女性指揮官と戦術人形達のかしましおぺれーしょん【完結】   作:笹の船

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撮影をする指揮官。
やや緊張気味みたいです。


Welcom Back My Sweet Dream ②

 全く持って度し難い。

 結婚式特集の雑誌の被写体となる仕事を請け負うことにしたのはいいのだが、その時に色々と確認をしてみた。

 例えば私の肌に傷がたくさんある問題だ。ウエディングドレスはその構造上、どうしても背中周りの肌を晒すことになる。

 普通の人であれば特に問題ないのだろうけれど、私はそうじゃない。

 正規軍の頃から無茶な任務であったり、伝言屋時代の無茶も合わせれば相当な数の傷跡が肌に残っているのだ。

 私自身はともかくとして、普通の平和な日常を生きている女性には少々刺激が強すぎるだろう。

 そう思って、撮影を担当するカメラマンに問い合わせをしてみたものの返ってきた答えは……。

 

『あー、これは確かにひどい。でも、いい。これくらい傷がある方がかえって受けるかもしれないわね』

 

 通信機越しに聞こえてきたのは若い女性の声。年の頃は私と同じか、多分少し上位の印象を受けた。

 それはいいとして、何をどう考えるとこんな傷だらけの体に受ける要素があると考えられてしまったのだろうか。

 一流なのは確かのようだし、いわゆる天才タイプという奴なのかもしれない。

 

 閑話休題。

 

 とにもかくにも、特に編集やカメラアングル、ドレスの種類で誤魔化すといったことは一切しないということになってしまった。

 そして今、私はドレスの種類が載ったカタログを手にグリフィン本部が貸し切った撮影スタジオの控室で唸り声を上げていた。

 ちなみに私の部下である戦術人形達は皆別室待機だ。彼女達も被写体になってもらうらしい。

 

「えーっと……ドレスの種類はAライン、プリンセスライン、スレンダー、エンパイア、マーメイドライン……?」

 

 ぶっちゃけ全部同じに見える。いや、ちゃんとそれぞれ違いはあるのは確かなんだけど……。

 

「どれも動きにくそうなのよねぇ」

 

 まあドレスなんて基本動きにくいモノなんだけど、ウェディングドレスってとりわけ動きにくそうなのだ。

 一応動きやすそうなものとして膝上スカートのドレスタイプであるミニ丈なんてものもあるけど、これは論外だ。

 ただでさえ背中とか肩とかを露出しなきゃいけないのに、足までこんな晒すとか嫌だ。露出は少ない方が落ち着く。

 

「うーん……」

「どうも。決まった?」

 

 控室の扉が開けられたと思ったら声を掛けられた。耳慣れない声の方へと視線を向ければ、そこには白いシャツに黒のミニスカートに身を包んだショートカットの女性がいた。

 今回の撮影で世話になるカメラマンだ。ちょっと調べてみたが、来歴が割と謎な女性である。

 年齢、出身、本名。全てが不詳の謎に包まれた女性カメラマン。

 場合によっては金すらとらずに写真を撮ってくれるという点が、彼女のミステリアスさに拍車をかけている。

 ま、それはここではどうでもいいとして。

 

「正直こんなもの着る機会無いから、どれにしたらいいか分からない」

「あや……あらら。これだっ! ていうのも見つからなかった?」

「ミニ丈は嫌ね」

「うーん。そうねぇ」

 

 カメラマンが私の後ろに回り込んで、カタログを覗き込む。

 私の顔の横にカメラマンが顔を寄せてくるものだから、思わずちょっと首を遠ざける。

 その時、彼女の髪からほんのりと心地良い香りが漂ってきた。

 ちょっと変態っぽいけど、いい香りだ。どこのシャンプー使っているんだろう。

 

「まあでも、決められないならオーソドックスにAラインかスレンダーかしら」

「あー。まあそれが無難かなぁ」

「私としてはプリンセスとか辺りでバッチリ乙女ッ! ってしてくれてもいいんだけど」

「やめてよ」

 

 不思議なカメラマンだと思う。

 今日が初対面のはずなのに、昔からの付き合いみたいな感じでやり取りができる。

 彼女が写真を撮るだけが能じゃない、本物の一流だってことなんだろうけど、それにしたって心地良さすら感じるのはなぜだろう。

 まあ今はそれよりも着るドレスを決めて、ちゃちゃっとこの仕事を終わらせることにしよう。

 

