女性指揮官と戦術人形達のかしましおぺれーしょん【完結】   作:笹の船

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武器庫出張編最後です


★また今度

 ジャベリンとの組手が終わった後、私とジャベリンは並んでベンチに座りながら他の皆の組手を観戦していた。

 

「いいぞー! M14!」

「ランス避けろ!」

 

 今はM14とランスが組手をしている。

 武器庫との共同模擬演習が決まってから、特にあの子は頑張って近接戦闘の練習してたもんね。

 私の仕事が終わった後とか、私が暇そうと見るや否や組手をせがんできていた。45がちょっとむくれた顔をしていたのが可愛かったなあ。

 ま、それはさておき。

 私が彼女に教えられたことは余り多くない。とはいえ、彼女は動きが直線的、かつワンパターンになりがちだということを指摘して、それを矯正する為の組手を行っただけだ。

 流石に人形なだけあって、飲み込みはかなり早かった。昨日の時点では、もう私もかなり頭を使って彼女の動きを誘導してから返し技を出さないと決まらないし有効打も取られる、位にはなっていたのだから。

 いやあ、こういう時人形っていいなって思ってしまう。私だってここまで強くなるのに年単位の練習と組手を繰り返してきたのに……

 自分のことはいいとして。

 M14はと言えば今フェイントと本命を織り交ぜての猛攻を仕掛けている。人形だからスタミナ切れもしにくい。戦況はM14有利だろうか。

 とはいえ油断はしちゃいけない。いくら人間が人形よりも継戦能力の点で劣っているとはいえ、その分人間には人形に無い柔軟な思考がある。 

 ましてやグリフィンみたいに戦力の大半を人形に挿げ替えるPMCが大勢いる中で、武器庫は戦力の大半が人間のPMCだ。人形の方が有利、なんて甘い考えは通用しないと考えた方がいい。

 

「やあっ!」

 

 あ、M14勝負を決めに行ったな。飛び膝蹴りを繰り出してる。

 ランスがとっさに後ろに下がるけれど、避けられないと気づいてそれを防いだ。あーあ。防いじゃった。

 M14がニヤリと笑うのが見えた。あの飛び膝蹴りは相当な勢いとパワーが込められている。

 つまり、突進の勢いはまだ残ってる。M14がその勢いを活かして体を宙で捻る。

 そのまま、膝蹴りとは反対側の足で踵落としを繰り出した。

 

「ぐおっ!?」

 

 さしものランスもこれには対応できなかったようで、踵落としを顔面にくらった。あれ、もろにくらうとキッツいんだよなあ。私も正規軍の時に副隊長から散々食らわされた。

 あ、ランスがぶっ倒れた。勝負あり、かな。

 

「そこまで!」

 

 審判のスプリングがストップをかける。

 

「指揮官! 見ました!? 勝ちましたよーっ!」

「ナイスよM14。いい蹴りだった!」

 

 両手を上げて嬉しそうに飛び跳ねるM14にそんな誉め言葉を送れば、彼女は心底嬉しそうにはにかんだ。可愛い。

 

「いてて……あんな技アリかよ……」

 

 ランスが顔をさすりながらこちらに向かって歩いてくる。……アザにはなってなさそうだ。踵落としの手加減は上手くできたらしい。

 

「油断しすぎだぞランス。ありゃ横に避けるべきだ」

「無茶言うなジャベリン。あんな二段構えの技いきなり出されて対応できるわけないだろ。いちち……」

 

 まああの二段構えの蹴り技、膝蹴りを繰り出す時の脚力さえ十分にあれば初見の相手には大体決まる技だ。

 だからランスが受けてしまったのも仕方がないだろう。ましてや今回あれを繰り出したのは人形のM14だ。失敗する要素がない。

 

「にしてもオタクのところの人形、足癖悪くないか?」

 

 ランスが苦笑いをしながら私に話しかけてくる。

 失礼な。そんなことはないはずだぞ。

 

「気のせいじゃない? 考え過ぎよ」

「そうか……」

 

 そんな納得のいかなさそうな顔をされても……。足技中心の子なんてそんなにいないはずだけどなあ。

 

「やあああっ!」

 

 そんなことを考えていると威勢の良い叫び声が聞こえたので、そちらを見やる。

 すると、そこには足技でランスを攻め立てる一〇〇式の姿があった。

 

「……なあ、やっぱり足癖悪くないか?」

「足技が中心なだけよ……足癖は悪くない、はず」

 

 そんな目でこっちを見ないでランス。私のせいじゃない。

 

 

 

 まあ、そんな感じで組手も進んでいって全員の対戦が終わった。

 その後はそれぞれの組手を見て感じたところ、改善できそうなところを言い合ったりして癖の矯正だったり、得意な技の洗練だったりを各自相性の良い相手と組んで行っていた。

 私はジャベリンとまた組み手をしていた。最も、今度は軽めの奴だ。お互い本気で有効打を取りに行くような決闘じみたものではない。

 ちなみに私はジャベリンその他から返し技を狙い過ぎではと指摘されてしまった。

 なので今は返し技に頼らず相手のガードを崩す練習に付き合ってもらっている。

 手技で攻めながら、足技を混ぜて見たり、逆のことをやってみたり。色々試してはみてるけど、ジャベリンの奴ガードが固くてなかなか崩せない。

 うーん……やっぱ返し技が使えないとこんなにも決定打に欠けるのか……。

 

「なあ、コリンズ指揮官。投げ技とかは使わないのか?」

「え? ……ああ、そうか。その手があったか」

 

 確かに、打撃がダメなら投げを狙うのもありかもしれない。

 背負い投げみたいなやつは体格差的に無理かもしれないけれど、投げ技ってのは何もそれだけじゃないわけだし。

 よし、なら試してみますか。

 

 

 

「私は遺憾の意を表明するわ」

「なんでだ。俺は悪くないだろう」

 

 結局投げ技も何一つ食らわせることが出来ずに、訓練時間が終わってしまった。

 今は皆で武器庫の食堂にいる。

 それにしてもジャベリンめ。一回くらい食らってくれてもいいでしょ!

