女性指揮官と戦術人形達のかしましおぺれーしょん【完結】   作:笹の船

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この物語は原作ストーリーとは別時空の話です(今更


ロスト・テクノロジー

 ルポライターの依頼を受けることになってから数日後、私達はR06地区を離れて車でN03地区へと向かっていた。

 目的地へと向かう車は三台。

 先頭の車両には、前線司令部防衛のための第五部隊、ルポライター達に先行して安全を確保するための第一部隊が乗っている。

 二番目に前線に作る臨時司令部を設営するための資材を積み込んだ車両、最後尾が私とルポライター、そして彼女を護衛する404小隊が載った車両と言った順番だ。

 

「また一緒に仕事が出来て光栄よ、コリンズ指揮官」

 

 私の真向かいに座っているカメラマンことルポライターが、笑顔を向けてくる。

 

「こちらこそ。わざわざアナタに指名してもらえて光栄だわ。よろしくね」

「いえいえ。今回は危険な仕事になるけど、それでも受けてくれたことに感謝しているわ」

 

 そう言って微笑みを向けてくるルポライターの真意は読めない。

 少なくとも嘘をついているような目ではないけれど、かといって一体どこまで本心で語っているのやら……。

 とりあえず、ブリーフィングとまではいかないけれど軽めに打ち合わせくらいはしよう。

 

「それで、今回は何を撮りたいの?」

 

 私の問いかけに、ルポライターは薄く笑った。どこか私を試す様な笑みだ。

 

「それは秘密、って言ったらどうする?」

 

 全く悪びれもせずそんな返事を返してきたルポライターに、思わずため息を吐きたくなる。

 だが、そういうリアクションをされること分かった上での発言であろうことは、彼女の態度からなんとなくわかった。

 ルポライターの人の心を意のままに操る技量が高いのは私も前の仕事で分かっているつもりだし、また彼女もそれを自分の武器として使っているんだろう。ここでカッとなってしまったらそれこそ彼女の思うつぼかもしれない。

 

「ルポライター。残念だけど、私達はこれからピクニックに行くわけじゃないの。アナタが何を探しているのか、大まかにでも伝えてもらわないと私も部下達に的確な指示を下せないわ」

 

 実際、何が目的なのか欠片も分からないと護衛対象を仮にでも信じることができない。目的が分からない相手を護衛することは、結構モチベーションにも繋がるのだ。

 

「それにねルポライター。アナタはどうか知らないけど、少なくともグリフィン(ウチ)は今後もアナタとよろしくやっていきたいの。だから、出来れば正直に何を探しているかを教えてくれるとこちらも誠意を尽くしやすくて助かるわ」

 

 ルポライターを真っすぐと見つめてそう続けると、ルポライターは一瞬キョトンとした表情をした。綺麗なルビー色の瞳が少し大きめに見開かれる。

 続いて、ルポライターは吹き出して笑いだした。

 

「ッぷ……アハハッ! 私にお得意様になって欲しいってこと? それ、言っちゃっていいの? 交渉のテーブルで出すカードとしては早すぎるんじゃない?」

「でしょうね。社長が知ったら苦い顔をすると思うわ。でもルポライター。その交渉をするのだって、ちゃんと生きて帰らなきゃ意味がないでしょ?」

 

 何よりもまず、生きて帰ること。その後の交渉も、腹の探り合いも、全部それが出来てからの話だ。

 だから、今持ってるカードを全部使ってでも生きて帰る確率を上げる。ソレもしないで、皆を死なせたりでもしたら私は一生後悔するから。

 

「……ふぅん。成程ね。やっぱり、修羅場をくぐり続けてきた人は言うことが違うのね。それとも、貴方だからこそ……かしら?」

 

 どこか納得をしたように、そして少しだけ嬉しそうに微笑みながらルポライターがそんなことを呟く。

 それはどこか、自分の探すものを見つけた時の人が浮かべるような笑顔でもあった気がした。

 

「ルポライター?」

「ああ。こっちの話。でも、分かったわ。そう言うことなら教えましょう」

 

 どうやら交渉は上手く行ったらしい。やれやれ。私はこういうのは得意じゃないから、ちょっと疲れた。

 安堵とちょっとの疲労感を深呼吸で吸い込んだ息を吐き出すことで、体の外に追い出す。

 

「私が今回探しているのは、N03地区のゴーストタウンに突然鉄血人形が湧き始めたその原因よ」

「予想の範囲内と言えばそうだけど……なんでまたアナタが?」

 

 そういう仕事はそれこそ私達PMCの、もっと言えば自律人形達の仕事だ。生身の人間がやるようなことではない。

 鉄血人形がいて、なおかつ崩壊液の汚染区域ギリギリの場所に行くなんて弱っちい生身の人間には自殺行為そのものなのだから。

 そんな私の疑問に、けれどルポライターは不敵な笑みを浮かべた。

 

