女性指揮官と戦術人形達のかしましおぺれーしょん【完結】   作:笹の船

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埋まらぬ溝

 左肩の怪我をしてから、大分経った。あれから経過観察も含めて何度かグリフィン本部直轄の病院に診察しに来ているけれど、ようやく少しは動かして大丈夫とのお達しがでた。

 これまで動かせなくてフラストレーションをため込むことも多かったから、制限がついているとはいえ両腕が使えるようになると思うと跳ねまわりたい気分にもなる。ま、実際にはやらないけど。

 

「指揮官、診察は終わりましたか?」

「お待たせジェリコ。それにネゲヴも。ええ、激しいのはダメだけど、もう左肩を動かしていいってさ」

「ふん。人間っていうのは不便ね。治るのに時間がかかるんだもの」

 

 今日の付き添いはネゲヴとジェリコだ。ジェリコはともかく、戦闘のスペシャリストを自称するネゲヴにとって私の付き添いという簡単すぎる任務は不満らしい。基地を出てからずっとこの調子だ。

 まあでも、仲が悪かった頃の45と比べればこの程度の生意気な態度は全然気にならない。というか、あれを経験している以上そうそう失礼な態度を取られない限り頭に来なくて済むようになってしまった気がする。45、やはりおそるべし。

 それはともかく、折角本部の近くまで出向いたんだからこっちにしかない美味しいものを食べて帰りたいところだ。

 流石にグリフィン本部のお膝元なだけあって、ウチの最寄街に比べると良いものが結構そろっている。今日は他に用事もないし、ちょっとくらい美味しいものを楽しんだって罰は当たらないと思うのだ。

 

「てことで甘いモノ食べましょう二人共」

 

 私の提案に、ネゲヴもジェリコも呆れたような表情をした。まあ、私の付き添いに始めてくる子達は大体こういう反応をする。

 そうは言っても折角来たのだから彼女達にも美味しいモノくらいご馳走したって罰は当たらないと思う。いざとなれば最前線で命を張るのは彼女達なのだ。こういう余裕のある時でないと、美味しいものを楽しむなんてこともできなくなるし。

 

「指揮官。お言葉ですが、私達は遊びに来たのではないんです。アナタの護衛が必要だというのだからついてきたのであって……」

「まあまあ。そう固いことを言わずに食べていこうよ。私、いいお店知ってるからさ」

「指揮官……アナタはご自分がどういう立場の人間だか分かっていらっしゃるのですか? グリフィンの指揮官というのは……」

「ジェリコ。お説教なら帰りの車の中でゆっくり聞くわ。だから今は騙されたと思って一緒に食べに来てくれない?」

 

 私の言葉に、ジェリコは不愉快そうに顔を歪めた。ネゲヴは……ジェリコの味方でいたいらしいけど若干オロオロしてるあたり、もしかしたら美味しいものに興味があるのかもしれない。

 まあ、ここで突っ立って話をしていても何も変わらない。ジェリコも文句は言うモノの付いてくることを拒むことはなさそうなので、ひとまず近くの喫茶店にでも行こうとそちらに向かって歩き出した。

 喫茶店までの道すがら、何とも言えない雰囲気が私達の間に流れる。原因の大半はジェリコから流れ出てくる不機嫌オーラだけれど、彼女の気持ちも分からないわけではないので無理に直せと指摘するつもりもない。

 というか、例によってこういうシチュエーションも初めてではないのだ。真面目な性格をしている戦術人形の子達ほど、初めて私が美味しいものを食べに連れて行こうとするとこういう感じのオーラを出すものだから、いい加減馴れてしまったともいえる。

 まあ、ジェリコのそれは今までのソレに比べるとぶっちぎってすごいオーラではあるのだけれど。一緒にお店に入って、近くの人が編に怯えたりしないといいけどな。

 まあ大丈夫でしょう。ジェリコは強面でもないし、整った女の子の顔つきだから怒った顔でも綺麗の一言で終わらせられるかもしれない。

 そんなことを考えているうちに、目的の喫茶店についた。ここはR06の行きつけの喫茶店のマスターの知り合いが経営しているお店だ。ここのパンケーキも美味しいんだよねえ。

