女性指揮官と戦術人形達のかしましおぺれーしょん【完結】 作:笹の船
「そういえば、指揮官は料理できるの?」
スプリングのカフェでお昼ごはんのタンポポオムライスを頬張っていると、隣からそんな問いかけが飛んできた。
「んー。あんまりできない。……っていうか、アナタ私のオムライス食べたことなかったっけ?」
「あれ? そうだっけ? ……うーん、指揮官の手料理を食べたなんてレアイベント、会ったら忘れないと思うんだけどなあ」
首をかしげて唸っているのはSPASだ。そしてそのしぐさを見て思い出した。あの晩、彼女は45に記憶メモリーをいじられたんだった。そりゃあ覚えていないわけだ。
今でも思うけれど、たかだかプリンの為に本気出し過ぎじゃないだろうか。何もあそこまでしなくたっていいと思うんだけどなあ。
それとも、それ以外に記憶を消さないとマズい出来事でもあったというんだろうか。私が夜中にカフェでこっそり料理してることそのものがバレちゃまずいとか……。
……それか。もしかして45、私の手料理独占したかったんだろうか。
まあ、それも今私が台無しにしちゃったけど。スプリングは元から知ってたと思う。なんせ彼女の自作プリンを買って私が食べていることを知っているんだ。その時私がカフェで何をしていたかなんて、冷蔵庫の中身が減っているのを見れば簡単に理解できるだろう。
それはそれとして、当然のごとく美味しいものが大好きなSPASは目を輝かせて私の方を見つめてきていた。
「じゃあさ、じゃあさ! 指揮官のオムライス、今度私に食べさせてよ!」
「え!? アンタオムライスとか作れるの!?」
「指揮官、私も指揮官の手作りオムライス欲しい!」
「アタシも欲しい!」
「あちゃぁ……」
SPASめ……声が大きいっての。そもそも指揮官になってから私は料理をしたことがほとんどなかったから、驚きと物珍しさに周りの子達がいっぱい集まってきてしまった。
特に目を輝かせているのはSOP、わーちゃん、スコーピオンだ。……わーちゃんが混ざってるのが地味に可愛い。この子、殺しの為だけにとか言って気取ったキャラを演じることはやめたのかな?
まあ、もしかしたらネゲヴを見て在りし日の自分が周りからどう見えてたのかとか分かってしまったのかもしれない。
それはさておき、これだけ大量に来られると流石に一度に振舞うことは出来なさそうだ。どうやって誤魔化そうか。
「ちょっと皆。確かにオムライスくらいなら何とか作れるけど、普通にスプリングの方が美味しいと思うわよ? レベル違うしね」
「スプリングフィールドは特別でしょう。私、アンタの作った奴が食べてみたいんだけど」
「わーちゃん? なんかホントに随分素直になったわね? 調子悪いの?」
「なっ……!? べ、別にそんなんじゃないっての! ただその……珍しいじゃない。アンタが料理することなんて。いつもスプリングとかにまかせっきりだし。だから、その……興味があるの! それに、万が一食べられないものだったとしても私が先に毒見すれば被害の拡大は防げるでしょ!」
「最後の一言がなかったら私素直に喜べたよ、わーちゃん……」
「でもでも、指揮官いつも料理してないでしょ? ちゃんと美味しいもの作れるの?」
「SOP、純粋な疑問なのは顔を見ればわかるんだけど、その効き方はおねーさんにはちょっと傷つくよ?」
「指揮官、セオリーとかはちゃんと守る方だし、レシピ通りに作れるなら問題なさそうだけどねー」
「スコーピオン、よく言ったわ。アナタだけが癒しかもしれない」
「あ、でも指揮官自ら前線に飛び出す無茶をするから、変なアレンジとか加えそう」
「スコーピオン……?」
コイツ上げて落とすとか味な真似をしてくれるじゃないの。私は料理でも無茶をするとか思ってるんだろうか。今度訓練所で叩きのめしてやろうかな。
「あ、指揮官今私のこと訓練所で叩きのめそうとか思ってるでしょ? ふっふーん。私だってあれから強くなってるもんね。今度は負けないよ!」
スコーピオンが得意げに胸を張る。まあ、実際私にマジギレされた時からそれなりに日も経ったし、経験も積んだから練度も結構上がってきた。
実戦でも問題なく動けるようになったし、ダミーも3体操れるようになった。……無茶して私に怒られた時は1体しか操れなかったことを考えると、本当に強くなったなあ。
あれ、じゃあ私結構ヤバいんじゃない? 肩の傷はまだ完治してないし、キルハウスでの遭遇戦は当分お預けだ。完治したとしてリハビリだとかが必要になるから、また前みたいに動き回るのは結構先になる。
「……ハァ。早く怪我治らないかな」
「ふふ。指揮官は訓練に料理と怪我が治った後は大忙しになりそうですね」
