女性指揮官と戦術人形達のかしましおぺれーしょん【完結】 作:笹の船
意識が戻ってくる。
どうやら横になっているらしい。左頬を地面の方に向けて横になっているのが分かった。
なぜか? 私の左頬に柔らかくて気持ちの良い感触が伝わってくるからだ。
ゆっくりと目を開く。世界が90度横に倒れている。いや、倒れてるのは私なんだけども。
後頭部の鈍い痛みに顔をしかめた。えーっと……なんでこんなことに。
「あ、シーラ。起きた?」
右耳の方から降ってきた耳慣れた甘い声は、愛しい私のお姫様のものだ。
視界と思考がだんだんクリアになっていく。……ここは、大浴場前の脱衣所か。
思い出した。よんごーに胸を揉まれて、これ以上の痴態を晒すまいと逃げるように湯船から出ようとしたときに、足を滑らせて頭を打ったんだった……。
我ながらなんて情けない。
「……どのくらい寝てた?」
「15分と少し。D08の奴らには先に食堂に行ってもらったわ」
「情けない姿をさらしたわね……後で甘いモノご馳走して口止めしないと」
女同士なら別に笑い話で済むけど、あまり男に聞かれたい話題じゃない。
風呂場で転んで気絶なんて、男に聞かせたら至らん妄想をするのは間違いないからだ。
例え妄想の中であっても、私の体を男に売り渡すつもりなんてない。
現実はどうかって? 気安く触ってきた奴らのご自慢のデリンジャーに鉛玉をくれてやる。
ふと、優しく頭を撫でられた。
「よんごー?」
「シーラ。話してくれとは言わない。でも、そんな顔をするくらいなら私を頼ってよ」
言われて、自分の眉間にシワが寄っていることに気が付いた。
……抱え込むな、と言われていたのに全然できてないなあ。皆に申し訳が立たない。
「ごめん……」
「謝るくらいなら早く起きて。そろそろ重たくなってきたんだけど」
「あー! 重いとか言わないでよ!」
ゆっくりと体を起こしながら、唇を尖らせて愛しのお姫様の方を向く。
そこには、いつも通りのツーンなんて擬音が見えそうなくらいのすまし顔をしたよんごーの顔があった。
既にいつもの制服に身を包んでいる。はたと我に返って、自分の体を見下ろした。
薄手の浴衣を着せられていた。ああこれ、私がちょっと温泉気分をと思って用意した奴だ。
……浴衣の下はショーツだけか。なんか、気絶してる間に下着を穿かせてもらうってすごく恥ずかしいな……。
「まずは着替えないとか……」
「そのままでもいいんじゃない? D08の奴らは喜んで皆浴衣着てったわよ。まあ、制服が血みどろで洗濯中っていうのもあるけど」
「ブラくらいはつけさせて。浴衣でチラ見せする趣味はないの」
「その方が興奮するんじゃないの?」
「そんなこと言うならアナタが実践することね」
一瞬殺気が漏れ出させたよんごーを後目に、浴衣の上をはだけながら私の着替えが入ったかごのところ前で歩いていく。……もうちゃんと足腰に力は入るわね。
「せめて着替えの前に行ってからはだけなさいよ……」
「いーじゃないの。今更私の裸なんて見慣れてるでしょ」
「慎みを持てって言ってんの」
「風呂場で人の胸を揉みしだいた挙句に、首筋に舌を這わせるような発情猫ちゃんに言われる筋合いはないわよ」
「うぐ……」
そんな軽口をたたき合いながら、ブラを身に着けて浴衣を着なおす。
コレだとちょっと寒いかな。不格好だけどグリフィンの赤いジャケットだけ羽織っていこう。
「ん。準備おっけ。食堂に行きましょ、よんごー」
「はいはーい」
「はい、は一回でしょ」
「言ってなさい」
私とよんごーが食堂の近くまでやって来た時、既にぎゃあぎゃあとかしましい声が聞こえてきていた。
一体何があったのだろう。あわただしい雰囲気は伝わってこないから、ただのバカ騒ぎだとは思うけど。
「ええ~!? I.O.Pってそんな薬とか作ってるの!?」
「じゃあじゃあ、私も皆さんみたいな……その、素敵な体になれるってことなんでしょうか!?」
あー……これはもしかして。
隣のよんごーが途端にそわそわし始めた。そりゃそうだ。
少しだけ歩くペースを早くする。隣のよんごーが、ちょっと嬉しそうに私の手をぎゅっと握って私の前を行き始めた。可愛い。
「ごめんなさい、遅れたわ」
「あ! 指揮官さま! すごい話を聞いたんですよ!」
フュンフが興奮冷めやらぬといった様子で私に駆け寄ってくる。
そんな彼女の頭を撫でれば、くすぐったそうにフュンフは片目をつぶる。
「どうしたの。そんな興奮しちゃって」
「あのですね! D08のUMP45さんは胸を大きくするサプリを服用したら、ああなったって言ってるんですよ!」
「へえ? その話詳しく」
よんごーが電光石火の勢いで向こうのUMP45の前に駆け寄った。早いよ。
「んー? いいけど、タダって訳にはいかないかなあ♪ 私が飲んだのってほら、試作品だからさ。あんまり口外して良いモノじゃないと思うんだよねぇ」
うわぁ、白々しい。とても見覚えのある白々しさだ。ウチのよんごーも私を始めとして会話相手に対して優位に立っている時、あんな感じの白々しい演技をすることがあるもの。
よんごーの顔が一気に無表情になる。……キレてないよね? 大丈夫だよね?