「だって、真っ先にその原因を突き止めたらPMCや正規軍に高く売れるでしょ、その情報」

 

 思わず天を仰ぎそうになったのを堪えたことを、褒めてほしかった。

 危険を冒す理由も理屈も十分だ。だけど、まさか自分の命を賭けてまで本気でやろうとするバカだとは思わなかった。

 

「アナタ、お金にはあまりこだわらない人だと思っていたけど」

「買いかぶり過ぎよ。この仕事だってお金はかかるもの。今回の護衛の依頼をするときだって、結構な額を持って行かれたしね」

「それにしたって危険が過ぎるわ。……まあ、いいけど」

 

 鉄血の動きが活発化しているという情報はクルーガーからもらっているけれど、どうしてそうなっているのかはまだ本部の方でも掴めていないらしい。

 そこへ、ルポライターが原因究明のための調査をするために護衛が欲しいと来たわけだ。渡りに船、とはまさにこのことだろう。

 そして、鉄血の後手に回りがちなグリフィンとしては奴らに関する情報とあらば喉から手が出るほど欲しいものだ。

 ルポライターからすれば、高い依頼金を帳消しにして余りあるだけの金が受け取れるだろう。

 また、グリフィンですらつかめていない情報と言う付加価値は非常に大きい。他のPMCにその付加価値をつけて売り出せば、莫大な金を手に入れることだってできるはずだ。

 最も、後者の手段を取りたいなら私達を全員殺さないと取れないけれど。そんなことはさせるつもりはない。

 

「そんな顔をしなくてもグリフィン以外に売ったりしないわよ。私だって、グリフィンと仲良くするかどうかはともかく、アナタ達とは個人的に仲良くしたいからね」

「……そう言われるのは悪くない気分ね」

 

 そう言いながらも、私は思わず顔をしかめる。どうも最近、ポーカーフェイスが出来なくなっているような気がしてならない。

 何事にもポーカーフェイスを貫くなんて好きじゃないのは確かだけど、あんまり顔に出すぎるのも軍人としては良くないことだ。

 

「それで? その鉄血が急に活発化した原因に目星はついているの?」

 

 誤魔化す様に話の続きを促す。あからさまではあるけれど、いつまでも仲良しこよしな会話を続けられるほど時間があるわけじゃないのも事実だ。

 視界の隅で、45が呆れたように肩をすくめる姿と9が微笑ましそうな笑みを浮かべたのが見えた。くそう。

 

「流石に細かいことまでは分からない。でも、私の伝手で手に入れた情報だとどうにも何かを探しているような感じらしいわ」

「何か……ね。この辺りに鉄血の工場とかはあったかしら。45、分かる?」

「ないはずよ。ここは本当に何もない平和な田舎だったらしいわね。少なくとも、E.L.I.Dに襲われてゴーストタウンとなる前は、だけど」

 

 グリフィンの前線基地もこれから向かうゴーストタウン周辺にはない。かつて立っていたという情報もクルーガーからはもらっていない。

 ……一体、どうして突然この辺りに現れたんだろう。

 グリフィンの前線基地を襲うための橋頭保にするにしたって、ここから一番近い基地からはかなりの距離がある。造ったとして、その前に対策を打たれるのがオチだろう。

 

「実は、一つだけ思い当たる節があるの」

 

 そう口を開いたのはルポライターだ。けれど、その顔はそれを伝えるべきか少々迷っているような顔だった……気がした。何しろ、すぐにそれは消えたのだから。

 

「手がかりがあるなら、それに越したことはないわね。で、それって?」

 

 ルポライターに問いかけたのは416だ。まあ、彼女達は今回ルポライターに直接同行するメンバーだし、気になるのも当然だろう。

 

「この街に、かつて凄腕のルポライターがいたって情報を手に入れてね。既に亡くなって20年は経つらしいんだけど、どうも最後に調べていたのが当時設立されたばかりの鉄血工造のスキャンダルだったらしいの」

「20年前ですって? そんなころの鉄血の情報が一体何の役に立つのかしら……」

 

 20年も前の情報など、正直なところ役に立つとは思えない。その頃の人形技術など今に比べれば子供のままごとみたいなものだろうし。

 

「コリンズ指揮官。アナタは『傘』を知ってる?」

 

 ルポライターの言葉で、その場の全員が身を固くした。

 傘……『傘ウィルス』。任意の人形をキャリアーとして敵陣営に紛れ込ませ、本人も気づかぬうちに鉄血側に有利な行動をさせるようにプログラムを書き換えるコンピュータウィルスだ。

