女性指揮官と戦術人形達のかしましおぺれーしょん【完結】   作:笹の船

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コラボ回三話目。
シーラさんとジャベリン君の組手となります。


★指揮官、傭兵と組手するってよ

 先に攻撃を仕掛けたのは私だ。

 左足を踏み込んで、右足刀をジャベリンの胴に向かって繰り出す。

 右が利き足ってのもあるけど、彼は左目に眼帯をつけている。左半分の視界は恐らくほとんどないはずだった。

 けれど、ジャベリンは難なくこれを避けた。まあ、当然か。

 いっぱしの戦士なら自分の弱点は把握してあるのは当たり前だ。寧ろこの程度で有効打が取れてしまったら期待外れもはなはだしい。

 ジャベリンは私の視界から消えている。正確には、振り回した自分の足に隠れて見えないくらいには姿勢を低くしている。

 彼から見れば今の私は隙だらけだろう。大ぶりの足刀を空振っているわけだから。

 けれど、彼は踏み込んで攻めてくるといったことはせず、私の間合いの外へとバックステップを踏んだ。

 

「あら、勘がいいのね」

「あいにく、伊達に戦場を渡り歩いているわけでも無くてね」

 

 あのまま攻めて来ようものなら、即座に右足を引き戻す様に逆に振り返してカウンターを当てるつもりだった。

 決まれば意表をつくことになるから、例えガードされてもこちらが不利になるってことは余りない。私の十八番のカウンターだったんだけど、流石にそう簡単には決まらないか。

 しかし、こう勘がいいとなると少し手こずりそうだな。ガードは固そうだ。

 とはいえ、だからと言って待ちに徹する気はない。再度ジャベリンに向かって踏み込んで、今度は右のジャブを放つ。

 当然浅い打ち込みだからいなされるけど、それは問題じゃない。続いて左、右とジャブを連発する。

 全て捌かれるけれど、私の狙いはそれだ。ジャベリンの意識をとにかく拳に集中させる。

 今度は少し強めの右フックを繰り出した。が、これも完璧にガードされる。

 私から見て右側は、彼にとっての左側。つまり視界はゼロに近いはずだけど、こうも完璧にガードされるってことは左側からの奇襲は余り意味をなさないかもしれない。

 そんなことを考えながら、左フックを繰り出す。ガードされた。けれど、その方が都合がいい。彼の右目の視線は、私の腕に行っている。 

 左腕を戻すと同時に、今度は右足でローキックを繰り出す。これは確実に意識外のはずだ。

 が、これもガードされた。クソ、コイツホントは左目見えてんじゃないのか?

 胸の内で舌打ちをすると同時に、今度はジャベリンが攻めてくる。

 パンチ、パンチ、キック。不規則に、けれど重い一撃に思わず顔をしかめる。男女の体格差って言うのはこういう時やっぱり響くな。まともに受け続けてたらこっちがつぶれる。

 とはいえ、下手に受け流しの態勢はとれない。相手の攻撃を読み切れないうちに受け流しを使ってしまうと、いざと言う時に反撃に移れないからだ。

 私の返し技は相手の攻撃の勢いを利用したものが多い。その為には『受け流されるかもしれない』という疑惑を相手に抱かせてはならない。

 受けて、避けて、避けて……はたから見れば完全にじり貧だろう。実際、その通りになりかかってる。反撃を何度か試してみているけれども、こちらの攻撃は既に見切られかかっているのかもうろくに通らない。

 状況はどんどん悪くなっていく。牽制代わりと攻撃を繰り出してみるものの、それは見事に防がれて手痛い反撃が返ってくる。

 

「うぐっ……!」

 

 ジャベリンの拳が腹に突き刺さった。ギリギリで後ろに下がったから深くは入らなかったけど、それでも無視できるほどの軽い当たり方ではない。

 

「こんのっ!」

 

 左の拳でジャベリンを殴るけれど、それは容易に防がれる。

 けれど、その防いだジャベリンの腕を左手で掴んだ。一瞬、彼の右目が見開かれたのが見えた。

 そのまま、渾身の力で左腕を引っ張る。一瞬、ジャベリンの態勢が揺らいで、左腕が胴から離れた。

 そこへすかさず右ひじを振り上げるようにして、ジャベリンの胴へと突き入れた。

 けれど、踏み込みが甘かった。思っていたほど肘打ちは威力を出せず、ジャベリンは少し顔をしかめる位のリアクションしかとらない。

 

「踏み込みが甘かったな」

 

 急いで距離を取ろうと体を引くけれど、ジャベリンはそれを許さない。

 お返しとばかりに胸倉と腕を掴まれる。

 ヤバイ、と思った時にはもう遅かった。

 

「オラァッ!」

 

 体が宙に浮く。世界が上下逆さまになる。

 背負い投げ。日本の柔術の中でもかなりポピュラーな投げ技。私がくらったのはソレだ。

 

「ガッハッ!?」

 

 ジャベリンの投げの勢いと、自分の全体重がかかった衝撃が背中に叩きつけられて目の前に星が散る。

 肺の中の空気を強制的に吐き出すことになり、呼吸が一瞬止まる。

 それでも、ここで寝転んでいては負けになる。激痛に顔をしかめながら、それでも無理やりに体を動かしてジャベリンから距離を取った。

 

「はぁ……はぁ……」

「おい、まだやるのか?」

「あいにく降参と言った覚えは……ないのよね」

 

 肩で息をして、痛みをこらえながら唇の端を吊り上げてみせれば、返って来たのは困ったように顔をしかめたジャベリンの唸り声だった。

 

