女性指揮官と戦術人形達のかしましおぺれーしょん【完結】   作:笹の船

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指揮官とスコーピオンとUMP45がキルハウスで訓練する話


Let's Training

「指揮官! 一緒に訓練して!」

 

 柏手を打つように両手を合わせて頭を下げたのは、スコーピオンだ。

 

「訓練……? どうしたの突然」

「えっと……その……とにかく一緒に訓練してほしいんだよ!」

 

 突然のお願いにこちらが困惑をあらわにしつつ、そう聞き返してみれば返って来たのはとにかく訓練してほしいの一言。

 別にそれ自体は構わないのだけれど、わざわざ私を指名してくるあたり何かしらの事情があるのは明白だ。それが分からないまま訓練するというのは、どうにもモヤっとしてしまう。

 私に頼ってきて、かつ事情を離すのをためらう理由……うーん。一つ心当たりがあるなあ。鎌をかけてみようか。

 

「フュンフに訓練で負けたりでもした?」

「えっ!? 何で知ってるの!?」

 

 ビンゴ。やっぱりそういうことか。

 

「勘よ。まあ、アナタが直接私を頼ってきて、かつ理由を隠そうとするのなんてそのくらいでしょう?」

「うぅぅ……まあ、正確にはちょっと違うんだけど、そこまでバレてるならちゃんと話すよ」

 

 そうしてスコーピオンは経緯を話し始めた。

 スコーピオンが勝手な行動をとったことを私に咎められたあの日以降、スコーピオンは定期的にフュンフとキルハウスで遭遇戦を行っていたらしい。

 最初はスコーピオンの方が勝率が高く、大体8:2くらいの割合で勝っていたそうだ。

 けれど、最近はだんだんとその勝率の割合が変わっていき、ついにこの間5:5にまで並ばれたらしい。

 そして昨日、とうとう勝ち越されたそうだ。

 初めてスコーピオンに模擬戦で勝ち越して、えらくご機嫌なフュンフの姿を見て非常に悔しい気持ちになったんだとか。

 その時、以前フュンフが私にボコられたということを聞いたので、私と訓練をすればもっと強くなれるんじゃないか、と判断した結果がさっきのお願いだったとのことだ。

 

「いいわよ」

「ホント!? やったぁ! これで強くなれるぞぉ!」

 

 これからボコられるかもしれないのに、両手を上げて喜ぶスコーピオンに思わず苦笑してしまう。よっぽどフュンフに負けたのが悔しかったのね。

 まあ、私としても悪い話じゃない。

 この間図書館の店――データサーバーに行った時、私は店の前にいた用心棒の一人に簡単に背後を取られてしまった。

 図書館が言っていた通り、昔仕事で訪れていたスラムだったり組織であんなヘマをしたら、死んでいてもおかしくない。

 いや、死んでいるならまだマシか。死ぬ前に死にたくなるような屈辱を何度も受けることになる可能性の方が高い。

 こう言う時ほど、女に生まれたことを恨みたくなる。

 ズキリ、と下腹部の古傷が痛んだ。思わず、古傷を押さえる様に手を置く。

 ともかく、伝言屋として現役だった頃に比べて色々鈍っているのが分かった。

 今後のことを考えれば、これは致命的だろう。

 であるならば、私自身もこれまで以上の訓練が必要になる。

 

「スコーピオン、訓練する以上は私も全力でやるからね? 勝てないからって泣かないでよ?」

「言うじゃん! MP5はぼこぼこに出来たかもしれないけど、私も同じように行くとは思わないでよね!」

「そう? じゃあ期待しておこうかしら。じゃあ、定時過ぎたら訓練場でね」

「オッケー! 待ってるね指揮官!」

 

 そう言ってスコーピオンはご機嫌そうに司令室を出ていった。

 

「シーラ」

 

 不意に今まで黙っていた45が私へ声を掛けてきた。

 

「どうしたの、45」

「……ほどほどにね」

 

