女性指揮官と戦術人形達のかしましおぺれーしょん【完結】 作:笹の船
しばらくはこんな感じでほのぼのしていきたい
シーラが退院した。一時はどうなることかと冷や冷やしたけれど、あれから特に異常が起きることもなく、医師からは退院していいとのお許しが出たようだ。
そうして私とシーラがR06地区の基地に帰って来れば、待っていたのは幾重にも重なった小さな破裂音だった。
二人そろって腰の銃に手を伸ばしかけて、音を鳴らしたのが何であったのかを認識する。私にとっては、つい最近似たような出来事があったのを忘れていた。
『指揮官! 退院おめでとう!』
「……。はぁ、こんなもの用意しちゃって」
シーラがやれやれと言った様子でため息を吐きながら首を左右に振る。その表情は、どこか不満げに見えなくもない。
クラッカーを鳴らしたAR小隊やMP5の表情が一気に曇った。やはり勝手に用意したのはマズかったかとひそひそと話している。
シーラはといえば、相変わらず唇をへの字に曲げながら顔を上げてAR小隊の方へと視線を向けていた。
それに気づいたAR小隊がびくりと肩を震わせて敬礼をする。面白いなコイツら。シーラは怒ってなんていないのに。
ホントは嬉しいくせに、それを隠そうとする時のシーラは大抵唇をへの字にするとか、わざとらしい態度をとるものだ。彼女が本気怒っている時は、かなり無表情に近くなるし口調も淡々としたものになる。
まあ、シーラが本音を隠そうと思って動いた時に本音を見抜ける人形は古参人形でも数は限られるものだ。私が一番気づけるのは間違いないだろうけれど。
「それで……?」
シーラがやや低めの声でAR小隊に問いかける。AR小隊が緊張してまた一段と見事な敬礼の姿勢を取った。ダメだ、笑っちゃいそう。
「あ、えと……指揮官……?」
恐る恐る。そんな言葉を体現したような様子で、M4が上目遣いでシーラを見た。一方のシーラは、未だ唇をへの字に曲げたままだ。
でも、その唇の端がピクピクしている。そろそろ我慢も限界らしい。
「AR小隊。一つ質問があります」
「は、はい!」
M4がまたもピクリと肩を震わせた。他のメンバーも緊張しているままで表情が硬くなっている。
そんな彼女達を睨みつけたシーラが、ふっと表情を緩めて口を開いた。
「……チョコパフェは用意してあるの?」
「……え?」
「ぶふっ!」
ダメだ。耐え切れずに吹き出してしまった。だってシーラの「パフェはあるの?」って言葉を言われた時のAR小隊の間抜け面ったら最高に面白かったんだもの。
「お祝いしてくれるんでしょ? 美味しいスイーツ、もちろんあるのよね? 無かったらマジで怒るけど」
「あっ、えっと、その……」
M4が途端におどおどし始めた。……もしかして本当にスイーツの類は用意されていないのかな。それはちょっと私としても残念なんだけど。
あ、シーラの眉間にどんどんシワが寄って行ってる。まあ、シーラは甘いもの大好きだもんね。入院中も甘いものは制限されていたし、久しぶりのスイーツにありつける機会なんだもの。そこにスイーツがなかったら不機嫌にもなるってものだ。
「M16、もしかして用意してないの?」
「あ、あー……パフェは無いんだ。すまない」
シーラが音も無く崩れた。そんなにオーバーアクションとらなくたって。……あ、これ泣き落としでスプリングに作ってもらおうという魂胆かな。汚い。流石シーラ汚い。
「し、指揮官! 大丈夫だよ! スプリングが美味しいプリンを用意しておいてくれるって言ってたんだし! それにね! SPASが街のケーキ屋さんで……!」
「SOP! このおバカ! 折角隠してたのに……!」
「AR-15、アナタの発言が自白そのものです……」
あーあーあー。もう皆パニックになってぐちゃぐちゃだ。
一方のシーラはといえば、それが面白いのか思い切りニヤけている。性格悪いなあ。
「シーラ。アナタ絶対今面白がってるでしょ。ニヤけてるわよ」
「おっと。しかしケーキかぁ。……SPASが絡んでるなら当たり間違いなしよね?」
「案外代金はシーラにツケられてたりしてね?」
「……スプリングとかG36あたりが絡んでたら、大いにあり得そうで笑えないわ」
「…………」
あ、今AR小隊の傍にいたMP5が顔をそらした。……ちょっとした冗談のつもりだったんだけど、もしかしたらもしかしたりするのかもしれない。
まあでも、いつまでも基地のエントランスで立ち尽くしていたって経費がシーラの懐から出ることになるかどうかも分からなければ、私達がスイーツにありつけることもない。
「シーラ。とりあえずカフェ行きましょうよ。どうせそこで飲み食いするんでしょう、AR小隊?」
「……そうね。指揮官、ご案内しますね」
「素敵なエスコートを期待するわね」
「お任せください!」
……そんなやり取りをしたのが、2時間くらい前の話だろうか。
「ねーえ。よんごー、聞いてるの?」
「シーラ、病み上がりなんだしあまり飲みすぎたら……」
「いーじゃないの! たまのお酒よ! それに入院中はお酒なんてのめらかったんらから!」
久しぶりの甘いものやらお酒やらで舞い上がってしまったシーラは、ものの見事に出来上がっていた。普段は酔わないようにしている彼女が、ここまで出来上がるのも珍しい。