 

「それじゃ訓練にならないだろ」

「成功体験がなかったら人間モチベーション維持できないって分かっててそれ言ってる!?」

 

 この野郎。次に組手やったら今度は意識刈り取るまで叩きのめしてやる。

 

「まあまあ指揮官。また今度挑戦すればいいじゃないですか」

 

 クスクスと笑いながらスプリングが私用のココアを持ってきてくれた。

 ちなみにアイスだ。流石に運動した後にホットココアはキツイ。

 

「むぅ……」

 

 頬を膨らませながらココアを口にする。

 うん、ここのココアも甘くておいしい。でもやっぱりスプリングのが一番かな。

 

「あー……なるほど」

 

 突然、私の向かい側に座っていたジャベリンが一人納得したように小さく頷いていた。

 

「……? 何、どうしたのよ」

「いや、なんでアンタが『スイートキャンディ』って呼ばれているか分かった気がして」

「ちょっと! それって私が子供っぽいって言いたいの!?」

 

 私がそう呼ばれたのは「飴玉が似合うお嬢ちゃんだな」っていう隊長の言葉がそもそもの始まりだ。

 いや、そもそもそう言われたのはホントに子供の時だったから仕方ないけど。

 でも現にその名前が広がったのは、他の部隊と一緒に作戦をこなした時に事あるごとに隊長が「飴玉の似合いそうな子だろ」って言って、他の部隊の連中もそれで納得してたからだ。

 なんでだ。全く持って納得がいかない。

 

「いやでも……さっきまでむくれてたかと思ったらココア飲んだら満足そうに笑ってたし」

「……スプリング?」

「お気づきでなかったんですか?」

 

 自然と頭を抱えてしまった。

 もしかして、私ずっとそうだったんだろうか。いや、自覚がなかったわけじゃないけど、そんなにコロコロ表情変わってたの……?

 

「い、いや、でも魅力的だしそのままでいいんじゃないか?」

「アタシは24なのよ! もう子供じゃないってば!」

「指揮官……そういうところだと思いますよ?」

 

 M14の呆れた声が聞こえた気がしたけど、良く聞こえなかった。

 クソ、今度から外に行くときはコーヒー頼もうかな。

 

 

 

 そうこうしているうちに帰る時間が来た。

 なんだかあっという間だったな。そういえば、最後の方で訓練所から凄い爆音聞こえていたけど、またスレイヤーのオッサン辺りが暴れてたんだろうか。

 それはそれとして、最後くらいはきっちり締めないとね。

 

「じゃあ、今日はありがとう。おかげで有意義な時間が過ごせたわ」

「こっちこそ。俺達にとっても有意義な時間だった」

 

 ジャベリンと握手をする。今度は、不快感もためらいも覚えずに済んだ。

 

「それじゃあ」

「ああ。機会があったら、またやろう」

「言ったわね? 次はボコる」

「そりゃ怖い。しっかり守りを固めておくとするよ」

 

 そんな軽口をたたき合って、今度こそ別れを告げる。

 そして、私は車に乗り込んだ。

 車が発進して、武器庫がどんどんと遠ざかっていく。

 

「充実していましたね」

 

 隣に座ったM14が遠ざかる武器庫を眺めながら呟く。

 

「ええ。鍛えなおさないといけないのも分かったし」

「ボスの子供っぽいところも直さないとな」

「トンプソン! 茶化さないでよ」

「じゃあ指揮官、今度からコーヒー飲もうよ」

「スコーピオン? アナタコーヒー苦手って言ってなかった?」

「指揮官、苦いのが苦手でしたら抹茶で克服しましょう」

「一〇〇式? 私別に苦いものがダメなわけじゃ……」

 

 クッソ! みんな揃ってイジメてきやがって!

 いいもん。基地に帰ったら45に甘え……いやダメだ。コレ教えたら絶対45からかってくるぞ。

 誰か救いになってくれそうな子はいないのか……。

 

「M14」

「なんでしょう?」

 

 あ、子犬みたいに首傾げるの可愛い。わしゃわしゃしよ

 

「ちょっ……髪の毛ぐしゃぐしゃになっちゃいますって!」

「あー……アナタだけが癒しだわM14」

「し、指揮官……! ちょ、やめ……」

 

 ま、たまにはこういう出張も悪くないかもしれない。

 男に対する耐性も、まあ付けられる日が来そうな気もしてきたし。

 だからと言って男とくっつく気は無いけど。

 ともかく、色々得られるモノがあった日だった。

 でも、今度は勝ちたいな。

 

 そんなことを思いながら、私はもう見えなくなった武器庫へ向かって心の中で敬礼をした。




人外二人の乱入は力尽きたので出来ませんでした。

ジャベリンその他キャラクターを貸してくれたサマシュ様、ありがとうございました。

次回からシリアス編に入る……かもしれない。
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