 何を程々にすればいいんだろうか。……いや、答えなんて一つだけだろう。

 

「分かってる。そのうちちゃんと話すから。抱え込んだりは、しないわよ」

「ならいいけど」

 

 そうは言いながらも、45の表情はどこか曇ったままだった。……まあ、私がもろもろを一人で抱え込まないようにする、と言っても信用されないのは仕方がない。

 それはさておき、今はとにかく仕事を終わらせよう。

 きっちり定時までに終わらせて、スコーピオンと汗を流さなきゃいけないからね。

 

 

 仕事は無事定時に終わり、私は訓練所に来ていた。

 既にスコーピオンは準備万端のようで、おでこにゴーグルをつけて、銃の方もペイント弾を装填できるように調整を施したものを持っていた。

 

「で、なんで副官も来てるの?」

「いいじゃない別に。私も最近張り合いのない作戦が多くて、鈍ってる気がしてね」

 

 嘘つけ! 人形に鈍るも何もないでしょうに!

 思わず隣の45をにらみつけるも、返って来たのは涼しい笑みだけ。

 

「仕方ない。三人でやりましょう。全員敵の、バトルロワイヤル方式で遭遇戦ね」

「う……副官もいるのはちょっと自信無くなるなあ。でも、負けないよ!」

「まあ精々頑張りなさい、イノシシ娘さん♪」

「45、煽らないの」

 

 軽口をたたきながら、私達も訓練の準備を始める。

 数分後、それぞれ無線機をもって私達はキルハウスの各所に散らばった。

 

「二人とも聞こえる?」

『こちらUMP45、感度良好よ』

『こちらスコーピオン! こっちも感度良好だよ!』

「おっけ。それじゃあルールの確認よ。と言っても普通の遭遇戦。被弾したらその場でヒットコールしてキルハウスから退場。セーフエリアに戻ってね。出るときは誤射を防ぐためにちゃんとアピールしながら出ること。何か質問は?」

『指揮官、いいかしら』

 

 45の声だ。やや硬めの声質と私を指揮官と呼ぶあたり、仕事モードになっているみたいだ。

 

「UMP45、どうぞ」

『近接攻撃は有り?』

「うーん……まあ、怪我しない程度でね」

『了解。UMP45アウト』

 

 なんかちょっと不安だけど、まあ45ならその辺の加減を間違えることは無いでしょう。

 さて、45もいることだし、これは持ちうる力全部出さないと情けない結果になりそうだ。

 スコーピオンには悪いけど、本気で潰させてもらうとしよう。

 祖のスコーピオンからは特に発言もないようだし、質問は無いものと判断する。

 

「それじゃあ始めるわよ。……3」

 

 いつでも移動できるように少しだけ腰を落とす。

 

「2」

 

 無線機を触る手とは反対の手に持ったUMP45のグリップを握りなおす。

 

「1」

 

 一瞬目を閉じて、意識を戦闘モードに切り替える。神経が研ぎ澄まされ、五感が鋭くなっていくのを感じる。

 

「GO!」

 

 スタートコールと共に無線を切って、スタート地点から早歩きでその場を離れる。

 まず最初の曲がり角。背後に気を付けつつ、曲がり角の先をちらりとのぞき込む。クリア。

 UMP45を構えて出来るだけ足音を立てない様に進む。問題なし。次の曲がり角についた。

 クリアリング。敵影無し、物音も近くでは聞こえない。

 再び足を動かす。

 今私がいるのは狭い通路だ。左右は壁に挟まれ、人が二人半身になってすれ違うのがやっとといった広さだ。次の曲がり角までの距離は約4メートルほどだろう。

 遮蔽物などない。ここで背後、または正面から会敵したら、私は分が悪すぎる。早いところ移動をしておきたいところだ。

 けれど焦りは禁物だ。焦りはミスを生むし、ミスは状況を不利にする。慎重に、けれど大胆な行動が勝利への近道だ。少なくとも、私はそうしてきた。

 視覚は勿論だけど、聴覚にも意識を割く。

 前方から足音。数は一。歩調は非常にゆっくりとしたもので、隠密を意識したものに感じる。

 おそらくスコーピオンだ。性格上、隠密には向かない彼女だが、恐らくそれはスコーピオン自身が一番自覚しているだろう。

 だからこそ、物音を立てないように細心の注意を払って移動している。それを示す様に、一歩、また一歩とビルの間に渡された細い橋を渡る様なこわごわとした足音が聞こえてくる。

