女性指揮官と戦術人形達のかしましおぺれーしょん【完結】   作:笹の船

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なんかモイラちゃんのキャラが強烈な何かになった気がする。
反省はしているが後悔はしていない。


Free Fall

 屋上のふちを蹴った私の体が浮遊感に包まれる。

 アドレナリンがものすごい勢いで分泌されているのか、世界がスローモーションになっていく。

 そんな状態の中、モイラを胸に抱きすくめながら、クッションに着地した時に彼女を下敷きにしないよう、体を空中にひねった。

 ひどく間延びした低い悲鳴が聞こえた気がしたけれど、果たしてそれは野次馬のモノか、それとも腕の中のモイラのモノだろうか。

 そんなことを考えている内にも、ベランダというベランダが上へスクロールしていき、空がどんどん遠くなる。

 直後、それなりの衝撃と共に体が弾力のある何かに包まれた。Vector達が持ってきたクッションだ。

 体のどこも痛めていないし、パッと見た感じモイラも無事そうだ。どうにかこれで任務完了って感じかな。

 私達の着地を確認した治安部隊が一斉に駆け寄ってきた。このバカ共め、モイラが怖がるでしょうが。

 そう思って騒動の中心たる少女を見下ろしてみれば……

 

「あ、やば……流石に刺激強すぎたかな」

 

 モイラは女の子にあるまじき酷い顔で気絶していた。具体的には白目をむいて、だらしなく口を涎を垂らしている。

 これを皆に……特に男どもに見せるのは気が引けたので、優しく手で瞼を閉じ、涎を服の袖で拭いてやる。

 まだすこし『寝顔』と呼ぶには激しい表情だけれど、ギリギリ乙女としての矜持は守れるだろう。多分。

 

 さて、後のことは治安部隊に任せるとしよう。

 何をもって彼女をあそこまで駆り立てたのかは気になるけれど、これ以上は私が首を突っ込んでいい話でもない。

 それはこの街の人達の仕事だ。私はあくまでグリフィンの指揮官であって、街のカウンセラーではない。

 でも、もし次に彼女に会うことがあったら甘いモノ奢って話を聞くくらいはしてもいいかもしれない。悩みを抱える若者の話を聞くだけであれば、役職や肩書など関係ないのだし。

 そんなことを考えながらクッションから降りると、隊長が駆け寄ってきた。

 

「コリンズさん、無事ですか!?」

「ごらんのとおり、私も彼女もケガはないわ。ごめんなさいね、強引なやり口で」

「いえ、そんな。結果的に誰もケガをせずに済みました。ありがとうございます」

 

 そう言って隊長は深く頭を下げてきた。まあ、悪い気分じゃない。

 でも、一つだけワガママを言わせてもらおう。

 

「隊長。出来ればでいい。この子がどうしてこんなことをしたのかを聞いて、ちゃんとケアをしてあげてね」

「分かりました。……彼女は、まだここに越してきたばかりのようでして」

「知り合い?」

「それほどでは……ただ、変わった子が近くに越してきたという噂は聞いていましたから」

「そう……じゃあ、後はよろしくね」

「了解いたしました。今回は本当にありがとうございました!」

 

 隊長のお礼に手を軽く上げることで返答として、SPAS達にアイコンタクトを送る。

 即座に彼女達が私の方へと駆け寄ってくるのを確認して、私はアパートを後にしようと足を踏み出す。

 カラビーナが、私のグリフィンの赤い制服を差しだしてくれたので、それに袖を通しながら歩く。

 

 

「あ、あのっ! コリンズさん!」

 

 不意に、背後から私を呼び止める声が響いた。若々しい少女のソレは、モイラのモノだろう。

 目が覚めたのだろうか。変に錯乱していなければいいけれど、とそんな心配事を胸に抱えながら声がした方を振り返る。

 そこには、先ほどまでの錯乱した彼女ではなく、何か探し求めていたものを見つけように瞳を輝かせるモイラの姿があった。

 

「どうしたの?」

 

 モイラの表情は、少なくともさっきまで私が屋上で見ていたやけっぱちな表情ではない。

 何かしらの答えでも得られたのだろうか。

 だとしたら、まあ私の曲芸救助活動も悪くはなかったんだろう。

 そんな私の気持ちは、次の瞬間に木っ端みじんとなった。

 

