女性指揮官と戦術人形達のかしましおぺれーしょん【完結】 作:笹の船
コラボ要素ありです。
グリフィン管理R06地区の前線基地から少し離れた街へ、私はやってきていた。
規模としては中くらい。治安もそこそこの、まあ住みやすい街だ。活気もそれなりにある。
そんな街の明るい大通りから裏路地に入り、建物と建物の間の細く薄汚れた通路を歩く。
今の私の格好はグリフィンの制服ではなく、黒の革ジャンにジーンズ、そして目元を完全に隠せるサングラスという若干不審者チックな格好だ。
勿論、こんな格好にも意味はある。これから向かうのは、とてもじゃないけれど褒められるような店ではないのだ。特に、グリフィン職員としていくと問答無用で銃を引き抜かれるような場所である。
路地の終着点につく。地下へと続く階段のすぐ横に、スキンヘッドでサングラスを身に着けた、筋肉質な男が煙草を咥えながら壁に寄りかかっていた。
薄手のTシャツに黒のカーゴパンツ。右足にはユーティリティベルトか。多分背中側にはピストルホルスターがあるだろうな。
「ふぅ……お嬢ちゃんよぉ、ここはアンタが来るような場所じゃないぜ。帰んな」
うんざりしたような表情で私を見やった後、男は腰に手を当てて再び煙草を吸い始めた。
この手の人種にしては珍しく優しい男だ。面倒が嫌いというのもあるだろうけれど、私を見て下衆な笑みを浮かべず、素直に帰れと言うのは中々好感が持てる。質の良い用心棒を雇ってるみたいね。
まあそれはそれとして、私は店主に用事があるわけだから通してもらわなきゃいけない。
「ねえ、店主に会わせてよ。『
「ああ? 帰れって言ったろ。死ぬ方が幸せに感じるような目に遭うぜ」
ダメか。まあ、いきなり来てこんなこと言う女をホイホイ通すようじゃあ用心棒としても失格だものね。
仕方がない。ちょっと強引だけどあの手が一番手っ取り早いかなあ。
「ねぇお兄さん。私どうしても通りたいのよね」
「ダメだ」
「そっかあ……じゃあ」
ぴっちりと閉じていた革ジャンのファスナーを下ろして、前を開ける。下に来た白地のTシャツと、ショルダーホルスターがあらわになった。
その瞬間、男が素早く動いて腰に置いた手をこちらに向けた。
彼の手にはピストルが握られている。Mk23……ソーコムピストルか。ご丁寧にサプレッサーまでついている。当然っちゃ当然だけど。
薄暗い裏路地に、パスンという軽い音が響く。男の拳銃が発砲されたのだ。
けれど私は撃たれるよりも速く半身になることで弾丸をかわす。私の心臓を狙った銃弾が、むなしい風切り音と共に通り過ぎていき、背後でアスファルトが砕かれた音が聞こえた。
その時には既にホルスターからM1911を引き抜いた私が、男に狙いを定めていた。
二度目の乾いた銃声。続いて金属と金属が衝突する甲高い音、そして重いものが地面に落ちる荒々しい音が路地に響き渡った。
サプレッサーの先から硝煙が立ち昇っている銃は、私のM1911だった。
やったことは簡単だ。弾を避けて、早撃ちで男の銃を撃っただけ。当然男は衝撃で銃を取り落とす。
結果、手を抑えて私を睨む男と、男に銃を向ける私という構図が出来上がるわけだ。どちらがこの場において優勢であるかは、語るまでもない。
「くっ……このアマ……」
「まだやる? 私は格闘戦もウェルカムよ。……お代は高くつくけどね」
「テメェ……分かった。着いてこい」
うんざりしたような表情を再び浮かべ、男は私に背を向けた。
無防備に背を晒す行為に、私は銃を下ろす。が、ホルスターには仕舞わない。油断は禁物だ。
「背後のおにーさん。怪我したくなかったら私に触らない方がいいわよ」
「……気づいていたとはな」
そう。気を抜くとやられる。それがこういう場所のルール。
肩越しに視線を後ろに向ければ、スタンガンをこちらに突きつけようとしている男の姿があった。危ない。ちょっと気づくのに時間がかかった。鈍ってるなあ……。
いつでも撃てるように態勢を整えていると、階段の下から誰かが上がってくる足音が聞こえてきた。
「その辺にしとけ。その女、俺の元下っ端だよ」
