女性指揮官と戦術人形達のかしましおぺれーしょん【完結】 作:笹の船
ドローンのそばを何かが掠める音がスピーカーから聞こえてきた。
その直後、映像が乱れる。ドリーマーの奴のライフル弾だろう。運が良かった。もしあと一瞬ドローンの操作が遅かったら撃墜されているところだった。
でも、もうドリーマーがいる通信センターまで目と鼻の先だ。もう1ブロック進めば、M14の方からも撃ち返せるだけの距離になる。
どうやら本当に大半の戦力を私のいるモーテルに差し向けていたみたいで、M14達と簡易的なブリーフィングをした警察署以降、戦力と呼べる鉄血兵は待ち構えていなかった。
『トンプソン!』
『任せろ隊長!』
トンプソンが一気に遮蔽物から飛び出し、通信センターまでの道をひた走る。
通信センターの上層階から、夕日を反射するものが一つ。恐らくドリーマーのスコープだろう。
トンプソンが青白い光に包まれる。フォースシールドを展開した証だ。その刹那、彼女の目の前で何かがかき消えるような光が発生した。それと同時に銃声が辺りに響く。ドリーマーの狙撃だ。
再び銃声。さっきよりも大きな音で響くそれは、M14のモノだ。
スコープの反射光が見えた地点に向かって、M14とダミー達が揃って銃を撃つ、撃つ、撃つ。
チカッ、とセンターの上層階から何かが光った。
アレはマズい。私の直感がそう告げた。
「M14! 回避しなさい!」
私が叫ぶより早く、M14は地面を蹴った。でも、ライフルを撃つのにほぼ棒立ちだった状態からではそんなに一気には跳べない。ダミーに至っては一拍行動が遅れた。
とっさに一〇〇式がM14の方へ跳んで、桜逆像を展開。横に跳んだM14を蹴飛ばしてさらに遠くへ飛ばす。
飛んできたのは鉛玉ではなくて、橙色の閃光――レーザーだった。
ドローンは射線上にはいなかったから難を逃れたけれど、橙色の光の奔流に一〇〇式とM14達が呑み込まれる。
「M14ッ!」
『大丈夫です! 私と一〇〇式のダミーが全滅、一〇〇式もメインフレームが中破してますが、まだやれます!』
レーザーが収まった時、そこにはダミーだった彼女達の残骸と、痛みに顔をしかめてその場に膝をつく一〇〇式、服や指先のあちこちが焦げ付いたM14の姿があった。
けれど、、M14の目は死んでいない。廃墟から半身だけ出したM14が再び引き金を引く。
「トンプソン! 一〇〇式を連れて下がりなさい! M14! 回避最優先で反撃!」
直後、センターから再び閃光。トンプソンが一〇〇式を横に投げ飛ばしながらフォースシールドを展開し、青白く光る。橙色の閃光がトンプソンを飲み込むが、トンプソンの反応はいまだ健在だ。フォースシールドを貫通することは出来ないらしい。
だが安心する間もなく、センターの地上階から鉄血兵が数体、出てくるのをドローンのカメラがとらえた。
「FAL! AK! 雑魚を寄せないで!」
『任せとけ!』
『プレゼントよ! 持って行きなさい!』
AKとFALがそれぞれ焼夷手榴弾と殺傷榴弾を放つ。瞬く間に雑魚共は蹴散らされ、それでも残った連中は二人の射撃で沈黙していった。
そうしてM14のマガジンが空になる頃、通信センターの上から人影が落ちてきた。
ドローンのカメラを拡大する。ヒカリを飲み込むような黒髪の、ティーンエイジャーらしき人影と、そんな人影にはおおよそ似つかわしくない大きなライフル状の武器がモニターに映し出される。
どうやら、M14とドリーマーの撃ち合いはM14の勝ちらしい。
建物から出てきた鉄血兵も既に全て沈黙している。だが、ここで勝利の酔いに浸るのは早い。あの高さから落下したとはいえ、頑丈なことで有名だった鉄血人形だ。死んだふりをするくらいは訳ないだろう。
「第一部隊、状況報告」
全員がドローンの近くに寄ってくる。皆それぞれボロボロだ。
皆がそろったことを確認したM14がドローンのカメラに向かって引き締まった表情を向ける。
『私と一〇〇式のダミーが全て沈黙。トンプソンのダミーが3体、FAL、AK47のダミーが2体沈黙。私は残弾が3発、一〇〇式は腕部損傷の為戦闘続行は困難です。他の皆もほとんど弾切れです。まともな戦闘はこれ以上無理ですね』
「M14、FALとAKと一緒にドリーマーが本当に沈黙したか確認をお願い。トンプソン、一〇〇式を守りながら退路の確保。こっちは……」
外の銃声は最初に比べて少なくなっている。隣のモスバーグからも特に焦りの表情は読み取れないし、おそらく順調に数は減らせているんだろう。
「こっちはもうすぐ何とかなる。最後の一仕事、お願いできる?」
『帰ったらプリン奢ってくださいね、指揮官』
