女性指揮官と戦術人形達のかしましおぺれーしょん【完結】 作:笹の船
「……そうだったのね」
私の見舞いに来てくれたユノちゃんとPPKから、改めて彼女の身の上を聞かせてもらった。勿論、内容が内容なので誰にも聞かれないようにキッチリと対策をしたうえでだ。
当然、看護婦さんには退室してもらっている。だから今病室にいるのは私と45、ユノちゃんとPPKの4人だ。
どうやらユノちゃんも、私の仲間同様クソみたいな思想やらなんやらのせいで人生を弄ばれた子だったらしい。ただ、彼女には頼もしい友人がたくさんいたのが救いだったと言える。
体格の変化は、彼女が健康体になったことの証そのものでもあるとのことらしい。つまるところ、こちらが本来の彼女の姿ってことになるのかな。
「改めて、挨拶しますね。お久しぶりです、シーラさん。S09地区のユノ・ヴァルターです」
「彼女の伴侶のPPK……またの名をクリミナ・ヴァルターと申しますわ。怪我をされたということで、お見舞いに馳せ参じました」
ユノちゃんが丁寧なお辞儀を、PPK――クリミナが片足を軽く下げ、膝を少し折る。クリミナのアレはカーテシーとか言ったか。G36が教えてくれた、メイドさんなんかの挨拶の作法の一種だった気がする。
まあ、それはともかくとして挨拶をされたならこちらも返さないとね。挨拶は大事だって、おばあちゃんにはよく言われた。
「ご丁寧にありがとう。改めてR06地区前線基地指揮官、シーラ=コリンズよ」
「シーラのパートナー、UMP45よ。二人が元気そうで何よりだわ」
私達も挨拶をし返す。しかしそうか。ユノちゃんのPPKは『クリミナ』って名前を貰ったのか。戦術人形『PPK』ではなくて、ユノ・ヴァルターの伴侶の『クリミナ』、か。
思わず45の方を見た。
「……? どうしたの、シーラ」
「……んーん。何でもない」
優しく微笑んでくれる45に、こちらも微笑み返して首を横に振る。私も、45には人としての名前を送りたい。UMP45、なんて銃の名前じゃなくて私だけのよんごーだと分かる名前を付けてあげたい。
……なんてこと、流石にこの場じゃこっぱずかしくて言えない。
「それで、シーラさんは大丈夫なんですか?」
「んー? まあね。怪我自体は全治一か月程度のものだし、指揮官として働くだけならもう職場復帰したっていいくらいよ」
「ただまあ、そのケガの元がE.L.I.Dの爪が刺さったものによる怪我なの。崩壊液に汚染されたE.L.I.Dの体組織が体内に入ったんだから、何が起きてもおかしくないでしょ? 今は何も起きてないけど、万が一を考えて一週間は検査入院しろっていうのが上からの命令ってわけ」
45の補足に小さく肩をすくめる。これくらいなら痛くはない。
しかしそれにしても本当にユノちゃん大きくなったなあ。前に会った時なんてなんでこんな子供がグリフィン制服を、って思うくらいには幼い見た目だったのに。
今は私と頭半分ちょっとくらいしかもう身長差ないんじゃないかな。ティーンエイジャーらしい大人と子供の合間の顔つきにもなってる。
「あ、あの……シーラさん? そんなに見られるとその……恥ずかしいです」
「ん、ああ。ごめんね。……大きくなったなって思ってさ」
恥ずかしそうに目をそらすユノちゃんに自然と頬が緩む。なんだか、久しぶりに会った親戚の子供の成長を喜ぶおばさんみたいな気分だ。……いや、まだ私24だしおばさんって年じゃないんだけどね。
……そういえば、私はユノちゃんが怪我をしたと知ったとき結局お見舞いも何もできていなかったっけな。それでもこの子はこうして来てくれるんだから、優しい子だよなあ。
それはそれとして、その辺りに関しては一度謝っておこう。
「そういえば、ごめんなさいね。体のこともだけど、何よりユノちゃんが怪我した時にお見舞いも何もできなくて」
「あ、いや……大丈夫ですよ。今はこうして元気になりましたし、あの時に家族も一人増えましたから」
「家族……? 新しい人材でも確保したの?」
「人材っていうか、娘が一人出来ました」
ニコニコと言い放つユノちゃんに、私と45が凍り付き、お互いに顔を見合わせる。
いや娘って。この年で? ていうか父親は? 貞操観念どうなってるの?
大絶賛混乱してる私の様子を見てか、クリミナが苦笑いを浮かべて首を横に振った。
「娘といっても、人間の子供ではありませんわ。ユノに直接危害を加えたのが戦術人形……AS Valだったんですが、彼女は前の指揮官に相当暴行を加えられていたようでして。脅し同然の命令に従っていただけでしたので、彼女の境遇に思うところのあったユノが保護したんです」
「あ、そっか。ごめんなさいシーラさん。流石に血のつながった子供を産んだりはしてないですよ? 私とPP……クリミナに良く懐いてくれてる子達のことを『娘』ってことにしてるんです」
「あ、ああ……そういうことね。……びっくりした」
いや、ホントにびっくりした。これでマジの子供だったら父親のところに行って一発ぶん殴ってやろうかと思った。
「シーラ……マジの子供だったら父親ぶん殴ってやるって顏に書いてあるわよ」
「おっと。……まあでも、元気そうで何よりだわ。それじゃあクリミナがお父さんで、三人家族ってことになるのかしら?」
「あ、いえ。後他に……ステアー、ルピナス、アニス、ビビ、クレア、ディアナがいるから……シャフト、さっきのAS valを含めて7人ですね」
再び私と45が凍り付いた。7人……? 待って。どんだけ娘いるのこの子……?