それはそれとしてだ。さっきからシーラのキャラがおかしい。
「よんごー。けーき!」
「それくらい自分で持ってきなさいよ」
「やーだ! 持ってきて!」
元々子供っぽいところのある人だったのだけど、お酒でべろんべろんになっているせいか余計に子供っぽくなっている。幼児退行といって差し支えないと思う。
「ねえよんごー、けーき!」
「はいはい……わかりましたよ」
せがまれるままにテーブル席を立ち、スプリングのいるカウンターへ向かう。
「あら、UMP45。ケーキのおかわりですか?」
「ええ。あっちのお姫様が食べ足りないって催促してくるものだから」
「ふふふ。指揮官があんな風に酔っぱらっているの、久しぶりに見ました」
そう言って笑いながらも、スプリングはテキパキと残っていたケーキを取り皿に取り分けて、私に手渡してくれた。
「あんなになるまで飲むなんて、指揮官としてはどうかと思うけどね」
「あら。口ではそう言っていても、ああいう風にストレートに甘えられるのはまんざらでもないんでしょう?」
スプリングが優し気に目を細めて私に微笑みかける。図星を指されて、思わず顔をそらしてしまった。
N03での作戦では、私はシーラの力にはなれなかった。それどころか、彼女の力に頼ってばかりだったような気がする。
だからって訳じゃないけど、こんなことでも頼りにしてもらえるっていうのはまだ私には価値があるんだって安心できる。
……分かってる。そんな程度でシーラは私のことを捨てたりなんてしない。そもそも、私達はE.L.I.Dとの戦闘を目的として作られた存在ではない。あの時不覚を取ったのだって、仕方無かったと言えば仕方がなかったのだ。
シーラだってそれは分かってくれている。だから、あの時私がE.L.I.Dが飛ばした瓦礫で負傷したことについてとやかく言ったりはしないはずだ。
「UMP45。そんな顔をしてないで、早く指揮官にケーキを持って行ってあげてください」
「え……あ、うん。ありがとスプリング」
やめよう。今こんなことを考えても仕方がない。一度の失敗をいつまでも引きずっていては、今後の勝てる戦いも勝てなくなるし。
思考を切り替えて、スプリングに向かって軽く手を上げながらシーラのいるテーブルへ戻る。
「あー。よんごー、おそいよー」
「ごめんごめん。ほら、ケーキよシーラ」
「んふふー。ありがとー」
ケーキの乗ったお皿をシーラの前に出して隣に座れば、酔って真っ赤になったシーラの顔がふにゃりと緩んだ。
その緩んだ表情のまま、シーラはフォークを手に取ってケーキを切り取る。
フォークを口に運んで、ケーキをもぐもぐと美味しそうに食べた。
「んー……やっぱりおいしいなあ。病院のごはんなんかとは、ぜんぜん比べ物にならないくらいおいしい!」
「食べたらちゃんと歯を磨いてよねシーラ。虫歯になるわよ?」
「あー。よんごー私のこと子供っぽいって思ってるでしょー。これでももう24なんだから。ちゃんとしたおとななんですー」
そう言って唇を尖らせるシーラだけど、その仕草がすでに子供っぽい。
でも、素直にこんな顔を見せてくれるのはきっと私に対してだけだ。他の人形が相手なら、もう少し指揮官らしくしようと振舞っている。
私にだけ見せてくれる、シーラの顔。その事実に、安心感とある種の優越感、それと他の誰にも見せたくないという独占欲が私のうちに湧き上がってくる。
「よんごー」
「……どうしたの、シーラ」
気が付けば、シーラが私のことを見てニッコリと笑っていた。子供っぽいその表情の中に見え隠れする、普段の凛々しい彼女の面影にドキリとしてしまう。
「心配しなくたって、私はアナタから離れたりしないわよ」
「……ホント?」
たまらず、聞き返してしまった。答えが分かり切ったものだとしても、やっぱり言葉にしてほしかった。
「大丈夫。ずっと、傍にいるから」
アルコールが回ってる、ちょっと舌ったらずな声。けれど、私の電脳を揺さぶるには十分すぎるほどの甘い声。
それだけでもおかしくなりそうなのに、シーラは更なる追い打ちとして私の頭を自分の胸に抱き寄せた。ふわりとした柔らかさの二つの膨らみが顔に押し付けられる。
もしかしたら、私も結構酔っているのかもしれない。アルコールとシーラの汗の匂いにどうしようもなく安心感を感じてしまっているのだから。
「ねえ、シーラ」
「んー?」
「……ずっと一緒だよね。約束だよね」
「……うん」
うん、といってはくれたけどこの約束は所詮口約束だ。いつか反古にされる時が来てしまうかもしれない。
それでも私は約束をしてほしいと言って、シーラはそれにうんと言ってくれた。嘘でも何でも、私達はずっと一緒と言ってくれた。
今は、それでいいのかもしれない。
シーラに胸に抱かれながら、私は大きく息を吸ってそのまま彼女に体を預ける。
こんなパーティを開いてもらうくらいには大きな仕事をこなしたんだ。今くらいは、こうしていても、いいよね?
願わくば、こんな日が毎日続くようになりますように。
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