「プリンだけじゃなくて、美味しいものいっぱいご馳走してあげるわよ」
『やった! では、指示の通りに』
M14が小さくガッツポーズをとり、一瞬だけ場の雰囲気が和らぐ。
けれどそれも一瞬のことで、すぐに皆戦闘モードへと切り替わった。
トンプソンが一〇〇式に肩を貸しながらセンターの反対方面へと歩き出す。もちろん、クリアリングも忘れずにダ。
私は、センターへと向かうM14達にドローンを随伴させる。
先程までの激戦が嘘みたいに静かな廃墟の間を、皆が歩いていく。
鉄血が潜んでいるような雰囲気もないし、罠も仕掛けられているようには見えない。
やがて、M14達が通信センターの前へと到着した。
FAL達が倒した雑魚に交じって、ひと際黒の目立つ人形が倒れているのが見える。
どうやら落下した時の衝撃で、腕が完全にいかれたらしいドリーマーの両腕は無残にもおかしな方向へと曲がっていた。
けれど、完全に沈黙はしていない。その顔だけがニタニタと粘着質な笑みを浮かべていた。
『あらぁ……負けちゃったわねぇ』
微塵も悔しさを感じさせない声が聞こえてくる。奴らもI.O.P製と同じでバックアップが取れるらしいから、当然なのかもしれない。
「残念だったわね。お約束通りに勇者に倒されたじゃない」
ドローンのスピーカーを使って、私の声をドリーマーの奴に送り付ける。
まあ、勝ったとはいえ喜びに浸る気持ちには全くならないのだけれど。
『もっと嬉しそうにしたら? せっかく魔王を倒したんだから、喜んでいいのよ?』
「アンタみたいなやつがそう言う時ほど、大団円で終わらせるはずないでしょう」
さっさと殺したいけれど、それをやったところでコイツが一時的に行動不能になるだけだ。むしろ、過去の事例からすると戦闘データは蓄積されているらしいからお土産を渡すだけになってしまう。
かと言って鹵獲しようとしたところで、奴らは電脳を自分で焼き切れる。私達がこいつらの頭の中をいじくりまわす前に、何もかもを台無しに出来るのだ。
「じゃあ、魔王を倒した勇者たちに魔王様からご褒美を頂けないかしら」
『あらぁ? どんなご褒美がいいのかしら?』
ケタケタと笑いながら、ドリーマーが唇を三日月型に歪める。
癇に障る笑い方をする奴だ。あまり長くは話したくない手合いだな。
さっさと聞きたいことを聞いてしまおう。コイツがまともな情報を教えるとは思えないけれど。
「こんな何もないところで、アナタ達は何をしていたの」
『探し物よ。アナタ達もそうなんでしょう?』
「さあね。……何を探していたの」
『ふふふ……前時代の遺物、とでも答えておきましょうか。』
やはり、ルポライターの推測は当たっていたと考えていいのかもしれない。ウィルスソフトを探していたのだろうか。
しかし、何かひっかかる。ルポライターや404小隊が探し物が得意とはいえ、数時間もかからずして例のブツの在り処を特定できたのなら、こいつらだって数日あれば出来るはずだ。
なのに、なんでコイツらダラダラしていたんだ? わざわざ私達を待つメリットなんてないはずだ。あったとしても、今回のドリーマーの動きは完全にそれをダメにする動きだ。
私達を待ち構えるのが目的なら、そもそもあんな中途半端な囲い方じゃなくてもっと確実に潰す方法をとる方が合理的だし。
「……アナタ達に探し物の才能は無いみたいね?」
『くっ……ククク……』
案の定、ドリーマーの奴が笑い始めた。
『探し物は見つけてるわよ? ただ……ちょおっと強い門番がいてね? どうしたものかなって思っていたの。そこに……』
「門番……ですって?」
少なくとも人間ではない。組織でもない。そうであればクルーガーの出した偵察機が姿を捉えているはずだ。鉄血から姿を隠しながら戦える存在など、この世界にはいないだろう。
だとすれば、門番が務められる存在というのは限られる。
「まさか……」
『あはっ! いい声出したじゃない! そう、その声よ! 絶望に染まりかけの、それを必死にこらえる声! 私が聞きたかったのは――』
「M14、やりなさい」
ドリーマーが言い切るよりも先に、M14に指示を出す。直後に銃声が響いて、ドリーマーの眉間に綺麗な穴が開いた。
癇に障るニタニタした笑みのまま、スクラップがゴミになった。
もうアイツからもらいたい情報は無い。それよりも、最悪の予想が当たったかもしれない。
「第一部隊、通信センターを探索して、ジャミング装置を見つけ次第破壊して。ソレで救援が呼べるようになる。お願いね」
『了か――』
返事を聞く前に通信を切って、404小隊へと通信を繋げる。
お願い……繋がって……!
