女性指揮官と戦術人形達のかしましおぺれーしょん【完結】   作:笹の船

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G36と指揮官のちょっとした会話


ありのままのわたしで

 ふと、時計を見上げた。時刻は11時を過ぎたところだ。

 今日はお昼過ぎから街へと出かけなければならない。

 キャンディの検診のためだ。初回はペルシカに色々やってもらったけれど、毎回彼女に頼むわけにもいかない。

 なので、最寄街の獣医さんに相談してキャンディの検診をしてもらうことにしたのだ。

 とはいえ、ここは街まで車で2~3時間の距離だ。わざわざ来てもらうわけにもいかない。

 そういうわけなので、私と護衛の人形を一人連れて検診に行くわけだ。

 ちなみに今日が二度目になる。さて、今日は大人しくしててくれるといいけど……。

 キャンディ、注射が怖かったみたいで前回の検診でかなり暴れたのだ。

 そうは言っても注射はやっておかないとキャンディの為にもならないし、私達にとっても不幸な結末を迎えることになりかねない。

 かわいそうとは思うけど、ちゃんと獣医さんのところには連れていかないとね。

 さてさて、仕事も一段落着いたしキャンディを探しに行きますか。

 ちなみに今日の副官はG36だ。45は非番にしてある。

 

「G36、キャンディ探して来る」

「承知いたしました。確か今日はキャンディが検診に行く日でしたね」

「そそ。早めに見つけておかないと、ギリギリになって逃げだされでもしたら困るし」

「護衛はどうされるのですか?」

「んー? そうねえ。RO635を連れてく」

「かしこまりました。通信で連絡しておきますね」

「よろしく」

 

 やはりこういう時G36は頼りになる。

 私がやっておこうと思ったこととか、やってほしいことを事前に察知して動いてくれるのだから。

 もちろん、そのあたりに関しては45には敵わない……いや、あの子はたまに気づいていてもやってくれないことがあるから微妙かなぁ。

 まあ、やってくれないことは大体が私がちょっと動くだけで済む些事であることが多いんだけど。

 そんなことを考えながら書類をまとめて席を立った時、ご主人様とG36に呼ばれた。

 いったいどうしたのかとそちらを見ればマジメな表情をしたG36がいた。

 

「寄り道せずに帰ってきてくださいね」

「……わかってる」

「間違っても喫茶店なんかで甘味を食べたりなんかは……」

「わかってるってば」

 

 この間、街でパンケーキを食べたあたりからG36とスプリングの二人から妙に睨みを利かされている。

 私が一体何をしたというんだ、と二人に問いかけてみれば。

 

『最近、ご主人様の不摂生が目に余るものでして』

『食生活も乱れがちですよね? 甘いものばかり食べていては、いざというときに体調を崩されますよ?』

 

 とまあ、随分とありがたい言葉をいただいたわけで。

 ちなみにそんなお小言をもらった私を見て45が言わんこっちゃないとばかりに笑っていたけれど、その後彼女もG36にお小言をもらっていた。

 確かこんなことを言っていたと思う。

 

『副官は少々ご主人様に対して甘すぎます。確かにアナタはご主人様と将来を誓い合った仲かもしれませんが、同時にご主人様の補佐を務める副官でもあるはずです。であるからには、ご主人様が誘惑に負けるのを阻止して正しい指揮官で在れるように律するのも仕事の内ではないのですか? こんなお仕事ですから出来る限りの自由であったり欲求を叶えてあげたいというお気持ちは理解できますが、それと甘やかすこととは別問題です。副官だって、ご主人様にはできる限り長生きしてもらいたいでしょう? ちなみにスプリングフィールド? アナタにも言えることですからね?』

 

 今思い出した。ちゃっかりスプリングフィールドにまで小言を言っていたなあ。

 叱られた子供みたいなばつの悪そうな顔をしていたスプリングがちょっと可愛かった。

 

「本当は私が付いて行きたいくらいなのですが」

「アナタが来たら誰が司令室の留守を預かるのよ」

「分かっておりますよ。ご主人様の留守の間、こちらはしっかり守っておりますから」

 

 そういってG36は穏やかな笑みを浮かべた。厳しいことをいうことが多い彼女だけれど、こうして笑うと年若い女性らしい可愛い笑顔になる。

 それにしても厳しいこと……か。仕事のできる敏腕秘書……もといメイドか。 

 ちょっとひらめいたかもしれない。

 

