女性指揮官と戦術人形達のかしましおぺれーしょん【完結】 作:笹の船
連作の話になります。何話続くかはいつもの通り未定。
「社外向け雑誌の被写体だあ?」
『そう嫌そうな顔をするなコリンズ指揮官。これも仕事だ』
通信モニターに映った女性が眉一つ動かさずそう告げる。
灰色の髪をかわいらしいシュシュでまとめてサイドアップにした、モノクルを掛けたいかにも仕事のできそうな風貌をしたこの女はヘリアントスという。
彼女の役職は指揮官ではなく、上級代行官と言うらしい。分類上は私の上司になる。まあ、一応。
彼女との間柄は上司と部下、と言うよりもお互いにとって目の上のたんこぶとも言えるような、いわゆる腐れ縁という奴だ。
コイツとは正規軍の時に顔を合わせることが何度かあった。……主に合コン会場で。
で、そんな上級代行官サマが私に持ってきた仕事というのが……。
「ウェディング特集? 戦う女性だって幸せになれる? あほらし」
要するに結婚式に関する特集だ。なんで私にそんなものを振った。仮にも既婚者だぞ。相手は人形で、同性ではあるけれど。
『仕事だ、と言ったはずだぞ。選択の自由は一応は与えたいところだが、正直なところ他に適任がいなくてな』
「アンタがやりなさいよ。未婚でしょ」
『貴官は相当私に喧嘩を売りたいと見えるな?』
当たり前だ。むしろ私は売られた側だぞ。
45と誓約しているというのに、こんな仕事を受けろというのか。
「既婚者がウェディングドレスを着るとか冗談にもならないわよ」
『貴官は戸籍上は未婚のはずだが?』
「私の隣にいる子を見てなお、そのセリフが吐けてるってんならアンタの目は節穴ね?」
隣にいる45をグイっと抱き寄せる。
ちょっと! と、恥ずかしさ混じりの抗議の声が耳元で聞こえたけれど、今は無視だ。
お、ヘリアンの奴額に青筋浮かべたな。いいぞいいぞ。何だったらもっとイチャついてやろうかな。
そんなことを考えていたら、ヘリアンの奴がムカつく笑みを浮かべ始めた。
『私は貴官が戸籍上では未婚だ、という事実を述べているだけだ。そもそも誓約烙印システムは人形の限定解除を目的としたものだぞ。誓約したからと言って夫婦になるわけではない』
へぇ……? つまりコイツは私達はごっこ遊びをしているだけに過ぎないとでもいうつもりなんだろうか?
それならそれでこっちにも考えがあるわよ。
「そう。じゃあ僭越ながら意見具申させていただこうかしら。上級代行官サマは自分のスタイルに自信がおありのようだし、ぜひこの仕事を受けるといいわ」
非常に気にくわない話ではあるが、ヘリアントスのスタイルは一級品だ。厚めの素材で作られているはずのグリフィン制服を着てなお、存在感を主張する二つの重りをぶら下げているのだから。クソが。
「世の男達はきっとあなたに見惚れるでしょうね? 良かったじゃない【合コンの負け犬】さん。これでもう負け犬と呼ばれなくなるわよ」
『はっはっはっ。面白い冗談だ。……モニター越しの会議で命拾いしたな? 膝を突き合わせての会議だったら貴官の可愛らしい顔に青アザが出来ていただろうさ』
「命拾いしたですって? 冗談はその無駄にデカい乳袋だけにしなさいよ。ゼロ距離戦闘で私に勝てると思ってるわけ?」
『私を甘く見るなよ。確かに貴官を潰すことは出来ないかもしれないが、反撃くらいはしてみせるさ』
「あらあら大した自身だこと。合コンで負けた腹いせに部下のことを殴り倒す訓練でもしているのかしら」
『そういう貴官こそどうなんだ? 最近体調を崩して職務を全うできていなかったそうではないか。元正規軍という肩書に胡坐をかいてだらけているのか?』
「そっちこそ噂で聞いたわよ。この間の合コンでも負けたそうね? 今度で何敗目? もういい加減諦めて仕事に集中したらいいんじゃないの?」
『ほほぅ。いいだろう。その喧嘩買おうじゃないか』
「はっ! 負け戦に飛び込んでくるなんて見上げた度胸ね!」
『調子に乗るなよ小娘』
「床でも舐めてろデカ乳女」
よーし、今日こそこのクソッタレな上官の鼻っ柱を根元から折って泣かせてやる。
そう思ってモニターを睨めつけながら唇の端を吊り上げれば、突然頭に強い衝撃が走った。
一体何が起きたのかと思えば、隣には呆れた表情をした45がため息を吐いている。この子私のことぶったな!?