「マスター、アンタ……」
無言のにらみ合いとでもいうべき空間に割って入ってきた人物こそ、私が今日ここに来た目的の男だ。
「……少し禿げたんじゃないの、
「そういうお前は大分腑抜けたな、
禿げ気味の頭に、垂れた目とそれを強調するかのような丸眼鏡。無精髭は生やし放題で、ヨレたシャツにだぼだぼのボトムス。不潔とまではいかないにしても、清潔感なんて言葉からは遠く離れたこの男が、裏社会のデータバンクと呼ばれる男であることを知るものは少ない。
かつて、私が正規軍を抜けてグリフィンの指揮官になるまでの間。その空白期に、私はこの男の下で働いていた。
彼が集めた情報を取引先に持って行く、あるいは彼が欲する情報を私が取りに行って彼に伝える。それが私の仕事だった。
そこからついた名前が、
「なつかしいな。昔はこうしてお前とよく二人で店に帰ってきた」
「まだ五年と経ってないわよ。やっぱりカビた書庫にこもってると老化も早いのね」
「ぬかせ。そういうお前は随分とメスの顔になったじゃねぇか。聞いてるぜ。戦術人形と結婚したんだってな?」
「正確には誓約だけど、まあそうね」
ゆっくりとした歩調で階段を降りながら、彼の書庫を歩く。
書庫と言ってもぱっと見は場末のバーだ。密造酒やら違法ドラッグなんかを取り扱っているだけの、スラムのどこにでもありそうなバー。それがここ『データサーバー』。名前のセンスがダサすぎて笑えもしない。客もいないし。
「おい。お前また俺のバーの名前がダサいとか考えてただろ」
「べっつにぃ? 客も来ないアンタの場末のバーの名前なんて犬のクソほどの価値もないわよ」
「言ってろクソガキ。ほら、入れ」
アゴで
久しぶりだったけれど、体は覚えているもので、するりとハッチの中へと体を滑り込ませる。
体を滑り込ませたその先には、真上にあるバーの店内よりも広い空間だ。
そこかしこに配線が引かれ、その先には大小さまざまな書架……もといデータサーバーが稼働している。
部屋の奥には大型のコンソールと合計で9つほどのモニターが点灯しており、それぞれがどこかの風景を映し出している。
「いつ来てもすごいわね。グリフィンの司令室だってこうはいかないわよ」
「PMCはどこも情報をナメ過ぎなんだよ。これくらいやらなきゃダメだ」
「それは同感」
「で? 今更思い出話をしにここまで来たわけでもねェだろ?」
「話が早くて助かるわ。単刀直入に言う。情報が欲しい」
「ほう? で、いくら出す?」
全くがめついのは変わらないわね。最もそんなことは想定済みだ。
ポケットから小型タブレット端末を出して、払える金額を提示する。私のポケットマネーだけど、提示した額だけで一般市民としてなら数年は遊んで暮らせる。その位の額だ。
グリフィンの指揮官という肩書はこういう時の金の工面に困らないくらいの高給取りなのがいいところだ。
「随分気前がいいじゃねぇか?」
「これからしばらく、アンタから情報を買いたいからね。それの前金でもあるわ」
私の言葉に
「いいだろう。払うもん払ってくれるんなら俺ぁ情報をくれてやるさ。……何が欲しい?」
「G&Kで不穏な動きをしている連中の情報」
私の注文に、
「おいおい。お前、自分の職場とコトを構えるつもりか?」
「逆よ逆。隠れてバカなことやってる連中がいそうな気がするから、そいつらに分からせてやろうと思ってるだけ」
「なるほど。まあいいさ。俺は情報を売るだけ。お前は俺に金を払うだけ。互いの事情なんてどうでもいいもんな」
余計なことは詮索しない。私が
「まあG&KもPMCだ。黒い噂なんて吐いて捨てるほどあるが……悪いな。最近はあまり仕事をしてなかったんで、品薄なんだ」
「何やってんのよ。
「そう言うな。あれだけの金を貰えるんだ。満足する情報を集めてみせるぜ」
そう言ってニヒルな笑みを浮かべる
「じゃあ任せるわよ。金はいつものところに振り込んどくから」
「まぁまてよ。手ぶらじゃ寂しいだろ。品薄だが、手持ちの情報位はくれてやる」
