女性指揮官と戦術人形達のかしましおぺれーしょん【完結】   作:笹の船

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ボロボロだけど、結果は上々

 45がE.L.I.Dに握りつぶされそうになっているのを見た時は心臓が縮み上がった。

 とにかく気をそらそうとコルト・パイソンを引き抜いたはいいけれど、どういうわけだかE.L.I.Dにしては頭が回るらしく、45を盾にしてきたからバイクを倒して足にぶつけてやった。

 そこから9のフラッシュで目くらましをして、45を近くの廃墟の影に隠す。ぱっと見じゃ分からないけれど、少なくとも右腕は折れているみたいだし、上半身のいくつかも確実にやられているだろう。

 彼女には悪いが、今の45は正直戦力にはならない。だから、陰から他の404小隊への指示出しをお願いした。

 実際、それをやれるだけの能力は45には備わっているし、また私もそこまで気を回せるほどの余裕が持てるとは思わなかったからだ。

 背中のレールガンに装填されている弾は一発。コイツは陽極と陰極の二つのレールを使って、電磁誘導でタングステン合金の徹甲弾を撃ち出す。火薬の爆発なんかより、ずっと速い初速を叩きだせるけれど、いかんせんこういった場所で使うには威力が高すぎる。

 このレールガンの弾を弾けるほどの硬さはあのE.L.I.Dには無いだろう。

 だからこそ、狙い撃つポジションをキッチリ考える必要がある。外せば勝ち目は完全になくなるし、当たったとしても射線上に404小隊のメンバーがいたら一緒に粉微塵にしてしまうのは確実だ。写真館が射線上にあったら写真館ごとルポライターを消し飛ばしてしまうだろう。

 だから、まず写真館に背を向けるような配置になるように404小隊に囮になってもらって、私自身は写真館の方へと走る。

 45を隠した廃墟から3件ほど進んだ廃墟に入り込み、ボロボロになった階段を駆け上がる。

 この建物だけ3階建てで、それ以外は大体2階建てだった。ついでに言えば3階部分の外壁はほとんど崩れていて、外が丸見えだ。だから、視界の確保と伏せ撃ちの両方が出来る。

 絶対に外せないこのシチュエーションで、外れる確率を1%でも下げれるのならそれを使わない手はない。

 廃墟の三階部分にたどり着き、ケースを開ける。レールガンを取り出して、セーフティを解除した。

 バイポッドを立てて、伏せ撃ちの態勢を取る。勿論、404小隊とE.L.I.Dいる方向を向いてだ。

 

『指揮官! まだ!?』

 

 9の声だ。見れば、皆紙一重でどうにかE.L.I.Dの攻撃を避けている。あの調子では、誰かがE.L.I.Dの攻撃に捕まるのも時間の問題だろう。

 だが、問題ない。こっちももう発射態勢はほぼ整った。後はアイツの動きを止めて、そこに弾丸をぶち込んでやるだけだ。

 

「皆! 今からとびきりのプレゼントをソイツにくれてやるから、射線に入らないようにしてね! 45、私の位置は見えるわね!?」

『ええ、バッチリ見えてるわ。私が皆を射線の外に誘導すればいいのね』

「よろしくね! 9、フラッシュを投げて! 45、フラッシュ投擲後、全員を射線の外に誘導! 他の皆は間違ってフラッシュで動けなくなったりしないでよ!」

『了解!』

 

 全員の返事を聞いて、スコープを覗く。その先にE.L.I.Dが見えたことを確認してスコープから目を放した。覗きっぱなしでは私がフラッシュでダメになってしまう。

 

『行くよ指揮官!』

「よろしく9! 皆、準備はいいわね!」

 

 9がピンを抜いてフラッシュバンを投げる。私も離れてるとはいえ、少しでもフラッシュの影響を受けない様に、顔を伏せて目を閉じた。

 甲高い爆音が辺りに響く。

 

