女性指揮官と戦術人形達のかしましおぺれーしょん【完結】 作:笹の船
司令室でいつものように事務仕事をしていると、突然通信機が着信を知らせた。
「全く……どこのどいつだよ……っと」
ボヤキながら通信をつなぐと、司令室のモニターにガタイの良い黒い軍服を着た巨漢が映された。
熊の様な風貌に、厳めしい髭をたくわえ、見るものに威圧感を与える男。
この厳つい男こそ、グリフィンのトップであるベレゾヴィッチ・クルーガーだ。
「あら、社長直々に連絡とは、光栄ね」
自然と口調がきつくなる。会社の社長に向ける態度としては不適切極まりないものだけど、直す気はない。
『俺は別に自分の立場をかざして部下に無理強いをするつもりはないがな。少しは年上を敬ったらどうだ、
反射的に腰のホルスターからM1911を引き抜いてモニターに向けた。
「シーラッ!」
「ッ……チッ」
危うく引き金を引くところで45にたしなめられ、弾丸の代わりに舌打ちをして銃をホルスターに戻す。
『そうやって、気に入らないことを言われるとすぐに逆上するところが実に子供だな。いい加減、もう少し大人になったらどうだ』
「
「シーラ、いい加減にして。話が進まないでしょ」
45の言い分は最もなんだけど、私はコイツが大嫌いなんだ。出来れば一生会いたくないし喋りたくない。
『……ふぅ。単刀直入に言おう。仕事だ、コリンズ指揮官』
「社長直々に命じるほどの仕事? ……拒否権ないんでしょ」
『当然だ。最も、今回はクライアントがお前を指名しているからな。代打も用意できんぞ』
「アタシに……? 一応聞いておくけど、正規軍の奴とかじゃないわよね」
私の部隊は全滅したことになっているが、クルーガーの手回しで私だけ奇跡的に生還。怪我が原因で前線での戦闘は出来なくなったため退役、ということにされている。
事情を知っているのは私、クルーガー、ヘリアン、ペルシカ、図書館のオッサン、後は私を助けてくれたドクターくらいか。
正規軍の中であのあたりの事情を知っているものは、おそらくいないだろう。何せクルーガーが『不幸な事故』に見せかけて大体の戦犯を45達404小隊に始末させていたのだから。
しぶとく生き残った研究員も、鉄血ハイエンドと手を組もうとして、利用されるだけ利用されて無様に殺されたと45からは聞いている。
……出来ることなら、あのクソッタレ研究員だけは絶対にこの手で殺してやりたかった。
私達をハメた挙句、死んだ仲間を実験体にしてアイツらを弄んでいたんだから。
……やめよう。奴らはもういない。少なくともクソッタレが保持していたデータは電子的にも物理的にもぶっ壊してやったし、研究所そのものはあの場にいたウロボロスとの戦闘で完全に崩壊した。
私の復讐はとうに終わったんだ。今ここにいるのは、復讐を生きがいにしたシーラ=コリンズじゃない。
『安心しろ。正規軍ではない。それに、お前の顔なじみだ』
「……最後の顔なじみで安心できなくなったわ」
私の顔なじみなんて、どいつもこいつもいわくつきだ。何なら表社会に顔出させないような連中ばっかりだぞ。
ていうか、そんな奴から依頼を受けるとか正気か? このクソヒゲゴリラめ。
『落ち着け。今回の依頼人はお前が前に被写体を務めた雑誌のカメラマンだ。……向こうからは【ルポライター】と呼んでくれと』
「彼女か……」
古いクソッタレな知己ではないことに安心はできたけれど、彼女だと知ってまた別の心配事が出来た。
……今度はどんな変な写真を撮られるか分かったもんじゃないからなあ。
『彼女は業界でも有名なカメラマン兼ルポライターだ。彼女が請け負った仕事で失敗したものはほとんどない。大体がバカ売れする』
「……また私に客寄せパンダになれっていうつもり?」
つまりはこうだ。記事を書けばバカ売れ間違いなしの人気ライターからの依頼を上手いこと成功させ、お得意様になってもらえればグリフィンの広報にも一役買ってもらえる。
企業規模的にも敵の多いグリフィンだ。強烈な印象操作が可能なライターを抱え込めるのならそれに越したことはない。