いや、私も妹分的な戦術人形がいるにはいるけど、流石に親子みたいな関係の戦術人形はいない。家族と呼ぶくらいには近しいと言って良い子達は何人かいるけど……。
もしかしてユノちゃんみたいなのが普通なのか? 私が狭量なだけで、他の指揮官ってもっとこう……人形達と親密な関係を築いてるものなんだろうか。
「シーラ、シーラ。安心して。アナタも十分人形達と距離が近い方だから。多分ユノちゃんが特殊過ぎるだけよ」
「あ、あはは……」
苦笑いをしながら頬をかくユノちゃんを見て、安堵と敗北感にも似た何とも言えない感情が胸の内に湧き上がる。
なんだろう。私、この子に女として負けてるような気がする。
「それで? お二人さんはアツアツな毎日を過ごしてたりするの?」
空気を変えようとしてか、45がちょっと茶化したような雰囲気で二人に問いを投げかける。
でも確かに、それはちょっと気になるかもしれない。……いや、私達も大概周りから見たアツアツなのかな。アツアツ通り越して盛りの付いたネコみたいになってる時あるけど……。
「ユノは私が作戦行くときにお弁当作ってくれたりしてますわよ」
その時私に電流走る。え、なに。ユノちゃん料理できんの? 待って? 私そんなにできないんだけど、ひょっとして既に女として負けてる?
「ユノのお弁当は美味しいんですのよ? お弁当に限らず甘いものなんかも作れますから、たまに作ってはその場に居合わせた皆で食べたりもしていますわ」
お菓子も作れるのこの子? は? ハイスペックすぎない? 女子力の塊?
「ちょっとクリミナ! 恥ずかしいよ……」
「いいではありませんか。アナタの料理は美味しいのは事実ですし」
「ぃや……それは嬉しいんだけど……」
あ、いや。この二人のやり取りが砂糖菓子ね。なんだこのお砂糖空間。私達そっちのけでいちゃつき始めたぞ。目の保養になるからそのまま続けてほしい。
「シーラもやってみたら? お菓子作り」
隣からちょっと不機嫌そうな声が聞こえてきた。よんごー、ちょっと嫉妬してるな?
よんごーの方を見れば、普段通りの表情をしているように見えるよんごーがいた。でも私には分かる。いつもより気持ち唇がとがっている。
「ねえよんごー。私お菓子って作ったことないんだけど、誰かに教えて欲しいのよねー。梅染色の綺麗な髪をしたワンサイドアップの髪型の可愛い女の子に教えて欲しいんだけ……いだだだっ!」
「馬鹿なこと言わないで。ていうか、そんなセリフで私を誤魔化せると思ってるの?」
ちくしょう。よんごーめ。結構強めにつねったな。今の結構痛かったぞ……。
でもまあ、そうは言ってもよんごーは私から目をそらしているし唇はへの字になってはいるけど、頬がちょっぴり赤くなってる。満更でもないんだろうに。素直じゃないなあ。
「あ、じゃあ今度皆で一緒にお菓子作ります? 皆でやれば楽しいですよ!」
「乗った! 退院して落ち着いたら連絡するわね」
「ちょっと、シーラ! 向こうの都合も分からないのに勝手に……!」
「私たちは構いませんわよ。アナタ達であれば歓迎もできますしね」
んふふ。3対1だ。多数決に則れば私達の圧勝ね。
そうと決まればさっさと退院できるようにしないと。ていうか今すぐ退院したいんだけども。
その後もやんややんやと騒いでるうちにユノちゃん達が帰る時間になった。
「それじゃあシーラさん。お大事に」
「そっちもね。帰り道に襲われたりしない様に。後、知らない人についてったり余所の人形にあんまり不用意に近寄っちゃダメよ?」
「私がいますもの。ユノには指一本触れさせたりしませんわ」
「派手にやりすぎないでよ? アナタ達の為にもね」
「分かっていますわUMP45。アナタも、しっかりシーラさんを守ってあげてくださいまし」
「言われなくとも」
そんなやり取りをして、二人は退室していった。
さっきまであんなに姦しかった病室が、あっという間に静まり返る。
しかし、よんごーが私を守る……か。思わず彼女の方を見て、唇の端が吊り上がってしまう。
「何よ」
「んー? この間、どっちかといえば私がアナタを守ったっけなあって思って」
N03地区での作戦の時、私はE.L.I.Dに捕まったよんごーを助けた。アレはまさに、囚われの姫を助け出す白馬に乗った王子様という構図だったと思うんだ。
「……相手が悪かっただけよ。鉄血とか、人間相手ならああはならなかったわ」
「まあ、正直そうでしょうね。初めてだったでしょ? E.L.I.Dとやり合うなんて」
「まあね。シーラ、アナタ正規軍の時あんなバケモノと戦ってたの?」
「アレは規格外な方よ。私が相手してたのは、もっと小型の奴らがメイン。あれくらいの大きさになったら、もう歩兵装備じゃ厳しいから専用装備をガチガチに用意して、待ち伏せだったり特定の場所に誘導したところをドカン、ってのが普通だったかな」
正直、あのレールガンでぶちのめせたのはラッキーだったかもしれない。個体によっては再生能力に長けたタイプもいるから、あの一発で勝負が決められなかったら本当に勝ち目がなかった。
ま、それはそれとしてだ。
「……お菓子、ちょっとは出来るようにしておかないと」
恥は書きたくないからね。後私の方が年上なんだし、年上らしいところも見せたいから。
「無理じゃないかな……」
よんごー。うっさい!
今回は伸びません。
ちゃんと二話で締めたよ!