「じゃあ、スレンダーで」

「了解。着付け役の人呼んでくるわね。後ドレスも持ってこさせるわ」

「よろしく」

 

 そんな短いやり取りをして、カメラマンは控室を出ていった。

 ……しかし、ついに着るのか。やっぱりちょっと嫌だな。

 

 

 

「はい、じゃあちょっと後ろを向く感じで……そうそう。で、左手を腰に当てて。うん、でこっち向いてー。早々そんな感じ」

 

 撮影っていうのはとても疲れるものだと身をもって体感している。

 カメラマンから飛ぶ指示に従って色んなポーズをとらされるのだ。別におかしなポーズをする必要は無いから、それ自体は問題ない。

 じゃあ何が問題かって言うと。

 

「んー、表情固いなー。ほらほらもっと笑って!」

「無茶言わないでよ……」

 

 コレだ。どうしてもさっきから自然な笑顔が作れない。

 営業スマイルを浮かべるくらい、正規軍にいた頃からずっとやってきたことなのだから今更できないってことは無いはずなんだ。

 だけど、どういうわけだか今日に限って上手く笑顔が作れない。

 唇の端を吊り上げて笑顔を作ろうとすれば、必ずその端っこがピクピク震えてしまう。

 ドレスを着ていることによって露出している背中や肩が寒い。

 そのあちこちに走る傷跡を、写真で撮られてしまっている。

 女性としてはあまり美しくないであろう私の肌が、不特定多数の人の目にさらされる。

 それに、愛する人と結ばれることを祝われるためにドレスを着ているのではなくて、仕事で着ているだけだ。グリフィンの金策と人手募集の客寄せパンダになるために私はドレスを着ている。

 そんな事実が、きっと私の表情筋をセメントで塗り固めてしまっているに違いない。

 だけどこれは仕事だ。そんな泣き言を言っている場合じゃない。

 

「ねえコリンズさん」

 

 唐突にカメラマンに名前を呼ばれた。

 何だろうとそちらを見れば、彼女はカメラを下ろしていた。休憩だろうか。

 

「ドレスを着るのは嫌い?」

「え……」

 

 突然の質問に一瞬思考が止まった。

 カメラマンと視線が合う。赤い瞳が真っすぐ私を見据えている。珍しい瞳の色だな。カラーコンタクトだろうか。

 じゃなくて。ドレスを着るのは嫌いか、だったっけ。

 

「別に嫌いって訳じゃないけど……まあ、あんまり好きじゃない、かな」

「それは肌が傷だらけだから?」

「あー……まあ、それもあると思う。あとは、素肌を晒すって無防備になってるみたいで不安っていうか」

「ふふっ、軍人さんらしい感覚ね」

 

 あ、笑ったな。割と切実な問題なんだぞ。

 大体、肌をしっかりと野戦服で覆っておかないと作戦行動時に思わず怪我をすることだってあるのだ。

 それに、触ったらマズいものが近くにある時なんかは、しっかりと肌を防護できるものを着ていないと後で大変なことになったりするわけだし。

 なんてことを本職の軍人でもないカメラマンに語っても仕方がない。

 なので、抗議の意味も込めて唇を尖らせるにとどめた。

 

「そうそう。そういう表情でいいのよ」

「えっ?」

 

 うんうんと頷きながら、カメラマンが私の方にサムズアップをしてきた。

 言われて、さっき唇を尖らせた自分の表情が、どこにも無理のないモノであったことに気づく。

 やられた、と思った。これがプロか。

 

「じゃ、ここで面白い話を一つ」

 

 再びカメラのファインダーを覗き込みながらカメラマンが口を開く。慌ててさっき指示されたとおりのポーズを取りなおした。

 さっきよりは自然に笑顔を作れた……気がする。

 

「とある女の子がいました。彼女は素敵なお嫁さんになることを憧れていましたが、ある時ソレを諦めました。あ、もうちょっと視線をこっちに。そうそう」

 

 いいねー、と言いながらカメラマンがシャッターを切る。

 

「理由は色々ありましたが、とにかく彼女はお嫁さんになることを諦めたのです。それから、彼女はひたすら仕事に打ち込みました。ちなみに仕事っていうのは女優さんでした」

「女優だったら引く手あまたの仕事なのに、諦めたの?」

「失恋したんだって。で、続きなんだけど、ある時彼女は映画の撮影で花嫁衣裳を着ることになったのね」

「失恋はしてないけど、まるで今の私みたいね」

「確かにね」

 

