女性指揮官と戦術人形達のかしましおぺれーしょん【完結】   作:笹の船

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必ず生きて――

 銃声があちこちから響く。私、9、416、G11の持つ銃のものだ。

 私達全員に銃口を向けられているのは、体長3メートルはあろうかという巨体のE.L.I.Dだ。

 事前にシーラから聞いていた通り、私達の銃弾がほとんど効果を示さない。視覚や聴覚、触覚も持っているみたいで、撃てばこちらに気を引けるけれど、それだけだ。

 

「くっ……このバケモノめ! 撃たれてんだから早く死んでよ!」

「文句言う暇があったら撃ちなさいG11!」

 

 G11の言葉に416がそう返してリロードをしている。

 ああは言っているけれど、現状詰みに近い。私と9は勿論のこと、416やG11の銃弾も全くと言って良いほど効かない。416の殺傷榴弾も一度試してもらったけれど、これもダメだった。

 けれど、だからといって逃げるわけにも戦闘を止めるわけにもいかない。ダメージを与えられなくても、気を引くくらいは出来るのだ。

 どうにかして気を引き続けないと、あのE.L.I.Dは即座に写真館へと戻り、ルポライターを八つ裂きにしてしまうだろう。それだけは何としても避ける必要がある。

 

「皆! あと5分耐えてルポライターが戻ってこなければ撤退よ! シーラからそういう指示が来てる!」

「彼女を置いていくのは辛いけど……正直手の打ちようがないよね……!」

 

 9が苦虫を嚙み潰したような表情をする。気持ちはわかる。私も同じ気持ちだ。

 そうは言っても、勝ち目のない戦いをいつまでも部隊のメンバーに続けさせるのは私も反対だ。そもそも、最初のブリーフィングであれほどシーラがE.L.I.Dに遭遇したら逃げろと言っていたのに、それをルポライターが無視したのだ。これくらいのリスクは承知の上だろう。

 そんなことを考えていると、自分にまとわりつく羽虫にいら立ちを抑えきれなくなったかのように、E.L.I.Dが雄たけびを上げた。

 

「□□□□□□□□□□□□ーーー!!」

「ッ!? 全員散開! 突っ込んでくるわよ!」

 

 肩をこちらに突き出し、体を沈ませたE.L.I.Dが何をする気なのかを瞬時に理解し指示を出す。勿論、私もそれと同時にその場を離れた。

 直後、私達がいた場所に向かってE.L.I.Dがものすごい勢いで突っ込んできた。

 3メートルの巨体が私達がいたところを通り過ぎ、その背後にあった廃墟へと突っ込んでいく。轟音と共に廃墟が崩れ、辺りが土煙で覆われた。

 

「冗談じゃないわ……あんなの相手にあと5分もやり合わなきゃいけないわけ!?」

「ルポライター! まだ終わらないの!?」

 

 416の愚痴に思わず無線機へ向かって怒鳴った。正直限界ギリギリだ。弾だって無限じゃないし、こんな薄氷の上でタップダンスをするような戦闘、いつまでも続けられない。

 

『あと3分、3分でいいから時間を稼いで! ソレで欲しいデータは一通り回収できる!』

「あと3分もアイツから逃げ回らなきゃいけないの!? いい加減にしてよ!」

 

 G11の叫びは最もだけど、だからといって逃げ出すわけにもいかない。ましてや3分と明確なゴールが示されたのならやるしかない。

 それに、土煙で視界がふさがれたE.L.I.Dは私達を完全に見失っているようだ。私達が今発砲していないこともあって、土煙の中で闇雲に暴れまわっているのが音と雄たけびで分かる。

 これならもしかしたら、スモークグレネードの類が効くのかもしれない。

 

「9、フラッシュバンあといくつある?」

「3つかな。まだ1個も使ってないし」

 

 チャンスは3回か。試してみる価値はありそうだ。運が良ければ、私のスモークと9のフラッシュバンで十分な時間を稼げるのかもしれない。

 

「9、アイツがこっちに向かってきたらフラッシュを投げて。416とG11は少し離れたところで待機! 私達がアイツの気を引く!」

「それはいいけど、どうするつもり!?」

 

 416の問いには答えず、周囲を見渡す。写真館以外にも、廃墟になった建物は多い。

 その中で、比較的頑丈そうな建物を探す。出来るだけ写真館から離れている、という条件も含めてだ。

 条件に一致する建物は、果たしてあった。写真館の反対方向、1ブロック先。

 

「いい? 皆、今から写真館の反対の1ブロック先にある建物にアイツを誘導する。あの土煙に巻かれて闇雲に暴れる姿からして、スモークとフラッシュが効く可能性があるわ」

「じゃあ、私達のグレネードでアイツの動きを止めつつまずはあそこまで誘導だね!」

 