そして今回、わざわざ向こうがウチを指名してきたのだからこのチャンスを逃すなよ、と。
『今回の仕事だが、ルポライターの護衛だ。行き先はN03地区のゴーストタウン。最近になって鉄血の活動が活性化し始めている、汚染区域ギリギリの場所だ』
「ハァ……ルポライターは自殺志願者か何かかしら?」
そんなところ、いくら護衛をつけたとしても行くような場所じゃない。それに、場所が悪すぎる。鉄血兵だけならまだしも、汚染区域スレスレとなると崩壊液の汚染にも気を配らなければならない。
かつてなら鉄血兵を斥候として安全ルートの確保もできたものだけど、それは鉄血兵が放射能測定器……いわゆるガイガーカウンターの崩壊液版の搭載モデルがあったからだ。
私達一般兵が使うような廉価版モデルではカウンターの精度も甘かったけれど、無いよりかはずっとマシだった。
そしてI.O.P製の人形達に、それは実装されていない。故に、危険すぎる。安全が保障できない。
『そこが貴官の腕の見せ所だ。後分かっていると思うが、N03地区はR06地区からは遠い。いつもみたいに司令室でぬくぬくと指揮など取れないが、貴官なら問題ないだろう? スイートキャンディ』
「テメェ……マジで今度会ったらその面にブラジリアンワックスぶっかけてやる」
『仕事を成功させて、お前が元気なら受けるかどうかを考えてやってもいい。任せたぞ』
そう言ってクルーガーは一方的に通信を切った。どうやら本当に拒否権は無いらしい。
「はぁ……相変わらずあのヒゲゴリラが絡むとろくなことにならないわね……」
「シーラ……まあ、気持ちは分からないでもないけど……」
そう言って45が苦笑いする。そりゃあそうだ。
何しろ、私が指揮官になるキッカケは、アイツのヘッドハンティングなのだから。
しかもその時は、文字通りのハンティングの獲物役にされたのだ。狩人は他でもない45率いる404小隊だった。
彼女達からすれば人間のくせになんて逃げるのが上手い奴だ、と言うのが当時の感想だったらしい。
そりゃあそうだ。持ちうる技量と知識、それから意地と命を懸けて逃げていたんだから。
「アナタに足を撃ち抜かれそうになった時、流石に死を覚悟したわ」
「あら、そうだったかしら?」
クスクスと45が笑う。私はと言えば、苦笑いを浮かべるのが精いっぱいだった。
だって、本気で死ぬかと思ったんだもん。アレはシャレにならなかったんだよなあ。
「アナタ達、私の生け捕りを命じられてたんじゃなかったのあの時?」
「まさか。普通にコンタクトを取って、クルーガーとの交渉のテーブルに連れてくるだけだったわ。まあ、ついてこないなら多少手荒な真似をしても良いとは言われたけど」
「多少? 殺傷榴弾を撃ってくるのが?」
「あら、そうだったかしら?」
こいつめ。クスクスと笑ったって誤魔化されないぞ。
そういう意図を込めて軽く拳で45のおでこを小突く。
「きゃー、いたーい」
ひどい棒読みだ。頭を抱えるような仕草までしてきちゃって。
「演技するならもっとマシなのにしたら?」
「遊びだもの。そんなに本気になるわけないでしょ」
まあそれもそうだ。
ともかく、仕事を受けることになった以上は真面目に編成やら留守中の対応に関してやら考えなきゃいけない。
とりあえず404小隊を連れて行くのは確実として……。
しかしN03地区か……お父さんとお母さんと過ごした街は、確かN地区方面だったとじいちゃんから聞いた気がするけど……因果なものだなぁ。
それにしても、ルポライターの奴は何を考えてゴーストタウンなんかに行くつもりなんだろう。
疑問は尽きない。とはいえ、あまり詮索しようとしない方が良さそうだ。
ともかく今は、編成と留守中の基地の防御とかについて考えよう。
そんな感じで思考を切り替えて、私はため息を一つつきながら机に向き直った。
少しバタバタしそうな予感がする。
ということでこっからしばらくシリアス編になる予定です。
シーラさん達を待ち受けるものとはいったい……(予定は未定
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