「何が欲しいの」
「そうねぇ。ここの基地、美味しいスイーツを作るスプリングフィールドがいるってさっき廊下で聞いたんだけど?」
あー、スプリングの作るスイーツは美味しい。その辺に関してはペルシカ辺りから噂として漏れていてもおかしくないかもしれない。
まあ、機密性の高い情報でもないし漏れていても問題ない。
ともかく、向こうの要求は分かった。こっちとしてもご馳走して、さっきの痴態についての口止めをしたいと思っていたところだし。
「よんごー、飲んであげましょうよ。と言っても、D08の皆にはご馳走するつもりだったし」
私の言葉に、D08の娘たちの顔がぱあっと明るくなる。
下心があっての行動とはいえ、こうして笑ってもらえると嬉しいわね。
「じゃあ、皆でカフェに行きましょうか」
『ヤッター!』
「ってわけで、スプリング。七人分、スイーツお願いできる?」
「指揮官……そういうことは前もって連絡してください」
カフェに行って早々、スプリングから思いっきり睨まれた。ごめんて。私としても予想外の出来事が起きちゃったんだから。
ぷんすか! と言わんばかりに頬を膨らませながら、けれどスプリングはよどみない足取りで調理場にある冷蔵庫へと向かっていく。
「全く。私が指揮官の言うことを予測して、マフィンを作っておいて本当に良かったです。さあD08の皆さん、粗品ですがどうぞお召し上がりください」
私に対して不満そうに唇を尖らせていたと思ったら、D08の皆の前ではとっても良い営業スマイルを浮かべてカップケーキ型にしたマフィンを出していく。
「おお……なかなかおいしそうな匂いがするなあ」
「本当ね。ウチのスプリングフィールドといい勝負じゃない?」
HK姉妹が感心したような口ぶりでスプリングのマフィンを評価する。
その一方で、既にヴィオラとD08のUMP姉妹はマフィンを食べ始めていた。
「ん、おいしい~! おいしいね45姉!」
「ホント、これは絶品ね」
「むぐむぐ……」
そんな三人にG36C、Uziが呆れた顔をする。
「アナタ達。一応出先なのですから、もう少し節度をですね……」
「あんまりダーリンに恥をかかせるようなことしないでよ?」
「そんなこと言ってないでほら食べてみて!」
UMP9とUMP45が問答無用とばかりにG36CとUziの口にマフィンを突っ込む。
あーあ。もっとゆっくり食べさせてあげればいいのに。
……でもなんか二人共美味しそうにしてるからいいか。
「じゃあ私達も……おぉ、すっごい美味しい!」
「……うん。いいわね。これはちょっと癖になりそう」
「ねえ、R06のスプリングフィールドさん! 今度一緒にお菓子とか作ろうよ!」
「あら、いいですね。機会があればぜひ一緒にやりましょうか」
HK姉妹もスプリングのマフィンにはご満悦のようだ。全員から褒められたスプリングは嬉しそうに顔を綻ばせている。
「さて、それじゃあ聞かせてもらおうじゃない。アンタがそんなに大層なものをぶら下げられるようになった訳を」
うーん! よんごー、この空気の中でそれを言っちゃうかあ。しかも声のトーンがガチ過ぎないかなあ?
