女性指揮官と戦術人形達のかしましおぺれーしょん【完結】 作:笹の船
病院も退院し、退院祝いのパーティで醜態を晒したことで私には一か月の禁酒令が出されました。……久々とはいえ、羽目を外し過ぎたことは反省しています。
「指揮官。こちらの書類、仕分け終わりましたのでこちらに置きますね」
「ん。AR15、ありがとね」
退院したとはいえ、私の左肩はまだ万全じゃない。E.L.I.Dの爪は結構奥深くまでめり込んでいたし、摘出するのだって結局切開が必要なくらいだった。まあ、爪の一部分が返しになっていて、無理に引き抜くと筋肉とかがズタズタになるからなんだけど。
ともかく、まだ退院してから1週間と経っていない。手術してからカウントしたって半月も経っていないんだから、そう簡単に傷が癒えるはずもなかった。
だから、左肩にはサポーターをつけている。いわゆる三角巾という奴だ。なので、グリフィンの制服は羽織る程度にしか着ることができない。やったね。
そんなわけなので、最近の私は事務作業に人形のサポートをつけざるを得ないとなっている。まあ別につけたくない理由も特にないし、いつでも45が隣にいられるわけでもないから適当にローテーション組んでいろんな子達に手伝ってもらってる。
ちなみに今日はAR15とM16だ。AR15が書類の仕分けを、M16は仕分けられた書類の処理を行ってくれていて……あれ?
「ちょっと。私の分の仕事は?」
「何言ってるんだ指揮官。アンタはまだ怪我してるんだから、休まないと」
「正直ちゃんと怪我が治るまではじっとしていてほしいんですよ、私達としては」
「書類に目を通してサインやら捺印するのが、そんなに負担になるわけないでしょ……」
この子達は一体私を何だと思っているんだ。書類仕事で傷を開くような真似をしたりなんかはしないぞ。ていうか、私だってこんな毛が早く治したいんだ。無茶なんてするわけないでしょうに。
「大体、自分でいうのもどうかと思うけど普段からそんな根詰めて仕事してるつもりなんてないんだけど」
「少し前にサボってUMP45に拗ねられてましたもんね」
「仕事が嫌で抜け出す指揮官が子供なら、指揮官に置いて行かれて拗ねるUMP45も子供だな」
「……何が言いたいのよ」
クスクスと忍び笑いをするM16をジトリと睨んだ。けれど、M16はそんなことちっとも気にしていない様子で言葉を続ける。
「怪我もしてるんだし、大人しく姉貴分の私に任せちまえよ、ってことさ」
「全く話に筋が通ってないわよ。良いから私の仕事を返しなさい」
M16が姉御肌なのは認めるけれど、だからと言って私が仕事をしなくていい免罪符にはならないだろうに。頼むから給料分くらいは働かせてほしい。
大体、仕事の時間中に仕事もせずにダラダラしているというのはどうにも落ち着かない。そりゃあたまにはサボりたくもなるけれど、そうじゃないときは仕事をしていないとどうにも落ち着かない。
「ほら、M16。仕事返して」
「仕方ないな……あ、そうだ」
「……? 何よ」
手を付けてなさそうな書類をまとめながら、M16が声を上げた。一体どうしたんだろう。
「そういえば、今日新しい人形が送られてくるって話だったよな。そろそろじゃないか?」
「あー……そういえば先の作戦の活躍を認めるってことで有能な人形を寄こすとかクソヒゲゴリラが言ってたっけか。退院してから報酬だ事後処理だとかでばたついてたから、忘れてた。……でも挨拶はここで出来るでしょ。私に仕事を渡すまいとしたってそうはいかないわよM16」
「はは。バレたか」
ちょっとコイツ私のこと舐め過ぎじゃないだろうか。そんなに事務仕事ができないと思われているのかな。事務仕事でミスがあって怒られたことなんてここんところはめったにないんだけどな。
指揮官になったばかりの頃は、今までそんな仕事をあまりこなさなかったこともあってちょくちょくミスがあった。その度に私の監視役としてつけられていた404小隊……もっと言えば45に文句言われてたっけ。
今となっては懐かしい話だ。当時は私と45の中は最悪と言って良いレベルだった。今思えば、少なくとも私にとってあの子を見ることで未熟な自分を見せつけられているような気分になるのがたまらなく不愉快だっただろう。