気前がいいわね。まあ、それに見合うだけの金は払う。これくらいはサービスしてもらってもバチは当たらないだろう。
「どんなのがいい? 笑える奴から真面目な奴まで、色々あるが」
「笑える奴と真面目な奴一つずつで」
こういうのはあれこれ聞いてもキャパオーバーするものだ。一個ずつくらい貰って終わりにするのがちょうどいい。
そんな私の余裕は、次の一言で吹っ飛んだ。
「D08地区の指揮官が人形9人と誓約だとよ。このご時世に重婚たあ甲斐性があるというかなんというか」
「9人……頭が痛くなりそう……懐の深い指揮官もいたものね……」
誓約済みの人形が9人もいるなんて、ちょっと想像できない。45みたいな子が9人? パッと候補に挙がりそうなのは45、M14、スプリング……ダメだ多くても3人ね。これだけでも私が持つか分からない。色んな意味で。
「まあ愛のカタチってのは人それぞれだともいうしな。いいんじゃねえか。幸せそうにしてるって話も聞いてるぜ」
「それならいいんじゃないの。確かに、びっくりするけど笑える話かもね」
一番笑っているのは当事者の10人だろうけど。
「ついでに全員ボインだそうだ」
「ざっけんな! アタシと45に対する当てつけか!?」
「お前はそれなりにある方だろうが!?」
うるせえ、このクソスケベめ。私達に対して喧嘩を売ってるとしか思えない。
そんな私に落ち着けというジェスチャーを必死にする
「じゃ次。真面目な話だ。S09の指揮官が刺されたらしい」
「……そう」
ユノちゃんが……。まあ、彼女は敵が多いだろう。S09という最前線の基地にいる、幼い指揮官。手を出すには格好の的だ。……彼女の周りの人形達の実力を知らなければ、だが。
でも、あの鉄壁な防御すら抜かれたのか。一体何が……。
「その様子じゃ、あそこの指揮官についてはそれなりに知ってるみたいだな」
「知らない仲じゃあないわ」
「その割にはリアクション薄いな?」
「別に……PMCで仕事してて、刺されたくらいで喚くなら辞めた方が幸せだもの」
嘘は言っていない。嘘は。
こんな仕事だ。刺された、撃たれたなんてのは珍しくない。
「相変わらず、お前は本音と建て前が分かりやすいな」
昔
未だに直せていない。前よりは……まあ、マシになった気がするけれど。
刺されたくらいで、とは確かに言った。けれど、ユノちゃんが刺されなければならない道理はない。あの子が一体何をした?
髪から色素が抜け落ちるくらいの環境に放り込まれ、人を人として見られないような目にされて、それでも家族と笑おうとしていたあの子が、どうして……!
分かっている。彼女自身に自覚はなくともPMCってのは業の深い仕事だ。彼女には知らされていないだろうけど、彼女の周りには彼女が被るべき泥を代わりに被る人形達が大勢いる。
そんな人形を指揮している時点で彼女も同罪だ。知らない、なんて言い訳は通用しない。人の不幸を飯の種にする。それがPMCだ。
故に、刺されたとしても文句は言えない。それが道理だ。
……そんな道理、クソくらえ。
「まあ、そんな怖い顔するな。既に下手人の一部は消されてる。残りも時間の問題だろうぜ」
「流石、といったところかしら。他に情報は?」
「ねぇな。あったとしても、これ以上はクソガキのメンタルには辛いだろうぜ」
悔しいが否定はできない。今日のところは大人しく帰るとしよう。
「また来る」
「あいよ。またのご来店をお待ちしております。ってな」
肩をすくめる
私の心の声を代弁するかのように、シトシトと雨が降っていた。
……早く帰ることにしよう。
ずっと出したかったシーラさんが指揮官になる前にアンダーグラウンドの業界に属していた設定。
今後のフラグとしても使っていく予定です。
ソレと事後報告ですが他作品についても少し言及させていただきました。
言及した作品は下記になります。
・元はぐれ・現D08基地のHK417ちゃん/カカオの錬金術師様
・それいけポンコツ指揮官とM1895おばあちゃん!!/焔薙様
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