女性指揮官と戦術人形達のかしましおぺれーしょん【完結】 作:笹の船
私が救護室にたどり着いた時、既に中からはAR小隊の弾んだ声が聞こえてきていた。
扉を開け、中に入る。
「やあ、いらっしゃい」
最初に出迎えてくれたのはペルシカだ。
最も、扉の近くの壁に寄りかかっていたからなのだが。
「皆楽しそうね」
「兵器として開発した私が言うのもおかしな話だけど、ああしてみると本当に年頃の女の子達って感じだね」
確かに、子犬と触れ合っている彼女達の笑顔はとても自然なものだった。非番のカフェなんかで見せる笑顔とは、また少し違った感じだ。なんというかこう、より感情が表に出ているというか。
「いつか、あの子達が銃を握らずに、ああして笑えるのが当たり前な日々が来れば……なんて願うのは私のエゴなんでしょうね」
自嘲するように、そんなことを呟く。
勿論、その願いが彼女達の存在意義を否定するようなものであることは分かっている。
彼女達は戦術人形。戦う為に生まれた、人類が誇る戦乙女達だ。
戦術人形が必要とされ、そして人類と手を取り合っていける日々とはつまり、戦いの終わらない日々ということ。
高度な知性と高すぎる戦闘力を持つ人型の機械など、戦いが終結すれば人間にとって新たな脅威でしかない。
戦いが終わったとき、きっと彼女達は理不尽に葬られてしまうのだろう。そうしなければ、私達が生き残れないから。
「ねえ、シーラ」
隣のペルシカが私を呼ぶ。
「んー?」
「叶えられるよ、その願い」
「……は?」
思わず気の抜けた声が出る。どういうことだろう。
ペルシカを見れば、彼女らしくない真面目な表情をしていた。
「いや、違うわね。叶えてみせる、かしら」
「あら、意外。ペルシカ、アナタそんなロマンチストだったっけ」
ペルシカはガシガシと頭をかいた。本人としても、らしくないことを口走っているのは自覚しているらしい。
「あの子達を造ったのは私よ。それなら、最期までちゃんと面倒は見てあげたいっていうか」
目を細め、かしましく騒ぎながら子犬と戯れるM4達を見やる。
「私達が先に死ぬか、彼女達の機能停止が先か。どちらにせよ、最期の時はあんな風に笑ってくれると嬉しいと、私も思ってるんだよ」
肩入れするなんて、立場上良くないんだけどね、とペルシカは自嘲する。
けれど、それはきっと自然なことなのだ。
私もペルシカも、M4達を何度も助けたし、逆に何度も助けられもした。
M4達だけじゃない。45を始めとした404小隊、そしてうちの基地に所属する人形達。
ただの上司と部下、使う側と使われる側。幾多の戦いを乗り越えてきた私達を、そんな単純な関係性で表すことなど無理だろう。
「まあ、いつかあの子達と一緒に平和に暮らせる。そんな日が来るといいよね」
そう呟いて、私は左手薬指の誓約の証を触る。
世界は崩壊寸前だ。そんな日なんて少なくとも私が生きている間は無理だろう。
鉄血の脅威を退けたところで、問題は山積みなのだ。
それでも、いつかそんな日が来てくれたら、と願わずにはいられない。
「願うだけじゃ叶わない。でも、そんな祈りにも似た願いを叶えるために、私のような研究者がいる。そうやって、世界は前に進んできた」
「ペルシカ……」
いつもどこかフワフワしている彼女が、今日はやけに饒舌で、別人のように見える。
「カフェイン足りてないんじゃない?」
「キミね……せっかくいい話してるのに台無しだよ」
見せつけるような大きなため息に、けれど私は笑みがこぼれた。
「今更だけど、私達にこんな湿っぽい話は似合わないと思わない?」
「同感だよ。お互い、調子狂ってるのかもね」
そう言って、二人でクスクスと笑う。くだらない冗談を言い合っては笑う、昔からの友達のように。
「あー! 指揮官、来てるなら声かけてよ!」
SOPⅡが頬を膨らませてこちらを見ていた。そんなSOPⅡの声に合わせて、子犬が可愛らしく吠える。
「いや、皆が楽しそうだから、ちょっと遠くから見てようかと思ってさ」
「なんだ指揮官、覗きとは趣味が悪いぞ」
M16の茶化すような言葉に、おどけてみせる。
「私、悪い子だから」
「ははは! ……まさか常日頃からそんなことしてるわけじゃないよな? 私はいいが、妹達にもやってたら……」
M16の声のトーンが突然落ちる。待って。どうしてそうなるの。
「あのね……私別にスケベとかじゃないから、ノゾキはしないわよ」
冗談だ、と笑うM16。嘘つけ! 目がマジだったのに!