 かつてAR-15とM16が感染し、済んでのところでパンデミックを起こす前にワクチンソフトをインストールすることで難を逃れた。

 そう言えば、あのワクチンソフト……多分図書館のオッサンが送り付けてきたんだろうな。そんな高度なプログラムを組める人間は、私の中ではペルシカかあのオッサン位なものだ。

 

 それはさておき。ともかく、恐ろしいものであることはこの場の全員が身をもって知っている。

 

「その様子だと知ってるみたいね。なら話が早い。20年前、実は今よりも圧倒的に優れた技術が一つだけあるの。さて、そこで質問よ。20年前と今、世界はどんな風に違うでしょう」

「何よいきなり……えっと、20年前と今の違い?」

 

 一体なんだろう。20年前は、私も物心ついたばかりの子供だ。……あの頃は、まだギリギリ父さんも母さんもいたような気がするけど、それはきっと関係ない。

 いや、待って。20年前と言ったら、世界の脅威は崩壊液だけだった。あの時は、まだ第三次世界大戦は起きていなかったはずだ。

 第三次世界大戦によって失われたモノ……。あの戦争は切羽詰まった先進国達が核ミサイルを撃ちあって、そして……。

 

「まさか……20年前の技術で、今よりも進んでいるものは……」

「指揮官、一体何なの? こんななぞなぞ、時間の無駄じゃないんですか?」

 

 いらだちを押さえられないといった風に416が声を上げる。まあ気持ちもわかるけど、答えはすぐに用意できるから待ってほしい。

 

「416、第三次世界大戦がこの世界に及ぼした影響はなんだと思う?」

「ハァ? ……各国を致命的なまでに疲弊させ、PMCに都市行政を委託しなければならなくなったこと。崩壊液による汚染に加えて、放射能汚染を広げたこと。それと核ミサイルのECMで当時世界に張り巡らされていたネットワークが全てダメになったことでしょう?」

 

 45が息を呑んだ。彼女は気づいたらしい。

 

「そう。それよりも前、世界はまだインターネットという見えない線で結ばれていた。誰もが当たり前のように名前も知らない世界の誰かと繋がっていられた時代よ」

 

 そう、誰もがだ。崩壊液が世界に蔓延する前に比べればその数は減っていたかもしれないけれど、それでもまだ一般人がインターネットにアクセスできた時代だった。

 それはつまり、今の世界では不要なものとして淘汰され失われていった技術が存在するということだ。

 

「ねえシーラ、それってまさかコンピューターウィルス系の……」

「流石404の小隊長ね。正解よ」

 

 私の代わりに答えたのはルポライターだ。彼女の表情もやや厳しいものになっている。

 誰もがネットに触れられた、ということは当然それを活かして金になる仕事をしている人間の数も今とは比べ物にならない。

 傘がそうであったように、ターゲットのサーバーに無理やり侵入したうえで情報を盗み取り、あまつさえコントロールを乗っ取るといったウィルスなんてたくさんあったことだろう。

 ましてや、当時新興企業だった鉄血がのし上がる過程で、そういう手段を一つも持っていなかったとは考えにくい。

 大体、今でさえ鉄血工造の人形技術はI.O.Pの上を行っている。軍からの情報提供、共有などももちろんあっただろうけれど、多分それ以上に下地となった情報の量が違うんだろう。

 それこそ明るみに出せないようなあくどい手段を使って稼いだ情報がたくさんあったって不思議じゃない。

 そして、その凄腕のルポライターとやらはそんな鉄血のスキャンダルを探っていたという。当然、それはアナログな手段だけに限られたことではないだろう。

 

「待ってよ。それじゃあ、鉄血は20年も前のコンピューターウィルスを探してるってこと?」

 

 9がルポライターに疑問を投げかける。

 ここまでの話の流れがもしも正解であれば、その可能性は極めて高い。

 

「あくまで私の推測よ。それに、20年も前の情報で……しかも既に滅んだ街にいたと言われてる人間の残した情報なんて残っているとも限らない」

「それに、未整備の電子機器なんて20年も持たない。その前に劣化して使い物にならなくなるわよ」

 

 ルポライターの言葉に、45が補足を入れる。だが、何事にも例外はあるものだ。

 鉄血が急にあそこを探り出したとなると、その情報が存在する可能性は大いにあり得るだろう。もしかしたら、ルポライターが推測するウィルスの入った記憶媒体もあるのかもしれない。

 

「……これは、どっちが先にお宝を見つけるかの競争になりそうね」

 

 私がそう呟くと同時に、車が止まった。

 ……どうやら、N03地区についたらしい。

 車から降りて空を見上げる。

 雨こそ降っていないけれど、どんよりと厚い雲に覆われた空はこの後の苦難を想像させるのには十分なものだった。

 




今回のシリアス、結構長くなりそうです。
ここから物語が一気に動く……といいなあ。

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