「私を……お嫁に貰ってくれませんか!?」

「……ごめん。も、もう一回お願いできる?」

 

 何かすごく不穏な言葉が聞こえた気がするけど、気のせいだよね……? いや、きっと気のせいのはずだ。

 頬がひくつきそうになるのを必死でこらえながら、笑みを崩さないようにモイラの言葉を待つ。

 そんな私に対して、モイラはほんのりと頬を桃色に染めながら両手を頬にあてて恥じらうようにもじもじしだした。

 

「え、え~……やだなあコリンズさん。もう一回言わなきゃだめですか?」

 

 あ、これはダメな奴だ。これ以上会話を続けると、私の色々な何かが失われるような気がしてならない。

 そうと決まれば撤退だ。モイラには悪いけれど、私にも守るべきものがある。主に貞操とか乙女の矜持とか、その辺。

 

「あ、いや。ごめんね。言いにくいことを無理に聞き出すつもりはなかったの。じゃあ、元気で。もうあんなことしちゃだめよ」

 

 若干早口になりながらそれだけ言って、SPAS達にアイコンタクトを送って踵を返す。

 離れなければ。

 けれど、そんな私の意思に反して私の足が前に出ることはなかった。

 なぜなら。

 

「あぁんそんなぁ! ひどいですコリンズさん! 私を置いて行かないで下さいよぉ!」

「なっ……ちょっと! 放しなさいよ!」

 

 モイラが私の足を抱きすくめるように引っ付いていたのだから。

 顔がデレデレしているものになっているのだけれど、私としてはそんな顔をされるようなことをした覚えが全くない。

 いや、無いわけじゃないけど、それにしたってここまでベタな展開が現実にあってたまるか!

 よって、今のこの状況が下手なホラー映画よりも怖い。あと、スカートとブーツの間の生足にこの子の胸のふくらみが押し付けらえて妙に気まずい。割と着やせするタイプだろうか……?

 そんなことはどうでもいい。どうにかしてはがさないと……!

 とはいっても、一般市民を強引な手段で無理やり引きはがすわけにもいかない。

 なので、致し方なく説得を試みることにする。

 

「アナタ、一体どうしたのよ!? さっきまで別人みたいになって……! ていうか放して!」

「いやです! だってここで放したら二度とコリンズさんに会えなくなる気がするんだもの!」

「んなこたぁ無いから放しなさい! あと私は既婚者よ!」

 

 既婚者、という言葉にモイラが一時停止ボタンを押された映像のように動きを止めた。

 そんな彼女の目の前に、左手薬指にはめられた誓約の証を持っていく。

 

「う、嘘……飛び降りる寸前の粗っぽい口調とか、あんな無茶を平気でやっちゃう辺り、男のケツなんて蹴飛ばしてなんぼだし、男よりも仕事を恋人にしてる人みたいな感じだと思ってたのに」

「アナタ私に喧嘩売ってる?!」

 

 確かに野郎のケツなんて蹴飛ばしてやるくらいがちょうどいいかなとは思うけど、仕事が恋人の行き遅れ女みたいに言われるのは心外だ。私はヘリアントスじゃないんだぞ!

 

「え、じゃ、じゃあ! どんな男の人がお相手なんですか!?」

「え!? え、あ……いや、それは……」

 

 なんで食いついてくるんだこの子。ていうかこれは答えられない。

 だって結婚した相手女の子だし。間違っても45を男の子だとは言えない。

 

「ハッ! ま、まさか同性婚ですか!? そうなんですね!?」

 

 どうしてそこで妙に察し良さを発揮しちゃうんだこの子は。思わず頬がひくついてしまった。

 その反応が彼女には肯定ととらえられたらしい。

 

「……いいですね! 百合、百合なんですね!? どんな子ですか!? 可愛いですか!? もしかしてコリンズさん尻に敷かれちゃったりしてたりするんですか!?」

「あの……ちょっと……?」

「今のご時世になっても同性婚なんてという馬鹿な大人たちは一定数いますし、何なら人類も滅亡に瀕したこの状況で同性婚なんて非生産的な関係を作るなんてもっての外とかはやし立てる愚か者もいますがあの人たちは何もわかっていません! 結婚というのは二人の人間同士がお互いを心から愛し合っていて、そして将来を誓い合ってさえいれば成立できるものであって決して人類の反映と密に関わっていなければならないという凝り固まった考え方は人類が滅亡に瀕している今だからこそ捨てるべきだとを私は思っていて、愛し合うカップルが増えれば戦争孤児の引き取り先も増えるでしょうし人と人のつながりだって今まで以上に作り上げることが容易になっていくのではと思うんです!」

