女性指揮官と戦術人形達のかしましおぺれーしょん【完結】 作:笹の船
何回か続きます!(多分2話構成)
今日も今日とて平和な一日……と、PMCらしからぬことを考えている時、司令室の通信機が耳障りな着信音を響かせた。
「45、誰から?」
出来れば出たくない。本部からのとか絶対出たくない。碌なことじゃないもの。出るけど。
けれど、45が口にした通信先は予想外のものだった。
「D08地区の前線基地からよ」
「D08……? ああ、あの9人と重婚した基地か。繋いで」
何よそれ、と呆れた顔になった45が手慣れた操作で通信機を操作し、通話を繋げる。
「こちらグリフィン管理R06地区前線基地の指揮官、シーラ=コリンズ」
『こちらグリフィン管理D08地区前線基地の指揮官、ディーノ・タカマチです。突然の連絡で恐縮ですが、早速本題に入らせてもらってよろしいですかね』
「ええ。突然連絡をしてくるってことは、それなりの状況なんでしょう?」
『あぁすいませんね、ウチのシマで殺ってくれたバカがお宅の地区に居るみたいなんですよ』
殺ってくれたバカ、か。さしずめテロリストあたりだろうか。
「D08地区で騒ぎを起こしたテロリストが、R06地区にもぐりこんでいるってことかしら?」
『ええ。それで、ウチの連中をちょっとばかし掃除に向かわせてるんですわ』
「向かわせてるって……報告だけしてくれれば私達の方で処理したのに」
『元はウチのシマにいた馬鹿どもですから、俺達が片づけるのが道理だと思いましてね。とはいえ、ウチとソッチとでは距離がありますんで、部隊の到着は夜になると思います』
今はちょうどおやつ時だ。人形だから移動中の休息は必要ないとはいえ、それでも到着は夜か……。そう言われるとやっぱりかなりの距離があるな。
それにしても余所のシマにまで来てテロリスト殲滅か。……何を考えている。貸しでも作って物資でもせびるつもりか?
そんな私の考えは、続くタカマチ指揮官の言葉で粉微塵になった。
『なぁに、一晩お世話になるだけですよ』
「え、そんなんでいいの?」
『えぇ。ウチの可愛い部下たちを一晩夜露のしのげる場所においてくれればいいんです。さっきも言いましたが、元はウチのシマで起きたことです。そちらにアレコレ要求しようだなんて、思っていませんよ』
呆れた。S09地区といいD08地区と言い、どうしてこうもお人好しなのか。
普通こういう時は貸しを作っておいて、後で何かしら私達に要求するものだろうに。これじゃあ私達側に貸しを作ることになってしまうぞ。
「……了解したわ。そちらの部隊の受け入れ準備は進めておく。それと、そっちの部隊がこっちに到着するまでの間、ウチから偵察部隊を派遣しておくわ。詳しい情報は彼女達から聞くように、通達しておいて」
『ご協力感謝いたします。そのように部隊にも通達します』
「こちらこそ、尽力感謝するわ」
「えぇ。では」
通信が切られる。
さて、お仕事が出来てしまったな。
私も通信機の前に移動して、コンソールを操作する。基地全体に放送を流すためだ。
マイクのスイッチをオンにして、準備を整える。
「こちら司令室。第四部隊、至急司令室に集合して。スクランブルよ。以上」
宿の準備だけしてふんぞり返るなど、私達の性には合わない。やれる範囲のことはさせてもらおうじゃない。
ブリーフィングが済み、第四部隊の面々が退室した後再び通信機が着信を知らせた。
……今度は向こうの指揮官が向かわせているという部隊からの連絡か。
「こちらR06地区前線基地のシーラ=コリンズよ」
『こちらD08地区前線基地所属のUMP45です。既にウチの指揮官から聞いていると思いますけど、ウチのシマで暴れたバカがソッチのシマに入り込んでいるみたいなので、こちらで処分させてもらいますね』
「ええ。そう聞いているわ。お節介かもしれないけど、こちらも一部隊現地に出撃させて斥候をしてもらうことにした。詳しい情報は彼女達から共有あるだろうから、それでよろしく」
『指揮官から聞いているわ。協力感謝いたします。では、また後程』
「了解」
短いやり取りを終え、通信を切る。……しかし、なんだか不思議な気分だ。私の良く知るUMP45とまったく同じ声で、けれど別人と会話をすることになるなんて。
ちらりと隣を見やる。45が小さく肩をすくめた。これからまた話すんだし、馴れておけとでも言っているのだろうか。
とにかく、今は目の前のことに集中しよう。余所の部隊を前に、下手な指揮は出来ないものね。