 9が任せろと唇の端を吊り上げる。良い意気だ。流石は9ね。

 

「誘導した後は?」

 

 416が油断なくE.L.I.Dの方を向きながら問いかけてくる。勿論、彼女にも働いてもらうつもりだ。

 

「誘導した後は416、アナタの榴弾で建物の脆い部分を狙って崩して。G11は脆そうな部分を見つける補助よ」

「うぇえ……めんどくさ」

 

 G11がエクトプラズマを吐き出す様にため息を吐くけれど、その目は鋭く尖っている。文句は言いつつもやることはしっかりこなす気はあるらしい。

 ちょうどその時、E.L.I.Dを覆っていた土煙が収まりつつあった。E.L.I.Dの頭部がこちらを捉える。顔は人間だったことをうかがわせる程度には原形を留めているけれど、それが男だったのか、女だったのかは分からない。

 だが、それでもその頭部に残った二つの目玉が私たちを捕えたのは確かだった。

 

「□□□□□□□□□□□□ーーーー!!」

 

 もはや人のソレではない咆哮を上げ、化け物がこっちに向かって走ってくる態勢になった。

 

「全員、作戦通りに動いて! 9、アイツの突進を避けたらフラッシュ! G11、416! フラッシュの効果が切れたら射撃して気を引いて! 距離が詰まってきたら私達がアイツをポイントまで誘導する!」

 

 言いながら、9と右に走る。416とG11は反対方向だ。

 巨体が周りの空気を巻き込みながら地面を震わせて私達のすぐ横を通り過ぎていった。

 巨大な壁が走っているようなものだ。あんなものにまともに蹴飛ばされれば一発でアウトだろう。

 

「9!」

「くらえ!」

 

 突進をかわされたことに気づいた奴がこっちを向くように2,3発撃ち込んでやりながら、9に合図を出す。

 9が安全ピンを抜いてフラッシュバンを投げるのと、E.L.I.Dがこちらを向くのはほとんど同時だった。

 9と共に閃光をマトモに見ない様に近くの物陰に身を隠す。爆音と閃光が辺りにまき散らされ、音響センサーがそれなりの数のエラーを吐き出した。

 閃光が収まったのを確認して、そっと物陰から顔を出す。

 

「□□□□□□□□□ーーーー!!」

 

 思った通り、フラッシュバンは効いたらしい。E.L.I.Dは狂ったようにその場で暴れまわっていた。私達はおろか、写真館の方角も分かっていないようで、足元も心なしかおぼつかない。

 今のうちだ。そう思ってE.L.I.Dに背を向けて走り出そうとした瞬間。

 

「45姉っ!」

 

 9の悲鳴のような声が聞こえた。

 9の方を向く。視界の隅に何かが見えた。

 その時にはもう遅かった。硬い何かがものすごい勢いで体に激突し、エラーが大量に吐き出される。

 

「がっ!? ァ……ッ!?」

 

 凄まじい衝撃と共に体が走ろうとしてた方向に吹き飛ばされ、手から銃が離れる。

 固い地面に叩きつけられ、それでも無くならない慣性が私を引っ張って固くデコボコした地面の上を引きずった。

 

「うっ……あ……」

 

 全身が痛い。特に何かがぶつかったところは滅茶苦茶痛いし、痛みのあまりに体が動かない。

 少し離れたところで瓦礫が地面に落ちる音が聞こえた気がした。ああ、チクショウ。E.L.I.Dが廃墟のかけらでも投げたんだろうか。

 油断した。フラッシュバンが効いたから、その間はほとんど完全に無力化出来たと思ったけど甘かったか。

 そんな冷静な分析をしている場合じゃない。早く立たないと。

 電脳ではそう判断していても、体が全く動かない。クソ、さっき瓦礫を食らった時にどこかマズいところを打ったのかな。

 ああ、遠くで9が叫んでるのが聞こえる。力を振り絞って頭を上げてみた。

 E.L.I.Dは既にフラッシュバンの閃光の影響が抜けたのか、真っすぐと私に向かって歩いてきていた。

 走っていないのが救いだけど、それでもほかの皆の銃撃なんて全く気に求めずに私に向かって歩いてくる。

 くそ、弱った奴から確実に潰すなんて上等な脳みそがなんで残っているんだ。

 E.L.I.Dが私の目の前に立つ。人間と比べれば余りも巨大な腕が私を掴んだ。

 何とか逃れようともがいてみるけど、そのたびに激痛が走って体が上手く動かせない。

 そうこうしているうちに私を握っているE.L.I.Dの手の力が強くなった。

 

「かっ!? あぐ……ぁ……!」

 

 悲鳴も満足に出せない。皆も私に誤射する危険が冒せないのか、銃を向けてはいるけれど銃撃が出来ていない。

 ……こんなところで。こんなところで私は死ぬの?