願いは通じたらしい。プツッという音がして、45の声が聞こえてきた。
「45! 状況報告!」
『シーラ! 現在E.L.I.Dと遭遇、交戦中!』
「交戦……て、逃げろって言ったでしょう!」
何を考えているんだ。彼女らの兵装じゃアイツらは止められない。人の原型をとどめているのならまだいいけれど、それでも厄介な相手だ。
『ルポライターが……!』
「えっ!?」
『ルポライターが帰れない、絶対に情報を持って帰るって言ってきかないのよ! すぐに済むって言って写真館に入ったんだけど……』
「あのバカ! で、今どんな状況!?」
クソ、あれほど逃げろと言ったのに! 命あっての物種って言葉を知らないのか!?
でも、だからといって置いていくわけにもいかない。上客とかそういうのじゃなく、目の前で死ぬかもしれない人間を放置するのは、私の戦う理由に反する。
『私達全員でE.L.I.Dを攻撃して、足止め中! 敵は人の形はしてるけど、体長3メートルほど! 416とG11の弾丸がどうにかカスみたいな損害を与えるのが精一杯だけど、気を引くだけなら十分みたい! 撃っては逃げてを繰り返しているところよ』
「残弾は!?」
『余裕があるとは言えないけど、まだやれる!』
クソ、時間的余裕はやっぱりないか。クソッタレルポライターめ、何を考えてるんだチクショウ。
ちらりと部屋の隅のケースに目をやる。ケースのディスプレイには『100%』と表示されていた。充電は終わっているらしい。
外の銃声も大分少なくなってきた。ドリーマーを潰した今、雑魚共の統制も一気に崩れているはずだ。
なら、やることは一つだ。
「404小隊! 7分持ちこたえて! どんな手を使ってもいい! 7分持ちこたえて、それでもE.L.I.Dが倒せず、ルポライターが戻ってこないなら作戦は放棄! ルポライターは諦めて撤退するわよ!」
『シーラ……了解!』
45が通信を切る。私は、そのまま部屋の隅のケースへ歩み寄り、ケースのボタンを押した。
中から出てきたのは、スナイパーライフルだ。大きさ的にはPSG-1と同じ位だけど、バレルが上下に分かれている特殊な構造をしている。
これは正規軍が使っていた、旧式の小型レールガンだ。私も使ったことがある。そこまで踏まえてこれを調達したのなら、気に入らないがやはりクルーガーは出来る男といえるだろう。
「指揮官、それは?」
「とびきりのお守りよ。モスバーグ、ここの守りは任せたわよ。ハイエンドは潰したし、ジャミング装置ももうすぐぶっ壊せる。そうしたら、アナタが本部に連絡を取って救援を要請して」
レールガンにセーフティがかかっていることを確認して、マガジンを差し込む。マガジンといっても入っている弾丸は一発だ。コイツは1発撃ったら、最低2時間の充電が必要になる。それ以上の弾丸を入れるだけ無駄だ。
銃をケースに戻し、閉める。そして私はケースごと担いだ。
一瞬悩んで、カバンの中からコルト・パイソンを取り出してホルスターに収める。ガバメントでは少々威力が心許ないけど、コイツなら多少はダメージを与えられるかもしれない。
弾の装填されたスピードローダー二つをポーチに押し込んで、部屋の出口へと向かう。
「指揮官、まさか!?」
モスバーグの驚くような声にウィンクを返して、部屋を出る。もちろん、撃たれないように慎重にだ。
敵の数はもうほとんど見えない。消化試合だな。
私は鉄血が来ている方とは反対方向にあるモーテルのガレージに向かう。
そこには、私が機材と一緒に持ち込んだバイクが一台収めてあった。
壁にかけてあるイグニッションキーをバイクに差し込んで、ヘルメットをかぶる。
そして、キーを回してエンジンをかけた。
「第五部隊! ちょっと404小隊の援護に行ってくるから、それまでここを死守して! MG5、10秒でいい! 街への道を切り開いて!」
『了解だ指揮官! 10秒といわず今からずっと切り開いて見せる!』
MG5の頼もしい声に、思わず笑みがこぼれる。
けれど、それも直ぐにひっこめた。
アクセルを吹かし、エンジンの回転数を上げる。一度、深呼吸をした。オイルとガソリン、そして誇りと自分の血の匂いが鼻腔を刺激した。
懐かしい臭いだ。昔はこんな臭いを散々嗅いだ。私はこれから戦うんだ、と体が戦闘モードに入る。集中力が研ぎ澄まされていくのが分かった。
クラッチをつないで、バイクを発進させた。
ガレージを飛び出して、街へと向かう道へとバイクを走らせる。その道の上に動いている鉄血人形はいなかった。流石はMG5、いい仕事ぶりだ。
私の方に銃口を向ける鉄血人形も見えたけれど、背後から銃声が響き沈黙していく。MG5達の援護だ。
地面に倒れ伏した鉄血人形達を踏まない様に蛇行しながら進み、やがてその必要がなくなった時、一気にアクセルを開けて加速する。
お願い45、皆。どうか持ちこたえて……!
風を切りながら、私はそう祈ってギアを上げさらに加速する態勢へと入った。
次回も戦闘回!
頑張ります。
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P.S 最近モンハンワールドが楽しい。ヤバイ。でもデトロイトもフリプで気になる。積みゲーが増えるぅ!