わずかばかりの威圧感すら漂わせるよんごーに、UMP45が仕方がないとため息を吐く。
「まあ美味しいマフィンをご馳走してもらったし、教えてあげるわよ。と言っても、さっきそちらのMP5が言ってた通り、育乳サプリを服用しただけなんだけどね」
「……それはどうすれば手に入るの?」
よんごーの真剣な問いに、けれどUMP45は少し困ったような表情をした。
「どうって……うーん。ウチの指揮官が417を始めとした人形達との結婚祝いとしてI.O.Pのラボメンバーから直接送りつけられたものだから……」
要するに個人的な繋がりと、趣味と実益を兼ねた実験というわけか。
これ、入手は難しいかもなあ。
「そのラボの奴とは連絡取れるの?」
あらら、よんごーったら向こうのUMP45の肩をがっしりと掴んじゃって……。
肩を掴まれたUMP45はと言えばどうしたものかと困ったように眉尻を下げていた。
「よんごー。その辺にしてあげなさい」
「シーラ! だって!」
勢いよく振り向いたよんごーの顔は悔しさをにじませた苦い顔だ。
私は、よんごーに比べれば持っている方だから彼女の気持ちを正確に理解することは出来ないかもしれない。
それでも、これ以上は余り良くない。
「よんごー。気にする気持ちも想像は出来るし、自分と同じ型の娘が大きいのを目の当たりにしてそこまで向きになる気持ちも想像できる」
よんごーが俯く。その両手は、とても強く握りしめられていた。
「でもね。だからと言って無理を言っちゃダメよ。ましてや相手はお客さんでしょ。私情を出すなとは言わない。でも、限度はあるでしょう」
「…………」
「それに」
「……?」
よんごーがパッと顔を上げる。そんな彼女の頬に、優しく手を添えた。
「私は、今のアナタが好きなのよ。D08のUMP45も魅力的ではあるけれど、私はR06の、私の副官であるアナタが好きなの。それじゃあダメ?」
「……こういう時ばっかり、ずるいわよ。シーラ……」
よんごーが白い頬をほんのりと赤く染めながら、唇を尖らせる。可愛い。
でも、これで少し落ち着いたかな。
ふと周りを見れば、ニヤニヤした表情を一様にたたえたD08のメンツがそこにいた。
そこで、自分がどれだけキザったらしい発言をしてたかに気づいた。
「あ……えと。……出来ればコレ他言無用で……」
「んー……じゃあ、コリンズ指揮官!」
417が私の方にとってもいい笑顔を向けてきた。
「スイーツ、皆にもう一個ずつご馳走してください!」
まあ、それくらいなら安いものだ。……安い? いや……私のメンツの為だ……!
「……おっけー。スプリング?」
「クスクス……しばらくは節約生活ですね、指揮官?」
分かってるよぉ……。経費で落ちないかな。
翌朝、綺麗に洗濯された各々の制服に身を包んでD08地区の人形達は私達の基地から去っていった。
それにしても、色んな意味でダイナマイトみたいな娘達だったなあ。
よんごーは……まあ、ちょっと例のサプリについてちゃんと聞けなかったのが残念そうな顔してる。
「よんごー」
「なぁに?」
「私は今のアナタが一番好きよ」
「またそうやって……そういうこと言えば誤魔化せると思ってるの?」
「誤魔化されるって分かってて言ってる?」
私の切り返しに、よんごーは賞味期限切れのレーションでも口にしたかのような顔をした。
自覚はあるんだ。可愛いじゃない。
「まあ、D08地区とは金輪際関わらないって決まったわけじゃないし、また次の機会に聞けばいいんじゃないの?」
「ハァ……それで手打ちにするしかないかぁ」
がっくりと肩を落とすよんごーの頭を撫でる。
今日は慰めるのが大変かもなあ。でも、そこがこの娘の可愛いところだけどね。
さ、今日も仕事と、お姫様のご機嫌取りを頑張りますかね!
これにて『元はぐれ・現D08基地のHK417ちゃん』とのコラボは終了となります!
キャラを快く貸してくれ、コラボも先んじて行ってくれたカカオの錬金術師さん、ありがとうございました!
さてさて、平成が終わり、令和となるわけですがここで一つお知らせを。
『女性指揮官と戦術人形達のかしましおぺれーしょん』ですが、投稿を開始してから速いものでもう二か月たちました。
その間、ほぼ毎日投稿をしてまいりましたが令和になるこのタイミングもって、更新ペースを落としたいと思います。
具体的には3日に1回程度のペースで更新をしていこうかなと。
理由はクオリティにリソースを割く、ということに挑戦をしたいためです。
これまで思いつくものを書きなぐる様なスタイルで書き続けてきましたが、そろそろちゃんと構成を考えてお話を構成するという練習をしようかなと。
そう言うことで、少しペースは落ちますがどうぞこれからも『女性指揮官と戦術人形のかしましおぺれーしょん』をよろしくお願いいたします。