女性指揮官と戦術人形達のかしましおぺれーしょん【完結】 作:笹の船
「なあああっ!?」
冷蔵庫を開けた私は、目の前に広がっていた光景に思わず叫んだ。
栄養剤とか、ミネラルウォーターとかが置いてある中、そのど真ん中に並べて置かれた二つのプリン。
片方の容器には『UMP45』と書かれていて、もう片方には『Sheila』と私の名前がでかでかと書かれている。
にもかかわらず、だ。
「なんでアタシのプリンだけ空っぽになってんのよ!」
「シーラ、口調、口調が荒いわよ」
UMP45が私をなだめてくれるけれど、今はその程度でこの荒れ狂う思いを止めることなど出来はしない!
「犯人は誰!? 怒らないから出て来いクソッタレ!」
「既に怒ってるじゃない……」
一通り叫び散らしたら、息が上がった。溜まった怒りを一時的にでも吐き出したので、その反動で冷静になる。というか、なりすぎて落ち込んできた。
「アレは街でめったに手に入らないレアものよ……スプリングの特製プリンにも勝るとも劣らない美味しい奴……」
「はいはい落ち込まないの」
司令室のソファーに倒れ込んだ私の頭を、45が優しく撫でてくれる。が、それだけなのだ。
この、私の、愛しい恋人は! 頭を優しく撫でるだけなのだ! 自分の分のプリンは、一口だって! 分けてはくれないのだ!
「ねえよんご~」
「ん? どうしたの」
「プリン分け――」
「仕事しましょう」
クソがッ! 一口位のお慈悲をくれたっていいじゃないか!
こうなったらやることは一つだ。
私はソファから勢い良く立ち上がり、そして宣言した。
「犯人探しよ」
「仕事しなさいよ」
風切り音と共に何かが飛んできたので、とっさに身をかがめてかわす。
壁に重い何かが当たった音がした。見ればいつぞや私が45に投げつけた文鎮だ。
「危ないじゃない!」
「チッ。当たれば黙ると思ったのに」
そりゃあ黙るでしょうね! 痛みで!
「失礼しま……何をやってらっしゃるんですか、指揮官」
私と45が無言のにらみ合いをしているところへ、司令室にスプリングフィールドが入ってきた。
「聞いてよスプリング! 私のプリンが誰かに食べられたの!」
「聞いてよスプリング! シーラが仕事をサボろうとしてるの!」
私と45が同時に口を開き、意図せずしてスプリングに挟撃を仕掛けることになってしまった。どちらも声が大きかったから、スプリングが思わず顔をしかめている。
「UMP45、だからと言って文鎮を投げるのはやめてください。指揮官はプリン一つで騒ぎすぎです。お気持ちは分かりますが、それは業務が終わった後にしてください」
二人同時に話しかけられて、それでもちゃんと処理できるあたり流石人形だなって思う。人間だと間違いなくこうはいかない。
じゃなくて。
「スプリング、何か心当たりない? 私のプリンを食べた犯人」
「その話は後にしてください、指揮官」
後にできるもんか! 私の今日の一番の楽しみだったんだぞ!
あのカスタードプリンの甘さと滑らかさに、ほんのりと苦みを感じるカラメルソースッ! 舌の上でとろけていくプリンの食感! 乙女心をくすぐる甘い香りッ! あれこそがスイーツ! そう、スイーツなのだ! それを!
「一体誰が食べたのよ!」
「何回目よそれ……」
「よっぽどショックだったんですね……でも、こんなに荒れてる指揮官を見るのは珍しいです」
スプリング、珍獣を見るような目で私を見るのはヤメなさい。私だって荒れるときは荒れるんだってば。
「プリン……」
「シーラ……分かったから。ちゃんと今日の分の仕事終わらせたら、一口分けてあげるから」
「よし来た! それでこそよんごー!」
一口でも食べられるとあればがぜんやる気も出てくるというもの! よーし、頑張るぞ!
「ちょろい……大丈夫かしら私のお姫様。いつか変な人に騙されそう……」
45が何か言ってるけど聞こえなーい。今の私にはプリンが待っている。無敵だ!
で、そこから自分でも驚くくらいの集中力を発揮した結果、午前中グダついてたせいで遅れていた仕事をきっちり定時までに終わらせることができた。
さあ、さあ! お待ちかねのプリンだ!
