女性指揮官と戦術人形達のかしましおぺれーしょん【完結】 作:笹の船
人間を相手に据えた模擬戦がしたい。正確には、近接格闘に長けた奴と組手がしたい。
45とガチンコの組手……と言うよりはただの殴り合いをした数日後、私はそんなことを思った。
別に戦術人形の皆がまるきり役不足と言うわけではない。
彼女達とてCQCの心得なんかはインストールされているはずだから、やってみればそれなりには動ける。
が、逆に言えばそれは『それなり』レベルまででしかないともいえるわけで。
自分とリンクした銃を十二分に使いこなす。それがコンセプトになっている戦術人形達が、ゼロ距離における近接戦闘技術まで持ち合わせているかと言うと、まあなかなかそんな子はいなかったりする。
だからフュンフやスコーピオンは勿論、ウチの基地の中堅部隊クラスまでであれば私の方が強い。昨日実際にやってみてわかった。
第一部隊や404、AR小隊を始めとした実力者達相手だと、それまでの戦場での経験もあるから動けている印象だ。それでも私側の勝率は7割と言ったところだ。
例外は45とスプリングだ。とはいえ45に関してはお互いの手の内が分かっているからというところもあって5分、スプリングに至っては戦い方の相性が最悪なせいで負けた。
スプリングのスタイルは、私と同じ返し技メインの戦闘スタイルだったのだ。
で、私が攻めながら相手をコントロールして行って本命のカウンターを叩き込む戦い方をするのに対して、スプリングは何もせずにただ待ち、焦れた相手に強烈なカウンターを一発叩き込んで無力化するタイプの戦い方だった。
カウンター以外に決め手を持たない私にとって、これほど戦いにくい相手もいない。
とはいえ、そんな戦い方が出来るのはスプリングぐらいしかいないわけで。
苦手を克服、と言っても毎度スプリングに相手してもらうのも忍びない。
じゃあ人形たち皆に近接格闘術のデータをインストールしてもらうか、とも思ったけれど、あれは理屈やデータで簡単に再現できるもんでもない。
型はマネできても、それが意味するところまで彼女たちが理解して使いこなすのは難しいだろう。
実際、試しにスコーピオンに柔術のデータインストールしてもらってフュンフと組手してもらったけど、型にこだわるあまり動きがぎこちなくなっていた。
ハマれば強いけど、実戦で使うにはリスキーすぎる。そもそも、I.O.Pのサーバーにも武術関連のデータは型がせいぜいで用法やいわゆる極意のようなものはないみたいだ。
そもそもからしてスプリングのあれだって聞けば我流だという。いや、確かに着任当初から一定以上の強さは持ってたけど……戦術人形になる前に何かしてたんだろうか。
閑話休題。
まあ、組手をしたいがためにわざわざ戦術人形に格闘術のデータをインストールするなんてぶっちゃけナンセンスだ。
それをさせるくらいなら、最初から電脳の容量が許す限り既定の銃の扱いをより完璧に近づける為のモジュールを組み込む方がよっぽど生産的なのだから。
だから、格闘術に長けた人材のいる組織を探す必要があったわけだ。
で、都合のいいことにG&Kは他PMCとも業務提携をしていた。
PMCってのは基本的に同業者=商売敵、な印象も強いけど、何事も例外はあるものだ。
「そういうことだから、私【武器庫】と共同模擬演習してくるわね」
『お前は……何故そういうことを私に報告せずに勝手に先方と約束を取り付けるんだ』
モニターの向こうで頭を抱えてるのはヘリアントスだ。
実は彼女には何の報告もなく勝手にPMC【武器庫】に連絡を取り、共同模擬演習の約束を取り付けた。
内緒にしてたわけじゃない。現にこうして報告はしている。事後報告だけど。
「まあいいじゃない。武器が使えないような零距離戦闘での戦い方を皆に教えられるいい機会だわ」
『人形に格闘戦などナンセンスではないのか?』
ヘリアントスが当然の疑問を口にする。
ま、ぶっちゃけた話私としても同意見だ。格闘技術を教え込むくらいなら、彼女達の半身に対する最適化――私は味気ない言い方だと思うから『練度』と言うけど――を進めたほうが効率的だし生産的だ。
「確かにナンセンスよ。でも、無駄じゃないわ。銃がダメになった時、それでも頼れる武器が一つは増える。武器があれば戦う意思は折れにくくなる。戦場に立つ者にとって、そういう戦う意思を支えるものは一つでも多い方がいいからね」
『お前がそうして生き残ってきたようにか』
ヘリアントスの言葉に、思わず顔をしかめる。
生き残る、という言葉はあまり好きじゃない。なんだか、一人世界に取り残されていくみたいな感じがするから。
いや、私の場合は実際そうだったのだけれど。
『……すまない。失言だったな』
「……気にしないで。もう終わった話よ」
ヘリアントスが珍しく素直に謝ってきたことに内心で感謝をしながら、話題を切り替えることにする。
彼女だって馬鹿じゃない。顔を合わせればお互いの口から罵声が出るような関係ではあるけれど、言っていいこと悪いことくらいはヘリアントスだってわかってる。
……まあ、そこんところが今になっても縁を切らずにやっていける秘訣なのかもしれないけど。
「ともかく、いざって時に連携がとりやすくなるように媚でも売ってくるわよ。あ、男多いんだっけ? 春を売った方が話は早いかな」
