女性指揮官と戦術人形達のかしましおぺれーしょん【完結】   作:笹の船

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思ったより戦闘してない


反撃開始

「……官! ……かりして……い!」

 

 遠くで誰かが私を呼んでいる。

 頭がずきずきと痛んで、痛みのあまりにまぶたを開けることすらおっくうに感じる。

 

「……揮官! ……起き……さ……!」

 

 でもそれじゃあいけない気がする。私は今すぐに起きなきゃいけない気がしてる。

 でも、なんでだっけ……?

 ああ、頭が痛い……全く、ドアが吹っ飛んでくるなんてツイてない。

 ん……? ドアが吹っ飛んでくる……?

 

「指揮官!」

「うっ……ぐ……」

 

 モスバーグの声と、彼女の愛銃の銃声が鼓膜に叩きつけられる。

 急速に意識が覚醒していく。そうだ、今は確か司令部に鉄血が攻めてきたって報告を受けて……。

 

「モスバーグ……! 状況報告……!」

 

 頭はガンガンするし、おでこから顔を何か温かいものが伝っている。

 何かと手を当ててみれば、指先は赤い血に染まっていた。どうやらドアと一緒に吹っ飛ばされた時に切ったらしい。

 

「指揮官! お目覚めですか!?」

「ごめん、どのくらい……?」

「4分と23秒です。現在鉄血が攻め込んできて応戦中。迫撃砲を装備したジャガーは真っ先に撃破しました。戦況は拮抗。とはいえ、敵の数が多すぎて……」

 

 モスバーグがそこで口をつぐむ。防衛に徹しているからどうにか拮抗状況に持ち込めているけれど、数では圧倒的に不利なのは確からしい。

 くっそ、なんて情けない。最近前線に出て指揮をするなんてことしていなかったから、気が緩んでいたかもしれない。

 でも、そんなことを嘆いている場合でもない。今はともかくここを守り通さないと。

 

「モスバーグ。奴らはどっちから来てる?」

「北から北東にかけての方角です。北方面はMG5が。北東方面はPKが弾幕を張って押さえています。彼女達の目としてK5を、その護衛にイサカをつけている状態ですね」

 

 なるほど。ダミーフル活用で防衛に徹すればMG5とPKの二人の弾幕を潜り抜けてこられる奴はそうはいないはず。

 加えてK5が目となって状況を共有しているのなら、装甲型が来なければ近寄られる前につぶせる。

 それでも数の暴力にはどうしても勝てない。そもそも、ここがバレるのが早すぎる。

 まるで最初から私達の動きが分かっていたかのような……。

 そんなことを考えている時、通信機が着信を知らせた。まだ生きていることに若干安堵するけれど、通信機の着信ランプが赤に染まっているのを見て冷や水を浴びされられた気分になる。

 赤ランプの点灯はすなわち、登録された周波数や番号以外からの着信だ。この状況でそれが示すのは、つまり敵勢力からの着信。

 十中八九、鉄血からの着信だった。

 モスバーグからどうするのかを問うような視線を送られる。無視するのも手だけど……。

 意を決して、通信をつなぐ。

 部屋のモニターに黒髪の少女が現れた。

 腰の辺り……いや、下手したら膝ほどまで伸びた髪に、薄黄色の瞳。

 見た目だけで言えばティーンエイジャーの少女のように見えるけれど、愉悦に歪んだ胸糞悪い瞳と唇がそれら全てを台無しにして余りある。

 資料で見たことがある。コイツは鉄血人形のハイエンドモデル、夢想家だ。

 

『ごきげんよう、グリフィンの指揮官さん。あら、素敵なフェイスペイントね? その様子だと、私から挨拶は気に入っていただけたようで何よりだわ』

「あら、鉄血ハイエンドのお嬢さんが直々に挨拶してくれるなんて、ありがたいわね?」

 

 ここでビビったそぶりを見せたり、変に怒った態度をとるわけにはいかない。

 ナメられたら商売あがったりだしね。

 