 

 …………逃げよう。熱意がすごいのは分かったけど私には付いて行けそうもない。

 熱く語っていることによってモイラは私のことは見えていないみたいだし、何だったら私の足の拘束も解かれている。

 今のうちにそっと逃げ出して、さっさと基地に帰ってしまおう。

 足音を立てないようにそーっと、ゆっくり。でもできるだけ自然体で。

 一歩、二歩、三歩……。

 

「……大体頭のお堅い上の人っていうのはどいつもこいつも自分の価値観を崩されると死ぬんじゃないかってくらい頭が固いですよね。そりゃあ価値観が崩されるのは怖いですし、抵抗があるのもわかりますけど、それこそ人類が滅亡に瀕したこの世界で古い価値観にいつまでもこだわっている方がよっぽど社会の癌になりうると思うんですよ。大体ちょっとセキュリティシステムの粗を指摘したくらいで激昂してきた挙句、じゃあお前がちゃんとしたセキュリティ組んでみろというから組んでみればズルだコネだと騒いだ上に、その功績は全部自分の手柄にしてくれちゃって! おかげで私は部署内で実力の伴わないコネ入社したクソガキ扱いよ! あれは! 私が! ちゃんと自力で作ったセキュリティだっつってんだろクソハゲェ!」

 

 うわぁ、かなり闇の深い会社に行っちゃったのね。

 それは気の毒だけれど、正直モイラと話していると貞操の危機とまではいかないけどそれに近い何かを感じるので逃げたい。というか逃げる。

 よし、モイラとの距離は大体10メートルくらいのところまで来たかな。野次馬はモイラの一人演説に頷いていたり、同情的な表情を向けたりしていた。

 わかる。でも私は最後までは聞かないぞ。

 野次馬達の間を抜け、SPAS、Vector、カラビーナがちゃんとついてきていることを確認した私は、その場で全力ダッシュをして逃げた。

 ちんたら歩いていて、今度こそモイラに捕まったらやばい気がしたから。

 

 

 

「……で、逃げてきたのですか?」

「身の危険を感じたのよ……」

 

 基地に帰ってきた私は、G36に司令室のソファーの上で正座をさせられていた。

 主に紐なし逆バンジーをしたことについて怒られている。45はニコニコしながら我関せずといった様子だ。助けてくれてもいいのに……。

 どうやら……というかある意味当然だがあの場にマスコミがいたらしく、私の曲芸救出活動もバッチリ撮られていたらしい。

 それを見たG36に、なんて危険なことをしているんだと怒られているわけだ。

 一通り怒られた私だけど、正直反省はあまりしてない。

 だってSPASのことは信じていたし、やったこと自体は別に正規軍の頃に何度もやった動きだ。

 跳ね飛ばされるパワーと高さがいつもと違うだけで、やってることそのものは変わらないのだから別にそこまで不安になる要素はない。

 まあ、万が一ミスって途中で落っこちたとしても、その時の為にカラビーナやVectorに控えてもらっていたのだ。

 とはいえ、私が人間である以上人形たちのようにバックアップが効くわけでもないから、G36が目元を釣り上げるのも分からないでもないけどね。

 それよりも正直な話、私としてはその後のモイラに絡まれたときのほうがよっぽど危なかったと思ってる。

 言い方は悪いけれど、あれは間違いなくクレイジーサイコレズのケがある子だった……。

 ああいう強かな面を持つ子は好みではあるけれど、さすがに二股するほど私も節操がないわけじゃ……あ、この言い方だとD08地区の指揮官に失礼になってしまうな。別に彼のような人を貶めたいわけじゃないのだ。

 とにもかくに、私はこれ以上お嫁さんを迎えてあげるだけのキャパシティはない。

 私が愛せるのは45だけなのだ。

 

「ご主人様、聞いていらっしゃいますか?」

「うん、聞いてる聞いてる」

「聞いてなかったでしょう……」

 

 G36がこれ見よがしにため息を吐く。ごめんて。

 