軽く冗談めかしてそんなことを言う。勿論そんなことをするつもりは無いし、襲われたら刺し違えてでも殺してやるけど。
「指揮官!」
冗談だとは思えなかったらしいM14の悲鳴じみた声が鼓膜に突き刺さった。そんなにデカい声出さなくても。
そういえば今日の副官はM14だ。45は作戦行動が終わって基地に帰還中なので、この場にはいない。
『シーラ。今のは笑えないぞ』
ヘリアンもめちゃくちゃ怖い顔をしてモニター越しに私を睨みつけてきた。
真隣にいるM14からもかなり怖い顔をされている。
さすがに不謹慎なジョークだった。今のは反省だな。
「……ごめんって。そんなことしないわよ」
『冗談でも言って良いことと悪いことがある。今のはダメな奴だ、シーラ』
「うっさいな……分かってるわよ」
クソ、冗談一個でお説教は勘弁してほしいなあ。反省もしてるんだし、見逃してほしい。
『こんなご時世なんだ。知り合いが無闇に身を削る姿は私だって見たくない』
突然のヘリアントスからの本音らしき言葉に、思わず苦笑が漏れる。コイツの口からこんなお優しい言葉を聞くことになるとはね。
「……アンタ、PMCには向いてないんじゃないの。ヘリアントス」
『お互い様だ。それに、どちらかと言えばお前の方がよっぽど向いてないと思うよ、私は』
改めて面と向かって言われると堪えるものがある。
自分でもいびつな精神構造をしているのは自覚しているのだ。
人形を人形として見れず『ヒト』として認識してしまう、したいと願ってしまう指揮官など、どう考えても戦術人形という『兵器』を指揮する人物としては不適切だ。
何せ部下が一人重傷を負ったくらいでメソメソと泣く位、私は臆病で弱虫なのだから。
そんなことを考えている私に向けて、ヘリアントスが再び口を開いた。
『私はな。お前ほど優しい指揮官を見たことがないよ。いったいどうやって今まで軍人でいられたのか、不思議なくらいだ』
「甘ったれすぎだ、って言いたいわけ?」
思わず声が固くなる。自分の至らないところを指摘されるのは、いくつになっても馴れないものだ。
そんな私に、ヘリアントスは首を横に振った。
『そうじゃない。お前みたいに純粋な性格の奴は貴重だってことだよ。軍人だとか一般人に関わらずな』
「……一応、褒め言葉として受け取っておくわ」
とても自分が純粋だとは思えないのだけど、イチイチ自分を卑下するのも時間の無駄だから、そういうことなんだろう、程度に受け取っておく。
こういう時はこうしたほうが平和なのだ。
『まあなんにせよ、共同演習の件に関しては承認はしておく。……頼むから次はちゃんと事前に報告してくれよ』
「ええ。そうするわ」
こめかみに手を当てつつ、胸の内にため込んだ毒素でも吐き出すようにため息をついたヘリアントスがコンソールに手を伸ばす。
「あ、ねえ。ヘリアン」
反射的に彼女を呼び止めていた。
私に呼ばれたヘリアントスが、動きを止めてこちらを見やる。
『どうした?』
何のために呼び止めてしまったか、今更になって気が付いて妙にこっぱずかしくなった。
けれど、こうして呼び止めた以上は言わなきゃいけないだろう。
「その……ありがと。ちょっと、楽になった」
少なくとも、いびつな私の在り方を認めてくれる人間がいる。それはやはり私にとって嬉しいことで。
その相手がヘリアントスだっていうのはちょっとだけ気に入らないけど、それでも救いであったのには違いない。
故に、私は礼を言うべきだと思った。それだけだ。うん。社会人として、やるべきことをやっただけ。おかしいことじゃない。
けれど、ヘリアントスはそうは思わなかったみたいで、数秒ぽかんと口を開けた。
気まずくなって思わず視線を逸らす。
そんな私の姿が滑稽だったのか、ヘリアントスはクツクツと笑い始めた。
「ちょっと、何よ!」
『いやなに。ようやくお前が"スイートキャンディ"と呼ばれていた謎が解けたと思ってな。まあ、頑張れよ』
「ハァ!? それどういうっ……! クソッ! アイツ切りやがった!」
いったい何なんだ。言うだけ言ってヘリアントスの奴め通信を切りやがった。
そんなヘリアントスの言い逃げじみた行動に怒っていると、すぐ傍から別の笑い声が聞こえた。
「……M14。何笑ってるの」
「いえ、なんだか指揮官ったら、子供みたいだなって」
言われて思わず顔を思い切りしかめた。
きっと今の私はメチャクチャ酸っぱいものでも食べたみたいな顔になっていることだろう。
子供っぽいと言われるのも嫌いだ。私はもう24歳だぞ。
「いいじゃありませんか。それくらい可愛げがあった方が、指揮官は素敵ですよ」
「むぅ……」
素敵でも何でもやっぱり子供っぽいのはちょっとやだな。いい年してるんだから、いい加減大人の女性として見られたいところだ。
いや、でももう基地の皆相手には手遅れかもしれない……。
スプリングとかG36とか45とかにお説教されてるシーン、かなり見られてるしな……。
まあ、武器庫では精々子供っぽく見られない様に気張ればいいか。
そんなことを考えながら、私は武器庫へ行く際に連れて行くメンバーを決める為にラップトップとにらめっこを始めた。
ということで次回からサマシュさん作『傭兵日記』の主人公ことジャベリン君が所属している武器庫にシーラさんが出向きます。
快くキャラを貸してくれたサマシュさん、ありがとうございます。
コラボ本編は2~3話を予定です。