 もはや私に反撃する余力はほとんどない。勝敗はほとんどジャベリン側に傾いているのは間違いなかった。

 でも、もう少しだ。もう少しで行けそうなんだ。

 ジャベリンが蹴りを繰り出して来る。それをどうにか避けて、こちらも蹴りで反撃した。苦し紛れの蹴りだから、当然ガードされる。

 ちょっと流石に無理な態勢で蹴りを出してしまったから、ガードされたことでこっちの態勢が崩れる。

 せめてもの対応策として、よろける様に後ろに下がって距離を取るけどそれをそのまま見送ってくれるジャベリンではない。

 地面を蹴り、彼我の距離を詰めようとこちらへ迫ってくる彼の姿が見える。

 ジャベリンが左腕を引いた。前進する勢いを乗せた強烈なパンチを放つ構えだ。アレをマトモにくらえば間違いなく私はダウンするだろう。

 けれど、そんな危機的状況に反して集中力が極限まで高まるのを感じる。

 世界がスローモーションになってジャベリンの拳の軌跡が見える。あの構えからなら蹴りは絶対に出せない。

 そう、この瞬間を待っていた。相手が勝負を決める為にフルパワーの、そして直線的で見切りやすい動きの攻撃を繰り出すこの瞬間を。

 半身になりながらジャベリンの拳を両手で受け流し、左手で彼の手首を掴んで重心を後ろに移しつつ、そのままこちらに引き寄せる。その際、右腕も折りたたんで自分の体に引き寄せた。

 

「なっ?!」

 

 ジャベリンの態勢が大きく崩れる。すぅっ、と息を吸い込む。

 直後、自分の全体重を右足一点に集中させて、思い切り踏み込んだ。地面を揺るがす様な重い音と衝撃が足元から響き、右足がその衝撃に悲鳴を上げる。

 それと同時に、ジャベリンの胴へ突き刺す様に右ひじを突き出した!

 

「はぁッ!!」

「がふっ!?」

 

 外門頂肘(がいもんちょうちゅう)。恐らく私が持ちうる返し技の中で、最も破壊力のある技だ。

 私の右ひじを脇腹に受けてジャベリンの体がくの字に折れ、そして数歩分後ろへと吹っ飛ぶ。

 返し技として使う外門頂肘は、相手の体重が重く、そして突進の勢いが凄まじいほどその威力を発する技だ。手ごたえは確かにあった。最高の威力を発揮したであろうあの状況で、それでもジャベリンが倒れないのなら……。

 

「はぁっ……はぁっ……」

 

 背負い投げをもろにくらったダメージは決して浅くない。正直、受け身もロクに取れていなかったからかなりヤバイ。大体、それ以前にも何発か良いのを貰ってる。

 消耗した体力と、集中力が切れたこともあってその場に膝をついてしまった。

 これでアイツがピンピンしてたら、その時は潔く私の負けを認めよう。

 痛む体と頭に鞭をうって、顔を上げる。

 

「ゲホッ……! 効いたぜ……クソッ……」

 

 どうやら、それなり以上の有効打はあったらしい。

 けれど、ジャベリンは私の肘打ちを食らった場所を押さえながらそれでも立っていた。

 

「……はは。あれくらって立ってられるとか……冗談でしょ……」

 

 認めよう。私の負けだ。外門頂肘(アレ)を食らわせてなお立てるとなると、もう私に打つ手はない。

 全身の力を抜いて、その場に大の字になる。

 一切の言い訳が出来ない完全敗北だった。なんせ奥の手の外門頂肘を決めてなお勝てなかったのだから。

 

「くっそー……入ったと思ったんだけどな……」

「正直かなり肝が冷えたよ。くらう直前に足踏ん張ってアンタから離れる様に地面を蹴ってなかったら、今頃倒れてるのは俺の方だっただろうな」

 

 腹を押さえながらジャベリンが私を見下ろしてそう言ってきた。

 そうか、最後の最後で右手右足に意識を集中しすぎて、拘束を解いてしまったのが敗因だったか……。

 

「いい試合だった」

 

 ジャベリンが私に向かって手を差し伸べる。

 一瞬、その手を取るか迷いが生じたけれど、それはすぐに打ち消された。

 彼であれば、別に大丈夫なんじゃないかと思ったからだ。

 だから、差しだされたジャベリンの手を取った。

 男らしい力で体を引っ張られて、立ち上がる。

 

「そ、そこまで! 勝者、ジャベリン」

 

 見入っていたのだろう。慌てたように、審判を務めていたスプリングが声を上げる。

 余りにも遅いコールに苦笑いをしながら、皆の方を振り向いた。

 

「ごめん。負けちゃった」

 

 けれど、そんな私を待っていたのは私を労う皆の声だった。

 そしてその労いの声の中には槍部隊の面々も含まれていた。

 男から褒められるのって、実はそんなに好きじゃあなかったんだけど。

 悪くない。全く悪くない。

 体のあちこちは痛むけれど、それを吹き飛ばす様な気持ちよい空気が辺りを包んでいる。

 

 正規軍の頃にいたのを思い出す様な、懐かしいその感覚に思わず目を細めながら、私とジャベリンは皆の元へと歩いて行った。




あっれぇ。ホントは組手中にクレイモアさんと社長が乱入する予定だったんだ。
でも決着がついてしまった。
大丈夫。当方にはプランBというモノがあってだな……

まだまだ続きます。でも後二話くらいで〆られたらいいなとは思ってる。
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