女性指揮官と戦術人形達のかしましおぺれーしょん【完結】 作:笹の船
『こちらM14。指揮官、見えますか?』
街に入る手前の道路で朽ちかけたモーテルの一室。
その壁に取り付けられたモニターの一つに、第一部隊に随伴させたドローンからの映像が映し出される。
映像も、無線越しのM14の音声特にノイズは走っていない。調子はいいみたいだった。
「感度良好よM14。そちらの様子は?」
『今のところ鉄血兵もE.L.I.Dの姿もありません。……なんだか、こういうところは物悲しいですね』
しんみりとしたM14の声と同時に、ドローンが辺りをその場でゆっくりと一回転して辺りの様子を映し出した。
何もない街。いや、正確には人の営みがあったけれど、その全てが失われた街がモニターに映った。
ほとんどの建物は原形を留められず、壁が崩れていたり屋根が崩れていたりしている。
高いビルなんかは無いから、せいぜい高くたって4階建てだ。その一番高い4階建ての建物ですら、半分は崩れてしまっている。
ついでに言えば、あちこちの建物には乾いた血の跡がこびりついていた。E.L.I.Dとの戦闘の後なんだろう。あるいは、奴らに襲われた……。
「M14、アナタ達に持たせたコーラップスカウンターはちゃんと動いてる?」
変な想像を振り払うように、私はM14へと質問を投げかける。
今回の仕事は崩壊液汚染区域ギリギリでの調査になる。
鉄血人形と違って、I.O.P製の人形の皆はそれらを探知するためのセンサー類を搭載していない。
だから、皆が誤って汚染域に入り込んでしまわないよう、私がクルーガーに頼んでセンサーを手配したのだ。
勿論、本来は正規軍兵が使う奴だ。クルーガーの伝手とは言え、手に入ったのはかなりの型落ち品だけど、無いよりはずっとマシだろう。
『今のところは反応なしですね。社長がドローンを使って事前調査で安全だと言われた範囲しか歩いていないからでしょうけど』
「そう。まあ、不良品ってことは無いはずよ。少なくとも、あのヒゲゴリラが信用できる筋から『借りて』来たものらしいから」
『毎度思いますが、『ヒゲゴリラ』なんて呼ぶ辺り指揮官は社長のことかなり嫌ってますよねえ』
ドローン越しにM14の苦笑いが映る。
そりゃ嫌いだ。404小隊を使って命がけの鬼ごっこをさせた挙句、指揮官に無理やりさせてきたのだから。
正直、今回の件だってアイツにいいように使われていると思うと腹が立つ。
とはいえ仕事は仕事だ。それに、ルポライターの指名それ自体にはそこまで悪い気はしていない。
少々読めない部分があるのがほんの少しばかり不安をあおるけど、少なくとも仕事には誠実な人物なんだろう。
もしそうじゃなくて、私達をハメる様な真似をしてきたりしたら地の果てまで追いかけてぶち殺してやるだけなんだけど。
それはさておき、だ。
「M14。状況報告お願い」
『了解。現在第一部隊は市街地跡の中央部辺りを探索中。特に鉄血人形の反応も形跡もありません。……E.L.I.Dもいないですね』
「了解よ。引き続き周辺警戒をよろしく。鉄血、もしくはE.L.I.Dに遭遇したら連絡して」
「了解! M14アウト」
M14との通信が切れる。私はそのままルポライターの護衛をしている404小隊へと通信をつないだ。
「こちら司令部。404小隊、そちらの様子は?」
『あ、指揮官! こっちは特に問題ないよ。敵とも遭遇してない』
通信に応答したのは9だ。ついで彼女らに随伴させたドローンの映像がモニターに映し出される。
どうやら廃墟を探索しているところらしい。薄暗く、ドローン越しの視界は良くない。が、暗視モードを使うには明るすぎる感じだった。
『今はルポライターと一緒に近くの廃墟……役所、かな。そこを探索中』
「役所? ルポライター、ターゲットは役人だったっけ?」
『ああいや。彼ルポライターだったから、所属してた出版社の場所特定できたりしないかな、って。闇雲に探すっていうのは流石に辛いしね』
なるほど理にかなっている。探すポイントが絞り込めるのなら第一部隊にも先んじて周辺警戒や斥候をお願いできるし、敵との遭遇回数も減らせるだろう。
「ちなみにルポライター。ターゲットの名前は知ってるの?」
『……本名は知らないわ。知ってるのは通り名くらいかしら』
