目的地はすぐそこだ。

 他の子たちのいる宿舎を通り過ぎ、目的の倉庫の前までやってきた。

 ドアノブに手をかける。良かった、カギはかかっていない。

 飛び込むように中に入り、誰かいないかを確認する。

 薄暗い倉庫の中に人影はない。物音もしないし、そもそも誰かが入った形跡そのものがなかった。長い間放置されているのだろう。

 最後に部屋に入ってきたROが部屋の電気をつけると、宙を舞うホコリが視界に入った。

 子犬がくしゅん、と小さくくしゃみをする。相当埃っぽいらしい。

 

「さて、それじゃあどういうことか教えてもらおうかしら」

 

 部屋の入口に鍵を掛け、扉にもたれかかりながら、ROは鋭い視線で私達を射抜いた。

 

「実は……」

 

 私はこれまでの経緯を説明した。

 未踏破地区の調査中に野犬に襲われたこと、その後でその野犬達の子供を見つけたこと、その子犬を拾ってきたこと。

 そして、指揮官に子犬の保護が認められないと言われてしまったこと。それを聞いて皆でとっさに子犬を助けようと、司令室でフラッシュバンを使ってしまったこと。

 話を聞くにつれて、ROの眉間にどんどんシワが寄っていく。司令室で指揮官に向かってフラッシュバンを使ったといった時なんか、目が飛び出すんじゃないかってくらいに目を見開いていた。

 そうして私が事情を話し終えた時、彼女は大きなため息を付いて、こめかみを抑えた。

 

「アナタ達は……いくら私達AR小隊が変えのきかない人形だからって、やりすぎだとは思わないの?」

「ご、ごめんなさいRO……」

 

 SOPⅡがうなだれて謝る。私も、M16姉さんやAR-15も気まずそうに俯いていた。

 子犬の保護は認められない。そう言われた時、私達は自分達が連れて来た目の前の子犬がどうなるか、察してしまった。

 いや、もともと分かっていることだったかもしれない。

 この子犬は生きられない。基地に連れ帰っても面倒は見れないということは分かっていた。

 かといって、守ってくれる者もなく、ただ何もない未踏破地区で孤独に生きられるだろうか。

 答えはNOだ。私達を前にして、震えることしかできなかった子犬に、そんなことは出来ないだろう。

 あの場にいたAR小隊の皆が、誰が言うでもなく察したことだ。

 そして、そんな状況へこの子犬を追い込んだのは私達だ。たとえ、正当防衛の結果だったとしても。

 他人の気がしなかった。誰の庇護も得られず、生きられないこの子犬が。

 私達人形は、一体この子犬とどれくらい違いがあるというのだろう。確かにAR小隊、特に私は自律行動が可能なようになっている。

 それでも、私達が戦術人形であることに変わりはない。戦術人形は、それを使う人間がいてこそ真価を発揮する。

 人間に使われない人形が、自力で生きていくことは難しい。

 結局、私達だって人間の……指揮官の庇護があるからこうして生きていられるのだ。

 何も変わらない。私達も、この子犬も。

 だから見捨てられなかった。助けたかった。

 せめて自力で生きられるくらいに大きくなるまで、家族の温もりを与えてあげたかった。

 私が、皆にそうしてもらったように。

 

 

 ふと、子犬と目が合った。

 

「……おいで」

 

 屈んで手を差し伸べると、恐る恐るといった様子で、子犬が近寄ってくる。

 やがて私の指先に子犬の鼻先が触れる。クンクンと匂いを嗅ぐ子犬の姿が、とても愛おしく感じられた。

 驚かさないように、ゆっくりと子犬の頭を撫でる。

 ビクリ、と一瞬体を震わせたけれど、すぐに子犬はされるがままになった。

 

「可愛い……」

 

 そう呟いたのはAR-15だっただろうか。

 顔を上げると、AR-15は恥ずかしそうに顔をそらした。

 

「なんだ、AR-15。子犬を連れ帰ることを一番渋ってた割に、メロメロじゃないか」

 

 愉快そうにM16姉さんが笑う。

 

「う、うるさい! 気のせいよ、気のせい!」

「わ、私も触りたい!」

 

 SOPⅡが子犬に近寄り、手を伸ばす。

 子犬は、SOPⅡのことを怖がらず、そのまま撫でられた。心なしか、気持ちよさそうだ。

 

「おぉ、中々肝が据わってるんじゃないか、こいつ。どれ、私も……」

 

 続いてM16姉さんも手を伸ばす。子犬はその手を拒まなかった。

 

「ははは。気に入った! いいな、お前!」

「ワン!」

 