「G36」

「何でしょうか」

「眼鏡かけてみたら? 似合うかもよ」

 

 一瞬、驚いたように少しだけ目を見開いて、それからG36はこめかみに手を当てる。

 

「何を言い出すかと思えば。私は戦術人形ですよ、ご主人様」

「別に度付きの眼鏡をかけろって言ってるんじゃないってば。伊達眼鏡よ」

「いえ、そうではなくてですね……私の仕事は指揮官であるご主人様に勝利をもたらすこと、そして貴方様のサポートをすることでございます。お洒落目的でそのようなことをする必要はございません。そもそもお洒落で眼鏡をかけるなど無駄です」

 

 無駄なことかあ。いや、間違いではないんだけどね。

 でもそれをただ『無駄なこと』と言って切り捨ててしまうのはなんだかもったいない気がする。

 

「せっかくG36だって美人さんなんだから、もう少し着飾ったりすればいいのに」

「びじっ……!? ご主人様! お戯れが過ぎます!」

 

 お、珍しい。G36が慌ててる。頬も少し桜色に染まっているのが可愛い。

 というか、今気づいたけどこの子結構かわいらしい瞳なのね。思ったよりもおめめが丸いというか。

 普段しかめ面気味の表情をしていることが多いから、ずっと目つきの鋭い子だと思ってたんだけど。

 実際は違ったのか。それにしてもどうしてずっとしかめ面しているんだろう。もったいない。

 頬を染めながらお小言いうG36を他所になんで彼女がしかめ面をしていることが多いのかを考えていて、ふとある可能性に思い至った。

 

「……ねえ、G36。アナタひょっとして目が悪いの?」

 

 戦術人形にこんなこと聞くのも変な話なんだけど、そうすればずっとしかめ面の辻褄も会う気がするのだ。

 目が悪くて近くしか見えないのなら、遠くを見るときは自然と目を細める……つまり、しかめ面になる。

 私の問いかけに、G36は赤点のテストの答案用紙を見つけられてしまったかのような苦々しい表情をした。どうやら図星らしい。

 

「……黙っていて申し訳ございません。確かに、私は少々カメラの性能が悪く、遠くを見通すのは苦手でございます」

「別にアナタが謝ることじゃないでしょ。責められるべき存在がいるとすれば、アナタという存在がどういう存在なのかわかっていながら、そんなカメラを搭載することを仕様としたI.O.Pの馬鹿よ」

 

 けれどそんな私の言葉に、G36の表情は晴れない。

 そりゃあそうだろう。戦術人形は戦場で戦うことを主目的とした兵器だ。戦場に出る者にも関わらず、遠くが見通しにくいというのは大きなデメリットになる。

 指揮官によってはそれを「不良品」だと認識するようなものもいておかしくない。

 それをわかっていてなおそんな設定をするとは、I.O.Pの人形制作に携わった連中には馬鹿が混じっていると思われる。

 そうはいっても仕様である以上そうやすやすと変えられまい。まさかメインフレームだけカメラを取り変えるというわけにもいかないし、かといってダミー全ての分まで眼鏡を用意するとなると金もかかる。

 とはいえ、基地にいる間はメインフレームだけが稼働しているわけだし、であれば用意する眼鏡は一つで済む。

 それくらいなら全然用意してもいいと思うんだけどな。

 

「ねえ、G36。どうして眼鏡を掛けないの?」

 

 私の問いに、G36はうつむくのみ。

 まあその理由は想像はつく。

 

「眼鏡を戦場で掛けるのはあまり良いこととは言えません。万が一被弾すれば眼鏡の破片が目を傷つけてしまうリスクが跳ね上がりますし、作戦中に紛失してしまうリスクとその度に用意しなおす経費を考えますと、デメリットの方が目立つのです」

 