 嫌だ。こんなところで、訳も分からないE.L.I.Dに握りつぶされて死ぬなんて……私は嫌だ。

 私はバックアップの取れてない人形だ。ここで死んだら、それで全てが終わる。

 まだやりたいこと、やらなきゃいけないことがいっぱいあるのに。

 

「45姉ぇええ!」

 

 9の悲鳴が聞こえる。私を握る力はさらに強くなる。もうエラーまみれだ。いつ潰されてもおかしくない。

 ごめん、9……シーラ……。

 

 ふと、音響センサーがそれまで聞こえなかった種類の音を拾った。

 何かが近づいてくる。野太い咆哮にも似たこれは……バイク……?

 

『9ッ! フラッシュの用意!』

 

 通信機から響いたのは、聞き馴れた愛しい人の声。

 バイクのエキゾーストがどんどん近寄ってくる。もう、すぐそこだ。

 不意に私を掴んだE.L.I.Dの腕が動いた。90度右に旋回しながら、E.L.I.Dは自分の正面を何かからかばうように私を持ってくる。

 直後、耳障りな金属とアスファルトがこすれる音と衝撃が走った。

 E.L.I.Dはその衝撃に耐えきれず、私を放す。私は重力に従って地面に叩きつけられた。

 

「がはっ!」

「9! 今!」

 

 耳元でくぐもった声。何かを被っているかのような声は、けれども確かにシーラのモノだった。

 直後、辺り一帯にフラッシュバンの爆音が響く。うつ伏せだったし、多分シーラが私をかばうように覆いかぶさったから目は大丈夫だったけど、耳は完全にダメになった。

 けれど、それを気にする暇はない。すぐさま私の体は抱き上げられて、手近な廃墟の影に運ばれる。

 ついでにポーチからスモークグレネードが抜き取られる感触がした。そちらを見れば、シーラが安全ピンを抜いてE.L.I.Dに向かってスモークグレネードを投げているところだった。

 投げ終わったシーラはヘルメットを脱ぎ捨てる。その額からは血が流れた後があった。司令部が襲われたのだろうか。

 

「シーラ……」

「間に合ってよかった。9! 写真館はどっち!?」

「E.L.I.Dの向こう側だよ、指揮官!」

 

 私達の元に駆け寄ってきた9の言葉を聞いてシーラが辺りを素早く見回す。

 やがて、私達が隠れた廃墟から写真館方面を向いて小さく頷いた。

 

「404小隊! E.L.I.Dを出来るだけ写真館から反対方向へ誘導して! 45、アナタはここでじっとしてて。良いわね?」

「シーラッ……!」

 

 思わず手を伸ばしてシーラの裾を掴んでしまった。掴まれたシーラが優しく私に微笑みかける。

 

「大丈夫。すぐに終わらせて戻ってくるから」

 

 それ以上、私は何も言えなかった。今の私はただの足手まといだ。いくら人形が人間よりも性能が良いと言っても、それは万全の時の話。

 今なら多分、シーラの方が戦力になるだろう。腰のホルスターにはコルト・パイソンが収まっているし、背中には司令部で見たお守りと呼ばれたケースがある。

 

「そんな顔しないで。後で45にもキッチリ働いてもらうんだから」

 

 そう言って、シーラは今度こそ私の元から離れていった。

 E.L.I.Dが雄たけびを上げる。どうやらフラッシュの効果が切れたらしい。

 

『G11、射撃してE.L.I.Dの気を引いて! 416、G11の援護と殺傷榴弾の用意! 9はフラッシュの用意よろしく!』

『了解!』

 

 皆の声が通信機越しに聞こえる。私は呼ばれなかった。当然だけど。

 やっぱり、私はダメな人形なのかな。

 

『45!』

「えっ……あ、何?」

 

 突然呼ばれて、若干ビックリする。

 

『隠れながらでいい! そこから皆に指示を出して! 私はE.L.I.Dを狙うことに集中するから、細かい指示はアナタにお願いしたいの!』

「シーラ……」

 

 そうだ。銃を撃ったり走ることが出来なくたって、出来ることはあるはずだ。

 何より、シーラにお願いされたのだからやるしかない。

 

『皆! 必ず、生きて帰るわよ!』

 

 さあ、最終ラウンドだ。




戦闘回、伸びます。
次回か次々回でシリアス編を終わらせるぞ……。

評価、感想は執筆の支えになりますのでどうぞよろしくお願いします。
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