 私はその場で足を止めた。アンブッシュをするためだ。ここで45にバックアタックを仕掛けられるのはマズいけれど、今私がいるのは曲がり角から五歩くらいのところだ。

 思い切り地面を蹴飛ばせば、二歩で曲がり角の先へ戻れる。そうすれば、少なくともスコーピオン側からの射線は切れるはず。

 もしも後ろから45が来たら、一か八かの賭けになる。一気にスコーピオンがいる曲がり角へ走るか、あるいは45と正面からかち合うかだ。

 どちらも分が悪い。けれど、それはその状況になってから考えよう。

 足音が近づいてくる。深めに息を吸い込んで、愛銃に取り付けたホロサイトを覗き込んだ。

 曲がり角から金色のツインテールの端が見えた。引き金にかけた指に少し力を籠める。

 続いて頭が見えた。背後を警戒しながら、後ずさっているスコーピオンだ。甘い。

 スコーピオンが今更になって通路の先に危険がないかを確認しようとしたらしい。こちらの方を向いて、そして私と目が合った。

 スコーピオンが慌てて銃を構えるが、それよりも早く私が引き金を引いた。

 べしゃり! という音と共にスコーピオンのゴーグルが真っピンクに染まる。

 

「ひ、ヒットー!」

 

 スコーピオンのヒットコールを耳にしながら、一気に私は元来た道を走って戻る。

 彼女が背後を警戒していたということは、45がスコーピオンの後ろにいるということを彼女が察知していたということ。

 そして、今の私の発砲音とスコーピオンのヒットコールを聞いたなら、45は間違いなくバックアタックを仕掛けてくるはずだ。

 勿論、その行動が読まれることが分からない程、あの子はバカじゃない。

 ここから先はお互いの読み合い、化かし合いだ。

 スタート地点を横切って、反対側の曲がり角の近くまで走る。足音が鳴っているけれど、スコーピオンが退場のアピールを大声でしているからある程度は緩和され……いや、それは流石に楽観的過ぎるかな。

 曲がり角の先に身を躍らせるのは流石に不味い。そう考え、速度を落としてクリアリングをする。今度は慎重に、顔を半分だけ出すようなクリアリングだ。

 右に曲がる曲がり角だから、顔の左半分を晒す形になる。そうして、左目が曲がり角から出た瞬間、私は顔を引っ込めた。

 直後、私の顔が出ていた部分をペイント弾が通り過ぎていく。あっぶねえ! バレてた!

 こうなるともう私は不利だ。向こうはいつでも撃てる状態。こっちはカバー状態で、狙いをつけられない。

 人対人であっても不利なのに、相手が45とあっては勝ち目がない。

 かといって、ここから移動するのも難しい。下手に移動すれば、向こうに先回りされる可能性が高いからだ。

 45だってこのキルハウスは使っている。レイアウトの記憶の度合いなら、向こうが上だ。

 あれ、詰んでない?

 クッソ、めんどくさいなもう。この先の通路は確か5メートル先に右への曲がり角が、2メートル先に左への曲がり角があったはず。

 一か八かだ。

 UMP45のセレクターをフルオートに変え、グリップを握る手を左手に持ち変える。空いた右手でM1911をホルスターから引き抜いた。

 やることは単純。UMP45とM1911で弾幕を張って牽制しながら、左側の曲がり角に飛び込む。それだけ。その先はとにかくリロードをしながら全力で距離を取って、仕切り直しだ。

 再び顔半分を通路にさらしてクリアリングをする。即座にペイント弾が飛んできた。顔を引っ込めてそれをやり過ごす。

 そんなことを何度か繰り返した。45のマガジンの中は、そろそろ空になる頃だ。

 心の中で3カウントをする。

 3、2、1……今!