『うふふ……まあ、私達がこの辺りをうろうろしてれば遅かれ早かれアナタ達(グリフィン)が来るのは分かっていたし、折角だから挨拶をしないと失礼じゃない?』

「驚いた。アナタ達の出来損ないの電脳に、礼儀なんてものが入る隙間があったなんて」

『あらぁ? I.O.P製のポンコツに比べたら、私達の方がずっと出来がいいのだけれど』

 

 交わされる言葉の応酬。その後ろでは変わらず激しい戦闘音が響いている。

 あまり悠長に会話をしている場合じゃないし、出来ることなら一刻も早く戦況を把握して指揮をとりたいところだ。

 けれど、そんなことをすればドリーマーに焦りを悟られることになる。

 それが悟られてしまえば状況は不利になるし、そうなれば簡単にここを取られてしまってもおかしくはないだろう。

 

「あら、じゃあそんな素敵な頭脳だったらロボット三原則とか聞いたことない? それに則って今私達を襲ってるおバカな手下達を止めてほしいんだけど」

『あら? 鉄血のサーバーにはこれが礼儀正しい挨拶だって登録されているのよねぇ。戦場での挨拶っていうのはこういうことでしょう?』

「中途半端に人間の真似事して悦に浸っちゃってるなんて、まだまだお子様ね。アナタは人間様が作った辞書で礼儀と言う言葉を後百回は調べるべきだと思うわ」

 

 私がそう返すと、ドリーマーにとっては面白い返しだったらしい。肩を震わせてくつくつと笑い出した。

 

『うふふ…いいわ。その気高く、したたかさを感じさせる顔……まさかこんな素敵な指揮官さまがいらっしゃるなんて。このところは廃墟の街を見下ろすばかりで退屈だったの。アナタなら、私を悦ばせてくれそうね?』

「あら、お気に召していただいて何よりだわ。でも、私女なら間に合ってるの。惚れられても困るわよ」

 

 ていうか、鉄血に気に入られても嬉しくない。敵勢力に気に入られるとか、碌でもないことになるのは目に見えているわけだし。

 けれど、ドリーマーの方はそんな私の考えなんてお構いなしに笑いながら、私へと微笑みかける。もっとも、微笑みと言うには、愉悦に歪み過ぎだったけれど。

 

『くっふふ……いいわね。素敵よ、アナタ。アナタのその綺麗なお顔が、絶望に歪んで無様に命乞いをする姿がますます見たくなってきたわぁ』

「悪趣味……お人形ごっこなら余所でやってよね」

 

 そう言いながら通信機を指揮用コンソールに接続して、ドリーマーの位置を逆探知しようと試みる。本来は電子戦や情報戦に特化した人形がそばにいる時にやるべきだけど、贅沢は言えない。

 せめて方角だけでも分かれば御の字だ。それさえ分かれば、ドリーマーを叩けるチャンスが作れるかもしれない。

 私達グリフィン……正確に言えばI.O.P製の人形もそうだけど、鉄血人形も基本的に指揮モジュールを搭載したハイエンドモデルがいないと、その動きは非常に単調かつ単純だ。そんな奴らなんて私達の相手じゃない。

 でも、臨時司令部に鉄血兵が大挙して押し寄せてくるということは、少なくともドリーマーには規模はどうあれ指揮モジュールが搭載されているのは確実だろう。

 指揮が可能な相手がいる以上、どんなからめ手を使われるか分からない。特にドリーマーは性格も悪そうだ。変な策を弄される前に叩き潰しておかないと、状況は悪くなる一方だろう。

 逆を言えば、ドリーマーさえ叩き潰せば外の奴らの統制は一気に崩れる。そうすれば、後はボーナスゲームだ。

 問題は、位置を特定できたとしてどうやってドリーマーを叩くか、だ。

 今の状況じゃ街にいる404小隊、第一部隊との連絡がまともに取れない。

 第五部隊はここの防衛で手一杯だし、私が出張るにしたってここに向かって来てる鉄血を叩き潰さないとハチの巣になってしまう。

 せめてジャミングが解除できれば……。

 