「シーラ、鼻息荒い。キモイ」
「そう言うよんごーだって、さっきから冷蔵庫にばっかり目が行ってるじゃん」
「鼻息荒いメスゴリラよりはマシですー」
「私がゴリラならアナタはチンパンジーかしら」
「立ったまま死ぬのがご所望?」
「やれるもんならやってみなさいっての」
くだらないやり取りをしながら、けれど45は冷蔵庫へと向かってプリンと、スプーンを二つ取り出してくれた。素直じゃないんだからー。
「クスクス……相変わらずお二人は仲が良いですね」
スプリングが呆れたような笑みを浮かべながら、私達が処理した書類を綺麗にまとめた。あのままでも問題なかったと思うけど、わざわざやってくれるのは几帳面というかなんというか。
「ほらシーラ、一口だけよ?」
「んふふ♪ ありがとーよんごー」
いつの間にかプリンのふたを開けてスプーンを差しだしてくれていた45に、お礼を言いながら容器の奥までスプーンを差し込む。
「ちょっと! 多過ぎよ!」
「一口だけなんだからいいじゃん」
「……一口以上食べたら殺すからね」
分かってるってば。そんなに睨まないで欲しいなあ。
言われたとおりにスプーン一杯分だけプリンをすくって、落とさない様に口の中に運ぶ。
プリンが私の口の中に入った瞬間、カスタードプリンの甘さとカラメルソースのほんのりとした苦みが絶妙はハーモニーを奏で始めた。
うん、仕事終わりの甘いモノっていうのはやっぱ格別だなぁ!
「それにしても、誰なんだろうね」
「んー?」
45がプリンを頬張りながらぼそりとそんなことを呟いた。
「シーラの名前が書いてあるプリンを食べるなんて、よっぽど度胸のある奴か食い意地の張った人形だとは思うんだけど、正直心当たり無いのよねえ」
確かに、一体誰が食べたんだろう。食いしん坊的な線で行けばSPAS、甘党ならわーちゃん辺りが怪しかったりするけど、二人はそこまでがっついてないから……いや、SPASはちょっと怪しいかも……。
イタズラって意味ではスコーピオンとかSOPⅡあたりだけど、二人共そこまで意地悪なことはやってこなさそうだ。ていうか、あそこにプリンがあるのを知らないと思う。
となれば、司令室の冷蔵庫にプリンが入ってることを知っていて、甘いのが好きで、度胸がある人形……。
「よんごー?」
「私じゃないわよ」
「だよねえ」
うーん。誰だろう。
さっきの条件に当てはまる人形は……。
「クスクス……」
え? いやいや。まさか。犯人は現場に戻ってくるとは言うけど、こんな堂々と戻ってくるような犯人はいないわよね?
「……スプリング?」
「なんでしょうか?」
「プリン……」
「……ふふっ、ご馳走様でした」
そう言ってニコリと笑いながら、スプリングはペロリと口の周りを可愛らしく舐めた。
えぇ~……? マジで? この子が? まさかそんな。
隣の45もあっけに取られて口が開いている。
そりゃそうだ。スプリングがこんなことをしたことなどないはずだもの。
「スプリング……ホントにあなたが?」
「美味しかったですよ。全く、私の分も買ってきてくださればこんなことせずに済んだのですけどね」
「うっ……」
そうは言うが、そもそもあれは結構値が張るし数量限定品なのだ。私と45の分で精一杯だったのだから仕方がない。
だからこそ名前を書いて冷蔵庫にしまっておいたのだけれど……。
「まあ、指揮官は私が自分へのご褒美として作って隠したプリンを、いつもこっそり食べているのですから、これくらいは許してくださいますよね?」
「「うっ」」
思わず私と45がギクリと肩を震わせた。この間も食べたばっかりだからなあ……。今回は45がSPASから奪い取ったんだけども。
ていうか、ニコニコしているスプリングがちょっと怖い。これに関しては私にも非があるから、文句を言うにも言えない。
仕方がない……次に街に出た時はもう少しお金を持って行こう。
「期待してますね、指揮官♪」
……これは次回、気合いれて取りにいかないと後が怖いかもなぁ。
スプリングフィールドって、突然茶目っ気ある行動をしてくると思うんです。
普段真面目だから、そんな茶目っ気発揮されたら大体のことは許せそう。
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