「□□□□□□□□□□□ーーーーー!!?』

『9! そこから4時方向へ! 416、G11はそこから9時方向へ走って!』

 

 45の指示が聞こえると同時にスコープを覗き込む。チャンスは一回。ワンショットワンキルが絶対条件。敵はあちこちへ動き回らないとはいえ、視界が無くなったことでがむしゃらに暴れている。

 油断をすれば外れるこの状況、何よりも敵になるのはプレッシャーだ。

 でもこの程度、いくらだって乗り越えてきた。今更プレッシャーに負けたりなんかしない。

 スコープの中心にE.L.I.Dを収める。恐らく、そろそろ閃光を食らった効果もなくなるだろう。狙い撃つならそこだ。

 E.L.I.Dが足を止めた。首を巡らせ、私達を探す。そう、その瞬間を待っていた。

 トリガーを引く。

 電磁誘導が行われる甲高い音がして、その直後掘削機が杭を打ち出したかのような音ともに弾丸が撃ち出された。

 このスナイパーライフル型レールガンの弾丸は直径20ミリ、重さ2キロという携行兵器にしてはかなりの大きさと重さを誇るものだ。それが、毎秒3500メートルという射速で撃ち出される。

 その恐ろしいまでの運動エネルギーを伴った弾丸は、キッチリとE.L.I.Dのど真ん中に命中しその体をえぐり取った。

 それだけでは足らず、その背後にあった地面へ着弾すると同時に、大量の爆薬を起爆させたかのような爆発を起こした。

 瓦礫という瓦礫、土煙という土煙が舞い上がりE.L.I.Dを覆い隠す。

 

「皆! こっちに戻ってきて!」

 

 まだ油断はできない。アレを食らって生きているとは思えないし思いたくないけれど、何せ相手は崩壊液に被爆したトンデモ生命体だ。どんなイレギュラーがあったっておかしくない。

 万が一動けた場合、手持ちの武装でどうにかするか、無理ならもう逃げるしかないだろう。

 ルポライターも、いい加減家探しが終わる頃合いのはずだ。そうしたら、生死の確認だけしてさっさとここから離れてしまうのがいい。

 レールガンをケースに収めて地上に降りる。改めて担ぐと、レールガンの重さがとんでもないことが良く分かった。普通にアサルトライフルのフルセット担ぐよりはずっと重い。我ながらよくこんなものを担いできたものだ。

 地上に降りると、45含め404小隊皆が揃っていた。45は自力で歩くのが難しいのか、9に肩を貸してもらっている。顔色も良いとは言えないけれど、生きてるだけで十分だ。

 

「皆、よくやってくれたわ……と、言いたいところなんだけどまだあいつが死んだとは限らない。注意して」

 

 私の姿を見て一瞬緩みかかった空気を、再度引き締め直す。ここで油断して一網打尽、なんて終わり方だけは避けたいものだ。

 皆揃って土煙が舞い上がっている方を注視する。私は腰のパイソンを、416とG11はそれぞれの愛銃を構えていつでも攻撃できるような態勢を整えた。

 土煙が収まっていく。あの3メートルはあろうかという巨体が動いている気配はない。お得意の耳障りな雄たけびも聞こえない。

 アイコンタクトとハンドサインで416とG11を連れてE.L.I.Dがいた場所に近づいていく。9と45はその場に待機させた。

 土煙が晴れる。E.L.I.Dはうつ伏せに地面に倒れ伏して、ピクリとも動いていなかった。でも、まだ銃は降ろさない。

 E.L.I.Dの様子を確認する。上半身が半壊し、腹から胸にかけて巨大な穴が開いている。そこから心臓と思しき臓器が覗いていいた。ほとんど無傷のようだけれど、それは鼓動を止めている。しばらく見ていたけれど、再び動き出す気配もない。

 どうやら本当に死んでいるようだ。

 

「ふぅ。何とか倒せたみたいね」

 

 ようやく銃を下ろした。これまでの疲労が一気に押し寄せたような気がして、思わず膝に手をつく。

 