 まあ、そうなるわよね。G36の言うことはもっともだ。

 加えて、レンズが日光を反射することで敵に位置がバレるというリスクを背負うことにもなる。

 勿論、その対策をした眼鏡を作るっていう手段もあるにはあるけど、そうなると今度は紛失した際に作り直す費用が馬鹿にならない。

 コンタクトも同じだ。使用するにあたって、下手をしたら眼鏡以上のランニングコストがかかる可能性すらある。

 そうなると、G36が眼鏡を掛けずに裸眼でどうにかしようという結論に至るのも仕方がない、か。

 基地の中であれば安全だから眼鏡を掛けていても良いと思うけれど、作戦時と基地にいる時とで目の見え方が違うっていうのはそれはそれで危ない気がする。

 でもどうなんだろう。人間なら危ないけど、戦術人形ならいけそうな気もするけどなあ。

 閑話休題。

 

「まあ、無理にとは言わないけど基地にいる時くらい眼鏡かけたら? 折角の美人なのに、いっつもしかめ面してたらもったいないでしょ」

 

 私の言葉に、G36は再びため息をついた。

 

「ご主人様。ですから、私は戦術人形でございます。貴方様のお役に立てるのならばそれ以上は望みません。そして、貴方様のお役に立つにあたってこれ以上の視力は必須ではないのです」

 

 うーん。言いたいことはよくわかるけれど、やっぱりもったいないなあ。

 それに、少なくとも外にいるよりは安心して過ごせるこの場所でいつでもしかめ面されるよりは、もっと自然体でいてほしいとも思うのだ。

 

「必須ではないってことは、あった方がいいってことよね?」

「……ええ。まあ」

「じゃあ用意しようよ。眼鏡」

「ご主人様!」

 

 言葉をつづけようとするG36に唇に人差し指を当てて黙らせる。

 

「ねえG36。私の役に立つのがあなたの望みなんでしょう? だったら、これから言う私のお願いを聞いてよ」

 

 うわ、露骨にいやそうな顔をした。そんな碌でもないことをいうわけじゃないんだし、そんな顔しなくても。

 

「眼鏡を掛けて……っていうよりはそのしかめ面は基地にいる間はやめよう? 私たちの前でくらい、もっと肩の力を抜いてよ」

「……もう十分、自由にさせていただいていると思っています」

 

 俯きながらそう答えたG36の声には、普段の覇気は感じられなかった。ちょっと意地悪だったかな……。

 

「そう? じゃあもっと自由になってよ」

「……ご主人様のようにですか?」

 

 G36が顔を上げる。いつもの険しい表情は消え、不安を隠せない少女の顔がそこにはあった。

 そんな彼女に、私は笑顔でもって答える。

 

「そう。私のように」

 

 G36の眉間のしわが消え、その瞳が大きく開かれる。

 翡翠色の瞳に私の姿が映り込んだ。

 ああ、なんて透き通ったきれいな瞳なんだろう。こんなきれいな瞳を持っているのだから、やっぱりしかめ面で隠してしまうのはもったいない。

 そんなことを思っていると、突然G36が吹き出した。

 

「ぷっ……くすくす。おかしな人」

「え~? そんなに変かな?」

 

 多少変わっているのは認めるけど、そこまで変人ではないと思うんだ、私。

 

「十分変わっておりますとも。よもや戦術人形に『自由になれ』と説くお方は、世界中探せどご主人様位のものではありませんか?」

 

 意外といると思うんだけどなあ。

 そんなことを示すがごとく、唇を尖らせてみるとG36は再びクスクスと笑い出した。

 

「確かにもっと肩の力を抜いたほうがいいかもしれません」

 

 お、やっとわかってくれたかな。これで少しでもG36の眉間のしわが取れれば……

 

「ですが。私、しかめ面をしてる自分は嫌いではないんです」

「……は?」

 

 G36の言葉に、今度は目を見開く番だった。

 どういうことだろう。そんな風に思っていると、G36がとても穏やかな微笑みを浮かべた。

 

「最初は、確かに余裕のない時期もありました。ご主人様のお役に立ちたい。でも、目が悪いなんてことがバレたらどうしよう。そんなことを考えていた時期もあります」

 

 でも、とG36が続ける。

 

「少し前から変わってきました。目つきが悪くても、愛想に欠ける対応をしてもご主人様は変わらず私に接してくれました。私の小言に嫌そうな顔をすることは多いですが、邪険にされたことなど一度もございません」

 

 そりゃあ、G36の言うことには筋が通っているし、私のためを思っての言葉であることは十分伝わってくるのだから邪険に扱うなんてことはしない。

 まあ、嫌なことは嫌だから顔をしかめるとか駄々をこねるくらいはさせてもらってるけど。

 