「スプリング……他人事みたいに笑ってないで料理位は手伝ってよ?」
「まあ、素材とか場所の用意位はお手伝いしますが、料理自体はお手伝いしませんよ?」
そりゃそうか。この子達は私が作った料理が食べたいんであって、スプリングの作ったものが食べたいわけじゃないものなあ。
そう考えると私もこの子達に大分好かれてるって言うことなんだろうか。それとも単に面白がって作ってもらいたがってる……は、無いかな。
そういう意地の悪いことを考えてるやつってのは大体見ればわかる。正規軍の時、先輩にあたる奴らから散々そういう顔でからかわれた。
そう言えばあの頃はアイツらに馬鹿にされたくなくて、一時期料理の練習を本気でしようと非番の日にレシピ本とか読み漁ったような気がするなあ。
まあ、結局その中で練習したのはオムライスだけだから、他の料理は全然なんだけど。
そう言えば、前はお父さんとお母さんとの繋がりを失いたくなくてオムライスを作ってたんだっけ。……もう、それも終わりにしていいのかもしれない。
制服のポケットから財布を取り出して、中から一枚の写真を取り出す。ルポライターに頼んで焼き増ししてもらった私の七五三の写真だ。オリジナルは私の私室に写真立てに入れて大事に飾ってある。データ化して個人端末のフォルダーへの保存もばっちりだ。
穏やかな笑みを浮かべた男女と小さな女の子が写った写真。私が小さかった頃……お父さんとお母さんが生きていたことの証明。
私に両親は確かにいて、そしてこの写真を見る限り私は二人に愛されていた。この20年近く、ずっと求め続けてきた物が詰まった写真だ。
これが手に入った今、お母さんの幻影を思い出すためじゃなくて、もっと別の理由の為にオムライスを作ることができるかもしれない。
それこそ、目の前の皆が笑顔になるように、とか。
……キャラじゃないけど、たまにはそういうコトをやってみてもいいのかもしれない。
戦うことばかりの人生だったから、それ以外にやることとか、それ以外の生き方なんて考えたことなかったけど……これからは、戦いが終わった後の生き方についても考えてみてもいいのかもしれない。
なんて、それこそキャラじゃないな。バトルジャンキーになったつもりはないけど、当分戦いから離れることは出来なさそうだし。
後のことを考えるにしても、まずは鉄血の奴らをどうにかしないとクルーガーは私を辞めさせてはくれないだろう。
それに、ネゲヴやジェリコの件もある。表立って大きな問題は無いにしても、大なり小なりの衝突はあるって報告も受けてるし。
ま、だからと言って料理をしないってことにするのももったいない。それこそ、新入り二人の距離を詰める手段の一つとして私の手作り料理を振舞うなんてのもありかもしれない。
胃袋から掴むっていうのは、意外と有効かもしれないし。
「指揮官、この写真に写ってるのって誰?」
不意に、耳元でSOPの声が響いた。そうか、この写真が何なのか、知ってるのは45と9だけだったっけな。
隠すことでもないし、教えてしまってもいいだろう。
「これ? これはね、私の子供の頃の写真よ」
「じゃあ、その両脇に立ってるの、指揮官の家族?」
「SPAS、顔を寄せるのは構わないけど、口の傍にケチャップついてるわよ。私の服とか髪につける前に、拭いて」
「指揮官、アタシにも見せてよー!」
「ぐぇっ!? スコーピオン! 私まだ肩が治ってないんだからいきなり体重かけてこないの!」
やれやれ。今日も今日とて騒がしいなあ。
でも、前より皆との距離は縮まったような気がする。私の中で、何かが変わったんだろうか。
お父さんとお母さんとの繋がりを目に見える形で手に入れたことで、もしかしたら前よりも心に余裕が出来ているのかもしれない。
まあ、その辺のことに変な理屈付けはいらないでしょう。それこそ、私のキャラじゃない。
前より皆と仲良くなれてる。それでいい。きっと、ネゲヴとジェリコとだってうまくいく。
「シーラ。まだこんなところでダラダラしてたの? ほら、午後の仕事が始まるわよ」
「はーい。今行くねよんごー」
なんたって私はあのよんごーを落とした女だもの。どうにかなるでしょう。
「スプリング、ごちそうさま。お代はここに置いとくわね」
「お粗末様でした。午後も頑張りましょう」
「ええ!」
そう言えば、午後はどんな仕事があったっけな。
「気合十分なのはいいけどシーラ? お昼前に投げ出した書類の山、ちゃんと処理してよね?」
……やっぱりもう少し食休みしていこうかな。
オムライスが食べたいです。
ポムの樹行きてえ。
それはそれとして
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