 一気に通路へ踊りだし、UMP45の引き金を引きっぱなしにする。

 ペイント弾が嵐のごとく通路に吹き荒れ、辺り一面をピンク色に染め上げていく。

 その間に私は地面を蹴飛ばして、左斜め前方の通路へと跳躍した。

 その間わずか3秒弱。渾身の力でもって地面を蹴飛ばした結果、私の体は一時的に低空飛行を始め、そして重力に従って地面に叩きつけられた。

 

「ぐっ!」

 

 銃を壊さない様に空中で体をひねって背中から着地する。何発か撃たれていたみたいだけど、それほど多くの弾は飛んできていなかったように思える。上手く行っただろうか。

 すぐに体を起こしてM1911を構えて、そして気づいた。

 私の右足に履いたタクティカルブーツ。その先っちょがピンク色に染まっていた。

 ああ、ダメだったかぁ……。

 

「ヒットー! チクショウ!」

 

 

 それからしばらくの間、何度も遭遇戦を行った。

 私が45にアンブッシュを決めたり、45が私にアンブッシュを決めたり。

 時にはスコーピオンの大胆な行動に度肝を抜かれたり、睨み合う45とスコーピオンの二人を私が横から一気にキルしたり。

 総合的な結果で言えば45が6、私が3、スコーピオンが1といった割合で勝利を収めた。

 

「ぜぇ……ぜぇ……やっぱり……よんごーには勝てないか……」

 

 訓練が終わった時、私は既に体力の限界を迎えてセーフエリアで大の字になっていた。

 45は涼しい顔を、スコーピオンは苦いカプセルでもかみつぶしたみたいな顔をしている。

 

「くっそぉ……まさか指揮官にも負け越すなんて」

「仮にもシーラは元正規軍、それも特殊部隊所属よ。CQBエリアの戦闘なんてお手の物なの」

 

 スコーピオンに対してはフュンフと訓練した時と同じような感じだった。最初の一戦で行ったアンブッシュに始まり、マガジンから抜いたカートリッジを投げつけて気をそらしたすきにキルを取る、わざと足音を立てて警戒させ、その隙に45に撃たせる。

 それらを始めたとした、あらゆる手を使ってキルを取らせてもらった。

 必然的に45とタイマンすることが多かったのが今日の敗因かな……相手が悪すぎた。

 

「ねえ、指揮官。また今日みたいに遭遇戦、一緒にやってくれないかな?」

 

 訓練所の天井を眺めながら息を整えていると、スコーピオンが私のそばに屈みながら、そうお願いしてきた。

 勿論、答えは決まっている。

 

「いいわよ。ただし、アナタだけをひいきするわけにもいかないから、今後は私が訓練にいくときは他の子たちにも周知するわ。それが条件」

「う……分かったよ。MP5も来るかなあ」

「来るでしょうね。負けたくないなら、一杯考えて私やよんごーから一杯盗みなさい」

 

 とにかく、今日は疲れた……。次回以降どのくらいメンバーが集まるかは、明日考えよう。

 

「よんごー、部屋まで連れって……」

「……仕方ないわね」

 

 甘えた声でねだってみれば、よんごーは素直に私に手を差し伸べてくれた。

 んふふ……♪ 持つべきものは愛する者よね。

 そんなことを思いながら差しだされた手を掴み、よんごーに起こしてもらう。

 体が鈍りみたいに重いけれど、心地よい倦怠感だ。

 シャワーを浴びて、温かいベッドにもぐるとしよう。

 きっと、今日はぐっすり眠れる。

 




45姉とCQBエリアで遭遇戦とか絶対勝てないと思う。
あの人は任務が任務だから経験値も豊富だろうしね!


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