「だから、これでいいんだって思えるようになったんです。無理に変えたりせず、今のままの私でいいんだって」

 

 そう語るG36の表情は晴れやかなものだ。

 ……もしかしたら、私のワガママは余計なお世話だったのかもしれない。

 

「それでも、不安になることはありましたよ。こんな堅苦しい女は、いつか嫌われるんじゃないかって。さっきも少し、それで不安になりました」

「う……それはその……ごめんなさい」

 

 そうか。良かれと思って言ったことだったけれど、却って彼女を不安にさせてしまったのか……。

 私もまだまだ人を見る目がないというか、人の気持ちを想像することが下手くそだなあ。

 

「くすくす。ご主人様、そんなに気に病まないでください。貴方様が私を思ってあのような提案をしてくださったことは、十分に伝わっていますから」

 

 それでも、と思う。指揮官であるなら、部下を不安にさせるようなことは極力避けるべきなのだ。

 そんな風に思い悩む私の手を、G36が掴んだ。

 

「ご主人様。先ほども申し上げましたが、私はしかめ面の自分をそれなりに気に入ってるんです。そういう風に思えるようになったのは、間違いなく貴方様のおかげなんですよ」

 

 私の右手をG36の手がやさしく包む。彼女のすべすべした指先の感触が少し心地いい。

 右手を通してG36の温もりが伝わってきて、それが失言に気づいて落ち込んだ私の心を癒してくれる……気がした。

 

「それに」

 

 そんな私に畳みかけるようにG36が口を開いた。

 

「私がしかめ面をしていなかったら、一体誰が自由すぎるご主人様の怠惰な生活を咎められるというのですか?」

「え……」

 

 思わずG36の言葉に顔を上げれば、そこにはいつにもまして包容力を感じさせる微笑みを浮かべたG36がいた。

 

「『自由になって』でしたよね? ご主人様のお願い通り、私はこれからも『自由に』しかめ面をしながらこれからも過ごそうと思うのです」

「……自由にふるまってる私のように?」

「はい。貴方様のように」

 

 改めてその翡翠色の瞳を覗き込む。

 そこに迷いは感じられず、あるのは穏やかな、それでいて確固とした決意だ。

 

「……そっか。じゃあ、仕方ないね」

 

 ここまで言うのなら仕方がない。彼女がそう在ると決めたのであれば、それを受け止めるのも私の役目だ。

 何より、自分の言葉には責任を持たないとね。

 そんな風に自分の中で心の整理をしているとふぅ、と小さく息を吐く音が聞こえた。

 

「まあ、でも……そうですね。しかめ面をするのに疲れたら、その時は眼鏡でも掛けることにいたします」

 

 そう言っておどけるように肩をすくめるG36に、思わず自分の頬が緩んだことを実感した。

 

「G36……じゃあ、今度眼鏡を選びに行きましょうよ」

「ええ。その時はぜひお世話になりますね」

 

 うんうん。良かった良かった。これにて一件落着ってね。

 ……はて、何かを忘れてしまっているような。

 何を忘れているんだっけ、と首を傾げた瞬間、G36の慌てたような声が鼓膜に衝突した。

 

「ご主人様! キャンディの検診はどうされるんですか!?」

「あぁっ! それだ! 今何時!?」

「11時半です! 検診、確か14時半からでしたよね!?」

 

 あっ、これはヤバい。急いでキャンディを探して街に行かないと!

 

「G36、私行ってくる!」

「私はRO635に連絡を入れます!」

「お願い!」

 

 バタバタと音を立てながら必要なものをひったくって出かける準備を整える。

 司令室を飛び出す直前、私はちらりとG36の方を見る。

 ROと通信中のG36が私の視線に気づいた。

 いってらっしゃいませ、と告げるように微笑んだG36に私は親指を立てていってきます、と返す。

 そして、私は司令室を飛び出した。

 さあ、久しぶりの全開ドライブが待ってるぞ……!




G36、眼鏡すっごい似合いますよね。
彼女、公式設定で目が悪いそうで、遠くを見るのが大変だからしょっちゅうしかめ面をしてるらしいです。
でも、そんな彼女がふとした主観に見せる柔らかい表情ってきっと良いものですよね。
R06のG36はしかめ面をデフォルトにしちゃったみたいですが。

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