 もしかして私をモデルに即興で話を作っているのだろうか。そうだとしたらそれはそれですごい。

 だとしたら、一体どんな結末を語ってくれるんだろう。純粋に気になる。

 

「あ、今度はブーケ持って。で、横向いて。そうそう。そしたら顔はこっちに。あー、いいわよ。その調子」

 

 カメラマンがシャッターを切る音がスタジオに響く。

 いつの間にか、彼女の話の続きをとても楽しみにしている私がいた。

 

「で、その女の子最初は嫌がったのよ。『どうして諦めたはずのことを、仕事でやらなきゃいけないの。嫌味のつもり』って。しかも新郎役が失恋相手とあっちゃあね」

「それは辛いわね。でも仕事だしなあ」

「そ。だから結局は彼女が折れて花嫁の役をやることになったのよね。あ、もうちょっとブーケに顔近づけて。そうそう」

 

 シャッター音。フィルムをまく音。……え、フィルムカメラ!?

 

「デジタルだけだと思った? フィルムだって現役よ」

 

 私の表情を見て得意げな笑みを浮かべるカメラマンがそう告げた。知らなかった。

 まあでも、今のご時世アナログの方が融通が利く瞬間っていうのは少なくない。それは写真も同じなんだろう。

 

「でも撮影が終わった後、女の子は幸せそうに笑ってたそうよ」

「え、何かあったの?」

「なんでも、失恋したと思ってたけどそれは女の子の早とちりだったんだって。で、撮影が終わった時に新郎役にプロポーズされたんだってさ」

「素敵な話ね」

 

 でも割とベタな話だ。思ったよりは普通だったかなあ。

 

「大事なのはこの先よ」

「お? まだ何かあるのね」

 

 最後にどんでん返しでもあるのかな。実はギャグだったりして。

 

「プロポーズの決め手になったのってね、結婚式のシーンの女の子の笑顔だったんだって。それはもう、本当に幸せそうな笑顔だったそうよ」

「そりゃあそういう笑顔を浮かべないと仕事にならないでしょう」

 

 何か良く分からない続きだなあ。

 そんな風に思っているとカメラマンが首を横に振った。

 

「いや、演技に思えなかったって皆言ってたらしいのよ。で、後で女の子に聞いてみたら『もう叶わないと思った夢が、演技とはいえ一瞬でも叶う瞬間が来たって思うようにしたら、自然とできた』って語ったらしいわ」

「演技じゃなかったってこと?」

「演技もあるけど、きっと彼女の本心がにじみ出てたんじゃないかな。例え嘘でも、ほんの一時のうたかたの夢であったとしても、確かに夢が叶う瞬間だったのよ」

「で、それが夢を現実にする決め手になったんだ」

「そういうこと」

 

 つまりさ、とファインダーから目を離したカメラマンが笑った。

 

「諦めた夢も、忘れなければいつか叶う日が来るかもって話よ」

「ふふ。夢のある話ね」

「夢の話なだけにって?」

「笑えないわよ」

 

 なんて言いながら、思わず私も笑みを浮かべてしまった。

 シャッター音。

 

「あ……」

「今日一番の笑顔、ありがと」

 

 またやられた……全く持って人の隙をつくのが上手いカメラマンだ。

 

「さ、一旦休憩しましょうか。控室で待ってて。私はデータまとめるからさ」

 

 カメラマンの言葉に、肩から力が抜けるような感覚が襲ってくる。

 なんだかんだ緊張していたらしい。

 じゃあ控室にいるわね、とカメラマンに声を掛けてスタジオを出る。

 振り返ると、既にデータの整理を始めているカメラマンの背中が見えた。

 

 しかし諦めた夢も忘れなければいつか叶うかもしれない、か。

 

「だったら、本当に夢のある話よね」

 

 少なくとも、私にそんな日は来なさそうだけれど。

 話の中の女の子は式を挙げていたけど、私にはそんな機会はないだろう。

 今はドレスを着ているけれど、このスタジオには式を行えるセットもスペースもないだろうし。

 でもまあ、久しぶりに女として幸せな挙式をするって夢を見せてもらった。

 これはこれで、いい思い出になるかもしれない。

 そんなことを考えながら、私は一人控室への道を歩いた。

 薄暗いスタジオの通路が、無慈悲な現実を見せているみたいでちょっぴり心に沁みた。




プロのカメラマンって、被写体に写真を撮られるなって身構える隙すら与えないらしいですね。
とても自然にシャッターを切れるんだとか。

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