「全く……酷い目に遭った」

「ホント……もうE.L.I.Dの相手なんかしたくないよぉー」

 

 416とG11のウンザリした表情と言葉に、思わず笑みがこぼれる。一時はどうなることかと思ったけれど、どうにか生きて帰れそうだ。

 

「おお、どうやらそっちも片付いたみたいね」

 

 背後から聞こえる声。お互い用件は済んだね、じゃあ帰ろうかみたいな軽い口調のソレに、こめかみに青筋が立ったのが自分でも分かった。

 パイソンをホルスターにしまって、ルポライターの胸倉を掴み上げる。

 

「E.L.I.Dに遭遇したら逃げろって、あれだけ言ったでしょ。なんであんな無茶をしたの」

 

 怒鳴り散らさない様に自制心を総動員する。本当は怒鳴り散らしたいところだ。無理なく撤退をしてくれれば、少なくとも45があんな怪我をすることはなかった。

 けれど、そんな私に対してルポライターの態度は冷ややかなものだった。

 

「その点については謝るし、危険手当として報酬も上乗せしておくわ。でもね」

 

 ルポライターが乱雑に私の手を振り払う。再度掴みなおすことも、殴りかかるといったこともしないけれど私の内心は穏やかなモノじゃなかった。

 

「私にも譲れないものがあるの。たとえ死ぬかもしれないって状況でも、目の前に情報があるのならそれを入手する。私は今までそうしてきたし、これからもそうするつもりよ」

「その為なら、自分の護衛を使い捨ててもいいとでもいうつもり?」

 

 理屈は分かる。私にだって命を懸けても無茶をしなきゃいけないって思うときはあるのだから。ルポライターにとって、今回の情報はそれだけの価値があると踏んだからこその行動なんだろう。

 でも、だからといって404小隊を捨て石に使うような真似をしたことは許せない。

 

「別に彼女達を使い捨てにするつもりは無かったし、どうしてもヤバイなら置いて逃げてってくれてもいいと思ってた。実際、アナタは彼女達に最悪私を置き去りにして逃げろと指示したでしょう? 自分が無茶してるのは自覚あるし、それくらいのリスクは背負うわよ」

 

 言いたいことはまだまだある。でも、これ以上は今この場でするべきでは無いだろうし、もしかしたら私のうちでとどめておくべきものかもしれない。

 結局のところ、今私の胸の内で燃え盛っているのは大事な家族を危険な目に遭わされたことに対する憤りだ。それは指揮官として、彼女の護衛を任されたものとしてではなく、私情からくる手前勝手なものでしかない。

 

「まあ、いいわ。で、成果は?」

 

 血が上ったせいか、ズキズキと頭が痛むのを隠す様にルポライターから視線を外して成果を問う。これで何の成果も得られないときたら、キレてもいいんだろうか。

 

「バッチリ。デジタルもアナログも、きっちり手に入れたわよ」

 

 思わず安堵のため息を吐いた。少なくとも、私達が体張ってあちこちで戦ったことに意味はあったらしい。

 全く、E.L.I.Dの相手をするなんて久しぶりだったし、ドリーマーともやり合ったから今日は疲れた。まあ成果があったんだから、その苦労は報われたんだろう。

 そう思いながら、なんとなしに倒れ伏したE.L.I.Dの方をちらりと見る。

 そして見た。止まっていたはずの心臓が小さく鼓動していることと、E.L.I.Dが私を……いや、私の後ろにいるルポライターを見て何かしようと腕をかすかに上げたのを。

 

「伏せて!」

 

 言いながら、ルポライターを突き飛ばしながらホルスターから銃を抜く。

 でも、それより早くE.L.I.Dの指先から何かが飛び出してきて、私の左肩を撃ち抜いた。

 

「ぐあっ……!」

「指揮官ッ!? このバケモノ!」

 