 扉を開け、カウベルの音ともに入店するとエプロン姿の年若い女の子が出迎えてくれた。

 

「いらっしゃいませ。……3名様ですか?」

「ええ。席は空いてる?」

「はい。ご案内いたします」

 

 綺麗にお辞儀をしてくれた女の子が私達を窓際のボックス席へと案内してくれる。開いてる席にそれぞれ着席し、女の子にメニューを手渡された。

 ありがとうとお礼を言って、早速メニューを確認する。今日はパンケーキを頼むか、日替わりケーキセットを頼むかで悩むところだ。

 ふと視線を上げると、メニューすら開こうとしないネゲヴとジェリコが見えた。ジェリコはもはや意地なのか、窓の外をずっと眺めているけれど、ネゲヴはチラチラとメニューの方に視線が行っている。

 

「二人共、好きなモノ頼んでいいのよ。私が奢るから」

「ほ、ホント? じゃあ……」

「ネゲヴ! 立場をわきまえなさい!」

 

 ジェリコの鋭い声にネゲヴは勿論、周囲の他のお客さんまで肩をびくりと震わせた。

 ほとんど反射的な行動だったんだろう。ジェリコも自分が大声を出してしまったことで周囲の人を驚かせてしまったことに気まずそうな表情をした。

 

「ジェリコ、無理にとは言わないけどせめて一品くらい……」

「すみません、指揮官。少し、外の空気を吸ってきます」

 

 有無を言わさない語調でそう言いながら、ジェリコは席を立った。

 これは無理に引き留めない方がいいのかもしれない。

 

「……あまり遠くに行かないでね」

「……失礼します」

「あ、ジェリコ……っ。指揮官、その……」

「ここで待ってるわよ」

 

 やや申し訳なさそうに眉尻を落としながら、ネゲヴも席を立った。こちらを一瞥した後、迷いを振り切るように店の出口へと向かって歩き出す。

 結局、席についたのは私一人になってしまった。まあでも、行ってしまったものは仕方がない。彼女達にも少しは時間が必要だろうし、落ち着くまでは一人でゆっくりお茶でもしてよう。

 あの二人であれば、そこら辺の変質者にも後れを取らないだろうしね。

 

「ウェイターさん、パンケーキと紅茶セット一つ!」

 

 ひとまずお目当てのスイーツを楽しむとしよう。

 あの二人との中々埋まらない溝をどうやって埋めていくかは食べながらでも考えられるはずだから。

 

 

 

「……帰ってこないなあ」

 

 ジェリコとネゲヴが出ていってから、もう1時間近く経った。

 あれからパンケーキと紅茶をのんびりと楽しんだ私だけど、流石にそろそろお店を出ないといけない気がしてくる。

 そうは言っても行先も告げずに出ていってしまった二人とすれ違いになってしまうのも、それはそれで面倒なことになってしまう。

 と、そこまで考えて連絡用の携帯端末を持っていたことを思い出した。これで連絡を取ればよいのだ。最悪、基地に帰る為のクルマの前で集合とかでもいいだろう。

 そう思って、端末を起動しジェリコの端末へ電話をかけた。機械的なコール音が何度か響くが、一向に彼女が出る気配がない。

 仕方がないのでネゲヴの方にもかけてみるけれど、結果は同じ。あの二人はややとっつきにくいところはあるにしても、仮にも上官である私の連絡を無視するような子供ではない。

 となれば、何かあったと見るべきだろう。

 

「全く……」

 

 思わずため息を吐きながら、会計を済ませて喫茶店を出る。電話での連絡がつかない以上、探す手段は聞き込みとか、そういうアナログな手段に限られるわけだ。失敗したなあ。これなら30分経っても帰ってこなかった時点で探しに行くべきだった。

 既に空は太陽が西に傾きつつあり、オレンジ色に染まり始めている。少し急がないと真っ暗な中を移動する羽目になる。運転するのは私じゃないとはいえ、危険なことに変わりはない。

 ……急いだほうが良さそうだ。

 




ほのぼの……どこ?

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