何だ今の間は。私に聞かれたらなんかマズかったりでもするのか、それとも知らないのを誤魔化したいのか。
『ねえ、コリンズ指揮官。アナタ、両親を失ってるわよね』
「藪から棒に何? 確かにそうだけど……」
二人は死んだ、と言うのはじいちゃんから聞いている。実際に私はその瞬間を目にしたわけじゃあないけれど。
『その……二人の最期がどういうものだったか、と言うのは……ご存知かしら?』
「……いや、知らない。祖父からE.L.I.Dに襲われて死んだ、としか聞いてないから」
あの時、私はお父さんとお母さんが大事な仕事で家を離れなきゃいけないからってことでじいちゃんの家に預けられていた。
じいちゃんの家はグリフィン本部のある街から少し離れた小さな町だ。故郷からは結構距離がある。
だから、あの日私は生まれ故郷がどんなふうにして滅んだのかを知らない。ただ”E.L.I.Dに襲撃されて滅んだ”としか知らないのだ。
調べようとは思わなかった。お父さんとお母さんのことを思い出すのは辛いことだったし、だからこそじいちゃんやおばあちゃん、第10部隊の皆との時間を大事にした。
知っているのは、私の生まれ故郷がちょうど今いるN03地区辺りにあったってことくらい。
それにしても。
「ルポライター。アナタその口ぶりだと、二人の最期を知っているみたいだけど?」
『まさか。ただ、調べた限りじゃアナタの故郷この辺だったんでしょ? 何か覚えてないかなって』
「覚えてないわよ。私が生まれた街にいたのは、ほんの数年なんだから。……ていうか、さりげなく人のトラウマをほじくり返す様な質問はよしてくれるかしら?」
『それは失礼。でも、それくらい強烈な記憶が残っていたら手掛かりにならないかなって思って』
「ハァ……理にはかなっているけどね」
だが残念なことに、私はトラウマという形で故郷を記憶することは出来なかった。いや、幸運にもと言うべきなんだろうけど。
せめて写真でも残っていたら……写真?
「ああ、一つ思い出した」
『ホントッ!?』
通信機越しのルポライターの声が一段高くなる。まあ、貴重な情報源だしね。ただ、期待に応えられるかは分からない。
「小さい頃、一度だけ写真館かどっかで写真を撮ってもらったわ。日本の七五三……? っていう風習に則ってね」
『写真館……』
「あーでも。それは私の話であって彼の話ではないわよね。ごめんなさい、忘れて」
流石にルポライターが写真館にしょっちゅう出入りする、なんてことは無いだろう。
アナログなカメラフィルムしかなかった一世紀前ならともかく、当時はデジタルの方が圧倒的に優秀だったわけだし。
デジタルなら出版社でデータを管理できるだろうし、アナログでも会社に暗室の一つくらいはあるだろう。わざわざ写真館を使う必要はなさそうだ。
けれど、そんな私の自嘲気味なため息へ返されたのはルポライターのやや弾んだ声だった。
『いいえ。案外アタリかもしれないわよ?』
「え?」
『現像って意外と技術が必要でね。私は全部自分でやるけど、今じゃフィルムカメラ使うカメラマンは大体写真屋に現像してもらうのよ』
「それは今の時代の話でしょ?」
『そうでもないわ。電子デバイスの発達に伴って、自力で現像できる人ってのは減ったのよ。多分、20年前と今じゃその辺の情勢はほとんど変わっていないんじゃないかな』
だとしたら、ターゲットも出入りしている可能性はある、か。
「じゃあ、その推測がもし正しければ写真館で何か次の手がかりにありつけるってことね」
『その通り』
「それなら、早いところ写真館の場所を突き止めましょう。404小隊、ツーマンセルの二組になって。どっちかはルポライターの護衛をしつつ一緒に探索、もう片方は彼女とは別のエリアの探索を」
無線機越しから了解という声が聞こえてくる。
どうやら、45と9が護衛、416とG11が探索に赴くようだ。
『さて、それじゃあ探していきますか。黙って作業もいいけど、折角だからおしゃべりでもどう? コリンズ指揮官』
「口もいいけど、手も動かしてよね」
私の軽口に、ルポライターがカラカラと笑う。
『イエスマム。しかし、羨ましいわね。私は埃と泥にまみれてゴミ漁りだけど、アナタはベッドの上で腰掛けながら指示出しているだけでしょ?』
「まぁね。でも私、偉いから」