『ああ、そうだ。今は挨拶したかったからジャミング装置の出力を最大にさせてもらっているけど、そろそろ出力を下げてあげるわよ』

「……どういうことかしら?」

 

 こいつ、正気か? 何でわざわざ自分に有利な状況を失うような真似をすると宣言したんだ。

 

『ふふ。そんな怖い顔しないで。ただのゲームよ。アナタ達が私の元にたどり着けるかどうかの、ね。でも、ルール説明中に横やりが入ったら嫌でしょう?』

「魔王様にでもなったつもり? それは大いに結構だけど、魔王ってのは倒されるのがお約束なのよ?」

『くく……そういうアナタこそ勇者様でも気取っているのかしら? 人間のお約束だと、魔王を倒せるのは勇者だけなんでしょう?』

 

 なるほど痛いところをついてくる。皆は勿論、私も決して勇者と呼べるような存在じゃない。

 それでも、それがここで引いていい道理にはならない。

 ドリーマーを倒すために勇者が必要なら、私達がなればいいだけだ。

 

「たまには勇者ごっこも悪くないわね。じゃあさしずめ私は魔王に戦いを挑む勇者パーティーの参謀役ってところかしら」

『ふふふ……いいわね、やっぱりアナタ素敵よ? それじゃあ、ゲームを始めましょうか。あがいてあがいて、最後に絶望した表情を見せてちょうだい? 私はそれを、高みから見物させてもらうとするわ』

 

 その言葉を最後に通信が切られる。そのまま、私は第一部隊に通信を繋げた。

 

「こちら司令部。第一部隊、聞こえる?」

『指揮官! 聞こえます!』

 

 M14のやや弾んだ声が聞こえてきた。どうやらドリーマーは本当にジャマーの出力を落としたらしい。

 ありがたい話だが、同時に馬鹿にされているような気分にもなる。こんな手心を加えても、私達を手玉にとれると思っているのだ、あのクソッタレは。

 しかもご丁寧にこちらの逆探知に気づいて、信号を遮断してきた。クソ、流石にそこまで甘くなかったか。

 

「M14、状況報告を」

『トンプソンのダミーが2体、一〇〇式のダミーが3体、FALとAKのダミーが2体、私のダミーが1体沈黙。手持ちの弾薬から見て、戦闘できる回数はあと2回が限度です』

 

 余り状況が良いとは言えない。全員練度はかなり高くて限界ギリギリまで伸びているから、ダミー含め5人いるけれど、今やその半分程度の数しか残っていないみたいだ。

 弾薬も大分消耗しているみたいだし、本当は戻ってきて補給もして欲しいけれど、ドリーマーもそれを許すほどふんぞり返ってコーヒーをあおるような甘ちゃんではないだろう。

 とはいえ、ドリーマーを潰すにしてもアイツの位置が全く分からない。不用意に第一部隊を移動させても、時間と弾薬の無駄になってしまう。

 でも、泣き言を言ってモタモタもできない。指示は出そう。

 

「第一部隊、作戦変更よ。さっき、この辺りに潜伏していると思われる鉄血ハイエンドから宣戦布告されたわ」

 

 映像がモニターに表示され、引き締まった表情の第一部隊の面々が映し出される。どうやら彼女達に随伴させたドローンは生きていたらしい。

 薄暗く、ところどころから光が差し込んでいるさまを見る限り屋内にいるようだ。うっすら見える外の景色の高さ的に、地上階ではなくワンフロア程上なんだろう。

 

「当初の予定ではこの後アナタ達には404小隊とルポライターの援護に向かってもらう予定だったけれど、向こうに指揮モジュールを搭載してるとみられるハイエンドモデルがいる以上はそうもいっていられない。アナタ達には敵ハイエンド……ドリーマーの撃破をやってもらうわ」

『だがボス、M14も言っていたが私達も残りの弾数はそう多くないんだ。この街全体をうろつくだけの余裕はないぞ。奴の居場所は分かるのか?』

 

 トンプソンがやや厳しい表情をして問いかけてくる。

 そう。彼女達に余力はない。だが時間に余裕もない。

 モタモタすればその分だけ第五部隊に負担がかかるし、404小隊とルポライターの安全も脅かされる。

 落ち着け……。考えろ。私がアイツなら、どこに潜む……?