この世の全てを悟ったような風を装って、何に対してもうがった見方をする。それは周囲に知識人であったり、冷静沈着あるいは冷徹さを演出することは出来るけれど、結局それは演出でしかない。
時にはそういう演出をした方がことがうまく運ぶこともあるけれど、そんな場面なんてそうそうない。そういう白けたフリは、世界や未来に対する希望を失わせる。
希望を失ってしまった者は、ただの亡者だ。それは正規軍でも、伝言屋の仕事をしている時でも腐るほど見てきた。
生きながらに死んでいる者たち。何に対しても気力が湧かず、自分より輝いて見えるものに対して文句や嫌味を垂れ流す。それは結局のところ、無力な自分の正当化と相手に対する嫉妬と八つ当たりでしかない。
指揮官になったばかりの私は、正直その手の人種だった。ただ命令に従って銃を撃つだけの人形達の気楽さが羨ましかったし、自分の利益のために私を振り回すだけの余裕がある(と思い込んでいた)クルーガーがたまらなく憎かった。
そこに同じように白けたフリをした45が傍に来たのだ。表面上は人当たりのよさそうな態度をとっていたけれど、言動の節々にそういう白けた態度が……『どうせこの世界なんて』ってセリフが聞こえてきそうなその態度が癇に障って仕方なかった。
気に入らないから、自分を正当化する為にあの子を泣かせたかった。屈服させたかった。あのすまし面を滅茶苦茶にして「調子に乗ってすみませんでした」と言わせてやりたかった。
結局、そうなる前にあの子が本当に隠しているものに気づいていってしまったのが運の尽きだったわけだけれども。
そんなことを考えていると、隣から凛とした声が聞こえてきた。この声はAR15か。
「指揮官、思い出でも思い返してるんですか?」
「……え? 何で分かったの?」
「顔に書いてあります。思い出に浸るのも構いませんが、手は動かしてくださいね?」
「……分かってるって」
「なんだ指揮官。やっぱり私が変わってやろうか?」
「言ってなさい。これから本気出すの」
そう言いながら書類に目を通す。思い出に浸るのは後でもできるしね。
目を通す書類の内容はいつも通りだ。先の作戦の経費だとか、管理区域で起きた暴動だったり、犯罪だったりの報告書。後は公的施設の新造、改装、修復に関する報告書か。
グリフィンが行政に携わっている管轄区域で行われたことの報告書は、全て前線基地の指揮官の元に送られてくる。それらにサインやら捺印やらをするのも、指揮官の仕事だ。
最も、指揮官がするサインや捺印は承認する為のものではない。所詮はPMCの雇われ軍人、あるいはそれに準ずるのが私達指揮官だ。行政に関しての知識を持った奴なんて、そうそういたりはしないだろう。私も正直良く分からない。
だから私達指揮官のサインはあくまで「確かに見ました」という証明をするためだけのものだ。勿論、明らかにおかしいものがあればそれはサインせず報告書を出した団体に確認をするか、あるいはヘリアントスみたいな上級代行官に確認を取るかしないといけないけど。
つまるところ、ただの流れ作業に近い。私でなければ対応できない書類なんて、人形達を動員した護衛や大規模なデモが行われるなどと言った情報に対しての出動依頼書、後は弾薬やら人力やら人員補充のための書類くらいか。
まあ、こういう情報の精査自体は伝言屋時代に散々図書館のオッサンに叩きこまれたから、もう苦ではない。そこに関しては感謝してもいいと思ってる。
もっとも、あの時はそんなことをすると分かってオッサンの右腕になったわけじゃないけど。
またそんな関係のないことに思考がずれていきそうになっていると、司令室の扉がノックされた。
『指揮官。新しく着任する人形が到着いたしました』
G36の声だ。案内人は彼女が務めたらしい。
「入って」
『失礼します』
扉が開けられ、人形が中に入ってくる。
一人は黒髪に青いメッシュの入ったロングヘア、白い軍服に白いコートを羽織り、杖をついた少女。
もう一人は白が基調の洋服に青いラインがアクセントになっている六芒星っぽい髪飾りが特徴的な薄桃色の髪をした少女だ。
黒髪の人形が敬礼をして口を開いた。
「ジェリコ、ただいま着任いたしました。……アナタがここの指揮官ですか?」