そんな風におどけて見せれば、通信機越しにクスクスと笑い声がいくつか聞こえてきた。
やっぱり、なんでかずっと昔からの友達みたいな調子で話ができる。
彼女がそういう話術に長けているのか、あるいはカリスマと言うかそういうたぐいの一種なのか。
どちらにしても、いい感じに肩の力が抜けるのはありがたい話だ。
『そういえば、さっき司令室代わりに使ってるモーテルの一室でブリーフィングした時に思ったんだけど』
「なにかしら」
ルポライターが書類の散乱した机を漁る映像がモニターに映し出されている。
器用なものだ。話しながら、それでも手際よく書類を確認している。
『アナタのいる部屋、一つだけ明らかに指揮用機材じゃないものが置かれていたわよね』
「あー……」
言われて、部屋の隅に置かれた小型発電機の隣のケースを見やる。大きさ的にはスナイパーライフルが入りそうなケースだ。
ケースの表面には『75%』と数字が表示されていて、小数点以下の数値がそれなりの速度でその数を増やしている。
『あれ、なんなの?』
「……お守り、かな」
『充電が必要なお守り? 保険の間違いじゃなくて?』
「ま、そうともいうわね」
あれもクルーガーに無理を言って調達してもらった保険の一つだ。
使うタイミングがなければただのバッテリーの無駄遣いになるんだけど、無駄遣いにならないシチュエーションになるってことはその時点でこの作戦は失敗したも同然と考えていい。
「それよりルポライター、アナタブリーフィングで私の言ったこと忘れてないわよね?」
『覚えてるわよ。鉄血人形、またはE.L.I.Dに遭遇したら即座に調査を中断し帰還する、でしょ?』
「それに中型以上のE.L.I.Dと遭遇したら作戦の放棄するってこともね」
『心配しすぎじゃないの? クルーガー社長は鉄血人形の動きも少ないし、そもそもE.L.I.Dに至ってはドローンによる先行調査では一度もその存在を認められていないって言ってたけど』
ややムッとしたような口調のルポライターに、けれど私は曖昧な返事を返すことしか出来なかった。
鉄血人形との遭遇はあっても大したことはないだろう。連れて来たのはウチの虎の子とも呼べる第一部隊と404小隊だ。
第五部隊は彼女らほどの練度は無いにしても、防衛に徹すれば並の相手じゃまず抜けない防御力がある。
問題は、E.L.I.Dの方だ。
奴らのはいくつかのタイプがある。人の形を留めたタイプなら、戦術人形達が持つ銃火器で十分に対処は可能だけど……。
『ねえ、シーラ。アナタはE.L.I.Dと戦ったことあるんでしょ?』
通信機から聞こえてきたのは45の声だ。ドローンを彼女の方に向ける。
「ええ。結構な数を殺したわ」
『それは、中型以上の奴も含めて?』
「勿論」
中型以上になると対物ライフルクラスにならないと肥大化、かつ硬質化した奴らの皮膚を貫けない。
大型になればそれすら通らなくなり、高出力のレーザー兵器で焼き切るくらいしか対抗手段がなくなってしまう。それこそ専用装備を積み込んだ戦車でも持ってこないとダメだ。
故に、中型以上と遭遇した場合は私達の戦力では手の打ちようがない。
ルポライターに指摘された通り、そう言う時のための保険は用意はしたけど、果たしてそれが通用する相手かどうかも分からない。
つまり、その時点で私達は成果が得られていなくても大人しく撤退するしかないのだ。勝ち目の薄い戦いに挑んで無駄死にさせるほど、切羽詰まった依頼でもないし。
「小型ですら45や9みたいな小口径の銃じゃ歯が立たないわよ、奴らは。だから、遭遇したらまず逃げて。いいわね?」
『ん。分かった。ルポライター? そう言うことだから、奴らとあったらちゃんと逃げてよね』
『前向きに検討するわ』
返ってきた言葉に45と私はそろってため息を吐いた。
そこに、第一部隊からの通信が割り込んでくる。
『こちらM14。指揮官、鉄血人形を確認しました』
……やっぱり、来たか。黙っているとは思っていなかったけど。
さて、ルポライター達に被害が行かない様に、一仕事しますか。
難産だった……
しばらくはシリアスが続きます。
次回から戦闘が続く……かも。
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