「M16、あまり指揮官をからかうのはダメよ」
流石RO、ナイスフォロー。助かった。
「えー、でも指揮官ってお酒飲んだら悪ノリでやりそうじゃない?」
SOPⅡがニコニコしながらそんなことを口走る。
「ちょっと、AR小隊の中での私の評価ってどうなってるの!?」
いや、ホントにどうなってるんだろう。
「ちょっと意地悪なところがありますよね」
とM4。否定できない。
「一杯やると中々楽しいよな。はめ外し過ぎたらヤバそうだけど」
M16、ヤバくなるって分かって飲んでるアナタに言われたくない。
「M16とかの手綱をもっとちゃんと握ってほしいかなと」
AR-15、ごめん。それは無理。
「最近UMP45ばっかりに構っててつまんなーい」
ごめんねSOPⅡ、もう少し構ってあげられるように善処します。
「その……作戦指揮は頼りにしています」
RO、それ以外は……?
ちょっとこれは私の指揮官としての立場をハッキリさせた方がいいのかもしれない。
「皆、もっと私を敬ってもいいと思うでしょ。キャンディ?」
「わふ?」
キャンディと呼ばれた灰色の子犬は、それが自分の名前だと分からないのか、首をかしげた。
「キャンディ? シーラ、キミその子犬にその名前つけるのかい?」
ペルシカがほんの少し驚きを含ませた声を上げた。
キャンディの頭をそっと撫でる。気持ちよさそうだ。意外と人懐っこいみたい。
「まあ、いいんじゃない。きっと飴玉みたいに皆を笑顔にしてくれるだろうから」
わしゃわしゃとキャンディを撫でながら、ペルシカにそう返す。
「……キミがいいっていうなら、まあいいか」
「ペルシカ? 何の話?」
M4がペルシカに問いかける。変なことを言わないか、少し不安になって後ろを振り返った。
「シーラの昔のあだ名だよ。『スイートキャンディ』っていうね」
「ま、昔の話だね」
それについては話すと長いし、ここで話すような話でもない。
「それで、皆の反対が無いならこの子は『キャンディ』って名前にしようと思うけど」
立ち上がり、周りを見渡す。
M4達がお互いを見合わせる。
そして、それぞれが小さく頷いた。
「私達は、賛成です」
「それじゃあ、今日からこの子は『キャンディ』ね」
「ワン!」
どうやら自分の名前だと認識したらしい。キャンディが元気よく吠える。
それじゃあ、最後にやることをやってしまおう。
「さて、AR小隊。今回の件の処罰を下すわよ」
私の言葉に、M4達の表情が一瞬で凍り付く。やっぱりこう良いリアクションされると意地悪はしたくなるよね。
「なんてね。そんなに構えないで。処罰というより、約束をしてほしいの」
クスクスと笑う私を、皆が睨む。おお怖い。
「キャンディの世話は、アナタ達が中心になってやること。決して、途中で投げ出さないこと。これを約束してほしいの」
私の提示した約束を聞いて、皆は一瞬ぽかんとした表情になる。
けれどすぐにそれは喜びの表情に取って代わった。
M4達がお互いを見やり、そして頷き合う。
「……勿論です! 私達が最後まで面倒を見ます。必ず」
M4は真っすぐと私を見据え、そして力強く頷いてくれた。
これなら、問題なさそうだ。
やれやれ、これで一件落着ってところね。
「さて、子犬の名前も決まったことだし、祝杯でも上げに行くか?」
「M16! アナタはもっと節制しなさい!」
険しい表情でM16に詰め寄るRO。けれど肝心のM16はどこ吹く風といった様子だ。
「そう固いこと言うなよRO。今日はめでたい日なんだからさ」
「M16姉さん、残念ですがスプリングフィールドにはしばらくお酒を出さないようにお願いしてあります。いくら姉さんでも最近はちょっと目に余るので」
まさかの大好きな妹M4からの裏切りに、さしものM16も困った表情をした。
「なっ!? おい、M4……そりゃないだろ」
「いいじゃないM16。今ならお酒を飲む時間でキャンディの世話ができるわよ」
「AR-15まで……」
「キャンディもお酒臭いM16は嫌だよねー?」
「くぅ~ん?」
私に味方はいないのか!? と嘆くM16。
キャンディを中心に再びかしましい空間が出来上がる。
長い一日だった。けれど、何とか丸く収まった。
目の前で騒ぐM4達と子犬のキャンディを見て、それを実感する。
「ペルシカ」
「なんだい」
「一杯おごるわ。ご飯付きでね」
「素直にありがとうと言えばいいのに。キミも大概素直じゃないね」
それはそうなんだけど、ペルシカにソレを言うのはなんだか負けた気がする。
「お、なんだ指揮官、ペルシカ! 飲むなら私も連れてってくれ!」
「往生際が悪いわよM16!」
「ワン!」
やれやれ、騒がしい夕食になるなあ、これは。
……そういえば、スプリングフィールド的にはあのカフェってペットOKなのかな。
ほのぼのとした小話をかこうと思ったらなんちゃってシリアスな短編が出来上がってしまいました。
でも書いてて楽しかったです(小並感)
次回からも一話完結のほのぼの日常を書いていくぞ。