太陽が西に傾きつつある頃、スプリングフィールドを隊長に据えた第四部隊が廃棄された街――以前AR小隊がキャンディを拾ってきた未踏破地区だ――に足を踏み入れるのをドローン越しに確認する。
『第四部隊、ターゲットのいる地区に到着しました』
「OK。今回の作戦の内容を再確認するわよ。D08地区の部隊がターゲットを襲撃しやすいようにアジトの割り出しが主な目的。余力があれば敵戦力の分析もね。性質的にはスニーキングミッションになる。各自、敵に気づかれないように細心の注意を払って」
『了解!』
「まあ、あちらさんから来た情報で、ターゲットが潜伏しているのはこのあたりの区画だってのは分かってるから気負い過ぎないように」
私の指示を聞いて、第四部隊の面々がツーマンセルを組んでばらけていく。
唯一スプリングフィールドだけが一人になり、私の視界の代わりとなるドローンと共に廃墟となった雑居ビルを駆け上っていく。
やがて屋上に到着し、辺りを見渡せる位置に到着した。ドローンであたりを見渡してみるも、パッと見でそれらしいところは見つからない。
そりゃあそうだろう。仮にも正規軍崩れが混じっているとのことだ。高いところから見渡すくらいで見つけられるような場所にはアジトなんぞ造らんだろう。
『指揮官、私から見て10時方向。5軒ほど立ち並んだ廃屋の奥から二番目。出入り口付近に泥が付着しています。高さは地面から10cm程。泥の付き方から、野生動物のものではなさそうです』
双眼鏡を覗くスプリングが、報告と同時にドローンからの映像に自分の視界をリンクさせる。
ドローンの至近距離に人形がいるときだけ、ドローンのカメラ映像を人形の視界に変更する技術だ。無線でもできるが、ドローンと人形を有線接続するとなお望ましい。
切り替わった映像を確認する。確かに、報告通り不自然な痕跡が残っていた。
大方、正規軍崩れではないただのチンピラの不注意で残ってしまった痕跡だろう。
罠かもしれない。が、確認をする価値はある。スプリングが報告した地点から一番近いのは、フュンフとSPASか。
「フュンフ、SPAS。アナタ達が一番近い。確認を」
『指揮官、屋内への突入は?』
「一応控えて。まだ気づかれていないはずだしね。万が一痕跡だけが残っていてあまりにも人気がないと判断した場合は、周囲への警戒を厳にしてスコーピオン達と合流して。トラップも仕掛けられているかもしれないから、それも気を付けてね」
『SPAS、了解』
『MP5、了解です』
「スコーピオンとウェルロッドは少し離れたところで敵が逃走用の足を用意していないか確認して。用意しているようならばれないように破壊工作を」
『こちらウェルロッド。殺傷兵器を用いることは?』
「許可します。奴らに人権は無い物と思いなさい」
『うへぇ……スコーピオン、了解』
正規軍崩れを抱え込んだゴミ溜めのゴミなぞ、生きている価値もない。
が、まあ引導を渡す役割はD08の部隊がやるってことだし、それはそっちに任せる。
そこから沈黙がしばらく流れた。
スプリングは身じろぎもしないし、フュンフやスコーピオン達からも特に報告は無い。
しばらくと言っても数分だ。やがて、再び通信が入った。
『こちらMP5、ターゲットの痕跡のあった廃屋から人影と談笑する声多数。音源は4。よって少なくとも4人はいることを確認。会話内容から、どうやら地下室にも何人かいるようです』
「了解。……っと、ちょうどいいタイミングね。D08の部隊から連絡よ。フュンフ、SPASはターゲットのいる廃屋が見える位置で待機」
『こちらスコーピオン、逃走用の車両は使えなくしておいたよ』
「上出来よ。スコーピオン達はそのまま車両が見える位置にて待機。万が一逃走をする素振りを見せたら、ターゲットを撃滅して」
言うべきことを言って、回線をD08の部隊に切り替える。
「こちらR06地区前線基地のシーラ=コリンズよ」
『どうも~。こちらD08のUMP45です。そろそろ作戦領域に到着します』
「タイミングばっちりね。こちらの偵察部隊がターゲットの情報を掴んだわ。回線を彼女達の方に回すから、情報の共有をしてもらって」
『了解です。……座標を受け取りました。感謝します。では』
通信が切られる。さて、それじゃあお手並み拝見と行きますか。
というわけでシーラ指揮官側から見た作戦前のひと時でした。
次回はD08のメンバーたちがR06地区の基地にお邪魔する話になります。
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