「ご主人様、お願いですから今日のような危険な真似は私達に任せてください。アナタが無茶をする必要がないように、私達がついているんですよ?」

「うん。……前向きに考えておく」

「もう……それはまた無茶をするっていう宣言とどこが違うんですか……」

「G36、シーラの無理無茶大好き人間っぷりはもう死ぬまで治らないわよ」

 

 呆れた様な、それでいて少し愉快そうにクスクスと笑いながら45がそんなことを言う。

 失敬な。私だって死に急ぐ趣味はないぞ。

 それはそれとして。……って、G36がこめかみを抑えて俯いたぞ。そんな真に受けないでよ。

 

 まあでも、45の言う通り確かに私はそういう人間だからそろそろ慣れてほしいところではある。

 目の前に助けられる人間がいるのに、ただ黙って見ているだけというのはどうにも性に合わない。

 少なくとも、私は立場や肩書も含めて手の届く範囲の人を助けられるだけの力を持っていると自負している。

 であるならば、その力は使えるときに使うべきなのだ。きっと。

 ……この考え方は、隊長やアイツら第10小隊皆の影響かな。アイツら、普段はおチャラけてた癖にそう言う時だけカッコよくなるんだから……。

 今回のことで、少しはアイツらに近づけただろうか。私にとっては、いつまでもアイツらはヒーローみたいなものなのだ。私をいつまでも子ども扱いしたことだけは納得いかないけど。

 

「ご主人様……?」

 

 おっと、少しおセンチになりすぎちゃったかな。G36が心配そうに私の方を見てる。

 変に心配かけっぱなしってのも申し訳ないし、ここは笑顔を見せておこう。

 

「なんでもない。さ、そろそろ夕飯食べようかなー」

「でしたら、野菜も食べてくださいね?」

「う……分かってるってば」

「本当でしょうか? それでは、嘘をつかない様に私もご一緒させていただきますね」

 

 スカートの裾をつまんで優雅にお辞儀をするG36に、思わず苦笑いをしてしまう。

 

「一緒にご飯を食べたいなら素直にそういえばいいのに」

「うふふ。そう言ってしまうと、副官が嫉妬してしまいますので」

 

 愉快な冗談でも言っているような口調でG36がそんな言葉を口にする。

 これはまた。G36もなかなか言うようになってきたな。

 いつの日か45が完全に論破される日も来るのかもしれないぞ。

 そんなことを考えていたら、不意に服の袖をグイっと引っ張られて右腕が誰かに抱きすくめられた。

 見るまでもない。すぐ耳元で聞きなれた甘い、それでいてやや棘のある声が聞こえてきた。

 

「ちょっと。シーラは私のモノなんだからね」

「分かっておりますとも。副官、そんなに心配せずとも私はご主人様をとったりはしませんよ」

 

 信用できない、と言わんばかりに私の腕を抱きすくめる力が強くなる。

 ちらりと横を見れば、45が唇を尖らせてG36をにらみつけていた。

 あ~あ。可愛いなあもう。

 でもいつまでもこうしているわけにもいかない。そろそろ私のお腹と背中がくっつきそうだ。

 

「さ、睨み合いなんてしてないで食堂行きましょ」

 

 そう言って立ち上がろうと正座を崩して、床に足をついて立ち上がる……つもりだったのだけれど。

 

「あ”っ!」

「シーラ!?」

 

 足の裏が靴に触れた瞬間、強烈な痺れが足の裏から伝わってきて態勢を崩した。

 腕に抱き着いていた45が慌てて私のことを抱きとめてくれる。あ、いい匂い。……じゃなくて。

 

「あ、足痺れちゃった……立てない……」

 

 結構な時間正座をさせられていたせいで、私の足は完全に痺れてしまっていたのだ。

 何度か立ち上がろうと試してみたけれど、結果は無残なものだった。

 結局、食堂へは45におんぶしてもらっていくことになった。お姫様抱っこも提案されたけど、さすがに恥ずかしすぎたので却下した。

 まあでも、結局おんぶされて食堂行く間、それと到着した後に出くわした子たち皆から妙に暖かい視線で見送ら得ることになったのだけれど。

 

 くそう……締まらないなあ。




モイラちゃんに関してはまた出したいです。
せっかく名前も付けたし。

最近あちこちでまたコラボしてますねー。
そろそろまたうちもやりたい(予定は未定)

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