「ええ。この基地の指揮官を務めるシーラ=コリンズよ。歓迎するわ」
座ったまま、ジェリコを見上げる。一方のジェリコは、私を見下ろしながらなめ回すように私を観察した。大方、私のことを値踏みでもしているんだろう。私は女性の中でも精々標準くらいの体格だ。ガタイの良い男共がたくさんいる正規軍で、この手の視線は腐るほど浴びてきたから良く分かる。
「……失礼ですが、その左肩のサポーターはいかがされたんでしょうか」
「アナタ達が来る直前の作戦で負傷したの。ま、名誉の負傷とでも言っておきましょうか」
名誉と呼ぶには負傷した経緯が余りにも情けないものだが、その辺りをわざわざ彼女達に明かす必要は無いだろう。
「ふん。戦場で怪我をするなんて、アンタの指揮も大したことないのね。でも安心しなさい。戦闘のスペシャリストであるこのネゲヴが来たからには、もうそんなことが起きたりしないから!」
薄桃色の髪をした少女……ネゲヴが得意げに胸を張る。……幼さの残る顔たちにしては良いモノを持っているかもしれない。
まあ、何はともあれ活きがいいのが入ってきたものだ。着任したてのわーちゃんとかカラビーナを思い出す。
さて、資料をちゃんと読めてないから改めて口頭で確認しようかな。
「元気で結構。よろしくね、ネゲヴ。で、アナタ達は新しい子達なのかしら?」
私の問いに、ジェリコがあからさまに眉尻を下げながらため息を吐いた。
「……資料をお読みになっていないのですね。よくそんなずさんな管理体制で今まで基地の運営などが出来ていたものです」
「威勢がいいのは結構だが、口の利き方には気を付けとけよ、ルーキー」
「M16、よしなさい。……ごめんなさいね。アナタの言う通り、優先順位を間違えたのは私の落ち度よ。その点に関しては謝罪するわ」
「……どうやら、人形をただのモノとして見下す無能とは違うようですね」
辛口だなあ。てことは、ロールアウト直後の新造人形ではないってことかな。少なくともジェリコに関しては間違いないだろう。
「仕方ないんじゃない、ジェリコ。この指揮官、甘ちゃんな面構えだし」
「ネゲヴ。よしなさい。見たまま聞いたままをそのまま判断するのは、アナタの悪い癖よ」
「色々甘いのは自覚してるわよ。直す気もないけどね」
おっと。ジェリコの視線が厳しくなった。もはや警戒とか値踏みを通り越して敵意に近い。なんだ、地雷でも踏み抜いちゃったかな。
「……指揮官、アナタ人形を何だと思っているんですか?」
「少なくとも、この基地にいる子達に関していえば。家族」
「ふっ……バカも極まると滑稽ね」
「ネゲヴ! やめなさい」
ジェリコに叱責され、ネゲヴは拗ねたように唇を尖らせた。けれど、そんなネゲヴから私に送られてくる視線は憎しみに近い仄暗さを感じさせるものだ。
とりあえず、この子達が新造ほやほやのド素人って訳じゃないのは分かった。
ついでに言えば、いわゆる「訳アリ」の個体であることもだ。そうでなければ、私の発言でここまでネガティブな感情を出したりはしない。クソヒゲゴリラめ。私んところは人形達を更生させるための基地じゃないんだぞ。
「とにかく。しばらくはお世話になります。よろしくお願いします指揮官」
「ええ。とりあえずアナタ達の所属する部隊とかは追って知らせるわ。それまでは基地を散策するなり、訓練するなりして待っていて頂戴」
「……失礼します」
「それではお二方。宿舎の方へ案内いたしますので、こちらへ」
私のことを睨みながら、G36に連れられ二人は退室していった。
ピンと張りつめていた部屋の空気が緩む。
「……随分とまた調子付いた奴らが入ってきたものね」
「全くだ。……と、言いたいところだが訳アリみたいだな。指揮官、ホレ」
「ん。ありがとM16」
M16から手渡された資料に目を通す。
……これはまた、本当に厄介な子達を押し付けてくれたものね。
全く。クソヒゲゴリラめ。嫌味言ってたくせに新しい戦力を送るなんて、妙に虫が良すぎると思ったらこういうことだったか。
……どうするかなあ。
その場の勢いでネゲヴとジェリコを出したけど、色々な予定は未定です。
感想、評価は執筆の支えになりますので、どうぞよろしくお願いします!