「45、痛いじゃない!」
「子供みたいな喧嘩してないで話を進めなさいよ」
「アタシが悪いっての!?」
『少なくとも最初に喧嘩を売ってきたのはお前だなシーラ』
「あ”? 私がどういう女か知ってこんな仕事を吹っかけてきたアンタでしょうがヘリアントス」
結婚式など私には一番縁遠いイベントだぞ。
というか、そんなものはとっくに済ませた。世の一般的なそれではないけど、私の中では45に指輪を渡したあの戦場が式場みたいなものだ。
それに、ウェディングドレスなんて着たくもない。
何が悲しくて私の傷だらけの肌を知りもしない世界の人間達にさらさなければならないのか。
この傷跡はそんなに安いモノじゃないんだぞ。
「とにかく。他をあたってよヘリアン。アタシはやりたくない」
『そういうな。報酬は弾むさ』
「必要ないわよ。金には困ってない」
どうしてそこまで私を被写体に選びたがるのか。私の様な女性指揮官の数は少ないにしても、グリフィンには女性スタッフ自体はいるはずだ。
まさかその全員に断られたというわけでもないでしょうに。
『あー……そのだな。非常に遺憾ではあるのだが……』
ヘリアントスが苦虫を嚙み潰したように表情を歪めた。
え、マジで全員に断られたの?
『全員ではないが、少なくとも必要最低限の数が揃えられてないんだ』
「じゃあ企画自体取りやめればいいじゃない」
『我が社のメンツに関わる話なんだよ。何しろ撮影を依頼したカメラマンは中々仕事を受けないことで有名な一流のカメラマンでな……』
「このバカ……そんなところに金なんか使わないでこっちの設備を整えるのに金を使いなさいよ……」
『企画を立てて話を進めたのは私じゃないぞ』
クソ……あのヒゲゴリラめ、社長なら重鎮の動き位把握しとけよ。
アイツはこういう無駄を嫌う武人だっただろうが。
「シーラ。もう諦めたら? これ以上アナタに逃げ場はないと思うわよ」
45が諭す様にそう言った。……流石にもう無理か。
「……分かった。分かったわよ。貸し一つよヘリアン」
『協力感謝する。撮影日時に関する仔細は後程データを送る』
通信が切られる。
肺の中の酸素をすべて吐き出す。頭痛がしてきた。こめかみに手を当てる。
「ねえシーラ」
「んー?」
45がやや気まずそうな声色をしている。どうしたんだろう。
「やっぱりその……ドレスを着るのは嫌なの?」
なおも気まずそうに聞いてくる45の方を向かずに、私は口を開いた。
「あんな純白のドレス、私には似合わないもの。赤黒い血に染まってるくらいが丁度いいのよ、私は」
今更普通の女の幸せなど手に入れられるはずもない。
アレは戦いに……いや、殺しに縁のない女性が着るものだ。私が着るには少し、綺麗すぎる。
とはいえ仕事として引き受けてしまったからにはそうは言っていられない。
後で再度ヘリアン辺りに連絡して、肌が傷だらけでも大丈夫か確認を取っておこう。
対策がとれるならそれに越したことは無いのだし。
「ウェディングドレス……結婚式、ね」
全く持って皮肉なものだ。神様がいるのだとしたら相当に悪趣味らしい。
出来ることなら、仕事ではなく……いや、もっと早くこのイベントとは出会いたかったかな。
「シーラ?」
心配そうな表情で私の顔を覗き込む45が視界に入った。
その唇に自分の唇を重ねる。
45の体が強張るけれど、すぐにそれもほぐれた。
司令室に湿った水音が響く。どんよりとした心が、綺麗な水で洗われていくような感覚がした。
唇を離す。うん、元気になった。
「ん、仕事の続きよ45」
「もう……」
頬をほんのりと赤く染めて唇を尖らせる45に笑顔を見せながら、私はヘリアンに向けて撮影の仕事に関して確認すべき項目をまとめる仕事に手を付けた。
シーラさんとヘリアンさんは犬猿の仲。
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