 いや待て、思い出せ。ドリーマーは私と話している時、なんて言っていた……?

 

「ねえ、M14。アナタ達の現在位置は?」

『はい。現在は街の中心部にある役所から東に2ブロックほど進んだところにある廃墟にいます。今のところ周囲に敵影は無し。残されている家具などから警察署だったところかと推測されます』

 

 M14の言葉を聞きながら、この街の紙の地図を広げる。

 地図を見るに、この街は大体行政施設が中央区に設立されているようだ。E.L.I.Dが出現して以降、行政が死ねば被害は一気に拡大する。その為に街の外側には重要度の高い施設を造らず、中央に集めるといった方針を取った街も少なくない。

 この街も、そういう手段を取った場所の一つだったようだ。

 今第一部隊がいるのがその行政区が集まった中央区、404小隊が向かったと目されるのが行楽施設が固まった西地区、私がいるのが街の入口ともいえる南区の更に外側だ。

 北区は住宅街で、そのさらに北は深い森林と山になっている。事前にクルーガーからもらったドローンによる航空写真とも一致する。……今思えば、良く墜とされなかったな。

 いや、あえて逃がしたのかもしれない。

 それは後で考えよう。そして東区、オフィス街だ。それなりの規模の街なだけに、中小企業のオフィスがたくさんあったらしい。

 高い建物もこの辺りに集中している。

 ドリーマーは言っていた。“廃墟を見下ろすばかり”“高みから見物”と。

 つまり、高い位置に陣取っている可能性が高い。勿論、ブラフかもしれないけど。

 アイツの言った言葉をそのまま信用するなら、高い建物が集中した東区方面に潜んでいる可能性は高いだろう。

 

「M14。東方面に高い建物はある?」

 

 私の言葉に、M14とそのダミー達が慎重に建物から外を見渡す。

 直後、M14のダミーが一体後ろに吹っ飛ばされた。

 一拍遅れて重い銃声が響く。

 

『ッ!? スナイパー! 皆、カバーして!』

 

 M14が叫ぶよりも早く、全員が戦闘態勢に入り撃たれたと思しき方向から身を隠す様に柱や壁に背を当てた。

 

「M14! 撃たれた方角は分かる!?」

『北を12時として、2時の方向!』

 

 M14の言葉を聞きながら地図とクルーガーから受け取っている写真を確認する。警察署から2時の方向……最も高い建物は……。

 

「見つけた! 第一部隊! そこから2時方向、6ブロック先の通信センターよ!」

『了解! ……見えた! 該当する建物からスコープの反射光! ッきゃぁ!?』

 

 多数の銃声と、M14の悲鳴が通信機越しに聞こえる。まあ狙撃をしてきた以上、皆の位置はドリーマーからもバレているんだろう。手下を送らない理由がない。

 

『ボス! ザコ共が群がってきた!』

「トンプソン! フォースシールドの展開は!?」

『出来る! あとM14は驚いただけだ、被弾はしてない!』

「OK! トンプソン、ダミー一体にフォースシールドを展開させて囮にして! 一〇〇式、トンプソンのダミーとは反対から挟撃! 残りのメンバーはそこから射撃してザコを足止めして!」

 

 トンプソンのダミーが一体、メインフレームから離れていく。

 その間にも、窓際に身をひそめた皆に向かって鉄血兵が銃撃をしてくる。真下にもぐりこまれないよう、第一部隊は牽制射撃を撃ち返していた。

 やがて、トンプソンがAKに向かってサインを送る。

 それを見たAKが、下の鉄血兵に焼夷手榴弾を投擲した。

 作戦開始だ。

 

「皆、気張っていきなさい! 勝つわよ!」

『了解!』

 

 さあドリーマー、首洗って待ってなさい!

 




シリアス編、どんどん伸びている……
あと三回くらいを目安に終わらせたいところですね。

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