 416とG11、9がありったけの弾丸をE.L.I.Dのむき出しの心臓に鉛玉の嵐を撃ち込む。

 弾丸を撃ち込まれる度E.L.I.Dは電気ショックにでも当てられたような痙攣を繰り返した。

 やがて全員がマガジンの中の弾丸をすべて吐き出して、銃声が収まった頃にはもうE.L.I.Dは完全に動かなくなっていた。

 

「シーラ!」

 

 45が私の方へ駆け寄ってくる。

 

「大丈夫……急所は……外れてるから」

 

 安心させようと声を出してみるものの、思った以上の激痛で思うように言葉を継げなかった。

 一体アイツが何を飛ばして、何に肩を撃ち抜かれたのかと見てみれば、そこに刺さっていたのは鋭く伸びた爪……のようなものだった。

 ちくしょう、E.L.I.Dめ。こんな隠し玉を持っていたと知っていたら、さっさと榴弾で爆散させておくんだった。

 引き抜こうとするけど、爪先がいびつな形になっているのか肉に引っかかって一向に抜けそうにないし、激痛ばかりが走る。これは下手に引き抜こうとしない方がいいな……。

 

「コリンズ指揮官、その……」

 

 声をした方を見れば、流石に申し訳なさそうな表情をしたルポライターがいた。まあでも、最後のこれに関しては私の認識が甘かったせいだから彼女に非は無い。

 ……やっぱり、色々と甘ちゃんになってしまっているな。正規軍の現役時代なら、こんなミスは犯さなかっただろうに……。

 知らず知らずのうちに、自分が前線に出ないということに対して甘えていたんだろう。そこから来る気の緩みがこの怪我だと思えば、高い授業料ではあるけれどいい教訓にはなる。

 

「これは私が心臓が動いていないからって最後まで処理しなかった私の油断よ。ルポライターが責任を感じることはないわ」

 

 そういうと同時に、私の耳にヘリのローターの音が聞こえてきた。

 その場の皆でそっちを見れば、そこにはG&Kのエンブレムが貼られたヘリが1機こちらに向かって飛んできているのが見えた。

 どうやら、M14達はジャミング装置を壊せて、モスバーグが救援を呼んでくれたらしい。

 

『指揮官! 聞こえますか!? お迎えのヘリですよ!』

 

 通信機から聞こえてきたのはM14の元気な声だ。彼女もボロボロのはずなのに、それを感じさせない声は私に一種の安心感をもたらしてくれる。

 例え虚勢や空元気だとしても、そうしてくれるM14のおかげでいつもどこかほっとしている自分がいる。そういう意味では彼女には昔も今も助けられてるかな。

 

「いいタイミングね。M14、第一部隊は?」

『メインフレームは誰一人欠けずに臨時司令部に帰還してます! 既に本部からの救援も到着して、損傷の激しい隊員から撤退を開始。第五部隊も同様にメインフレームは損傷のある人形もいますが、全員無事です! 残るは指揮官達だけですよ!』

「そっか。良かった……本当に、お疲れ様」

 

 本当に良かった。皆ボロボロだけど、誰一人欠けずに仕事を終えることは出来たみたいだ。修理費とか、ダミーの補充とか頭が痛くなる問題は山積みだろうけど、そんなことは基地に帰ってから考えればいいだろう。

 その思った瞬間、緊張の糸が切れたのか体から力が抜けて、後ろに倒れそうになった。

 

「指揮官!」

 

 とっさに416が支えてくれたから倒れることはなかったけれど、体力を使い果たしたのか自力で体を起こすことができない。

 ついでに言えば、意識を保つのが難しくなった。

 辺りの音がくぐもって聞こえるような気がするし、視界がどんどん暗くなっていく。

 でもまだ駄目だ。もう少し、もう少しだけ起きていないと……。

 

「……揮官! ……っかり……!」

 

 ああ、ダメだ。ごめん皆、ちょっとだけ……寝かせて……。




戦闘回はこれでおしまいです。
次回はデブリーフィング回。それをもってシリアス編はいったん終わりになる予定

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