 姉さんの言葉に反応するように、子犬が可愛らしく吠える。……あ、ROの肩がちょっと震えた。

 見れば、ROも少しウットリした表情で子犬を見つめている。

 

「ねえ、RO」

 

 今度こそびくりと肩を震わせ、ROは慌てて私の方を見た。

 

「ななな、何かしらM4」

「……触る?」

 

 私の言葉に、うぐ、という声を漏らすRO。

 けれど、首をブンブンと左右に振ると鋭い視線を私へ向けた。

 

「M4、その子犬は基地で保護できないのでしょう? 今からでも遅くないと思うの。私も弁護してあげるから、指揮官のところに行きましょう」

 

 毅然とした態度で、そういい放つRO。

 

「RO、そこを何とかできないかな?」

 

 子犬を触っていたSOPⅡが上目遣いでROに嘆願する。

 そんな彼女を真似するように、子犬もROを見上げた。

 

「う……そんな目で見るのはやめて。それに、私がどうこうできる問題じゃ……」

「くぅ~ん……」

 

 子犬が悲しそうに鳴いた。ROの表情がどんどん渋くなる。

 

「AR-15! アナタからも何か言って!」

 

 一人では無理だと悟ったのか、ROはAR-15に助けを求めた。

 

「え、私!? あ……あー、えと……可愛い、わよね?」

 

 AR-15のとんちんかんな返答に、ROの体がぐらりと揺れた気がした。

 AR-15はそもそも話を聞いていなかったみたい。視線は完全に子犬に釘づけだ。

 何なら、手のひらをせわしなく握ったり開いたりしている。

 これ、子犬が触りたくて仕方ないんだろうな。いつ触りに行こうか、それだけを考えているみたいだった。

 

「なあRO。どうせこの後指揮官のところに行くにしても、その前にお前も触ったらどうだ? こんな機会、滅多にないと思うぞ」

 

 M16姉さんが追撃をかける。グッと奥歯を噛み締めたような表情をするRO。揺らいでるなあ。

 

「ほら、AR-15も触りな」

 

 M16姉さんは子犬から離れ、AR-15にそう促す。

 AR-15は恐る恐る子犬に手を伸ばした。なんだか、びくびくしてるAR-15の方が子犬みたいだ。

 そんな子犬みたいなAR-15の指先を、子犬がぺろりと舐めた。

 

「ひゃっ!?」

 

 驚き、手を引っ込めるAR-15。けれど、再び恐る恐る手を伸ばす。

 またぺろりと舐められた。今度は手を引っ込めずに済んだみたいだ。

 

「わぁ……」

 

 AR-15が声を漏らす。その表情は、今まで見たことがないくらいに緩んでいた。これは結構レアなものを見たかもしれない。

 一方、そんなAR-15の様子を見たROは、挙動不審になっていた。

 子犬をチラチラ見ては、頭を左右に振ってを繰り返している。

 きっと、子犬と触れ合う欲望と、規律を守ることの間で揺れているんだと思う。

 

「RO? その、いいわよ。コレ」

 

 そんなROへAR-15がトドメを刺しにかかった。しかも、いつもの冷静なAR-15の声ではなく、とても柔らかい声色で。

 

「う……うぅ~……」

 

 いつものしっかり者なROはどこへやら。唇を尖らせ、もじもじする彼女の姿はとても可愛らしい。ROって、こんな表情が出来たんだ。

 

「ち、ちょっとだけ……ちょっとだけよ!」

 

 誰に言い訳をしているのか、そう言ってROはゆっくりと子犬に近づく。

 そっと伸ばした手で、ROは子犬の頭を撫でた。

 

「ふわぁ……」

 

 AR-15以上に気の抜けた声を上げ、ROは子犬の頭を撫でる。

 子犬も、気持ちよさそうに目を細めていた。

 埃っぽい倉庫には似合わない程に和やかな空気が辺りに漂った。

 皆、穏やかな表情で代わる代わる子犬と触れ合う。

 頭を撫でたり、指先を舐められて笑ったり。子犬を抱っこして顔を舐められて騒いだり。

 鉄血との戦いなんて、どこか遠くの世界のことに感じられるような時間だった。

 誰もがリラックスしきっていた。戦場で私を含めた皆が漂わせる、張り詰めた空気はここにはない。

 だからだろう。私達の背後で、倉庫の入口の鍵が開けられた音に気付かなかったのは。

 

「やっと見つけた。随分楽しそうじゃない、AR小隊」

 

 絶対零度を思わせる声の主が、私達を睨みつける。

 UMP45が、部屋の入口に立っていた。

 

 




可愛いは正義。
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